「やああああああああああああああああああっっ!!!!」
ガァンッ!!!
エルフィンの渾身の一撃が教主に炸裂する。不意打ちを食らった教主はたまらず吹き飛ばされるが、すぐさま体勢を立て直してエルフィンを睨んだ。
「ッ……!!」
無機質なツインアイピースに睨まれたエルフィンが身を強張らせる。人間とも機械ともいえない戦闘マシーンと対峙する緊張は未だに慣れないままだ。
しかし、勝利は確実に近付いていた。度重なる攻撃を受けた装甲は傷つき凹み、所々欠落している。このまま押し続けていけば、確実に勝てるはずだ。エルフィンの心に、僅かながらも希望が見えた気がした。
「女王様……!」
ネルがエルフィンに呼びかける。再会を喜びたいところだが、今はそれどころではない。教主という脅威が目の前にいる今、これを倒さなければならない。
「司祭長様!女王様!」
「リニュア!」
リニュアが戦列に加わる。
「お待たせしました……!ドローンのホログラムでこの場所を合図しておいたので、ベリータ様や上位精霊たちももうすぐ来ると思います!」
「リニュアさん……!わかりました!」
三人が武器を構えて教主を睨む。
「サポートは私に任せてください!時空のこだまで援護します!」
「分かりました!」
「うんっ!」
ネルとエルフィンが教主に飛びかかる。それを認めて、教主も応戦を始めた。
力と力のぶつかり合い。何の為に戦うのか、誰の為にその力を振るうのか。
エーリアスを守りたいという思いが三人を突き動かす。熱い心が発現し、力となって溢れてくる。戦いの趨勢は既に決まっているようなものだった。
「ぐっ……!」
二人のエルダインの力が教主を追い詰めていく。反撃に出ようとするも、リニュアの時空のこだまと時間操作で翻弄され思うように動けない。教主が敗北するのも時間の問題だ。
装甲が剥がれ、火花が散る。三人の絶え間ない攻撃が、絶えず教主を叩きのめす。放射能に曝され、歪に捻じれた鋼鉄の巨人が追い詰められていく。エーリアスの守護者が、この世界の抑止力が、世界を守る為に、力を振るう。
「やあああああああああああっっ!!!」
「だああああああああああああっっ!!!」
ズガァンッ!!!
「ぐおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
装甲が破れ、教主の変異した肉体が露わになる。異様に肥大化した筋肉には傷が入り、所々出血しているのが分かる。エルフィンたちは、自らの野望の為に自らの身体をも犠牲にする教主を見て、一種の嫌悪感のようなものを感じた。
「教主……!」
エルフィンがキュっと拳を握り締める。それを見て、ネルがエルフィンのそばに立ち、斧を構える。
斧が白金の輝きを放ち、破滅へと向かう教主の身体を照らす。そのきらめきは希望の光か、浄化の輝きか。果てはその両方なのか。それは、あまりにも輝かしく、教主は目を覆いたくなるようだった。
「女王様……!」
ネルが斧を振り、輝きの軌跡を放った。勝利の御旗のようにも見えるそれは、教主へと一直線に向かい、捉えた。
「っ……!!!」
エルフィンが走りだす。そして、教主へ向かって跳び上がり、怯む教主をその拳で捉えた。
ネルの魔法がエルフィンを包み込む。
鋼鉄のアーマー。肥大化した肉体。人ならざる力を無理やり手にした教主。それらすべてを叩き壊すために、エルフィンは拳を振り上げた。
みんなの為に、王国の為に、エーリアスの為に、
草花の萌ゆる大地の為に、各種族の共和する世界の為に、
悪に打ち勝つ為に、栄光ある勝利の為に、
エルフィンはその力を振るう。
「目を覚ませっ!!!教主うううううううううーーーーーーっ!!!!」
☆☆☆☆
アーマーが破壊される音がエーリアスに響いた。それは、教主が敗れた事を意味していた。
兵士が、妖精が、エルフたちが宮殿の頂上へと視界を向けた。その音を聞いて、皆が一斉に戦いを止めた。
束の間の静寂が妖精王国を包み込んだ。そして、皆が理解した。教主が敗れたことを。そして、戦いが終わったのだと。
一人、また一人と武器を下ろし、膝をつく。自分たちが信じた覇道の道が潰えた事を理解した兵士たちが涙を流し、その頂を見る。
その涙は後悔の涙か、悔しさの涙か。それは誰も知り得なかった。
☆☆☆☆
「うっ……。ぐっ……」
エルフィンからの致命的な一撃を受けた教主が膝をつく。パワーアーマーと放射能で無理やり強化した肉体を以ってしても、エルフィンたちには敵わなかった。一人でエーリアスの守護者たちを相手にするには、ただの人間にはあまりにも荷が重すぎたのだ。
ボロボロとアーマーが崩れ落ち、崩れかけのシャーシと肉体が露わになる。
もはや教主には戦えるだけの力は残っていない。エルフィンたちは、アーマーの隙間からのぞく教主の顔を見て、声をかけた。
「もう終わりだよ、教主。大人しく諦めて、降参して」
エルフィンは冷静に告げた。
しかし、教主は呻きながらも、無言のまま再び立ち上がった。よろよろと力なく立ち上がる姿を見て、エルフィンは叫ぶように呼び掛けた。
「どうして……!どうしてまだ戦うの……!?そんな……ムチャだよ……!」
うろたえるようにエルフィンが叫ぶ。ネルも顔をしかめながら武器を構え、リニュアも砲撃の構えを取る。
だが、教主には戦う意志はなかった。ただ、負けたくなかった。ここで負けを認めては、今まで築いたすべてが泡沫に消えてしまう。それが許せなかった。だから、自らの手ですべてを終わらせようと立ち上がったのだ。
目の前の三人を前に教主の目が光る。血と放射能で汚れた瞳で三人を一瞥し、空を仰ぐ。そして、教主は最後の力を振り絞り、片腕を天に向かって突き上げた。
「私は決して敗北を認めん……。生きてこのまま辱めを受けるならば、この手で自刃してみせよう、エルフィン……!」
そうして、腕に稲妻を纏わせこぶしを突き上げた教主の周りにスパークが走る。巻き上がる灰燼が帯電していき、黒く巻き上がる黒煙と空から稲妻が明滅する。
「教主っ……!」
「……楽しかったぞ、エルフィン」
そして、激しい雷鳴の後、目も眩むような閃光が妖精王国を包み込んだ。