モナティアム。いつもと何ら変わりない日常が続く、エルフの町。市長エレナが支配する独裁都市だ。
カフェで一息つく者、ショッピングを楽しむ者、自販機を荒す獣人……。いつもの見慣れた町の光景がリニュアの目に広がる。
いつもと変わらない景色なのに、どこかがおかしいとリニュアは胸騒ぎを感じる。この胸騒ぎの原因を突き止めるために、リニュアは足を速めた。
大通りを過ぎ、モノレールの高架下を潜り、細道へと入って行く。
いかがわしいグッズや風呂屋などの店が立ち並ぶ裏通りへ入り、路地裏へと進んでいく。しつこい客引きなどもあったが、リニュアは無視して進んでいった。
ゴミと空のケースが散乱する路地裏。ここを行った先に探しているモノがあるとリニュアは直感した。
汚水とヤニの混じった悪臭がリニュアの鼻を刺激する。だけど、それだけで退くわけにはいかない。足の裏から伝わる嫌な感触も気にしてられなかった。
一つ、二つと角を曲がって行く。やがて、その先にリニュアは目撃した。
「こ、これは……」
捨てられた大量の空き瓶。何かを呟きながら力なく座り込むエルフ。一つ路地を挟むと、なんでもないモナティアムの日常が顔を覗かせる。リニュアは、この日常のギャップに気持ち悪さを感じた。
「何をしている」
「っ……!」
急にかけられた抑揚のない声にリニュアが急いで振り向いた。その先には、奇妙な違和感を覚える謎のエルフが立っていた。
「ここで何をしていると聞いている」
「あ、あなたは……?」
「まずは私の質問に答えるんだ」
謎のエルフがリニュアに詰め寄る。その得も言えない雰囲気と口調にリニュアは気押されるだけだった。しかし、リニュアは懸命に質問に答えた。
「わ、私はリニュアって言います……!今、モナティアムで起きている事件の調査に来たんです!」
「ふむ……。リニュア……」
謎のエルフが考え込むそぶりを見せて黙り込む。そして少しの時間の後、そのエルフは口を開いた。
「妖精王国で劇場のバイトをしている市民権のないエルフか。そのお前がどうしてモナティアムの事件に首を突っ込む?」
「じ、実は世界樹教団の教主様がこの事件に関わってて……」
「……?」
謎のエルフの目つきが変わる。冷たい態度を一転させて、興味深そうな目つきでリニュアを見つめる。
「ふむ……。どこでその情報を得た?」
「ま、待ってください!あなたの事も聞かせてくれませんか……?何て呼べばいいか分かりませんし……」
「ふむ、そうだな……」
謎のエルフは少し考えた後に、こう答えた。
「私の事は、クロムウェルとでも呼んでくれ」
☆☆☆☆
カタリ。
何かが床に落ちる音で目を覚ました。
「ん……。ああ、いつの間に……」
落ちた眼鏡を拾い上げて時計を確認する。時刻は午前3時を回っている。
「いつの間に寝てしまったのかしら……」
重い体を起こして業務日報を手にする。日に日に増える患者の数に週末農場……。死亡した患者の数が増えていく。
懸命に生きる命が死んでいく。救う手立てもないまま、対症療法だけを施し、死までの時間を先延ばしにする日々。業務日報に記される死亡者の数。増えていく数字を見て、ヒルデの心はただ摩耗していくだけだった。
ふと、壁にかけられた鏡を見たヒルデ。そこにはひどいクマを作り、やつれきったエルフの姿が映っていた。
髪はボサボサで、生気はなく、生きた屍のようなエルフの姿が、そこにあった。
軽く身なりを整え、現場に出る。そこには相も変わらずな凄惨な状況が広がっていた。
司祭たちも疲れている。休みもなく、無給のまま無私の奉仕を続けてくれている。
懸命に患者に寄り添う司祭たち。ただ死にゆく患者の手を取り、見送るその姿。ヒルデはとても見ていられなかった。
「患者を救うのが私の仕事なのに……。ただ、病気の原因を求めて、司祭たちに死ぬ行く患者を見届けさせるだなんて……。医者どころか研修医も失格だわ……」
ヒルデの頬に涙が伝う。ヒルデは限界だった。原因の分からない未知の奇病の前に、何の抵抗も成せないまま、増えていく患者の前に、ただ打ちひしがれるだけだった。
そんな時、ヒルデのスマホに一本の連絡が入った。
「はい、ヒルデですけど……」
「ヒルデか!!?今すぐ市庁舎に来るんだ!!!」
「し、市長……?いったいどうしたんですか……?」
「いいから早く!!!重大ニュースだ!!!」
鬼気迫る圧倒的な剣幕に気圧されたヒルデは、急いで身支度を整えると、急いで病院を飛び出した。