第44話「バッドドリーム・シスターズ」
モナティアムAIウィルス汚染事故から数日が経った今日この頃、ミュートはすっかりシオンのアパートに入り浸るようになっていた。
イードとも打ち解け、シオンとも顔なじみになった今、ミュートはイードの持つ不思議な力を目の当たりにしようとしていた。
「イードは夢の中でエターナルブレットを名乗って、モナティアムの悪者を退治してるんだ」
「エターナルブレット……?イードの姉が名乗ってる、ダークブレットみたいなものか?」
「そうだね。シオンさんのような可愛らしい魔法少女の服を着て、不思議な力を使って悪に立ち向かうんだよ。うまく僕が映像化出来たら君にも見せてあげたいんだけど……」
「実際にやってみようとは思わないのか?」
「イードは長い間眠っていたせいで、筋力が衰えてしまってるんだ。立ったり歩いたりするにはリハビリがいるね」
「ふむ、そうか……」
二人の会話にイードが入り込む。
「夢の中では私は自由自在よ。走ったり飛んだり、自由に動けるの。私はそれで満足よ」
「けど、所詮は夢だろう?現実でお姉さんみたいに走ったりしたいとは思わないのか?」
「現実は苦しいことだらけよ。私は立つことすらできないし、姉さんみたいに働くこともできない。夢の中だけが、私の自由に振る舞える所なの」
そう言うイードを、ミュートが悲しそうな目で見つめる。
どうにかしてイードをリハビリさせる事はできないのかとミュートは考えた。そして、そう言った感情を持つことができた自分を不思議に思った。
「イード!ただいま!」
「姉さん!」
バイトを終えたシオンが帰宅した。ミュートの靴があることに気が付いたシオンは、そのまま手土産を持って、三人の待つ居間へと入って行った。
「やぁ、ミュート!遊びに来てたんだな!」
「こんにちは、シオン。世話になってるよ」
シオンが会話の輪に混じり、四人が話に花を咲かせる。やがて、四人の話題はイードの夢の事になった。
「エターナルブレット!?イード!お前も私と共に活躍したいというのか!?」
「ち、ちがっ……!私はただ姉さんに憧れてるとかそんな……!」
「ふふっ。素直になったらどうだ?イード」
「ミュ、ミュート……!あなたまで……!」
二人の姉妹とナタの分身ともいえる存在が仲睦まじく会話している。そこで、ナタがこんな提案をした。
「せっかくだし、このまま三人でトリオを組んでみないかい?」
「え……?」
「さ、三人……?」
ミュートがキョトンとした顔をしてナタを見つめる。ミュートはナタが何を言っているのか理解できなかった。
「三人とはどういう事だ……?なぜそこで私が入るんだ……?」
「せっかくだし面白そうじゃないか。きっと似合うと思うよ、ミュート・ザ・サイバーブレット」
「ぶっ……!」
ナタの思わぬ言葉に思わずミュートが噴き出した。そんなナタの言葉に、シオンが目を輝かせながら語りかける。
「サイバーブレット……!いいじゃないか!気に入ったぞナタ!」
「でしょ?ミュートはモナティアムのドローンやセキュリティに精通しているエルフだ。きっとシオンさんやエターナルブレットの役に立つモナティアムのヒーローになれると思うよ」
「うんうん!そうだな!よし、さっそく衣装の準備に取り掛かろう!」
「ま、待て!!!私はまだ何の同意もしてないぞ!!!」
ペンと紙を取り出しておもむろに何かを描き始めたシオン。ミュートは慌てた様子でそれを止めようと手足をバタバタさせている。イードは何とも言えない表情でその様子を眺めているが、どこかまんざらでもないようで、僅かに笑みを浮かべて二人を見守った。
☆☆☆☆
「我は光と闇の境界を彷徨いし漆黒の弾丸……。この黒き閃光が、街に巣食う悪を正すために死を超越し、永久たる闇より舞い戻りたり……。我が名は、魔弾の射手、シオン・ザ・ダァークブレット!!!」
ドドンッ!
「私は永遠の夢を彷徨い続ける、冷たい揺り籠に束縛されし囚われの胡蝶、イード・ジ・エターナルブレット……。私の夢に貴方は存在してはならない……。永遠の射手の名に懸けて、貴方を誅滅するわ」
シャララン……。
「私は電子の海にて渾てを見渡す、電子の瞳、ミュート・ザ・サイバーブレット……。お前がどこに隠れていようと、私の持つエレクトリック・アイにてお前を探し出してやろう。私はモナティアムに選ばれた正義の執行者。そして、渾てをこの瞳で視続ける完全無欠の監視人、エレクトリック・スパイだ」
三人の口上を終えて、シオンが一歩前に出る。
「三人合わせて……」
「「「バッドドリーム・シスターズ!!!」」」
ドドドン!!!
「(唖然)」
口をOの字に開けてクロエが茫然と佇む。決まったとばかりにシオンとイードがニヤリと笑い、ミュートは今にも顔から火が出るほどに顔を真っ赤にしている。
クロエが仕立てたエターナルブレットの衣装と、シオンのネットガンナーの衣装をミュートに向けてアレンジした、サイバーブレットの衣装がバッチリと決まっている。かつてない満足に包まれたシオンは、喜びに身を震わせた。
「それで、どういうつもりなの?まさか、本当にコスプレごっこで終わるつもりじゃないよね?」
「そんな訳ないだろう、クロエ!我らはこれからバッドドリーム・シスターズとして、このエーリアスに巣食う悪を一掃しようとしているのだよ!」
「あ?なに?教主のカルテルと対峙しようっていうの?」
「必要であればやるだろうな」
ディーエグジットを構えてシオンが言う。実際に、既に傭兵として教団のメンバーに銃を向けた事もあるシオンは、いつでも教団と対峙する気でいた。
「クロエも知っているだろう?我がマスターは、既に無視できない規模の事をやらかしている。我のアルバイト先の常連も、随分といなくなってしまった。みんなあのドリンクにやられたんだろうな」
「……本気なんだね。お姉ちゃん」
見かけとは裏腹に、真剣な語り口のシオンを見て、クロエがまっすぐとシオンの目を見つめる。
「ああ、本気さ。エーリアスの平和を乱す輩は、我の目が黒い内は見逃すつもりはない。我ら三人でバッドドリーム・シスターズとして、本気で戦うつもりだ」
シオンの赤い瞳がキラリと輝く。その瞳は、エーリアスのすべての悪を裁く正義の魔眼のようにも見えた。