世界樹教団、マフィアになる   作:韓非子

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第24話「新たな協力者」

「それで、そちらの状況はどうだ?今の値段では到底賄えないぞ」

「闇市のモノはどれも割高です。ロックダウンも始まりますし、モナティアムからの砂糖の輸送は難しくなりそうです」

 

 通信機を使ってレヴィから報告を受け取る教主。自身の手で招いたこととはいえ、今の状況はとても許せるものではなかった。

 

「それで、砂糖の供給はどうなる?」

「闇市で購入したものを少数輸送するしかなさそうです。一応、私たちに協力してくれる協力者は一定数います」

 

「よろしい。その調子で続けてくれ」

「はい!あ、あと、エルフの技術者と獣人の協力を得る事が出来ました。エーリアスの各地に小規模なプランテーションを築けるようになる予定です」

「おお、それは素晴らしい!期待しているよ」

 

 そうして、教主は通信機を切った。ひとまずは、目下の危機が残ってるとはいえ、長期的な危機は解決したと教主は安堵した。

 

 酒造の権益は独占している。モナティアムがロックダウンをすれば、その分酒の需要は増す。酒の生産量は減るとはいえ、需要が増えれば値段を吊り上げて利益を得ればいいだけだ。教主は笑いが止まらなかった。

 

 知恵のある者は己の欲望を満たすためなら、あらゆる危険を冒してでもその実を貪ろうとする。それを阻止するのは、いかなる手段を以ってしてでも難しい事だ。教主はそれを分かっていた。

 

 

☆☆☆☆

 

 

 レヴィのトラックには強力な無線探知機が乗っている。この装置を使って、レヴィは教主と連絡を取り合っている。そして、それは宴会場の盗聴器を発見する為にも使われている。

 

「エルフめ……。また盗聴器をしかけているね……」

 

 ある程度の場所さえ特定してしまえば、あとはレヴィの魔法でも探知可能だ。

 

 意識を済ませて空間の把握に努める。怪しい箇所があれば、レヴィの勘と魔力の流れで読み取るだけだ。

 

「見つけた……!」

 

 机の下に潜り込み、盗聴器を引っ剥がす。宴会場に客としてきたであろうエルフが仕掛けた盗聴器だ。モナティアムも本腰を入れて教主に対抗しているという証だろう。

 

「ふん!魔女を舐めない事です、エルフ」

 

 トラックに乗り込み、無線機をいじる。

 

 怪しい無線の動きはない。盗聴器を仕掛けられている様子もない。宴会場の周りに見られる怪しい動きも見当たらない。それらを確認して、レヴィは一息ついた。

 

「ふぅ……」

 

 ふと、レヴィは計器盤に目を向けた。そこには、心許ない燃料系の残量が確認できた。

 

「あまり燃料がない……。しまった、ロックダウンが分かった時点で入れておけばよかった……」

 

 レヴィは後悔した。いつも給油回数を減らすためにギリギリまで粘る癖がついてしまっていたのが仇になってしまったのだ。

 

 レヴィは悩んだ。このままではトラックは動かなくなる。どうすればいいかと魔女の知恵を絞る。

 

「うーん、ディーゼルをガソリンに換装するにしてもモナティアムの技術がいるし、エンジンの動力に魔法の技術を導入するにしても倫理の証明すらできてないし、どうしようかなぁ……」

 

 レヴィが頭を悩ませる。一人で悩んでもしょうがないと、スマホを取り出して、アドレス帳を見た。

 

「誰かトラックの燃料で頼りになるヒトはいないかなぁ?」

 

 無数に並ぶ名前を見ながら頼れるヒトを探す。どれも密売を生業とするディーラーの名前ばかりで、使えるような人物はいなかった。

 

「プランテーションの技術者……。砂糖の搾りかすを使ってバイオマス燃料を作ることはできないのかなぁ?後で聞いてみよう」

 

 そう呟いてレヴィはトラックを走らせた。向かう先は精霊の山だ。

 

 レヴィの仕事はたくさんある。少し前までのように、ただモノを運ぶだけではない。

 

 蒸留用の燃料の調達、市場の調査、ディーラーの管理、諜報活動に防諜などなど、任される仕事は、教主からの信頼を勝ち取るにつれ増えてきた。

 

 そして今やろうとしている仕事は、酒造用の燃料の調達と、モナティアムへの侵入経路の確保である。

 

「ん?無線機から変なノイズが……」

 

 窓から顔を出して周囲を確認する。目を凝らして見てみると、低空を飛行するドローンの姿が確認できた。

 

「あんな分かりやすい諜報なんて舐められたものだわ……!」

 

 妖精王国の警備隊から密輸したマスケットを取り出すと、レヴィはそのままドローンを撃ち落とした。

 

「ふん!モナティアムもまだまだ甘ちゃんだね!……って、え?」

 

 無線機からのノイズが消えないどころか、エルフのモノと思われる声が聞こえ始めた。レヴィはしばらく呆気にとられていたが、すぐにヘッドホンを手に取ると、それを耳に当て、音声の内容を注意深く確認した。

 

『ド、ドローンが撃ち落とされました!特有の発砲音から妖精王国の銃だと思います!」

『教団の走り屋は長射程の武器を持っているんですね……。けど、狭いトラックの車内、そんな長尺の武器は自由に取りまわせないはずです!とりあえず今は、様子を見ましょう。ここに来たのも何か意味があるはずです』

 

「二人いる……?この声は、たまに宴会場に来る自称スパイと……劇場のバイト……?チィ!面倒な奴らに絡まれたな……!」

 

 エンジンを再始動して少しでも音を紛らわせる。これから来る上位精霊との会話を聞かれたくないレヴィなりの対策だ。

 

(あえて見せつけてやるのさ。中途半端に見せつけてやれば、相手ももどかしくなって出てくるでしょ)

 

 そうしているうちに、精霊の山から一人の上位精霊が現れた。月明かりしかない現場にトラックが邪魔しているせいで、ローネとリニュアにはどうにも見えない。

 

「…………」

「こんばんは、ガヴィア。例のモノは持ってきた?」

「…………」

 

 ガヴィアが袋いっぱいに入った泥炭を差し出す。ガヴィアの後ろには、続々と下位精霊が泥炭を運んできている。

 

「そ、そんなにいっぱいトラックに乗らないよ!ストップ!ストップ!」

「…………」

 

 ガヴィアがしょんぼりした顔で残念そうにする。そんなガヴィアを見て、レヴィが慌てて報酬の酒瓶を出した。

 

「そ、そんな顔しないで!ほら、これ!特別に教主様から贈られたサンプルよ!あなたが初めて飲むんだから感想を聞かせてちょうだい!」

 

 月明かりに照らされた淡い黄金色に輝く魅惑の酒がガヴィアの手に渡る。ガヴィアは不思議そうにそれを眺めると、スクリューキャップをゆっくり開けた。レヴィも興味津々といった様子でそれを見ている。

 

 芳醇な香りが二人を包む。ガヴィアはより匂いを確かめるために、瓶の注ぎ口に鼻を近付けた。

 

「…………!」

「ど、どう……?」

 

 ガヴィアの目がカッと見開き、動きが止まる。その様子を見たレヴィが心配そうに声をかける。

 

「ど、どうしたの……?」

「これ、ほんとうに、いいの?」

「え?うん……。出来れば感想を聞かせてほしいんだけど……」

 

 ガヴィアが下位精霊に指示を出して、手頃な器を用意させる。身体に凹みがある大地の下位精霊がガヴィアの手元に来ると、酒をその中に注ぎ込んだ。

 

 より深いバニラの甘い香りと力強いスモーキーな香りが二人を包み込む。その香りに驚いたレヴィは、ガヴィアに一口分けてもらうよう頼んだ。

 

「が、ガヴィア!ひと口!ひと口だけで良いから分けて……!」

「だめ!これ、わたしの……。それに、いんしゅうんてん……」

「うっ……」

 

 酒を注がれた大地の下位精霊が蕩けた顔を見せる。それに気付かないまま、ガヴィアは器に口を付けた。

 

 黄金の水がガヴィアの口の中に入って行く。

 

 ウィスキー……。そう呼ばれる黄金の一滴が、初めてエーリアス人の身体の中に入っていった瞬間である。

 

 ゆっくりと舌で転がして味わい、飲み込んでいく。ガヴィアはそのキレとコクを堪能すると、レヴィに向き直った。

 

「…………!」

「私たちに協力してくれるの……?おいしかったって事?」

「…………うん!」

 

 ガヴィアがウィスキーを下位精霊たちにかけていく。ウィスキーをかけられた精霊たちがこぞって目を蕩けさせる。そして、ウィスキーの豊潤な香りが、辺りに広がっていく。

 

 僅かに残った酒瓶の中身を寂しそうにガヴィアが見つめる。そして、残りを名残惜しそうに飲み干すと、改めてレヴィに向き直った。

 

「b」

 

 親指を立てて、機嫌のよい足取りでガヴィアが精霊の山に帰っていく。その様子を見届けたレヴィは、心の中で胸をなでおろした。交渉は成功したのだ。

 

「これでピートの供給は安定しそうね……。よし!」

 

 教主の仲間が一人増えた事に満足したレヴィはトラックを発進させた。その様子を見ていた二人のエルフは、何が起きたか把握できないまま現場に残されるのだった。

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