燃える妖精王国。戦火に包まれたエルフィンランドは、激しい戦場となっていた。
突如として世界樹教団に牙を剥いたエーリアスの住民たち。教主の率いる世界樹教団は、危機に瀕していた。
逃げ惑う妖精たち。戦禍と混迷に包まれた王国は、世界樹が切られると知り、独自にレジスタンスを組織して、世界樹教団に抵抗する勢力まで現れるまでになっていた。
カルテルの銃火が火を噴く。警備隊の大砲が炸裂する。建物が倒壊し、瓦礫が町を埋め尽くす。魔法の光子弾と銃弾がぶつかり合い、爆発する。平和だったエルフィンランドは見る影もなくし、銃弾と悲鳴の飛び交う肉挽器というべき様相を呈していた。
「進めっ!!!我が妹と世界樹に仇名す世界樹教団を叩き潰すのだ!!!」
褐色の肌をした魔女の女王が叫ぶ。女王の親衛隊がエルフィンランドに侵入し、カルテルの戦闘員たちを次々と焼いていっている。
「どこにいるんだ、エルフィン……!くそっ、教主とフリックルめ……!見つけたらただでは済まさんぞ……!」
魔女の女王、ベリータが歯噛みするように呟く。容赦なく向けられる銃弾の嵐を掻い潜り、妖精王国の奥へと突き進んでいく。
「クリムゾン・レイン!!!」
赤い光子弾が次々とカルテルに向かって放たれる。ベリータの放つ激しい弾幕に、カルテルは僅かながらも、攻撃の手を緩めた。
その隙に、ベリータの背後に控えていた警備隊と魔女の軍団が次々と教主の待つ宮殿の中へと侵入していく。ベリータはその様子を見届けながら、教主がいるであろう宮殿の頂上からそびえる型枠の柱を見上げた。
「必ず捕まえてやる、教主……!」
☆☆☆☆
「あれが見えるか、フリックル」
「ええ。とてもいっぱいね」
眼下に広がる光景を見て教主が呟く。
燃える妖精王国。激しい戦闘。王国の外からは、続々と敵の増援が迫ってきている。教主たちは追い詰められていた。
「妖精たちじゃなくて、エルフに魔女、精霊たちまで私たちを倒そうとしているそうよ。どうするつもりなの?」
「なに、簡単な事さ。全部倒すまでだよ」
「どうやって倒そうっていうのよ?これだけの数、いくら上質な装備があっても、無理があるってものじゃないの?」
「怯えているのか?」
教主がフリックルへと視線を移す。フリックルはいたって落ち着いた様子で、教主を見ている。
「別に怯えてなんかいないわ。ただ、あなたがどうするか気になっただけ」
「そうか。……ところで、君は行かないのか?」
「どこへよ?」
フリックルが聞き返す。そんなフリックルに、教主は自嘲気味に答えた。
「ここまで追い詰められてるんだ。敗北するのは目に見えているというものだ。たとえ私が勝っても、エーリアスに大きな遺恨を残すのは間違いない。君は私と共に、その業を背負う覚悟があるのか?」
教主がフリックルに問いかける。フリックルは静かに教主から視線を外すと、燃える妖精王国へと目を移した。
「当然よ。ここまで来たんだもの。最後まで付き合うわ」
「そうか……。感謝するよ、フリックル」
そう言って、教主は一つの箱を取り出した。
教主が箱を開けると、中から奇妙な装置が姿を現した。それは、さながら腕に装着するアームバンドのような見た目をしている。
「何よそれ?」
「私のいた世界で使っていた携帯端末だよ」
教主が腕に装着して起動すると、古めかしい起動音と共に、液晶に緑色の企業ロゴが表示された。
「まだ動くようだな」
そう言いながら携帯端末を操作する教主を、フリックルが不思議そうに眺めている。そうして教主は一通り端末を操作してから、どこからともなく巨大なヒト型ロボットのような巨大なアーマーを召喚した。
「あなた……?」
「X-01パワーアーマープロトタイプ……。まさか、この世界でこいつを使うことになろうとはな」
教主がそう呼ぶ巨大なアーマー。かつて、教主のいた世界の秘密結社によって設計された、戦闘マシンの名前だ。その装甲はさながら歩く戦車とも呼ばれ、核燃料電池によって稼働するそれは、敵にとっては畏怖の存在であったともいわれている。
教主がパワーアーマーの背後にあるバルブのようなものを回すと、背後の搭乗口が開かれた。教主は慣れた様子でそれに乗り込むと、そのマシンと一体となった。
「ふむ……。懐かしい感覚だ。よくこいつを着て、アパラチアを荒らし回ったものだよ。殺して、殺して、殺して、奪って、また殺して……」
そう言う教主の語り口は、どこか無機質で冷徹な感覚を覚える。
生きる為にヒトを殺し、略奪の為にヒトを殺す。教主のいた世界での理が、このパワーアーマーに含まれていた。
「私のいたアパラチアでは、皆が生きる為に必死に戦っていたものだよ。飢え、渇き、死、病気、放射能、略奪、アボミネーション……。この世界、エーリアスではそのどれもとも無縁だったな。だが、私が教主となってこの世界に召喚された事で、それも変える事ができるようになった。今少し、それを教えてやるとしよう」
そう言って、教主は巨大なガトリングレーザーを取り出し、城下町へと降りて行った。