世界樹教団、マフィアになる   作:韓非子

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第26話「戦いの幕開け」

 ロックダウンが施行されたモナティアム。外出の禁止こそされていないものの、交通機関はストップし、モナティアム外部との連絡や移動手段は完全に遮断された。エレナ市長が発した緊急事態宣言と密造酒廃絶宣言は、モナティアムの町を不安一色に染めあげた。

 

 重苦しい雰囲気がモナティアムの町を包み込む。誰もが隣人を怪しんでいる。密造酒の売人ではないか。密造酒を買っているのではないか。モナティアムは皆が皆を怪しむ冷たい街になっていた。

 

 鎮圧班が通りの中心をパトロールしている。いつもより威圧的な雰囲気を醸すそれらは、モナティアムに異常事態が起きていることをよく現していた。

 

 そんな町の一角に、ひと際大きな大砲を抱えてパトロールする隊員がいた。機動打撃軍鎮圧班隊長のカンナである。

 

 鎮圧班の中でもより険しい表情をしているカンナには重い責任が圧し掛かっていた。密造酒ブローカーと密造酒ディーラーを拘束して捕えろという命令に、一日に課されられたノルマまである。達成できなければ減俸という命令に、カンナは強い危機感を覚えていた。

 

『隊長!ディーラーを一人捕らえました!』

「うむ!よくやった!」

 

 今日も無作為な職務質問をして周り、できるだけ市民の顔を覚えていく。そうしてディーラーの検挙に繋げていくのだ。

 

 そうしてしばらくパトロールをしていくうちに、小休憩を入れるがてら、カンナは適当な喫茶店に入って行った。中ではぶどうの精霊とニット帽をかぶったエルフが談笑している。

 

 カウンター席に着いたカンナがオレンジミルクセーキを注文する。カンナはそれを味わいながら、店主と雑談を始めた。

 

「う~ん、疲れた体に染みる~。店主、ここ最近異常はありませんか?」

「いいえ、特には。ここら辺の区画は平和なものですよ」

「はっはっはっ!市民の往来も多いこの区画ではそう犯罪も起きませんよね」

 

 そして、カンナは隣で談笑するぶどうの精霊に身分証の提示を求めた。

 

「そこの精霊、市民証の提示を願います。」

「そんなのありませ~ん。モナティアム滞在中に閉じ込められたから出れないんですぅ~」

「ふ~む……。早急に市庁に行って、臨時のビザを作るようにしてください。いいですか?」

「はぁ~い」

 

 ぶどうの精霊はだるそうに返事をすると、ぶどうのミルクセーキを吸った。続けてカンナは、ニット帽を被った色黒のエルフに身分証明書の提示を求めた。

 

「では、そこのエルフ。市民証の提示を」

「…………」

 

 机に市民証を置くエルフ。カンナはミルクセーキを吸いながら市民証の中身を細かく見ていく。

 

 異常は見られない。いたって普通の市民証だ。ある一点を除いては。

 

「メアリーさん。この住所って、同居人がいるんですか?」

「え?」

「確か、この住所って龍族が一人で住んでたと思うんですが……。言動が特徴的だったので覚えてます。一人暮らしだったはずですよ、ここ」

「あ……。えーと……」

「ルームシェアでもしているんですか?メアリーさん」

 

 ミルクセーキを吸いながらカンナが質問する。その時、カンナの端末に通信が入った。

 

『カンナ隊長、至急市庁作戦室にお戻りください』

「アメリアさん?いったいどうしたんですか?」

『密造酒事件で至急共有したいことがあります。大至急戻ってください』

「はぁ……。分かりました」

 

 カンナは名残惜しそうに残りのミルクセーキを飲み干すと、ゆっくりと席を立ちあがった。

 

『えー、ここで臨時ニュースが入りました……』

 

 その時、カフェのテレビに臨時ニュースの知らせが入った。カンナは足を止めて、その内容を注視する。

 

『モナティアム市内で発生している一連の集団放射線障害事件と、密造酒密売事件に関連する、犯人の似顔絵が公開されました……」

 

 テレビ画面にレヴィに似た色黒で銀髪の魔女の肖像画が表示される。カンナはそれをじっと見つめた。

 

「これって……」

 

 カンナがメアリーへ振り返る。メアリーは気まずそうに視線を逸らして顔を背ける。

 

「まさか……。お前……!」

 

 カンナがテーザー銃に手をかけてメアリーに歩み寄る。

 

 危機一髪のメアリー。その時、店主が消火器を手に取り、カンナの頭めがけて思い切り殴った。

 

「ぎゃっ!!!!」

「レヴィ!!!こっちに!!!」

 

 メアリーと呼ばれた魔女がニット帽を脱ぎ捨て、カウンターを飛び越える。

 

「こうなったら……!」

 

 店主が貯蔵していたウォッカをすべて叩き割り、火を点けた。

 

 紙やプロパンを次々と投げ入れ、引火させていく。火は瞬く間に広がり、厨房一帯へと広がった。

 

「うぅぅ……。頭が……」

 

 脳震盪に苦しむカンナの顔に熱が伝わる。熱の方を見ると、勢いよく広がっていく火の山が見えた。

 

「なっ……!あいつら……!」

 

 おぼつかない足取りでカンナは急いで店の外に出た。カンナは急いで無線機を取ると、近くの鎮圧班に援護を求めた。

 

「こちらカンナ!ブロックXXXにて密売犯と思われる魔女を発見した!現在犯人は逃走中!逃走時に建造物への放火も行い現場は混乱中だ!至急救援願う!」

 

 現場に野次馬が集い、混乱は極めていく。カンナは市民の安全の為に現場を離れられないでいた。

 

「くそっ……!なんてマネを……!市民のみなさん!!!危険です!!!現場から離れてください!!!」

 

 そう現場の対処している内に、近くの鎮圧班たちが集まってきた。鎮圧班たちは慣れた様子で現場を対処し、区画一帯を閉鎖していく。

 

「カンナ隊長!」

 

 アレットがカンナに駆け寄ってくる。アレットはカンナに一礼して状況を求めた。

 

「状況は見ての通り一刻を争う事態だ!アレットは残りの鎮圧班と消防隊と共に消火活動にあたれ!あたいは逃走班を追う!」

「わかりました!気を付けて!」

 

 カンナはレヴィを追って走り出した。

 

 モナティアムと教団の戦いが、幕を切った。

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