世界樹教団、マフィアになる   作:韓非子

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第20話「抑止力のエルフ」

「教主様!」

「ん?リニュアじゃないか。どうしたんだ?こんな時間に」

 

 息を切らせたリニュアが宴会場の扉を開く。思いがけない来客に、教主とフリックルは目を丸くして驚いた。

 

「きょ、教主様……!これ……!」

 

 リニュアの手に握られた青白く光る一つの瓶。それを見た教主の顔が不快そうに歪む。

 

「何なんだい?それは。どうしてそれを私に見せるんだ?」

「と、とぼけないでください……!教主様が作ったものですよね!?これ!」

 

 教主とフリックルが目配せをする。次の瞬間、フリックルの茨がリニュアに向かって勢い良く伸びた。

 

「きゃあ!?」

 

 フリックルが茨を引き寄せる。リニュアは必死に脱出しようと試みるが、茨のとげが身体に食い込み、リニュアの身体を傷つけていく。

 

「よく分かったわね。その通りよ、劇場のバイト。それは私たちが作った物だわ」

「どうやって知ったかは分からないが……。知られてしまった以上、放っておく訳にはいかないな」

 

 教主がココを取り出す。教主がエーリアスに召喚されてから、世界樹から受けた祝福の一つだ。

 

「初めて見るわね。妖精の警備兵が似たようなものを使っているようだけど……。それと似たようなものかしら?」

「君はこれを見るのは初めてだったか。これは……」

 

(……しめた!)

「っ……!」

 

 思考を読み取ってリニュアが脱出しようとしている事を察知した教主は、急いで始末しようと引き金に指をかけた。

 

 しかし、一歩遅かった。相手が縛られていることに油断した教主は、リニュアを逃してしまった。

 

 リニュアは急いで時間を遅らせると、ゆっくりと時間をかけて、フリックルの茨から脱出した。

 

「申し訳ありません、教主様……。この事は皆さんと共有させてもらいます……!」

「くそっ、逃げられたか……!フリックル!捕えろ!!!」

「逃がすか……!」

 

 フリックルが茨の触手を伸ばす。しかし、時間を操作するリニュアを捕らえる事は困難だった。

 

「くそっ、忌々しいエルフ……!ちょこまかと動いて……!」

「参ったな……。司祭長たちに知られるのはまずい。何か対策を打たねば……」

「魔女王国は私に任せて。あなたはモナティアムを対処なさい。妖精王国は二人で対処しましょう」

「そうだな。……ひとまず、今日は店を閉めよう。私がこのような事をしてるという話も、そう簡単には広がらないだろうからな」

 

 

☆☆☆☆

 

 

 翌朝、リニュアは妖精王国の教団本部に来ていた。

 

「ですから、信じてください!本当に教主様がコレを作ったんです!」

「何度も言ってるでしょう!証拠もなしに、どうしてそれを信じれるというんですか!」

「ううう……!」

 

 リニュアはもどかしかった。自身の目で教主の悪事を目撃し、目撃者として排除までされようとした。そして、証拠の危険物質まで持ってきたのに、司祭長に話を信じてもらえない事に、苛立ちを感じていた。

 

「何を騒いでいる、司祭長!」

「ジョアン姉妹……!」

「ジョ、ジョアン……!?」

 

 奥から緑色の髪をした長身の司祭がやってくる。見るからにイライラしている彼女の姿に、リニュアは反射的に身を引いてしまう。

 

 ジョアン。世界樹の祝福を授かった、世界樹教団の司祭。苦悶の拘束ともいえる信仰心に縛られ、狂気の道に走った、かつての司祭長。世界樹に裏切られ、教主の裏切りに遭った、司祭の名前だ。

 

「ジョ、ジョアン様……」

「エルフ、いったい何の用でここへ来た!?」

「わ、私は……」

「教主様がエーダルシャインという毒物を作って売っているっていうんですよ」

「なに……!?」

 

 ジョアンの額に青筋が走る。見るからに怒りを抱えたその司祭は、リニュアを見下ろすと吐き捨てるように怒鳴った。

 

「貴様は我が教団の教主を冒涜するというのか……!?この……無礼者めがッ!!!」

 

 ネルの斧をひったくり、振り上げるジョアン。

 

 振り上げられた斧が、躊躇いもなく振り下ろされる。確実に頭を狙って振り下ろれた斧を、リニュアは寸でのところでかわす事ができた。

 

「ひっ……!」

「ジョ、ジョアン姉妹!落ち着いてください!」

 

 狂気に支配されたジョアンは聞く耳を持たない。強く握られた斧の柄は、確実にリニュアを誅殺せんと敵意を向けていた。

 

「このままじゃまるで話ができない……!一度退かなくちゃ……!」

「待てエルフッ!どこへ行く気だッ!!!」

「ジョアン姉妹、落ち着いて……!」

 

 リニュアはジョアンの狂気から逃れるために一目散に教団から撤退した。

 

 遠くへ逃げてもなお聞こえるジョアンの狂気めいた怒鳴り声。リニュアはその声を聞いて、かつての恐怖を思い返していた。

 

 初めてジョアンと相対したその日、リニュアは簡単に制圧された。時間さえ止めてしまえば勝てる相手だと思っていた。七姉妹の力を集めて作られた人造エルダインの力と、エルフの科学力を以ってしても勝てなかった、信仰の力……。

 

 リニュアは、怯えていた。

 

「モナティアム……。一度、モナティアムで情報を整理しよう……!」

 

 狂乱する司祭の怒声を後に、リニュアはモナティアムへ向かった。

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