ベリティエンの通りを二人のエルフが歩く。世界樹教団に脅迫を受けたモナティアムの市長、エレナと、その秘書のアメリアだ。
珍しい二人がベリティエンの通りを歩いているとあって、二人は注目の的になっている。しかし、二人は何も気にすることなく、魔女王国のメインストリートを通りを闊歩している。
誰か、誰か我々の力になってくれるような魔女はいないか。世界樹教団のトップと、ベリティエンの二番手を倒せるだけの知略を持っている者はいないかと、二人は懸命に探す。
「やはり難しいのでしょうか……。私たちの協力者を探すというのは……」
「いいや。どこかにきっといるはずだ。獣人や龍族は当てにならん。だが、魔女ならきっとあたしたちに協力してくれる者がいるはずだ。どう考えても、あたしに協力してくれる者は魔女しかいない」
そう呟きながら、魔女の顔一人一人を観察し、通りを歩いていく。しかし、見える顔すべてが、二人の目には適わなかった。
野心を抱く者、疑心を抱く者、右に倣うだけの者、他人の顔色を窺う者……。エレナには、それらすべてが見え透いていた。
そのような集団の中に、ひと際変わった身なりの魔女が目に入った。その者は、魔女には似合わない、真っ白なスーツに身を包んだ、優雅な気品の漂う魔女だ。
「おい、アメリア。アイツが分かるか?」
「あれは……?魔女……でしょうか?」
「ふーむ……。少し話してみるか」
そう言って、エレナは奇妙な身なりの魔女に近付いていった。
「やあ、君。少しいいかな?」
「うん?私かい?」
「ああ、そうだ。君だ」
モノクルををかけた白いスーツの魔女を誘って、適当な魔女の喫茶店に入って行く。そして三人で席に着き、適当な軽食を注文した。
「それで?モナティアムの市長が、この私に何の用かな?」
「ほう?私の事を知っているのかい?」
「当然だろう?フリックルと組んで妖精王国への砂糖の供給を断って、魔女たちの地上侵攻を誘発させた張本人だ。知らない筈がないだろう?モナティアムのシェフさん」
「そうか。なら話は早い」
そう言って、エレナは身なりを正した。アメリアは手元の端末を操作して、何かを懸命に探している。
「君からは何か只ならぬ気配を感じてね、あたしの力になってくれるんじゃないかと思って声をかけたのさ。ぜひ、君の事について聞かせてくれないか?」
「ふぅん。私についてか……」
モノクルをかけた赤い瞳の魔女は少し考えた様子を見せると、自己紹介を始めた。
「私はロレット。ベリティエンの高位の魔女の一人さ。もっとも、階位で言えば末席の身だがね」
「おお、それは頼もしい!高位の魔女があたしの陣営に加わってくれれば、これほど喜ばしい事はないぞ!」
「シェフ、キミはフリックルと手を組んでたんじゃないのかい?なぜフリックルではなく、こんな所にまで来て私に協力を仰ぐのだい?」
「そ、それはだな……」
「かくかくしかじかで……」
エレナは事の詳細をロレットと名乗る魔女に説明した。
「ふぅん、あのフリックルがそんな事を……。世界樹教団の教主と組んで密造酒ビジネスをねぇ……」
「その通り。あたしはまんまとハメられて、危機一髪というワケさ……」
「フリックルがここ数日、宮廷を空ける時間が多いのもコレが理由だったかぁ……。なるほど、これは面白いねぇ……」
ロレットが不気味に口角をあげる。エレナとアメリアはその様子を固唾を飲んで見守っている。
「良いだろう。ちょうど私も退屈していたところだ。キミたちに協力して、その成り行きを見てやろうじゃないか」
「ほ、本当か!?いや、助かるよ、ロレット!」
ロレットの言葉に喜ぶエレナをよそに、アメリアは険しい顔をしていた。ロレットはそれを敏感に察知すると、アメリアに言葉をかけた。
「どうしたんだい?アドモアゼル。そんなに難しい顔をして」
「……高位の魔女でありながら、妖精王国を混乱に陥れて簒奪を企て、それを魔女王国の女王に黙ったまま過ごしているようですね。ベリータ様とエルフィン様が姉妹であるというのは、高位の魔女であれば知らない筈がありません。……実に狡猾といえます。市長様、この魔女も我々に協力するとは言っていますが、腹の底では何を考えているか分かりません。くれぐれもご用心なさってください」
「大丈夫さ。エルフより信頼できない訳ではないだろう?今、あたしたちに必要なのは教主に対抗する手段だ。いちいち誰それを警戒している訳にもいかない」
「……わかりました。市長様が彼女を信じるように、私も市長様を信じます」
「感謝するよ、アメリア」
そう言って、アメリアはコーヒーをすすった。
「ん゛ん゛ん゛!!?なんだコレは!?泥か何かでできてるんじゃないか!?」
「はははっ!魔女のコーヒーは気に入らないかい?」
そう言って笑うロレットをよそにエレナが店内を見てみると、カフェの店主がバンバンと懸命に何かを叩いていた。
「な、何をやっているんだ彼女は……?」
「アレが魔女スタイルのコーヒーの淹れ方さ」
店主が叩いていたものはコーヒー豆をくるんだ風呂敷だ。風呂敷を開き、叩いたそれを乱雑に飯盒に入れると、水を入れ、時間を計るでもなく煮込んでいく。そして、フィルターで濾すことなくカップに注ぐと、そのまま客に差し出した。
「………………」
あまりにも雑なコーヒーの淹れ方に絶句するエレナとアメリア。ロレットはそれを魔女スタイルのコーヒーだという。泥と形容したエレナだが、これでは本当に泥ではないかとエレナは思った。
「ま、まあ、これからよろしく頼むよ。う゛ん゛ん゛ン゛!゛!゛!゛」
「ゴホッ!ゴホッ!こ、これ、本当にコーヒーなんですか……!?本当に泥というか……」
癖で手元のコーヒーを飲んで苦しむ二人を見て、ロレットが笑う。
「まあ、何がともあれ、君たちのやろうとしている事には、強く興味を惹かれる。世界樹教団の教主に陥れられたエルフが反逆する物語……。その結末を、私も見てみたいと思うよ」
そう言って、ロレットはコーヒーを啜った。