ローネはミュートの助けを受け、万全な準備を整えた。市民に親しみやすいようにと髪をおろして、とんかつのアクセサリーを施したカチューシャを付けた姿は、見る者に和やかな気持ちを与えてくれる。
「へへへ、どうでしょうか?班長」
「良いんじゃないか?後は私と練習したように、市民の前でスピーチをするだけだ。しくじるなよ」
「はい!ミュート班長!」
ミュートに見送られて、ローネが演説台の前に立つ。やや緊張した面持ちのローネが、意を決してマイクを手に持ち、演説を始めた。
「初めまして!今回副市長選に立候補したローネです!」
元気のよい声が市庁舎の前に響く。市長室からその様子を見守っているエレナも、意外な奴が立候補したと驚いている。
「なんだ、ローネの奴も立候補したのか?」
「はい。諜報班長と一緒に選挙演説の練習をしている所も確認しています」
「ミュートの奴……。何か企んでいるんじゃないか?」
他の候補者と違い、ミュートの意思……。ローネの胸の内を熱く語る、はっきりとした声が、エルフたちの胸に響いていく。
「今、私たちは立ち向かうべきです!変わるべきなんです!こうしてじっとしていては人間に良いようにされるだけなんです!母星にだって帰る事ができません!このままではいけないんです!」
ローネの熱い演説に、エルフたちが騒めきたつ。ローネの演説と、市民の様子を見守るエレナは、そのただならぬ様子をただ見守っている。
「意外な奴が現れたな……。このままでは副市長ではなく市長になってしまいそうだな」
「そんな事は許されません!市長はエレナ様であってこその市長です!」
「ま、あたしだってそう易々と明け渡す気はないさ。副市長には副市長としての仕事を全うしてもらうだけだよ」
演説は続く。ローネの演説は大成功し、得票率においても圧倒的な大差をつけ、選挙に大勝した。
☆☆☆☆
「やぁ、ローネ!歓迎するよ」
「よ、よろしくお願いします、エレナ市長……」
市長室でエレナとローネがあいさつを交わす。二人はあいさつもそこそこに軽く雑談をかわすと、さっそく本題に入った。
「さっそくだが、あたしが副市長選を実施した理由は分かるか?」
「え?お仕事が忙しくなったとか、そんな理由かなって思ったんですけど……」
「まぁ、似たような理由さ。あたしもあの一件以来、少し調子が悪くてね。あたしの仕事を分担してくれるような、頼りになるヤツが欲しいって思ったんだよ。特に、あの人間を中心とした渉外業務なんかね」
エレナが忌々し気に呟く。
「君もスパイとして諜報任務に当たってたんだろう?期待しているよ、ローネ副市長」
「は、はいぃ、エレナ市長」
ローネが市長室を後にする。
登庁初日とあって、簡単な業務だけをエレナから割り当てられたローネ。その業務を確認するために、アメリアに連れられて、ローネが割り当てられたという副市長室に向かった。
「ここがあなたの執務室です」
「はい、ありがとうござ……」
「当選おめでとう、エージェント・ローネ」
「ミュート班長……!」
副市長室に入ると、ミュートが机に腰かけて待っていた。アメリアもびっくりしたのか、何をしているとミュートに怒鳴りつけた。
「エレナ市長様から割り当てられた部屋で何をしているんですか!ミュート諜報班長!」
「私の部下が当選したと聞いて、祝いに来ただけさ、アメリア」
「あなたには関係のない事です!出て行きなさい!」
そう言い放つアメリアに、ローネが口を挟む。
「あの~、アメリアさん?実は、お願いがあるんですけど……」
「ローネ副市長?どうしたんですか?」
「実は……ミュート班長を秘書に任命したくて……」
「え……?」
「なっ……!」
あまりにも予想外の提案にアメリアとミュートが、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして驚いている。特に、ミュートは自身がローネの下に入る事を理解し、その事に抵抗を感じているようだった。
「な、何を言ってるんだローネ……!お前は自分が何を言ってるのか理解しているのか……!?」
「えへへ、もちろんですよ、ミュート班長。今や私は副市長ですよ?エレナ市長と相談して、組閣するんです。特に渉外を行うんだったら、情報も大事になってくるでしょうし、諜報班や情報班も私が直接管轄するようになったら良いかなーって思いまして~」
ふわふわとした笑顔で既に構想を練っていると言うローネ。二人はこの副市長は仕事ができると感じ取り、ローネの提案を受け入れることにした。
「ミュート班長も、いちいち遠くから私に指示を下すより、秘書として私を管理する方がやりやすいですよね?私も班長から助けを貰えるとすごく助かるんですけど~」
「……いいだろう。一度、私もお前のやり方に従ってみよう」
「えへへ、ありがとうございます」
ローネが席に着き、パソコンのキーボードをたたき始める。二人はそれを驚いたように眺め、何か恐ろしいものを見ていると感じていた。
やがて、アメリアはハッとしたように、我に返った。
「で、では、私も仕事がありますので!これで……」
そう言って、アメリアは副市長室から出て行った。
「まずは、情報班と諜報班を統合して、情報管理局を設立します。これで諜報班が得た情報を情報班と共有しやすくなって、業務も効果的になるはずです。ミュート秘書官は秘書官と兼任して、情報管理局局長も兼任してもらいたいと思います」
「う、うむ」
「何か重要な情報を入手したら、逐一私に報告してください。いいですか?」
「わ、わかった」
「あとは……」
ローネが顎に手を添えて何かを思案する。
「そうですね……。エレナさんが今までやってこなかった事……」
「……?」
ミュートが怪訝そうな表情でローネを睨んでいる。ミュートは、ローネの恐ろしい潜在能力を目の当たりにして、脅威を感じている。
「私に考えがあります」
ローネの進撃が始まる。