「ジョアンが敗れたか……。まさか、あの二人がエルダインに覚醒するとはな」
「厄介な事になったわね」
「本当だよ。まったく、バカバカしい」
教主が腕を組みながら城下の街を見下ろす。
教主は分かっていた。あの二人であれば、教主のいる逆さに伸びた枝の元へ必ずやってくると。
「しかし、アイツも役に立たないものだ。一度は我々を追い詰めた奴だ。少しは足止めできると思ったんだがな」
「買いかぶりすぎよ。司祭長と女王を見る目で分かってたでしょう?初めから本気でやり合うつもりなんてなかったはずよ」
「それもそうか。君の言う通りだな、フリックル」
そう言って、教主は無線機を取り出した。
『教主から上級戦闘員へ。今すぐ城門の守りを捨てて宮殿の中庭へ来るんだ。女王と司祭長が私の元へ迫ろうとしている。全力で守備しろ』
レヴィやスノーキーたちに向けて放った指令を下して、教主は再び城下を見下ろした。
「さて、どれくらい持つかな?」
瞳の裏に不気味な光を灯して、教主はうっすらと笑った。
☆☆☆☆
「スノーキー、ニコ、タイダー。準備は良い?」
「ああ、いつでもやれる」
「アタシも薬室に弾は装填済みだ。予備弾倉もいっぱいある」
「私も大丈夫です!配下の戦闘員も、各自配置完了してます!」
「うん、よし。……それと、追加の指示ももらっているから言っておくね」
「なんだ?」
レヴィが教主から追加の指示を貰っているという。スノーキーはレヴィにその内容をたずねた。
「……エルフィン。妖精の女王は教主様の所に通せって。その他は絶対に通すなって命令だよ」
「……? 妙だな。なぜ妖精の女王だけは通さないといけないんだ?ドンが自ら妖精の女王とサシでやり合おうっていうのか?」
「分かんない。けど、そういう命令が来てるから、妖精の女王だけは通して」
「……分かった」
そう告げて、四人は二人が来るであろう門へと向き直った。
勢いよく開かれる扉。エルフィンとネルが、中庭へ入ってきた。
「あなたたち……!おどきなさいっ!!!教主様の所へ通しなさいっ!!!」
「いいよ、行きな」
「えっ……?」
思わぬ言葉に二人はキョトンと固まってしまった。そして、ほどなくしてネルはたずねた。
「本当に行ってもいいのですか……?」
ネルの言葉にレヴィが顎で指示する。行けという事を理解した二人は、四人の間を抜けて走り出した。
エルフィンがレヴィとスノーキーの間を抜けて走っていく。そして、ネルが続こうとした時、スノーキーがネルの腕をつかんだ。
「行っていいのは女王だけだ。お前はここでくたばりなっ!!」
「きゃあっ!?」
スノーキーがネルの腕を引っ張り、投げ飛ばした。
「ネルっ!!!」
エルフィンが振り返って足を止める。
「せっかく通したのに、私たちとやり合おうっていうの?教主様をとっちめるチャンスをあげたっていうのに……。早く行った方が良いと思うんだけどなぁ……」
「ぐっ……!ネル……!」
もどかしそうにエルフィンがネルを見る。早くネルを助けて一緒に行きたい。けど、早く教主を止めなくちゃいけない。エルフィンは、二つの思いに挟まれて動けなくなった。
その時、思わぬ援軍がエルフィンたちの元へ駆けつけてきた。
「女王様っ!!」
「っ!! リニュア……!」
時を止めてネルを救い出し、リニュアは四人と相まみえた。
「ここは私が引き受けます!!女王様は教主様の所へ!!」
「リニュア……。ありがとう……!」
「うん……!必ず追いつきます……!任せてください!」
そういうリニュアの言葉を聞いて、エルフィンは教主の下へと駆けて行った。
「リニュア……。あんまり私たちを舐めない事だね。私たちだって、ただで負ける訳にはいかないんだから……!」
そう言って、四人は一斉に二人に向かって発砲した。
「グレネード!!!」
レヴィがそう叫んで、手榴弾を投げた。
手榴弾は正確に二人の元へ落ち、二人をキルゾーンへ捉える。
「こ、これは……!」
「ネルさんっ!!!」
リニュアがネルの腕を引っ張り、全力で離脱する。少しの間時を止めたこともあって、なんとか爆発の殺傷範囲から逃れる事が出来た。
「リ、リニュアさん、助かりました……!」
「良かったです、司祭長様……!けど、やっぱりあいつら、厄介な武器を使いますね!」
「そうですね……。ただでは通さないようですし……。けど、力づくでも押し通すまでですっ!!!」
ネルがハルバードを構えて突進する。しかし、周りに布陣した戦闘員の弾幕が、ネルの動きを阻害した。
「くっ……!敵の数が多すぎて思うように動けない……!リニュアさん!!!」
「任せてください!!」
リニュアがフィールドを展開して敵弾の動きを止める。飛翔する弾の時間進行を遅らせる事で無効化し、ネルが有利に動けるようにリニュアがサポートする。
「厄介な能力だね……!こうなったら……!」
銃弾の中を掻い潜り、レヴィがネルへと突進する。それを認めたネルが斧を構えて、レヴィの攻撃へと備えた。
「なっ!?」
レヴィはそのままネルのわきを通り抜け、後方に控えるリニュアへと銃口を向けた。
ダダダダッ!!
「ぐっ……!?」
銃弾を浴びて負傷したリニュアが倒れる。しかし、レヴィもまた弾切れとなった事で攻撃の手を止めざるを得なくなった。
「チッ!こんな時に……!」
AKが弾切れを起こして、レヴィが舌打ちをした。
リロードする間が惜しいのか、レヴィはそのままリニュアに突撃して、銃で殴りにかかった。
「っ……!」
迫りくるレヴィに気付いたリニュアが体を起こして、痛む身体に鞭を打ってレヴィの攻撃を回避した。
身体に埋まった銃弾がリニュアの身体を傷つけるが、今はそんな事を気にしている場合ではない。今ここでレヴィの攻撃をかわさなければ、よりひどい目に遭ってしまう。リニュアは痛みを無視して、反撃の機会を伺った。
「リニュアさんっ!!!」
ネルがリニュアの助太刀に入る。しかし、それはスノーキーによって阻まれた。
「お前の相手は私だッ!!」
「ぐっ……!スノーキー……!」
ゴロツキの魔女、スノーキーがネルの前に立ちはだかる。スノーキーは指を鳴らしてネルを威圧すると、有無も言わさず殴りかかった。
「でやァっ!!」
宮殿の中庭で大規模な乱闘が始まった。
「おどきなさい、スノーキーさん!あなたでは私に敵いませんっ!!!」
「はっ!それはどうかな!?例え勝てなくても、ドンの為に時間を稼げればいいのさ!」
ハルバードと拳が交じり合う。その奥ではレヴィとリニュアが激しくぶつかり合い、周囲からはAKの銃口が火を噴いている。
教主の為に戦う者。世界を守る為に戦う者。そして、自らの野望の為に世を乱す者。
追い詰められていく世界樹教団。ネルたちは着実に教主を追い詰めていっている。
果たしてネルとエルフィンたちは教主を止める事ができるのだろうか?戦いは続く。