一連の事件がある程度収束したモナティアムの市庁舎。ぽつぽつと新規患者の報告はあがってきてはいるが、大規模な集団中毒の報告はめっきりなくなった。
モナティアム市長室で、エレナがボーっと椅子に座っている。絶対に倒すと意気込んだ教主に敗北して、エレナの心に大きな穴が開いてしまっていた。
そんなエレナの様子をアメリアは心配そうに見つめている。
「エレナ様……?どうやら最近、調子がよろしくないようですが……」
「あー……。うーん……。なんだか、あの一件以来、何をするにも力が入らなくてねぇ……」
教主に敗北し、鎮圧班の半数近くを教団に奪われてしまった事で、エレナは無力感に苛まれてしまっていた。
エレナはこの戦いで、あらゆるものを多く失ってしまった。市長としての責任と、多数の市民を失ったことで、エレナの心はひどく沈んでしまったのだ。
「あたしも引退するときなのかねぇ……」
「そんな……!モナティアムの市長はエレナ様しかありえません!!エレナ様が率いないモナティアムなど、モナティアムではありません!!」
「しかし、あたしも少し疲れたよ……。あたしに代わって政務を執ってくれる奴が欲しいと思ってるのも事実だ。あの人間に対抗できる有能な奴がほしいよ……」
「……では、どうなさるおつもりですか?」
ここで、エレナはとっておきの方法を提案した。
「……選挙だ。副市長を選ぶ選挙をしよう」
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「モナティアム副市長選挙開催のお知らせ……」
市庁舎前の掲示板に貼られたポスターを見て、ローネが呟いた。
「あんな事があったし、エレナさんも本腰を入れて対策をしようっていう事なのかなぁ」
いつものように、業務前の段取りを確認するローネに、ミュートからの連絡が入った。
「もしもし、ローネです~」
「おはよう、ローネ。早速だが、今朝のニュースは確認したか?」
「ニュース?何かありましたっけ?」
出勤時の身支度の時に、適当に流しているだけのテレビをローネはまったく確認していなかった。ミュートは呆れたようにローネに問う。
「モナティアム副市長選挙についてだ。まさか、マスタースパイともあろう者が、その程度も確認していないのか?」
「あぁ、その事ですか。さっき市庁舎前のポスターで見てました。それがどうかしたんですか?」
「ローネ、お前がそれに出るんだ」
「えぇ!?!?」
ローネは突然の指令に驚きの声をあげた。いきなり下された突拍子もない指令にローネは混乱するばかりだ。
「そ、そんな!どうして私が!?」
「お前が副市長になる必要があるからだ。必要な準備はちゃんとしておくように。落選は許されん。分かったな?」
「は、はぃぃぃぃぃ……」
ミュートは必要な事をさっさと伝えると、そのまま電話を切ってしまった。
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必要な申請書類を提出し、ローネは市長候補室で待機していた。
普段はとんかつが好きなだけの良き隣人のエルフに、町の指導者に立候補するという事はあまりにも荷が重かった。なぜ急に諜報班長が副市長に立候補しろなどと命令を下すのか、ローネは理解できなかった。
そんな緊張でカチコチに固まっているローネの前に、ローネの上司、諜報班長のミュートが姿を現した。
「緊張しているか、ローネ」
「ち、諜報班長……!」
意外な人物の登場に、ローネが面食らったように目を丸くする。
「ど、どうして私が副市長選なんかに出ないといけないんですか?」
「……今、モナティアムは存亡の危機に立たされている。エレナ一人では、もはや対処できる状況ではなくなってきているのだ」
「は、はぁ……」
「だから、エレナに代わってこの状況を対処できるようにしないといけない。そこで、お前に副市長に立候補してもらうという訳だ」
ミュートはローネに淡々と副市長に候補しなければいけない理由を説明する。しかし、ローネはどうも納得できない様子だ。
「けど、私である必要があるんですか?私以外にも候補者がいそうなものですけど……」
「他ではダメだ。今すぐに立候補できて、私に協力できるエルフはお前しかいない」
「えぇぇ……?うーん……」
ローネは渋々了承した。そして、副市長候補選に向けての、ローネとミュートの戦いが始まる。