教主の密造酒事業が公になり、施設が一般公開された宴会場。妖精たちは施設を興味深そうに見学し、どうやってお酒が造られるか観察している。
宴会場に来る妖精たちにスピリッツを振舞い、自身の造る密造酒の味を広める教主。その様子を、レヴィは銃の手入れをしながら白々しい目で見ていた。
「まったく……。能天気なものね、妖精たちも」
煤や油汚れをクリーナーで拭きながらぶつぶつとレヴィが呟く。そんなレヴィを見て、そばで聞いていたフリックルがレヴィに話しかけた。
「何がそんなに気に入らないっていうの?」
「別に何でもありませんよ」
銃に油を塗布しながらレヴィが答える。そんなぶつぶつ呟きながら油を塗るレヴィの様子を見て、フリックルが訊ねた。
「しかし、すっかりあなたもギャングとしての姿が身に付いたわね。魔女になる道は諦めたのかしら?」
「はい。私はもう魔女になるつもりはありません。ここの稼ぎはすごく良いですし、働けば働くほど評価されて、報酬もいっぱいもらえます。魔女なんていくら論文を書いても評価されないですし、魔女になるなんてもう考えられないです」
「ふぅん?そう……」
レヴィが銃を組み立ててコッキングレバーを引く。レヴィは動きが滑らかになったAKを担ぐと、近くで同じく銃の整備をしていたタイダーに声をかけた。
「タイダー隊長、仕事に行きますよ。付いて来てください」
「はい!レヴィ司令!!!」
「レヴィ司令……」
タイダーのレヴィに対するまさかの敬称にフリックルがドン引きする。レヴィもそれほどの地位を得たという事なのだろうが、フリックルの知るレヴィとは、ただの見習い魔女だった。その見習い魔女が、司令と呼ばれるほどにまでのし上がった事に、フリックルは妙な気持ち悪さを感じた。
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「ここ最近、モナティアムではぶどうジュースカルテルという組織が町を牛耳っているそうです。何か知ってますか?タイダー」
「教団の姿に完全に隠れてたからあまり印象がないですね。エーダルシャインを模して作られた紫色のお酒を売ってたような?」
モナティアムに向かう道すがら、レヴィがタイダーに訊ねる。
ぶどうジュースカルテル。教団がモナティアムから離れた後に、一躍裏社会に躍り出たという非合法連合組織。レヴィは、その組織の排除と市場の再独占を目論んでいた。
「私たちがモナティアムでお酒を売れなくなったから、空いた市場で暴れ回ってるという事かしら……。ともかく、私たちが再びモナティアムで利益を上げるためには、その組織を排除する必要があります。幸いにもエレナの他に、ローネがモナティアムのトップに立っています。彼女を利用するほかないでしょう」
レヴィの言葉にタイダーが返す。
「けど、ローネが私たちの言葉に耳を貸すと思いますか?ローネは今、密造酒排除に躍起になってるじゃありませんか」
「私たちがやるのはお酒を売る事じゃありませんよ、タイダー」
銃を手に持ち、コッキングハンドルを引いて薬室を覗くレヴィ。その目には、不気味な野望が見えている。
「私たちが貸すのは力、即ち暴力です。鎮圧班ができないような汚い仕事を、私たちが代わりにやるんですよ。ぶどうジュースカルテルを力で排除する……。その見返りに、いくらかモナティアムでの商業活動をさせてもらうんです。教主様も酒造ビジネスを大っぴらにしたことですしね」
レヴィが武装の点検をしながら淡々と答える。
「は、はぁ……。さすがは教団マフィア、考える事が私たちとは全然違う……」
「正義の元鎮圧班が聞いて驚きましたか?これが私たちのやり方です」
「す、すごいなぁ……」
モナティアムでの予定を説明しながら二人が町を目指す。タイダーはカンナの巡回ルートを知っていたため、そのルートを迂回しての町への進入となった。ただでさえ教団との大規模衝突があった後なので、無駄な衝突は避けたかったのだ。
鎮圧班を見ては避け、道を変えていき、市庁へと目指す。銃を抱えた魔女とエルフが町の通りを歩いているとあって、二人は注目の的となっていた。
そうして、二人は市庁の元へとやって来た。
「止まれ!何の用だ!」
アレットが銃を構えて二人に威嚇する。
「ローネ副市長へあいさつに来ました。通してください」
「ローネ副市長と……?何を企んでるんだ……!?」
周囲の鎮圧班が駆け付け、二人を囲んでいく。しかし、レヴィは変わらずに態度を崩さず、アレットと対話を続ける。タイダーはこの異様な状況にたじろぐばかりだ。
そうしていると、市庁からローネが降りてきた。ローネは状況を確認すると、アレットたちに引くように命じた。
「どういう状況ですか!アレット隊員!」
「ロ、ローネ副市長……!こいつらが副市長とあいさつがしたいって……!」
「この魔女は……って、タイダー!どうしてあなたがレヴィといっしょにいるんですか!?」
「いやぁ、ははは……」
信じられないものを見たというように、タイダーを見たローネの目が見開く。その姿を見たローネはすべてを察したのか、堪えきれない怒りに身を震わせる。
「……まさか、宴会場で反乱を起こしたのはあなただったんですか!?あなたのせいで作戦が失敗したんですよ!?どうしてくれるんですか!!!」
「いやぁ、教団の方が羽振りが良いからですねぇ。作戦報酬は出ますし、格安で上質なお酒が買えますし、良いご飯は食べれますし……。退屈な公務員の仕事より、刺激がある仕事ができるっていうのも、一つの理由だったりしますかねぇ」
そういってへらへらと笑うタイダーを見て、ローネの怒りはますます募っていく。
しかし、そんなタイダーに構っている場合ではない。このレヴィという魔女は話をしにここへ来たのだと、ローネは考えた。
ローネは、アレットたちにレヴィとタイダーを通すよう命令した。