「なに!?密造酒を合法化する!!?」
「はい。とりあえず、今の騒動を抑えるにはこれが一番効果的だと思います」
「しかし、合法化してどうするというんだ!?それでどうやって騒動が治まるというんだ!?」
ローネの提案にエレナが憤慨している。アメリアとミュートは、互いに顔を合わせて二人のやりとりを怪訝そうな顔で見ている。
「確かに税金も取れませんし、合法化したところですぐには効果が表れないかもしれません。しかし、猶予期間を与えるんです。密造酒が浸透して一般化したところで、ディーラーたちの懐柔を行うんです」
「ほ、ほう……?」
エレナが訝しみながらも興味深そうに話を聞く。ローネは続ける。
「ここで大事なのは、ディーラーを逮捕せずに、恩赦を与える事です。今までやって来た事は罪に問わず、逆に私たちの下で働かせるんです。ディーラーたちは外とのパイプを持っています。そのパイプを利用して、今後の対策に活かしていくんです。少なからず、そのディーラーたちが使っていた密売手段は防げるようになるはずです」
「な、なるほど……」
ローネの思いがけない提案にエレナが舌を巻く。ミュートも大したものだと感心している。
「そうと決まれば早速行動です、エレナさん!宣伝班に広報させましょう!」
「あ、ああ。やり方は君に任せるよ」
☆☆☆☆
モナティアムが密売犯に恩赦を与えて数週間、モナティアムの町は一変した。街中で飲酒する者が増えたのだ。
ローネの提案する政策に感銘を受けたエレナだったが、予想に反して悪化した治安に、エレナは怒った。
「ローネ!かえって治安が悪化してるじゃないか!どうしてくれるんだ!」
「こ、これから法を整備していけばいいんですよ!路上飲酒禁止!鎮圧班にパトロールさせましょう!」
ローネの提案したとおりに治安を強化したモナティアムは、路上飲酒を徐々に減らしていった。法整備を進め、ディーラーを正式な販売員にしていき、モナティアムで検査を受け合格したものだけを販売するようにしていった。
そうしてモナティアムは秩序を取り戻していき、以前のような平和なモナティアムの姿が、エルフたちの元へと帰ってきた。密売人ディーラーたちも商売が軌道に乗り始め、省庁に登用された元売人たちも、贖罪とばかりに密輸ルートを潰していった。
「早速実績を出しているようだな、ローネ。君にこんな才能があるだなんて思わなかったよ」
「えへへ、ありがとうございます。この調子で問題を解決していきましょうね」
「ああ、期待しているよ、ローネ。君はあたしの想像以上に仕事ができるエルフのようだからね」
そう言ってエレナは少し遠いところを見た。どこか遠いところを見つめてボーっとするエレナを見て、ローネは心配そうに声をかけた。
「だ、大丈夫ですか?エレナさん。少し疲れてるんじゃないですか……?」
「ああ、そうだねぇ……。君のような有能なエルフが来てくれたおかげで、あたしも少しゆっくりできそうだ……。悪いけど、あたしは少し休ませてもらうよ……」
エレナがふらふらと副市長室を後にする。その後ろ姿を見送ったローネとミュートが心配そうに、エレナが去った扉をじっと見つめている。
「今までモナティアムで起きるすべての責任を一人で負ってきたんだ。お前も少しはその責任を負えるようにならないとな」
「そうですね……。私もスパイとして得た経験と情報を活かせるように……。少なくとも、エレナさんの負担が軽くなるようにしないとですね!目下の目標はあの人間に対抗すること!一緒に頑張りましょう、ミュート秘書官!」
「……ああ、ローネ副市長。モナティアムの為に」
「モナティアムの為に!」
☆☆☆☆
教主がモナティアムと接触できなくなって数週間が経った。モナティアムの内情を知る方法といえば、シュパンを通じて行われる定期連絡の内容を又聞きする事だった。
レヴィも突如、誰一人としてディーラーと取れなくなって、困惑する者の一人だった。
しかし、レヴィは原因を把握していた。妖精王国でにわかに囁かれる話題、ローネ副市長が就任したという話題だ。あの自称マスタースパイが何かをやったに違いないと、レヴィは考えていた。
そして、それは正しい事だったと、すぐに証明された。
密造酒が合法化された。密売人への特赦令が施行された。それによって罪が許されるどころか、正式な売人になったり、減税措置が取られるときた。これでレヴィを裏切らない訳がなかったのだ。
「ぐぬぬ……。やるわね、あの自称スパイ……」
レヴィのリストから、ディーラーの名前が悉く消えていく。リストから消えた名前はすべて教団を裏切った売人たちだ。教団に害をなす事はないだろうが、モナティアムとの繋がりをなくしたことは、レヴィにとって大きな痛手であった。
新しく販路を拡大しなくてはならない。何かエーダルシャインやスピリッツに代わる、新しい酒を売らねば。
教主は何か新しいモノを作っているのだろうか?自分たちの稼ぎは保証されるのだろうか?レヴィの胸の中には、なんとも言い難い不安が騒めき立っていた。