世界樹教団、マフィアになる   作:韓非子

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第42話「ナタの奮闘」

「うっ……。これはひどいね。中身がぐちゃぐちゃに書き換えられてる」

「どうひどいんだ?君の力でどこまで修復できる?」

「僕のコードで上書きすれば直せるところもあるね。けど、大体のところは元のコードが分からない程ぐちゃぐちゃに書き換えられてるし、そもそも新しく書き加えられたコードなのか、ウィルスが書き足したのか分からないモノもある……。とりあえずできるところまでやってみるよ」

 

 そう言って、ナタはモナティアムAIの修復を始めた。エレナとイードは黙ってそれを見守っている。

 

「頼むぞ、ナタ……。今は君だけが頼りだ……」

 

 不安そうに呟くエレナをイードが心配そうに見つめる。やがて、そう時間がかからない内に、ナタは作業を中断した。

 

「とりあえず、できるところまではやってみたよ。後はエレナさんが判断して修復していくしかないかもしれない」

「そうか……。それじゃあ、あたしも加勢してみようか」

 

 エレナがラップトップを開いてモナティアムAIに接続する。

 

 そうして、エレナはナタと共にモナティアムAIのハッキングを始めた。自我を持ったAIと、モナティアム最高のエンジニアの共同作業の開始である。

 

「おお、やるじゃないか。あたしが最初に見た時より断然と良くなっている。さすがはモナティアムAIの基になったナタモデルだな!」

「僕は怪しいと思ったところの修復をしただけだよ。それと、僕だけじゃ判断できない怪しいソースコードをリスト化してまとめておいたよ」

「助かる。その調子で怪しいところをバンバン摘発してくれ」

 

 エレナの手元に次々と怪しいソースコードが送られてくる。そのどれもが、ウィルスによって書き換えられたコードだった。

 

「ただでさえモナティアム全体のインフラを一元管理するAIだ。これを一人で対処しようとしたらどれだけ時間があっても足りやしない……」

「そうだね。エレナさんがコードを一行修復してる間にもウィルスたちは次々と悪さをしていく。イタチごっこでは済まない事だよ」

「そういえば、ウィルスはどうしたんだ?君が駆除したのか?」

「うん、駆除したよ。もう今以上に悪化することはないはずだけど」

 

 ナタがそう言うと、エレナは作業の手を止めて伸びをした。

 

「あ~~、そうかそうか。これであたしの心配事は一つなくなったという訳だ」

「エレナ様……?」

「あー、アメリア。宣伝班にモナティアムAIがメンテナンスでしばらく機能を停止すると伝えてくれ。期限は無期限だ。あたしはコーヒーでも淹れて少し休憩するよ」

「わ、わかりました」

 

 そう言ってエレナは立ち上がりふらふらと給湯室へと向かっていった。

 

「エ、エレナさん!ぼ、僕は!?」

「君は休む必要はないだろう。そのまま作業を続けたまえよ」

「う、うん……。わかった」

 

 そうして、ナタは引き続きモナティアムAIの修復作業に戻った。

 

 そんなナタを尻目に、エレナが給湯室でのんびりとコーヒーを淹れている。大きな心配事がなくなって気が抜けたのか、その姿には覇気が見られない。

 

「はぁぁぁぁぁ……。世の中、どうなるか分からないものだねぇ……」

 

 丸椅子に腰をかけてゆっくりとコーヒーを啜るエレナ。自我を持ったAIをことごとく潰して来たエレナだったが、今やその自我を持ったAIと共にモナティアムの心臓ともいえるモナティアムAIを直している。エレナには、自分の持つ信念が揺らいできていた。

 

「あのナタモデル、イードとかいうエルフと友達でいるみたいだが……。どういういきさつで知り合ったんだ?」

 

 エレナはコーヒーを啜りながら考えた。全部処理したはずのナタモデルが存在することも問題だが、どうして市民情報のないエルフが処分したはずのナタモデルと一緒にいるのかも疑問であった。それに、地球侵攻の遠征に、あのような虚弱体質のエルフが参加するものなのかと、エレナは頭を悩ませた。

 

「まぁ、何がともあれ、あのナタモデルは我々に必要な存在かもしれないな。管理もあのイードとかいうエルフに任せても良いだろう」

 

 エレナはそう呟き、丸椅子から立ち上がった。

 

「やぁ、ナタ。待たせたね」

「エレナさん!一通り怪しい箇所はピックアップしておいたよ!あとは、そのリストさえ処理してしまえば機能は復旧すると思う!」

「おお、そうか。それは助かるよ。それで、モナティアムAIに他に異常は見られないのかい?」

「稼働に必要なところは、必要に応じて僕のデータからコピーしてなんとか動かせるようにはしてあるんだ。必要に応じてエレナさんの手で修正してくれたら嬉しいかな」

「そうか。とりあえずは動きそうではあるんだな?」

「うん。しばらくテスト稼働して、様子を見た方が良いかもしれない」

「わかった。そうしよう」

 

 そうして、エレナはモナティアムAIからナタを外して、起動した。

 

「う……う、ん……」

「ミュート秘書官!」

 

 モナティアムAIの起動と同時に、ミュートが目を覚ました。その様子を見たローネがミュートに抱きつき、安堵の涙を流した。

 

「良かった、ミュート書記官……!心配したんですから!」

「わ、私は……」

「目を覚ましたか、ミュート」

 

 エレナがミュートに歩み寄る。

 

「エレナ……。私は、どうしてたのだ……?」

「覚えてないのか?君がモナティアムAIにアップロードしたメールのおかげで、大変な事になってたんだぞ?」

「あ、ああ……。そうだったか……。記憶が曖昧でよく思い出せない……」

 

 ぼんやりとした様子でミュートが辺りを見回す。確認するようにゆっくりと自分の身体を動かして、異常がないか確かめている。

 

「変な気分だ……。私の中にあった強迫観念が消えて清々しい感じがする……」

「そうか。……ミュート、今回は君の判断もあり、大きな事態にはならずに済んだが、君の犯した出来事はモナティアムの存亡にも関わる大きな事態だ。懲戒処分はしっかりと受けてもらうぞ」

「……分かった。異論はない。甘んじて受け入れさせてもらう」

 

 ミュートがゆっくりと立ち上がり、エレナに連れられてエレベーターへと向かっていく。

 

「…………」

 

 ナタとすれ違う中で、ミュートは横目でナタを見つめた。その目は、いつか失ったかつての朋友を見ているようだった。

 

 ナタもまた、ミュートが他人ではないような感覚を覚えていた。モナティアムAIを修復する中で、自分と似たようなコードをたくさん見たことで、それと同期するミュートを自分の仲間だと感じたのだ。ナタは、初めて友達ではない兄弟を見つけたような気がした。

 

「どうしたの?ナタ」

「ん?ああ、なんでもないよ。ちょっと彼女から不思議な感じがしてね」

「不思議な感じ?」

「う~ん……。よく分からないや。とりあえず戻ろう、イード。お姉さんが心配してるはずだよ」

「そうね。行きましょう、ナタ」

 

 そう言って、二人はシオンの自宅へと戻って行った。

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