二人の拳がぶつかり合う音が妖精王国にこだまする。まるで火山の噴火とでも言わんばかりの激しい音は、二人の戦いの激しさを物語っている。
エルダインに覚醒したエルフィンと、アパラチアからの刺客である教主。世界樹の加護を受けた真の女王と、FEVと放射能に汚染された人間。二つの異なる世界の主人公たちによる大決戦が、幕を切ったのだ。
「やぁあああああっ!!!!」
「ぐっ……!!」
ドォンッ!!!
エルフィンの重い一撃が教主のパワーアーマーを揺らす。アーマーだけでは受け止めきれない重い衝撃が、教主の身体にダイレクトにダメージを与える。
「そう来なくっちゃな……!」
教主がガトリングレーサーを片手で構え、エルフィンに向けて乱射する。一片のためらいもないレーザーの嵐がエルフィンを襲う。
「ぐぅっ……!こんなもの……!」
バリアを張って高速で回避し、ガトリングレーザーの射線から逃れるエルフィン。しかし、教主も負けじと照準を捉え、消し炭にせんと銃口を向ける。
不規則に軌道を変えては回避起動を取るエルフィンに教主がいら立ちを覚える。高速に動き回っては間合いを取り、攻撃をかく乱する様子は、さながら象の周りを飛び回る羽虫を叩き落とすようなものだった。
「ちょこざいな……」
右腕からアームブレードが飛び出し、教主は接近戦を仕掛けるために身を大きく乗り出した。
鈍重な見た目からは想像もできない程の機敏な動きで、教主はエルフィンとの距離を一気に詰めた。
「なっ……!?」
人間離れした怪力と膂力から繰り出される機動力は驚異的なものだった。エルフィンもその鈍重な図体に油断したのか、教主の思わぬ行動に見とれるだけだった。
右腕に光るアームブレードがエルフィンの顔面を捉える。炎に照らされた切っ先がキラリと光り、今にもエルフィンの喉を突き刺そうと構えている。
エルフィンは自身に向けられた刃が何を意味しているか理解していた。しかし、どうすればいいか分からなかった。あまりにも突然な出来事に理解が追い付かないのだ。
身体が動かない。このままではあのアームブレードの餌食になってしまう。
ゆっくりと進む時間の中、エルフィンは次の一手を打つための切り札を懸命に考えた。どうにかして身体をよじって、あの刃をかわさなければならない。
硬直する身体に魔力を込めて無理やり身体を柔らかくする。そうして刃が突き出されるその瞬間、エルフィンの身体が自由になった。
「くっ……!」
シャッ!!!
僅かな一瞬の間、エルフィンは体を横に反らして教主のアームブレードをかわした。
エルフィンの前に教主の大きな図体が広がっている。またとない反撃の機会を逃すまいと、エルフィンの拳が教主を捉えた。
ガァンッ!ドガッ!!!
「ぐぬっ……!」
胴へ、腕へとエルフィンの拳が教主を殴打する。小さな身体からは想像もできない程のパワーに、教主も思わず苦悶の声を漏らす。
「やっ!!ダァッ!!だああああああああああああああっっ!!!!」
ズガァンッッ!!!!
会心の一撃が教主の身体を吹き飛ばした。
教主の身体が宙を飛び、火花を散らして地面へと投げ捨てられる。エルフィンは確かに感じた手ごたえを噛みしめながら、その様子を見届けた。
「はぁ……。はぁ……」
肩で大きく息を切らせるエルフィン。汗と熱気に髪を乱す様はエルフィンに疲労の印象を大きく与える。
しかし、そんなエルフィンを感じ取ったのか、教主は何事もないように立ち上がった。
「っ……!!」
教主がヘルメットを外してエルフィンを睨む。無機質なツインアイピースに隠れていた教主の瞳が露わになり、エルフィンに威圧感を与える。
「もう息が上がっているのか。君もまだまだだな」
「くっ……!」
獣のように荒々しく呼吸するエルフィンと、一切の呼吸の乱れを見せない教主。パワーアーマーの動力に補助されてるとはいえ、教主との実力の差を見せられ、エルフィンも若干の焦りを感じていた。
そんなエルフィンを見て、教主は嘲るように嗤い、エルフィンを挑発した。
「エルダインに覚醒した君は、少しは骨のある相手と思っていたのだが、少し買いかぶりすぎたようだな……。その程度で音を上げては、私は倒せんぞ?」
「どういう事……!?そんなものを装備して、調子に乗ってるの!?」
「はっ!そう思うか?エルフィン……。君が相手にしているのは、ただの人間などではない……。私は既に人間ではなくなっているのだよ、エルフィン」
教主の目が青く光る。ほのかに周囲の空気がピリピリと張りつめ、肌を刺すような不気味な錯覚を覚える。エルフィンは、教主から感じるただならない雰囲気に、身体を強張らせた。
「私は、2119年のアパラチアからやって来た……。秩序も何もない、死と灰に塗れた汚い世界だよ……。そんな世界で私は、大量の放射能を浴び、致死量の
教主の腕から電流が迸り、エルフィンの近くに着弾した。
「っ……!!!」
「私の身体は常に痛みに曝され、尽きる事のない興奮に曝されている。手足が欠けては再生し、臓器は放射性同位体に置き換えられ、眼は荒鷲のように全てを見る事ができるようになった。捻じれた筋肉のせいで細かな作業ができなくなったというのに、司祭長の奴に修養録を書かされるようなったのは、私にとっては痛い事だったなぁ……」
そう言って教主は歩き出し、誰ともなく独り言のように語っている。
エルフィンは教主の言う事が理解できなかった。放射能のせいで身体が変になったと言っているのだろうが、エルフィンには難しかった。ただ、教主が今見せた電撃のように、人間には扱えない力が仕えるようになったのだと、僅かに理解はできた。
「……それで、今から本気でやろうっていうの?」
「ああ、そのつもりだよ、エルフィン」
教主がエルフィンに目をやり、どこからともなく光る瓶を取り出した。
「それって……」
「エーダルシャイン……。私が造った最高傑作だよ」
「……やっぱり、それも教主が作ったものだったのね……!この人でなしっ!!!よりによって、そんなものに世界樹の名前を付けるだなんてっ!!!」
教主はエルフィンの言葉に鼻で笑い、封を切ってそれを一気に飲み干した。
ビリっとした放射線が全身に染みわたり、全身に散らばったFEVと結びついていく。放射線がDNAを傷つけバラバラにして、FEVが新たな情報を書き込んでいく。そして、教主の身体はまた新たに変異し、人間ではない何かに近付いていく。
「ぐっ……!ぬぅ……!ぐおおおおおおおおおっっ……!!!」
「きょ、教主……?」
教主が膝をつき、全身を震わせて呻き始めた。世界樹の名を冠する放射性飲料を摂取した事で、教主はパワーアーマーの下で新たな変化を始めたのだ。
「ゴホッ!!ガァ……!」
口から血を吐き、不気味に全身を痙攣させる教主。そして、みるみるうちに身体は変化していき、やがて、教主は新たなミュータントへと変貌した。
「教主……」
全身の痙攣が治まり、教主の身体の変化が止まった。
不気味な静寂。周囲の音が止み、風ですら彼に怯えているようにも感じる。
そして、教主はゆっくりと立ち上がり、口元の血を拭って、ギロリとエルフィンを睨んだ。
「っ……!!!」
エルフィンの全身に恐怖が走る。アボミネーション……真のミュータントと化した教主は静かにヘルメットを被って、低い声で呟いた。
「さぁ……始めようか」