モナティアムの大通りを1台のトラックが猛スピードで走る。その後ろを1台のバイクと多数のパトカーが猛追している。
信号を無視し、乱暴に曲がり、歩道をまたぎ、対向車線へと乱暴に侵入する。それをカンナたちは華麗なハンドル捌きで追跡していく。
「あー!あー!前方のトラック!今すぐスピードを落として止まれ!」
トラックはなおも速度を上げて加速していく。周りのエルフたちは猛スピードで通りを走り抜けるトラックに悲鳴をあげている。
「チィッ!絶対に捕まえてやる……!」
エンジンの回転数を上げたバイクが唸りをあげる。猛然と加速したバイクがトラックとの距離を近付けていく。
「あー!あー!そこのトラック!今すぐ停車させないと発砲するぞ!!!」
カンナの警告を無視してトラックはなおも逃走を続ける。それどころか、トラックは応戦を始めた。
「うわっ!?」
火炎瓶がカンナに向かって投げられる。中身はもちろん度数を高めた酒だ。
「あいつら、酒の度数が高いのを良いことに武器として応用しやがったか……!」
カンナが叫ぶ。
「こちらカンナ!魔女の追跡中に反撃を受けた!至急応援を求む!消火活動に当たっている隊員以外は道路を封鎖、ドローンによる追跡の準備をしろ!」
そうカンナは指示を出し、本格的な包囲網を敷き始めた。
トラックは依然として逃走中だ。不規則に火炎瓶を投げ、機動隊へ妨害している。
そのとき、カンナの通信機から通信が入った。
『カンナ隊長。こちらアメリアです。ここからは私が機動隊と鎮圧班の指揮を執ります。カンナ隊長は私の指示に従って逃走班を追跡してください』
「アメリアさん……!分かりました!こちらカンナ!いつでも対応可能です!」
『現在、隊長の追跡位置から三ブロック先に機動隊によるロードブロックを設置しています。次の交差点から他の機動隊も合流予定です』
「分かりました!」
アメリアの指揮が加わりカンナのアドレナリンが過剰に放出する。極度の興奮状態に陥ったカンナの目は、トラック軌道を捉えて離さない。
絶対に逃さない。喰らいついて離さない。その目は荒鷲の如く、執念は獅子の如く昂っていた。
交差点の両脇から追加の機動隊が合流する。機動隊たちはけたたましくサイレンを鳴らすと、一気にトラックの両脇に躍り出た。
「よし……!」
カンナの興奮が最高潮に達する。
「あー!あー!そこのトラック!今すぐ停車しろ!お前たちはもう包囲されている!」
その時だった。
タタタタンッ!
銃声が鳴った。トラックを包囲した機動隊のバイクが横転する。
「なっ……!」
カンナの視界が揺らぐ。周囲の音が途絶する。カンナは目の前に起きた現実が理解できなかった。
「あいつらァ……!」
怒りに駆られたカンナの握るアクセルに力が籠る。
『カンナ隊長。もうすぐロードブロックです。そのまま追跡してください』
「分かってます……!ロードブロックを突破されたら、デカいの一発ぶちかましますからね!!!」
トラックの前方にパトカーのバリケードが現れる。トラックはそれに構わず、速度を上げてロードブロックに突っ込んでいく。
「アイツ……!無理やり突破する気か……!」
激しい破裂音の後、パトカーが弾き飛ばされ、トラックは進路を変えずに猛進した。カンナはすかさず大砲を構え、トラックに向けて発砲した。
『カンナ隊長!発砲は止めてください!市民を巻き込んでしまいます!』
「けど、アイツらは仲間の隊員を撃ちました!!!このままでは犠牲者が増えてしまいます!!!一刻も早く鎮圧して暴走を止めないと!!!」
『作戦の指揮権は私にあります!カンナ隊長は私の言葉に従ってください!」
「くぅ……!」
その時、トラックがカンナの目の前で急旋回した。
助手席の逃走班と目が合う。
向けられた銃口。カンナは自分が狙われていると瞬時に理解した。
☆☆☆☆
「チッ!外したか……!」
「何やってんのさ!せっかくのチャンスが台無しだよ!」
フェドーラを被った魔女が舌打ちをする。その様子を見たレヴィは横目でその魔女を睨んだ。
「ふん!生かしておいたのさ。ゲームはまだ終わりじゃないからな!」
フェドーラの魔女は残弾を確認するとトラックから大きく身を乗り出し、残りの弾を乱射した。
スノーキー。それがこの魔女の名前だ。かつてベリティエンで"すりおろし豆乳派"と呼ばれるギャングのボスを務めた生粋の侠客である。今では世界樹教団に所属し、レヴィ共々密造酒ビジネスの一大ブローカーに上り詰めた、実力派の魔女だ。
「ただでさえAKは弾の消費が激しいんだからしっかり狙って撃ってよ!」
「チッ!分かってるよ!」
続々と機動隊が合流し、二人を囲んでいく。上空からはドローン、道路は塞がれ行動範囲が狭まり、二人は追い詰められていく。しかし、二人はトラックの燃料のある限り、諦める気はなかった。
「空からドローン!!!撃ち落としてスノーキー!!!」
「任せろ!!!」
切り詰めたモシン小銃を手に取り、ドローンを撃ち落とす。制御を失ったドローンはふらふらと落ちていき、建物にぶつかって爆発した。
「よしっ!次だ!」
一機、また一機とドローンが落とされていく。装甲もまともに施されていないドローンに、フルサイズの弾薬を発射するモシン小銃の威力は過剰とも言えた。
「ふん!口ほどにもないな!……っと、あれは?」
「ロードブロック!しかも隊列を組んでる!?」
「一斉射撃でもする気か!?」
スノーキーの予想通り、指揮官らしき人物が空砲で合図すると、隊列を組んだ鎮圧班たちが一斉に発砲した。
ババババッ!!!
「くぅぅぅ!!?」
幸いにも損傷は軽微で、なおもトラックは暴走を続ける。
「突っ込むよスノーキー!掴まって!!!」
レヴィの言葉を合図にトラックはエンジンを唸らせ、猛加速していく。
ガァン!!!
勢いよくパトカーを弾き飛ばし、トラックはモナティアムの中を突っ走る。
そして、機動隊の執拗な追跡と妨害を潜り抜け、レヴィはようやくモナティアムの関門へと差し掛かった。
「やった!出口だ……!」
ようやくモナティアムの出口を見つけてレヴィとスノーキーが歓喜の声をあげる。
しかし、この時レヴィは気付かなかった。
モナティアム最強のスナイパーが照準を定めていることを。