妖精王国の某所にあるレストラン。リコッタの営業するレストランにて、エレナとローネ、レヴィと教主が席を介していた。
卓上にはハニーガーリックサーモンにトンカツ、赤ワインにウィスキーと様々なメニューが乱雑に、かつ丁寧に置かれている。
「では、ごゆっくり……」
深々とお辞儀して、リコッタが席を後にする。その様子を見送って、エレナが口を開いた。
「ワインまで作り始めたのか?人間」
「まさか。これは獣人からの輸入品だよ。私も挑戦してみたが、獣人たちが作るワインにはまるで及ばなかった。ベニーが小遣い稼ぎにたまに来てるから、その時に私がまとめて買いあげて、ここに卸してるのさ」
「自分の所では売らないのか?」
「私の宴会場では私が造ったものしか売らんよ」
「ふぅん……」
エレナがグラスを回してワインの匂いを楽しむ。赤ワイン特有の芳醇な香りがエレナの鼻腔をくすぐる。
「……本物のワインみたいだな。獣人共も密造酒を造ってるというのか……?」
「獣人たちは枯れ木に果物を入れて果実酒を作っている。それが酒であるという事も理解していないようだよ」
「そうなのか……?これが酒と分かってないというのか……?」
「ああ。私が金を払って買い取ってくれるから、余ったものを私に卸しているだけだ。基本的にあいつらは地産地消で消費している。このワインも、リコッタとその客しか飲んでいないよ」
「…………。本当に分からんな」
大きくため息を吐いてエレナが頭を振る。その様子を、ローネは顔を顰めながら横目で見ている。
ぶつぶつと何かを呟くエレナに代わって、ローネは咳払いを一つすると、話題を切り替えた。
「……本題に入りましょう、教主さん。教主さんたちが鎮圧班に代わってぶどうジュースカルテルたちを片付けてくれるっていう事ですけど……」
「ああ、そうだな。私もモナティアムで商売をしたいと思っている。君たちの街でしか手に入らない材料もある事だしね。事務所を置いて税金を払っても良いぞ?」
「……もし断ったらどうする?」
エレナが教主に訊ねる。
「私たちが君の街にしたことは覚えてるだろう?無理やりカルテルを潰して販路を作るだけさ」
「……拒否権はないという事か」
再び大きくため息を吐いて、諦めたようにエレナが呟く。
「分かったよ……。カルテルの始末は君たちに任せよう。だが、あまり目立ったマネはするなよ?」
「もちろんさ。私たちも血の盟約を背負う者として、堅気のエルフには手を出すつもりはないよ」
「……散々クァンタムであたしの街を汚染しておいてよく言うよ、まったく……」
エレナがグラスを煽り、ガーリックサーモンへ食らいつく。面倒そうに骨を取り除いてはちまちまと食べエレナは、一気に食らいつけない事に苛立っているのか、少し食べ方が乱暴そうに見える。
その時、レヴィが肘で教主を小突いた。見てみると、ミュートがうつろな表情でボーっとしているのが教主の目に入った。
「ローネ。ミュートの調子が良くないようだが、何かあったのか?」
「えっ?」
教主の言葉にローネが隣の席に目を向けると、ミュートがらしくもなく、焦点の合わない瞳で机の一点を見つめている姿が目に映った。ローネはまたかと頭を振ると、ポンとミュートの背中を叩いた。
「ハッ……!」
「ミュート書記官、またですか?」
「あ、ああ、すまない。また気を失ってたみたいだ……」
「……? 最近多いのか?どうしたんだ?ミュート局長」
「エレナ……。どうも最近頭が回らなくてね……。気付いたら、さっきみたいに気を失ってることがあるんだ」
そう答えるミュートに、エレナは怪しんだ。また教団が一枚かんでいるのではないかと思ったのだ。
「またあたしらの街で何かしているんじゃないだろうな?」
「まさか。レヴィがカルテルの拠点を偵察して市場を調査しているくらいなものさ。酒も変なものもばら撒いてないよ」
「……? じゃあ、どうしたというんだ?働きすぎか?」
「そうかもしれないな……。ここ最近、ずっと情報局に籠って働き詰めだったし、少し無理をしていたのかもしれない」
グラスを揺らしてミュートが呟く。その吐息は僅かに震えているようだった。
「実はエーダルシャインの愛飲家だったか?放射能で頭をやられたんじゃないか?」
「面白くない冗談だぞ、人間」
怒りに顔を歪ませながらエレナが低い声で呟く。そんなエレナに釣られて、アメリアの眉間にも皺が寄っている。
「……モニタリング班からの報告書からも、エーダルシャインの痕跡があったという報告は受けていません。……ともかく、市長様からカルテルの始末を認められた以上、モナティアムでの商業活動は私たちからも認めます。武力や脅迫ではなく、公正な活動をする事を期待しますよ、人間」
「ああ、もちろんだ。酒も検査して、君たちの法に則って商業活動させてもらうよ」
そうして食事会はゆっくりと進んでいった。各々が示した条約を取り交わし、お互いが不可侵とする範囲を取り決め、モナティアムと教団の線引きがされていった。
モナティアムが自由の街になろうとしている。誰もがチャンスを願い、勝利をもぎ取ろうとしている。
だが、それは生半可なものではないと、この密会は語っていた。