「ぐぅ……!」
「はっ!大したことないなっ、妖精の司祭!」
ネルは追い込まれていた。エルダインとして覚醒したネルだったが、その力に慣れていないのか、スノーキー一人に苦戦を強いられていた。
自在に距離を操り、長い手足を巧みに使った武術でネルを追い詰めていくスノーキー。かつて魔女の王国で、喧嘩と恐喝で裏社会を支配したスノーキーは、エルダイン相手にも優位に戦いを進めていた。
しかし、そんな状況も長くは続かなかった。魔女と妖精の連合軍が城門を突破し、中庭に流れ込んできたのだ。
「警備隊ッ!!散開して敵を包囲しろっ!!!司祭長たちを救護するんだっ!!!」
「はいっ!!」
警備隊たちが散開し、教団の兵士たちとぶつかっていく。魔女たちも魔法でネルと警備隊たちを支援し、兵士たちを次々と追い詰めていく。
「ポーランさん、ベリータ様っ……!」
「司祭長っ!周りの兵士たちは私たちに任せろっ!!お前はその魔女との戦いに集中するんだっ!!!」
「はいっ……!」
ネルの目つきが変わり、スノーキーの目の奥を睨んだ。スノーキーは突如変わったネルのオーラに足がすくみ、腰が引けるような感覚を覚えた。
「チィッ……!」
しかし、スノーキーは構わず突撃し、ネルを自らのキルゾーンへと収めていく。
ネルは技術においてスノーキーに敵う事はないと分かっていた。しかし、自分たちには仲間がいる。それがネルに勇気を与えてくれる。
怯む事などない。立ち向かえば良い。それが状況を良くしてくれるのだから。
「だァッ!!!」
「ぐあっ!?」
重い一撃がスノーキーに命中した。たまらずスノーキーの身体が宙へ飛び、大きく吹き飛ばされてしまった。
すかさず追撃して、ネルは跳び上がった。大きく斧を構え、勢いのままにスノーキーへ目がけて斧を振り下ろそうとする。
「まずいっ……!」
ドゴォッ!!!
勢いよく地面へと振り下ろされた斧が地面へ大きく穴を穿つ。スノーキーは、その威力を見て恐怖を感じた。
舌打ちして、スノーキーが態勢を整える。その時、ニコが突如声をあげた。
「スノーキー、うえっ!!」
「!?」
ニコの声に釣られて上を見るスノーキー。それを見た途端、喧しいプロペラ音がスノーキーの耳を襲った。
「ド、ドローン!?」
『やぁやぁ、遅れてすまないね、ネル司祭長』
ドローンの拡声器から間の抜けたエレナ市長の声が聞こえた。モナティアムから派遣された、対カルテル用に新造された鎮圧用のドローンの大軍がやって来たのだ。
「あ、あれは……!」
『ネル司祭長。遅れてすまない。今、我々のドローンと鎮圧班たちがそちらに向かっている。後の事はあたしたちに任せてくれ』
そして、空を覆う程の無数のドローンから、銃弾の嵐がスノーキーたちを襲った。
「うわああああああああああっ!!?」
全身を襲う激痛に、たまらずスノーキーが倒れた。いくら制圧用のゴム弾ともいえど、無数の弾丸を浴びれば耐えるのも難しいというものだ。
「ぐっ……。ぐぅぅ……!」
呻くスノーキーを見て、ネルがハッとしたようにリニュアへと顔を向けた。
激しく動き回って距離を詰め、レヴィが確実にリニュアを追い詰めていっている。ネルは急いで助けるために、リニュアに向けて足を踏み出した。
ダダダダダッ!
「させませんよ!司祭長!」
「タイダー……!ニコ……!」
AKを乱射してネルの動きを封じる二人のエルフ。しかし、二人は相手が誰なのかを、まるで理解していなかった。
「だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
斧を大きく薙いで、魔法の衝撃波を放つ。二人はたまらず吹き飛ばされ、そのまま壁に叩きつけられた。
「リニュアさんっ!!!」
「ネルさん……!」
二人の戦いにネルが加勢して、協力してレヴィに立ち向かう。
エルダインと化したネルの参戦に、いくらか戦いを有利に進めていたレヴィの顔にも焦りの色が見え始めてくる。
ダガーを構えて二人を睨む。リニュアだけならなんとかなったかもしれないが、二人を同時に相手にするのはレヴィにとっても厄介な事だった。
「ちぃっ……!ただでさえ厄介なエルフだってのに司祭長まで……!」
レヴィの瞳に光が灯る。
「シャッ!!!」
肉体の限界を超えた剣戟の嵐が二人に襲い掛かる。肉体強化魔法と知覚強化魔法で極限にまで強化されたレヴィの攻撃に、二人は攻勢に転じきれず、防戦に回るだけだ。
「私の時間操作がまるで効きません……!知覚強化と肉体強化で無理やり時間に追いついているせいで、これでは……!」
「ならば力で無理やり叩き伏せるまでですっ!!!」
ネルのハルバードがレヴィの脳天目がけて勢いよく振り下ろされる。膨大な魔力を帯びたエルダインの力が、ただの見習い魔女へと襲い掛かる。
しかし、レヴィはまっすぐそれを見つめると、真っ正面からネルの攻撃を防ぎ切った。
「なっ……!?」
「ぬぅっ……!やあぁあああああああああああああっ!!!」
ギィンッ!!!
「だァッ!!!」
レヴィの猛攻がネルを襲う。リニュアも必死に応戦するが、レヴィの極限にまで強化された知覚能力の前では歯が立たず、攻めきれずにいる。
めちゃくちゃにに振り回される刀とダガー。リニュアの時間操作にすら無理やり追いつくほどの暴風ともいえる攻撃に、ネルはこのまま負けるのかと焦りを感じた。
しかし、そんなレヴィにも限界が来た。限界まで酷使された肉体が悲鳴をあげ始めたのだ。
「はぁ……!はぁ……!身体が……痛い……!」
手足が震え、ダガーを持つ手に力が入らなくなってくる。ネルとリニュアは突如止んだレヴィの攻撃に、何が起きたのか分からず様子を見ている。
やがて、レヴィは膝をつき、そのまま倒れてしまった。
「くぅ……!身体が……動かない……!動いて……動いてよぉ……!」
涙を流して懸命に立ち上がろうとしているが、レヴィの手足はいう事を聞かず、立ち上がれないでいる。
二人は黙ってその様子を静かに見守っている。だが、教主を守る為に懸命に足掻こうとしているその姿は痛々しく、あまり見ていられなかった。
やがて、どちらからともなく足を踏み出した。二人はレヴィの横を通り抜け、中庭を過ぎていった。
「ぐっ……!くそぉ……!くそぉッ……!!!」
悔しそうに嗚咽するレヴィの泣き声が中庭に響く。しかし、それも戦いの喧騒の中に空しく消えていった。
☆☆☆☆
妖精王国の頂上、世界樹の大木が伸びる宮殿の頂に二人は立っていた。
互いに睨み合う二人。エルフィンと教主。燃える妖精王国の熱気と、二人の弾けんばかりの闘志が辺りを支配している。
「待ってたよ、エルフィン。……長かったよ、本当に長かった。この時をどれだけ待ちわびた事か……。この昂る気持ちが君に分かるだろうか?エルフィン……」
「教主っ……!妖精王国を……エーリアスをめちゃくちゃにしてっ!!!教主の身勝手なわがままのせいで、どれだけの住民たちが悲しんだと思ってるのっ!!?」
エルフィンが教主に向かって心の底から叫ぶ。しかし、そんなエルフィンの叫びも、教主の心にはまるで届かなかった。
声色一つ変えずに教主は答える。
「そんな事、私の知った話ではない。みんなの事を考えてたら、こんな事はしてないさ、エルフィン」
鼻で笑うようにして教主が語る。エルフィンは、冷淡にも答える教主の言葉に、奥歯を噛みしめるように教主を睨んだ。
「私は私のやりたい事をする。その結果、私に付いてくる者が現れる。私が酒を造り、皆がその利益にあやかろうとする。そして、私はその恵みを与える。それだけの話さ」
「教主っ……!」
拳を握り締め、大地を踏みしめる脚に力が入る。教主の目から見ても、エルフィンの纏うオーラが膨張しているのが分かる。エルフィンの怒りは頂点に達していた。
「絶対に許さない……!歯を食いしばれッ!!!教主ッ!!!」