世界樹教団、マフィアになる   作:韓非子

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第28話「追い詰められる二人」

『用意は良いですか?傭兵』

「ああ、任せとけ。このダァークブレット様がしっかりと撃ち抜いてやる」

 

 シオン・ザ・ダークブレット。モナティアムに住まう幽霊の市民にして、光と闇の境界を彷徨う漆黒の弾丸。表向きはアルバイトで生計を立てる一介の市民だが、裏では傭兵稼業を生業にするという、二面性を持つ腕利きのスナイパーだ。 

 

『犯人は現在エルトバーンにて逃走中。そのまま検問所を突破し、河川港工業地区に侵入する予定です。おそらくそちらの地点からも確認できるかと思います』

「ああ。ばっちりだ。トラックのものらしき煙がエルトバーンから上ってるのが見える。進む方向から見れば間違いなく検問所に行くだろうな」

『ならバッチリですね。後は頼みました、傭兵』

 

 シオンが照準器を覗き込む。照準器で覗く先には、煙を吐きながらエルトバーンを突っ切る"何か"が見える。それがきっと、アメリアが言う逃走犯のトラックなのだろうとシオンは考えた。

 

「ふぅむ……。狙うとしたらあそこだな……」

 

 ビルとビルの隙間に見える検問所。1秒にも満たない僅かな間、チャンスは一回きりだ。そこを逃したら、トラックを止める事はできない。

 

 シオンが意識を集中させる。緊張で口の中が渇く。あのビルの隙間にいつトラックが現れるかは分からない。煙よりはるか先にトラックがいる可能性もある。

 

 照準を定めたシオンの呼吸が止まる。照準を定めて引き金に指をかければ、あとはそれを引くだけだ。魔弾の射手、ダークブレットの名に懸けて、シオンは必殺の一撃を叩き込むつもりでいた。

 

 時間がゆっくりと進む。時間が止まっているかのような錯覚を覚える。鼓動が速くなり、アドレナリンが過剰に分泌する。

 

「見えた……!」

 

 引き金を引く。マズルフラッシュがシオンの顔を照らす。シオンが狙った標的は、確実に"撃たれた"。

 

 制御を失ったトラックは大きく蛇行し、横転した。

 

 既に大きなダメージを受けていたトラックから炎があがる。シオンは成し遂げたとばかりに口角をあげ、大きな達成感に包まれた。

 

『お見事です、ダークブレット。トラックが横転し、中から逃走班が脱出するのを確認しました。……報酬はあなたの指定した口座に振り込んでおきました。確認してください』

「ああ、分かった。では、我はこれで失礼する」

 

 魔弾の射手、ダークブレットが退散する。今日もモナティアムの伝説が、一つ静かに刻まれた。

 

 

☆☆☆☆

 

 

「くそっ!何が起こったんだ、レヴィ!?」

「ゲホッ、ゲホッ……。わ、わからないよ……!急にトラックの制御ができなくなって……!」

 

 トラックから脱出したスノーキーとレヴィがトラックの後ろに隠れる。トラックという移動手段を失ってしまった二人には、もはや逃走する手段がない。それどころか、トラックに積んであった密造酒もすべてダメになってしまった。教主が知ったらどんな目に遭うか分からないと、二人は焦った。

 

「あー!あー!逃走班ども!大人しく降伏するんだ!お前たちはもう包囲されている!逃げ場はないぞ!」

「だ、誰が降伏するもんか!!!降伏だなんて裏切りと同じだ!!!」

「ああ、そうだ!降伏するくらいならお前たちを一人でも痛い目に遭わせてやる!」

 

 恥を知る者は強し。常に郷党家門を思い、いよいよ奮励してその期待に応えるべし。生きて虜囚の辱めを受けず、死して罪過の汚名を残すことなかれ。

 

 二人の心の内に強い決起の想いがあった。

 

 名誉、絆、誇り。教主と共に財貨を儲け、一時期とはいえ、モナティアムとエーリアスを陰から支配した自分たちに誇りを持つことができた。そして、それを成し得てくれた教主に仁義を果たさんと、二人は自らを奮い立たせた。

 

「レヴィ!コイツを任せた!」

「ス、スノーキー!?」

「私に構わず撃ちまくれ!私はこの拳と脚でぶちのめしてやる……!」

 

 スノーキーが手に持ってたAKをレヴィに渡した。そして、自らを奮い立たせるために隠し持ってたウォッカを一口煽ると、ゆっくりと立ち上がった。

 

「行くぞ、レヴィ!奴らに目にものを見せてやろうじゃないか!!!」

 

 世界樹教団が一番槍、スノーキーが勢いよくトラックから飛び出した。虚を突かれた鎮圧班たちは、それを視認するだけで手いっぱいだ。

 

「どりゃ!!!」

 

 黒い影が一人、二人とエルフたちを制圧していく。思いがけない近接戦闘に、エルフたちはまるで対応できない。平和に慣れきったエルフたちにとって、地下で暴力と恐喝で成り上がった生粋の侠客は強敵だった。

 

「ひ、怯むな!!撃て!!!」

 

 カンナの呼びかけに応じて鎮圧班たちが応戦する。しかし、激しく動き回るスノーキーに照準を合わせるのは至難の業だ。

 

 下手に撃つと味方を誤射してしまわないか?そんな恐怖がエルフを支配し、まともに撃つことすらできない。鎮圧班の陣中は混乱に包まれるばかりだった。

 

 タタタタンッ!

 

「うぐっ!?」

 

 突如鳴り響いた銃声に鎮圧班の一人が倒れた。スノーキーに夢中になっていた隊員たちは、もう一人の逃走班がいる事をすっかり忘れていた。

 

「たった二人に何を手間取っている!?相手は二人だぞ!!!」

 

 現場の混乱がさらに加速していく。もはや恐慌状態にも等しい状況にカンナはイライラするばかりだ。このままでは作戦はままならない。カンナはようやく二人を追い詰めたというのに、撤退するしかないのかと唇を噛んだ。

 

「くそっ……!撤退っ!撤退だ!全員後方に戻れっ!!」

 

 カンナの言葉を合図に鎮圧班たちが撤退していく。スノーキーはその様子を見て興奮した様子で叫んだ。

 

「はっ!口ほどにもないな!技術ばっかりで戦術はてんでダメダメな奴らだ!出直して来な!長耳ども!」

「スノーキー!うえ!」

「あ?」

 

 レヴィの言葉に釣られてスノーキーが上空を見ると、大量の武装したドローンが包囲していた。

 

「ヤバいな……」

 

 スノーキーは静かに呟いた。

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