唸る砲火、交わる剣戟。ジョアンとネルは死闘を重ねていた。
青い波動と赤い光線が、妖精王国の空間を激しく震わせる。二人のエルダインによる本気の殴り合いは、エーリアス全体を大きく揺さぶり、二人の戦いの激しさを物語っていた。
「消えろッ!ネルッ!!!」
赤い光線の弾幕がネルを襲う。しかし、ネルは臆することなく、斧を構えてそれを見上げている。
「こんなもの……だァッ!!!!」
一閃の薙ぎ払い。ネルはその衝撃波で、ジョアンの攻撃をいなした。
「なにっ……!?」
勢いよく飛び上がったネルがジョアンをその射程に収める。ネルは自身に有利なフィールドにジョアンを叩き落とすために、斧を大きく振り上げた。
「っ……!!」
斧でジョアンの身体を絡め捕ったネルは、そのまま地面へ向かって急降下し、ジョアンを地面へと勢い良く叩きつけた。
「ぐぁっ……!」
地面に叩きつけられたジョアンに容赦なく斧が振り下ろされる。的確に急所目がけて振り下ろされるそれを、ジョアンは必死に身をねじって回避していく。
「ズァッ!!!」
ブォンッ!!!
「ぐっ……!」
斧の剣圧がジョアンの髪を掠め、白い髪が宙を舞う。
絶体絶命。ジョアンは自身の不利を悟っていた。世界樹と女王に共鳴し、エルダインへと覚醒したネルは、ジョアンには止められない。
しかし、決して立ち止まってはならない。ここで立ち止まっては、ジョアンは壊れてしまう。
立ち止まってはならない。立ち止まれない。盲目の信仰を持つジョアンは、立ち止まることができない。
ならばどうすればいいか?ジョアンは戦う事しか出来ないのだ。壊れた信仰の為に、狂ってしまった教主の為に、自らを苦しめる苦悶の信仰の為に、その力を振るうのだ。
「ダァッ!!!」
白銀の戦斧が乱舞する。ネルの一切の隙を見せない華麗な斧裁きに、ジョアンは反撃ができないでいる。
何故ネルはあそこまで戦えるのか?祈りと称して昼寝をするだけの司祭のどこに、巨大なハルバードを振るう力が秘められているのか?これが、女王の為に戦うエルダインの力だとでもいうのか?
ジョアンには分からなかった。いいや、もしかしたら、分かっていたのかもしれない。
自らの固い信念のために戦う司祭と、誤った信念の為に戦う司祭。
実力は互角。なれば、勝負は既に決していたようなものだった。
「ジョアンッ!!!」
ネルが一歩、ジョアンへ向けて足を踏み込む。
一歩、力強く大地を蹴り、ジョアンへと距離を詰めていく。
「っ……!!!」
急いでジョアンが反撃の構えを取る。今ここで、反撃を繰り出さなければ、ネルの刃に倒れることになる。
ネルの刃が振り下ろされる。ジョアンは、それを見ている事しか出来なかった。
☆☆☆☆
ネルが刃を振り下ろす時、二人の頭にはある光景が浮かんでいた。
エルフィンの笑顔、教主と過ごした平和な時間。
教主は自分たちを偽っていたのかもしれない。しかし、その時間は確かにかけがえのないものであり、記憶と思い出の中に眠る愛しいひと時であった。
喜び、後悔、栄光、悔悟、祝福、自責。
二人の間に、様々な感情が呼び起こされる。
教主と私たちはどこで道を違えたのだろう?教主は初めから私たちとは違うところにいたのだろうか?
二人の魂と精神が交わる。ネルとジョアンは一瞬の間に巡る走馬灯を見ながら、目に涙を浮かべた。
視界が開けてくる。目の前に映るのは互いの顔。怒りと仲間を思うネルの顔。自らの誤った信仰に怯える少女の顔。
涙が溢れてくる。本当はお互いこんな事はしたくないのに。目指す未来は同じでも、道を違えるだけで、なぜ互いに傷つけあわなくてはならないのか。
ネルの涙が宙へと浮かぶ。振り下ろされる斧がジョアンの身体を捕らえる。
ジョアンは、自らの信念が負けた事を悟った。
☆☆☆☆
ジョアンは反撃できなかった。一瞬の迷いが反撃の手を緩めた。
自らの身体に傷を負って立ち尽くすジョアン。目の前には、振り下ろした斧を手に固まっているネルの姿がある。
「…………」
二人の間に沈黙が流れる。やがて、その沈黙を破るように、ジョアンが膝をついた。
「私の勝ちです。ジョアン」
「……そうだな。そして、私の敗北だ、司祭長」
ジョアンの目がゆっくりと落ちていき、崩れ落ちるように倒れていく。
「ジョアン……!」
ネルは急いで斧を投げ捨て、ジョアンの身体を支えた。
「ジョアン、しっかりしてください……!」
自らの身体が血で濡れる事も厭わずに、ネルがジョアンの身体を揺さぶって声をかける。
「司祭長……。くっ……!司祭長……!教主様を……止めてくれ……!」
目からポロポロと涙を流しながらジョアンが哀願する。そのようなジョアンの姿を見たネルも釣られて涙を流し、ジョアンを抱きしめた。
「ええ、必ず……!だから、安心してください、ジョアン……!」
その時、そばで倒れていたエルフィンが目を覚ました。
「う、うぅぅ……」
「女王様……!」
「ネル……?」
「女王様っ……!良かった、目を覚ましたんですね……!」
ネルがジョアンを静かに横にして、エルフィンに抱きつく。エルフィンは、今のこの状況をいまいちよく理解できていないようだった。
「ネル……?どういうことなの?ネルが、ジョアンを倒したの……?」
「ええ、女王様……!私が……ジョアンが……!」
そう言って、ネルは泣き出した。エルフィンは、今の状況を理解できないながらも、ジョアンに目をやって何かを悟り、ネルを抱きしめた。
戦いはまだ始まったばかりだ。教主の野望を倒す戦いが、幕を開ける。。