「ああ、どうしようどうしよう……!まさか、あの人間があそこまで狂っていたなんて……!」
世界樹の大木が座す間で、一人の使徒が混乱していた。顔はやつれ、冷や汗を流し、足早に同じところをぐるぐると回っている。
「ああ、もう……!どうしてこうも私は失敗ばかりしちゃうのかなぁ……!ジョアンの時もそうだし、存在の幽霊やシュロだって……!私のバカバカバカバカぁ……!」
世界樹に寄生していたヤドリギ。彼女は追い詰められたように早口に呟いている。彼女は、自らが召喚した人間のせいで、世界樹が傷つけられるどころか、各種族間の対立が激化しているのを見ていた。一部は自らの利益の為に教団に合流しているが、それ以外は教団に対して激しく対立している。
極度の焦燥と緊張から早鐘のように脈打つ心臓の音を聞きながら、ヤドリギはうずくまってしまった。
そんな時、扉の外で誰かが騒ぐ音が聞こえた。誰か入ってくると思ったヤドリギは、世界樹の木陰に急いで隠れた。
「ここにでも入ってな!教主様の邪魔にならないようにね!」
バタンッ!
レヴィたちがエルフィンとネルを世界樹の間に投げ入れる。レヴィは乱暴に二人を投げ捨てた後、出られないように厳重に扉を閉ざした。
「う、うぅぅ……」
「ネルっ……!」
ネルとエルフィンが起き上がる。ヤドリギは、世界樹の陰から黙ってその様子を見ている。
「ネル、大丈夫……?」
「女王様……。いたた……。あぁ、女王様、お怪我はありませんか……?」
「私はどうだっていいの……!ネルこそ、魔女に銃で殴られて……」
エルフィンがネルの心配をしている。自分のせいで招いた災厄に、二人の妖精が犠牲になってるのを見て、ヤドリギは胸が締め付けられるような感覚を感じた。
良かれと思って教主をエーリアスに召還したヤドリギ。しかし、今ではその人間がこの世界に災厄をもたらし、エーリアスを混迷に陥れてる。そして、目の前でその災厄に苦しんでいる妖精がいる。ヤドリギは、今こそ自分が立ち上がり、二人の力になるべきだと考えた。
「そこの二人、ちょっといいかな……?」
「ひぃ!だ、誰なの!?」
「あなた……!ど、どなたなんですか!?どうやってここに入ってきたんですか!?」
突然現れた謎の人物に二人が驚く。ヤドリギは少しドギマギしながらも、二人に語りかけた。
「私はなんていうか……。世界樹の知り合いというか、世界樹に仕えていた従者みたいなものというか……。け、決して怪しい者じゃないんだ!君たちの力になりたくて、今こうして姿を出したんだよ!」
「は、はぁ……」
「君たちの事は、世界樹を通じてずっと昔から知っていたんだ。……私の事は、適当にヤドリギとでも呼んでほしいな」
「ヤドリギさん、ですか……?」
「うん。私には特別な名前も何もないからね。世界樹に寄生してしゃべり相手になってただけの存在なんだ」
そう言ってヤドリギは自己紹介をした。そんなヤドリギに対して、エルフィンが疑問を投げかけた。
「ヤドリギはこんなところで何をしてるの?」
「ここは普段から私が過ごしている所なんだ。ここから世界樹の中に入って、世界を見回してるんだよ。……そして、あの人間がどんなあくどい事をしてきたのかも、ここでずっと見てきたんだ」
そう言ってヤドリギは目を伏して俯いた。
そして、少しの沈黙の後、ヤドリギは顔を上げて二人にこう言った。
「私から君たちにお願いがあるんだ。……どうか、君たちの力で、あの人間を止めてくれないかな?」
「と、止める?ど、どうやって止めるんですか?教主様率いる軍隊は、もう既に私たちの力だけでは止める事ができません。何か策があるのですか?」
ネルがヤドリギにたずねる。
「……世界樹の力を……私の持つ力の一部をエルフィン女王、貴方に託すよ。まだ少し早いかもしれないけど……。今はこれしか方法はない」
そう言って、ヤドリギがエルフィンに手を差し出した。
「私の手を取って、エルフィン。私の持つ世界樹の力を、受け取って」
ヤドリギの言葉にエルフィンが頷き、エルフィンがヤドリギの手を握る。次の瞬間、エルフィンは眩い光に包まれた。
☆☆☆☆
「あれ……?ここはどこ……?」
真っ白な空間の中でエルフィンが辺りを見渡す。すべてが空白に包まれた、何もない真っ白な空間だ。
『エルフィン』
突如、どこからかエルフィンの名前を呼ぶ声が聞こえた。
『とうとう貴方にも、女王としての務めを果たす時が来たようね』
「だ、誰なの……?」
エルフィンが声の主にたずねる。しかし、声の主は語り続ける。
『まだ少し早いかもしれないけど、今の貴方には私の力が必要なはず。この世界を守れるだけの……エルダインの力を……』
エルフィンの身体に熱がこもる。暖かく柔らかい、世界樹と妖精の女王としての力が、エルフィンの中に流れ込む。
『いつか貴方が大きくなったときに渡そうと思ってた、私からのプレゼント……。女王としての、エルダインとしての力を、貴方に託します』
エルフィンの身体に世界樹のエネルギーが流れ込んでいく。エルフィンは世界樹の奔流をその身で感じ取り、体が自由になっていくのを感じた。
『行っておいで、エルフィン。私のわがままで招いた災厄を、あなたの手で止めて……。この世界を、エーリアスを救うのです』
☆☆☆☆
「女王様!!!」
「う……。ネル……?」
「女王様……!その姿は……!」
「え……?」
ネルの言葉に釣られてエルフィンが自身の身体を確かめる。今までの姿とは少し違う、わずかに大きくなった自分の姿に、エルフィンは少し驚いた。
「これ……。この感じ、身体が軽く感じるよ!」
エルフィンが宙に飛んで身体を回してみせる。キラキラと輝く装飾が羽のように舞い、黄金の髪と共にエルフィンの周囲を舞う。
「へへっ!すっごく気分が良いよ、ネル!」
そう言って、エルフィンはめいっぱいの笑顔をネルに見せた。
これまでの姿と大きく違う、君子としての女王の姿に、ネルは見とれていた。これが、この姿こそがエルフィンの本来の姿であると、ネルは直感的に感じたのだ。
「女王様……」
真の女王の姿を見たネルが呟く。そんな二人を見て、ヤドリギが諭すように語った。
「……行っておいで、エルフィン。今こそ、偽りの教主を倒して、エーリアスをその手に取り戻すんだ」