桃色の旋風が宙を舞う。緑色の稲妻が天を焦がす。
妖精王国の頂点に立つエルダインと、エーリアスを食らうアボミネーションの拳がぶつかり合い、エーリアスを激しく揺らす。
エーリアスの運命を決める大決戦。エーリアスの守護者エルフィンと、異界から訪れた偽りの教主との最後の戦いが幕を切った。
「くっ……!やぁァッ!!!」
「フンッ!!ズァッ!!!」
拳と拳が交ざり合い、鋼鉄と魔法が火花を散らせる。決して譲れないお互いの思いが拳を通じて激しくぶつかり合う。
エーリアスを守る為。7つの種族が共に協和する世界の為。そして、誤った野心に支配された教主を助ける為に、エルフィンはその力を振るう。
「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!やあああああああああああああああッッ!!!!」
瓦礫や灰燼を巻き上げながら、エルフィンが巨大なエネルギー波を放つ。世界樹と繋がった圧倒的なエネルギーの塊は、いくら異世界のパワーアーマーであろうとも、一たびくらえばただでは済まされない。
「ぐっ……!ぬぅ……!」
桃色の旋風が緑褐色の放射能を押し退け、教主を呑み込む。迸る魔力の奔流はエーリアスの抵抗の証でもあり、教主の放つ禍々しい放射能を浄化するようでもあった。
しかし、教主は倒れない。放射能から授かった人ならざる力は、教主を異能生命体へと押し上げていた。
「ズァァァアアアァァァッッッ!!!!」
教主がエルフィンのエネルギー波を破る。そして、型枠の方へと身体を向けると、自らの手で型枠の柱を打ち壊した。
「もはやコレは必要ないッ!コイツを使って、君を倒してくれよう、エルフィンッ!!」
崩れた柱から鉄筋を取り出して引きちぎり、鋭い槍へと変えた。
鉄筋を片手にエルフィンへと襲い掛かり、乱暴に振り回す。鋭く空気を裂き、その音がエルフィンにプレッシャーを与える。
教主が本気でエルフィンを週末農場へ送ろうとしている。空を切る鉄筋の音を聞きながら、エルフィンは頭の隅でそんな事を考えた。
「フンッ!!」
地面に振り下ろされた鉄筋がぐしゃりとひしゃげた。キノコのように膨らんだ傘状の鉄筋を見て、エルフィンが顔を歪ませる。
「はァッ!!!」
瞬間、教主は鉄筋に稲妻を纏わせ、ジャベリンのようにエルフィンに向けて投げ飛ばした。
すかさずエルフィンは教主の攻撃をかわし、両手に魔力を纏わせ、教主に突撃した。
ズンッ!
二人の身体がぶつかり合う。力と力が衝突して取っ組み合い、二人の戦いは膠着した。
「どうして……。どうしてそんな姿になってまで戦うの……!?教団も、教主もこんなにボロボロになってるっていうのに……!エーリアスのみんなが教主の事を止めようと戦ってるんだよ!?なのに、どうして……!」
「もはやそれしか道が残されていないのだよ、エルフィン……!私はもう止まることができない……!止まってしまっては、そこでおしまいなのだからなッ!!」
教主がエルフィンの腕を振り払い、エルフィンを上空へ打ち飛ばした。
「ぎゃあっ!!!」
すかさず教主は追撃に入り、エルフィンを宮殿の中へと撃ち落とした。
宮殿の天井を突き破り、瓦礫の中へとエルフィンが閉じ込められる。
そんなエルフィンへと目がけて、稲妻を拳に纏わせた教主が遠くから見下ろしている。瓦礫の中で身動きの取れないエルフィンに、教主の必殺の一撃が叩き込もうと力を込める。
宮殿の天井から跳び上がり、エルフィンへ目がけて、拳を振り上げ急降下する教主。エルフィンは、絶体絶命のピンチに陥っていた。
しかし、思わぬ刺客の登場により、教主の攻撃は阻まれた。
「ぐおっ!?」
突如入った横槍に、教主の身体が宮殿の廊下へと吹き飛ばされた。
思わぬ攻撃に教主が辺りを見回す。そして、教主はその存在を見て、思わず言葉を飲み込んだ。
「君は……!?」
「あなたの相手は妖精の女王だけじゃないわ、教主」
「イード……。まさか、君だったか……。私のカルテルを襲ったのは……!」
教主の目の前に、半透明の姿をしたイードが宙を浮かんでいる。
この時、教主は理解した。モナティアムで連続して発生する、謎のカルテル襲撃事件の犯人が、エルダインの力を行使するイードであった事を。そして、バッドドリーム・シスターズ……。イードを含んだ七人の姉妹が、新たに牙を向けている事を、教主は悟った。
だが、それでも教主は止まらない。何があろうと、教主はすべてを打ち砕くだけだ。自らの道を阻む者は、誰であろうとも容赦しない。教主は、既に戻れないところまで来てしまったのだ。
「ハッ!この痴れ者がっ!君が王国に来た時、私が匿ってやった恩を忘れたとでもいうのかっ!?」
「……もちろん、忘れてないわ。だけど、今の貴方の行いは見過ごすことはできない。……エターナルブレットの名に懸けて、貴方を止めてみせるわ、教主」
イードの周囲に浮かぶナタの分身からビームの弾幕が放たれる。教主はアーマーでそれをすべて受け止めると、イードへ向けてショルダータックルを繰り出した。
「っ……!」
イードはそれを認めて身体を構える。
イードは自身の攻撃が通じない事は分かっていた。いくらエルダインであろうと、イードはナタの力を借りるだけの弱い存在だ。ましてや相手は、すべての妖精の頂点に立つ存在と互角に渡り合う相手なのだ。イードは教主に勝てないと十分に理解していた。
だったらどうすればいいか。答えは簡単だった。
「ぐっ……!?」
教主のアーマーに衝撃が走る。いや、アーマーは無傷だ。謎の力が、教主の肉体に直接ダメージを与えたのだ。
「貴方の相手は私だけではないわ。バッドドリーム・シスターズ……。いいえ、エーリアスのすべてが、貴方を止めてみせるわ」
バァンッ!!
「ぐぅぅっ……!!?」
教主の身体を再び謎の攻撃が襲い掛かる。
見えない何かが教主を攻撃している。教主はV.A.T.S.の索敵能力と、自身の鷹の目を使って、見えない何かを探り当てようとした。
そして、教主はその存在を見つけた。
「シオン……!」
シオン・ザ・ダークブレット……。魔弾の射手の見えない弾丸が、教主の装甲を無視する魔弾で攻撃をしていたのだ。
「っ……!」
シオンに気を取られている教主に、イードのレーザーが襲い掛かる。いくら教主に効かないとはいえ、無数に放たれるレーザーは教主の精神を乱すだけの効果はあった。
「くそっ!小癪な奴らめ……!!」
バチチチッ!!!
「ぎぁ……っ!」
イードに教主の電撃が命中する。幽体化した身体に感じる初めての激痛にイードは混乱し、姿を消して戦場から離脱した。
「イード……!」
戦場から姿を消したイードにシオンが立ち上がる。
「だ、ダメだ、シオンさん……!今ここで君が出たら……!」
「何を言ってるんだナタ……!私の妹が……イードがやられたんだぞっ!!」
「シオンさん……!」
シオンが遮蔽物から躍り出る。自ら遮蔽物の外へ飛び出して来たシオンを認めた教主は、すぐさまガトリングレーザーを構えてトリガーを引いた。
「教主っ……!」
D-EXITSを構えて教主へ向けて発砲する。一発、二発、三発と命中し、教主の身体にダメージを与える。
「クソッ!生意気な奴らだ……!」
ガトリングレーザーの弾幕がシオンを襲う。赤い光の弾幕が宮殿の中を照らし、シオンに緊張を与える。
「何なんだあの武器は……!?反則じゃないか……!」
不意に攻撃が止み、突如訪れた静寂にシオンが顔を上げる。視線を上げた先には、ツインアイピースを不気味に光らせた教主が、今にも襲い掛かって来ている所だった。
「うわっ!?」
急いでシオンが攻撃をかわす。しかし、なおも教主はアームブレードを展開させ、大柄な身体を自在に操り、シオンを攻めていく。
懸命に教主の攻撃をかわすシオンだが、図体の大きさを利用した重い攻撃はその回避をも難しいものにしている。踏み出す一歩が大きく、冗長ともいえる腕は、確実にシオンを射程に収めていた。
「くっ……!」
バァン!
「ぐっ……!くそっ……!」
シオンの魔弾が教主に命中する。しかし、教主は無理やりガトリングレーザーを構えると、シオンに向けて乱射した。
「ぐあああああああああああああっ!!!」
シオンが悲鳴をあげて倒れる。その様子を見た教主は自らの武器を下げ、瓦礫の下に埋もれているであろうエルフィンへと視線を向けた。