エーリアスの外れにある霧の中で、三人は過ごしていた。
たまたま見つけた廃墟となった鱗の獣人の村。ひと気のない寂れた廃墟で、教主とフリックル、新たに合流したレヴィの三人で、世捨て人のように静かに暮らしていた。
霧の中はじめっとしていて気持ちが悪い。いつまでもこうしてはおけないと、教主たちは新たな地を求めて、舟を造っていた。
「舟を造ってるのは良いけど、行く当てはあるの?」
「デリアとグィンはエーリアスの外の海を泳いでやって来た。グレイシアと言っていたか?舟と帆があれば、泳ぐことができない私たちでも、どこか見知らぬ土地にたどり着けるだろう。私はそう思っている」
そう言って教主は建材の隙間に苔を詰め込んで、タールで固めている。レヴィは手製の斧で懸命に木を削り加工して、フリックルは茨を加工してロープと帆を作り、各々は舟を造るための材料を作り出していた。
三人が乗るための舟は小さくて簡素なものだが、それでも良かった。食料はフリックルの茨を頼りにして、飲み水は海水から蒸留する気でいた。いくらか備蓄は持っていくつもりではいるが、それでも精々数週間分だ。あまりにも多くを持っていくとなると、舟も大きくなり、海まで運んでいくにも苦労する。それに大きな舟となると操縦も大変だ。
「ふぅ……。教主様、この建材で最後です。これを取り付けたら、船体は完成ですよ!」
「うむ。ありがとう、レヴィ。助かるよ」
そうして徐々に完成していく舟を見ながら、教主たちは外洋へ出るための準備を着々と進めていった。
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舟を曳き、エーリアスを取り囲む霧を抜けて、教主たちは外洋を帆走していた。
風を受け、針路を北西に向けて舟を走らせる。どこへ着くかは分からないが、どこでも良かった。身寄りのない三人が静かに暮らせる場所であれば、そこへ定住する気でいた。
そうして幾日か過ぎたある頃、レヴィがポツリと不満を漏らした。
「茨の塩干しはもう飽きたよ、フリックルさん……」
「文句があるなら教主に言ってちょうだい。それとも、海に潜って何かとってくる?」
「とってくる間にどっか行っちゃうくせに……」
茨の塩干しとジャガイモの干物を交互に食べているせいで三人が飽き飽きしている。長い航海の中でこれだけ簡素なものばかり食べていると、食の楽しみを断たれた三人はノイローゼになるようだと辟易していた。
そう文句を垂れるレヴィをフリックルがいなしながら遠くを監視していると、一つの小島が見えてきた。フリックルはそれに気付き、教主に声をかけた。
「教主、何か見えるわ。あそこに行ってみましょ」
「うむ、分かった」
帆を操縦し、進路を変える。そうして教主たちは奇妙な建造物の並ぶ、小さな島へと走っていった。
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真珠王国で数日過ごして休息をとった教主たちは、真珠王国の女王と共に新たな地を求めて大海原を彷徨っていた。
真珠王国の女王、真珠の竜族、アラグニアも、初めて乗る帆船に大興奮し、一人舟の上で大はしゃぎしていた。
「実に面白い乗り物なのであるぞ!たまに遠くでこういう乗り物を見る事はあったが、こうも愉快なものであるとはな!」
照り付ける太陽と潮風を浴びながら大海原を疾走する教主のロングシップ。今まで静かだった舟の上が、無邪気にはしゃぐ竜族が加わった事で、大変賑やかになっていた。
そんなはしゃぐアラグニアにフリックルが声をかける。真珠王国で聞いた話が本当なのかいまいち確証できないフリックルは、アラグニアの話が本当なのか確かめてみることにした。
「あなたが言ってたその火山の事だけど、本当にこの方角で合ってるの?」
「うむ、正しいであるぞ。潮の流れ、風の向き、日と月の角度からして、この方向で間違いないであるぞ!」
「まあ、本島に火山があるなら、煙でもなんでも見えるはずですよね。フリックルさん、ちゃんと見張り、頼みましたよ」
「はいはい、分かってるわよ」
操縦士の教主、見張り員のフリックル、エンジニアのレヴィ、水先案内人のアラグニア。今までただ海を彷徨うだけだった教主たちに、新たな仲間が加わった事で、新たな行き先が決まった。自分で島を作ったり、サンゴの森から食料を調達する為に、海の中を彷徨う事で、近辺の海を把握できるようになったというアラグニアの合流には、教主たちも心強く思っていた。
一時間、二時間と時が過ぎ、三日、四日、一週間と月日が流れる。
そして、どれくらいの間を走ったのだろう。あれだけはしゃいでいたアラグニアも大人しくなり、再びレヴィが文句を垂れるようになった頃、一つの島影が見えてきた。
見張りをしていたフリックルが声を張り上げる。
「教主!レヴィ!アラグニア!島が見えたわ!アレは……火山よ!」
フリックルの声にレヴィたちが船首に食いつく。
「煙と……山……?本当に火山なの……!?」
「おお!あれのであるぞ!アレが余の言っていた火山なのであるぞ!」
レヴィの指さす方向に帆を向け、舟が走りだす。長くも短い距離を帆走し、目の前に大きな火山が広がっていく。
アラグニアとレヴィの目が輝き、徐々に火山の麓に砂浜とリゾート地が迫ってくる。とうとう教主たちは、新たな新天地を見つける事が出来たのだ。
そして、教主たちは舟を砂浜に接岸させ、新たな大地へと足を踏みしめた。
「ここは……」
フリックルが呟く。フリックルの言葉に釣られ、皆が不思議そうに辺りを見回す。
その時、建物の木陰から一人の精霊が姿を現した。
その精霊は新たな来訪者へ向けてニッコリと笑みを浮かべ、こう告げた。
「ようこそ、ボルケニカへ!みんなの来訪を歓迎するグマ!」