世界樹教団、マフィアになる   作:韓非子

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第8話「立ち上がるエレナ」

「クソッ!!!!」

 

 エレナが市長室の机を乱暴に叩く。その様子を見たアメリアは、今まで見せたことのないほどの激しい感情を露わにする市長の姿に、ひどく驚いたようだった。

 

「し、市長様……?」

「あの教主のやつ……!このあたしを陥れるだなんて……!」

 

 エレナはイライラしていた。取るに足らないと思っていた妖精王国の教団が、まさか力を蓄えて、自身を欺くなど思いもしなかったからだ。

 

 エレナはただのお遊びだと思っていた。教主の密造酒を利用して自身の影響力に利用しようとすら思っていた。それがこんな形になるとは露とも思っていなかった。

 

「ふ……ふふふ……!」

「エ、エレナ様……?」

「いいだろう……。あたしだって、ただでは利用されないエルフだという事を思い知らせてやる……!」

「………? いったい、どうなさったのですか?」

 

 憔悴した様子でエレナはぶつぶつと呟いている。いつものエレナからは想像もつかないやつれた様子に、アメリアはひどく不安を感じている。

 

「アメリアっ!!!」

「は、はいっ!!?」

「君は最高の秘書だ。君はどこまでもあたしに付いて来てくれる。違うか?」

「い、いいえ!私、アメリアは例え火の中水の中、いかなる所であろうとも、エレナ様のお供をするつもりです!」

「そうだな、良い返事だ……」

「し、市長様……?さっきからどうなさったのですか……?なんだか様子がおかしいようですが……」

 

 そう恐る恐るエレナに問いかけるアメリアの口調には、不安の言葉が混じっていた。

 

「ああ、そうかい。おかしいと思うかい……。そうだろうねぇ、おかしいだろうねぇ……」

「エレナ様……。いったいどうしたんですか……?ここ数日、何も言わずにどこかへ行っていたようですけれども……。それと関係ある事なんですか……?」

 

 アメリアが再度問いかける。憔悴しきった様子で、エレナは答える。

 

「アメリア……。今から話すことは、くれぐれも内密で頼む」

「……?」

「あたしはここ数日、教主のやつと密会していたんだ。教主のやつが妙な行動をしていたものでな。教主のやつが運営してる宴会場があるだろう?そこで深夜、妙な催し物をしていたんだよ」

「宴会場といったら、教主様が手料理を振るって、使徒たちとおしゃべりする所ですよね?そんなところで、深夜にいったい何を……?」

 

 アメリアが当然の疑問を口にする。おしゃべりをしてタダで食事ができるところ。そんな所で深夜に妙な催し物がされる。アメリアは腹の底で気味の悪いものを感じた。

 

「教主のやつ、そこで余った材料と、大量に発注した穀物で密造酒を作っていたのさ。あたしはそれを材料に教主を操り人形にしようと思って、そこへ乗り込んだんだ」

 

 エレナは続ける。

 

「あたしは驚いたよ……。教団の規模からいったら、そんなに大したことではないと思ってたんだ……。教主も簡単に落とせると思っていた……。そしたらどうだ!?逆にやつらはあたしを脅してきたんだぞ!?しかもモナティアムの産業基盤を、やつが雇っている魔女に握られてると来た……!」

 

 エレナは怒鳴るようにアメリアにまくし立てる。その様子は癇癪を起した子供のようでもあった。

 

「……その話、本当なんですか……?教主様がエレナ様を脅したって……」

「ああ、そうさ、本当だ。それであたしが、利用するつもりが利用されるようになったって訳さ……」

「そんな……エレナ様が教主様に……。そんな事が……」

「やつらの口ぶりから、モナティアムもやつらに侵食されているとあたしは思っている。気を付けた方が良いだろうな。くそっ、取るに足らないと思っていた妖精王国の教団がこんなにもやり手だとは思ってもみなかった……!」

 

 悔しそうに唇を噛むエレナ。そんな様子を見て、アメリアは口を開いた。

 

「エレナ様にこんな屈辱を味わわせるだなんて……。許せません……!」

「ああ、あたしだって黙ってやられっぱなしになるつもりは毛頭ない。どうにかして教団に一泡吹かせなければと思っている」

「しかし、どうするおつもりですか?この一件がモナティアムで公に知られることになれば、大変な事になりそうですが……」

「ああ、そうだな。だから、協力者は慎重に選ばなければならない。あるいは、モナティアム以外から協力者を募るか……」

 

 エレナは候補者を搾るために顎に手を添え、考え始めた。倫理観の薄いエーリアスで信頼の置ける仲間はそう多くない。エレナは悩んだ。

 

「教主は既にフリックルとレヴィと組んでいる。競争心と出世欲の強い魔女の事だ。こちらもフリックルに対抗して、魔女と協力するべきだろうか?」

「ベリータ様に相談するのもリスクがありますね……。教団を利用しようとして逆に脅されてしまったとあれば……」

「そうだな。今のあたしの立場で頼れる相手ではない。もっと立場が下で、頭の切れる相手でなくては」

 

 二人は悩んだ。いつ裏切るか分からないエルフの町で頼れる相手はいない。果て無き階級闘争に明け暮れる魔女王国にも頼れる伝手はない。精霊とは仲が悪く、龍族に頼っても門前払いになるであろう。

 

 二人は途方に暮れた。

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