ネルは、真っ先に戦場に飛び出したエルフィンの後を追っていた。
地下を飛び出し、宮殿を駆け抜け、正門から地上へと飛び出る。
エルフィンの身を案じるネルは、その光景を見て、血の気が引いていくのを感じた。
「女王様……!」
地上は地獄の様相を呈していた。王国を包み込む戦火と銃弾、負傷して倒れる妖精とエルフたちを見て、ネル正気を少しずつ失っていった。
「女王様っ!!!どこにいるんですか!!?」
瓦礫と炎の中をネルが進んでいく。地獄へと姿を変えた妖精王国を、その二本の脚で、エルフィンを探すために進んでいく。
熱波がネルを襲う。灰燼が空へと巻き上がる。怒号と悲鳴がネルの正気を削り取る。
戦場の中、ネルが突如足を止めた。目の前に広がる光景に、ネルは言葉を失った。
前を見る。棍棒で警備隊の兵士を殴るカルテルの兵士の姿がある。その後ろから、別の兵士が岩を振りかざして襲い掛かる。
右を見る。警備隊の兵士が銃剣でカルテルの兵士を突き刺している。その背後で、拳と棍棒で乱闘する兵士たちの姿がある。
左を見る。馬乗りになって執拗に殴打する警備隊の姿がある。
凄惨な戦場の光景に、ネルはしばらく茫然とするだけだった。これが、教主の望んだ世界なのかと。これが、妖精王国の姿なのかと、立ち尽くした。
「ネルーー!!!」
「っ……!!!女王様!!!」
遠くからエルフィンの声が聞こえた気がした。ネルは急いで声のする方へと走っていった。
瓦礫を超え、倒れた妖精たちを乗り越え、必死になって声のする方へと走る。そして、それを見つけた。
何かを必死に殴っているエルフの姿がある。ネルはそれを見て、エルフィンがエルフにやられているのだと直感した。
「お前……!女王様から離れろォォォォォッ!!!」
斧を手にして、エルフの首筋へと振り下ろす。
ぐしゃりと鈍い感覚がネルの腕を伝う。肉を断つ感触が嫌に生々しい。
僅かな悲鳴を残して、エルフは倒れた。そして、ネルは"ソレ"へと手を伸ばした。
「女王様……!」
「ぁっ……ぅっ……」
「……………」
その妖精はエルフィンではなかった。ネルは幻聴を聞いたのだ。エルフィンの姿を求める必死な思いが、ネルに残酷な幻覚を見せてきた。
ネルは正気を失いつつあった。凄惨な殺し合いを目撃し、エルフィンの幻聴を聞いて、エルフに殴られるエルフィンの幻覚を見た。ネルは既に限界だった。
そんな時、ネルの上空で何かがぶつかる音がした。
音のする方へとネルが首を上げる。ネルはそれを見て、言葉を失った。
「ジョアン……姉妹……?」
あの時見た、堕天使のような姿をしたジョアンがエルフィンの首に手をかけている光景がネルの目に映った。
幻覚などではない。王国の遥か上空、赤い炎に照らされた二人の姿がはっきりと映っている。
冷酷にエルフィンを見つめ、首を絞めるジョアン。首を絞められ、苦しみながら空気を求めて、大きく口を開くエルフィンの姿。
エルフィンがジョアンに苦しめられている。一度ならぬ二度までも、ジョアンがエルフィンに手を出した。エーリアスに害を成す教主の側に付き、エルフィンランドを、世界樹を、エーリアスを焼こうとしている。
そのようなジョアンを見て、ネルの中で何かが弾けた。
「ジョアアアアアアアアアアアンンンッッッ!!!!」
「!? 司祭長……!?」
ネルが覚醒した。白銀のアーマーと戦斧を携えたバトルシスターへと姿を変えたネルが、自身の身長を上回るほどの巨大なハルバードを手に、ジョアン目がけて、大突進を仕掛けた。
「なっ……!?」
「女王様を離せええええええええええええええッッッ!!!!」
ブォン!!!
勢いよく振り下ろされた斧がジョアンの腕を掠める。
「あのエネルギーは……世界樹の力……!?だけど、なんだ……!私の感じた力とはまるで違う……!」
未知の力を目にしたジョアンが恐怖と混乱を覚える。ネルの纏う白銀の鎧と戦斧の放つ眩い煌きは、ジョアンに自身の敗北を悟らせるのに十分だった。
エルフィンと世界樹、勇気と怒りに覚醒したネルは、自らの手で新たな力を手に入れたのだ。ジョアンの敗北は必至だった。
「絶対に許さない……!覚悟しなさい、ジョアンッ!!!」