世界樹教団、マフィアになる   作:韓非子

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第46話「余波」

「こ、これは……」

 

 通報を受けて駆け付けたレヴィの目に映ったのは、惨憺たる光景だった。世界樹教団の元に寝返った、元鎮圧班からなる戦闘部隊のエリート兵士、世界樹教団の槍となって戦うべき兵士の敗北した光景が広がっていた。

 

「な、何があったっていうの……?」

 

 レヴィが戦闘のあった現場を見て回る。レヴィの目に広がるのは、戦闘に敗れて倒れた兵士と、その兵士が使っていたAKの薬莢が散乱している光景だ。一目見れば、ここでカルテルの抗争があったのは見て取れる。

 

 しかし、奇妙な違和感がそこにあった。レヴィは、目の前にあるその違和感にすぐに気が付いた。薬莢が一種類しかないのである。

 

「……薬莢がAKのものしかない。まさか、あのカルテルが鎮圧班のレーザーガンを使うとも思えないし……。バットやナイフでここまでやれるものなの……?」

 

 レヴィの頭に疑問が浮かぶ。これほど奇妙な現象に遭遇するとは思わなかったレヴィは頭を悩ませた。

 

 とりあえず、この現場を片付けなければならない。鎮圧班が現場の異常に気付いて、面倒な事になる前にきれいにしなければ、教団にも迷惑をかけることになる。

 

 レヴィは応援を呼んで、空薬莢の一つも残さず、現場をきれいに片付けた。

 

 

☆☆☆☆

 

 

「それは本当なのか?レヴィ」

「はい。私もこの目で確認しました。現場にいた戦闘員もみんな同じことを言ってますし、嘘を言っているようには思えません」

 

 現場を視察したレヴィは、纏めた情報を包み隠さず教主に報告した。

 

 レヴィの報告を受け取った教主は、彼女の話を信じられないでいた。攻撃の通じない謎のお化けに襲撃され、拠点を丸ごと一つ壊滅させられたなどという話は、あまりにも信じがたいと思ったからだ。

 

「監視カメラの映像はないのか?」

「それが、なぜかどのカメラにも記録が残ってなくって……。何者かが意図的に削除したか、ハッキングされた可能性があります。ログにも残ってないんです」

「ふうむ……。随分と用意周到に準備されたもののようだな。この件は他のメンバーにも伝えておいてくれ。拠点を一つ奇妙な幽霊に襲撃されたから各個気を付けるようにとね」

「分かりました」

 

 そうして、レヴィは教主と別れ、自分の職務へと戻って行った。

 

 

☆☆☆☆

 

 

 モナティアムに新しく設置した事務所に戻る道すがら、レヴィはモナティーマートに寄り、コーヒーと新聞を買って、帰社の途に就いた。

 

 店員の機械的な挨拶を耳にしながら会計を済まし、コンビニを後にする。

 

 コーヒーを飲み、味のないブロックを食べ、敵勢力の視線を浴びながら街を視察する。何気ない毎日のルーティンを今日も繰り返すレヴィは、モナティアムの支配者は誰なのか、街をゆっくりと闊歩しながら、その存在感を示した。

 

 事務所に戻ったレヴィは席に着き、新聞を広げる。そこには、派手な自撮りを一面に印刷した記者の写真がでかでかと掲載されていた。

 

「教団派カルテル、一夜にして壊滅する……。随分とセンシティブな見出しだね」

 

 そこには、教団のカルテルが何者かに壊滅させられた事を大々的に報道するゴシップ記事が書かれていた。いかにも教団カルテルが滅ぼされた事で、もうカルテルの脅威は存在しないとでも書かれているような内容だ。

 

「うちらでも解決してないような事を、想像だけでよくもこんな風に書けるわね……。これがマスコミっていう仕事なのかしら……?」

 

 荒唐無稽で奇天烈な俗説を並び立てるゴシップ記事にレヴィが眉を顰める。

 

 こんな記事を出して教団が舐められては、教団の威信に関わる事になりかねない。レヴィは、一度この記事を書いたマスメディアを懲らしめなければならないと考えた。

 

 

☆☆☆☆

 

 

「ハイディ……。モナティアムの宣伝班で働くマスメディアのエルフ……。教団のメンバーって事で、教団証明書があったのは意外だったね」

 

 コピーした教団証明書を見つめながらレヴィが呟く。

 

「自分が世界樹教団のメンバーっていうのを忘れたのかしら?こんなにもでたらめな記事を書いちゃって……。自分が正義の味方になったとでも思ってるのかなぁ……」

 

 カフェでのんびりとくつろいでいるハイディを監視しながら独り言を呟く。

 

 バンの中ではスノーキーとニコが居眠りをして、タイダーがスマホでだらだらと動画を見ている。これから仕事だというのに呑気なものだと、レヴィはミラーで社内の様子を見ながらため息を吐く。

 

 そうしてしばらく監視していると、ハイディがカフェから出てきた。レヴィは急いでニコとスノーキーを起こし、二人にハイディを尾行するように命じた。

 

 バンを降りて二手に分かれ、ハイディの行動を注意深く監視を始める二人。

 

 本屋に寄り、ゲーセンに寄り、公園でスマホを弄ったり電話で誰かと談笑したり……。どこにでもいる、他の誰でもないエルフの姿がそこにあった。

 

 やがて、そんなハイディがぽつんと一人になる瞬間ができた。不意に周りに人気がなくなり、孤立したのである。

 

 すかさずニコがハイディに近寄り銃床で殴って気絶させ、スノーキーがバンを誘導して近くに停めさせる。そして、二人は素早くハイディを担ぎこみ、誘拐を成功させた。

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