原作を鑑賞しようとする室町時代の術師 vs 原作に干渉させてこようとする世界 作:祝いの王
よろしくお願いします。
前世の俺は、平凡だった。
普通に働いて、普通に苦労して。普通じゃなかったのなんて、死に方くらいなものだ。
前世の俺は、通り魔に刺されて死んだ。腹部に深く刺さった包丁を見て、自分が助からないことを悟った。もしも来世があるなら、もっと色々な事が起こるような、激動の時代に生まれてみたいと願いながら、死んでいった。
でも………。
まさか呪術廻戦の世界に生まれるとは思わなかったなあ…。
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今世の俺は、呪術や呪霊が存在する世界で生まれた。長い歴史を持った呪術師家系に生まれた俺は、幼い頃から呪術に触れてきた。
生まれた頃から持っていた『特殊な目』を活用し、呪霊を祓い、術師を殺す。そうして呪術を研鑽してきた俺は、いつしか『最強の術師』と呼ばれるまでに至ったのだ。
……ここまで俺の話を聞いてくれた人は、こう思っているだろう。
「何で両面宿儺や五条悟を差し置いて、お前が最強って呼ばれてんだよ」と。
その理由は簡単だ。どちらも、この時代にはいないからである。
そう、今は室町時代。俺は呪術廻戦の物語の中ではひとかけらも触れられなかった、謎に包まれた時代に生まれていた。
……いやなんでよりにもよってこの時代なんだよ!!
俺は!どうせ転生するならもっと原作に登場するキャラが見たかったんだ!なのになんで室町なんだよ!!
別に原作に干渉したいって訳じゃないんだ。ただ一目見てみたいだけなんだよ!!
両面宿儺とか、鹿紫雲とか、石流とか!!こんな中途半端な時代じゃ受肉組にすら会えないじゃん!!
こんな雑魚しかいない時代で「最強」なんて呼ばれても虚無でしかないし…。
なんでこんなことに……。
どうにかして、原作の時代まで行く方法はないだろうか。
ぼんやりと死体の山の上に立ち、血の海の中で考える。「最強」と呼ばれているだけあって、俺に挑んでくる術師は大量にいる。全員あんまり強くないんだけどね。
俺はそこそこ強いが、人間だ。歳は取るし、病にも罹る。流行り病によって突然ポックリ逝く可能性も普通にあるし、このままではどう足掻いても原作が開始するまでに老衰で死ぬだろう。どうしたものか…。
「…何度見ても、凄まじいな。君の戦いは。」
考え込んでいると、背後から声がする。恐らくは女性の、この死体だらけの場所にはそぐわない落ち着いた声。振り返ると、そこには額に縫い目がある女性がいた。
「やあ、久しいね。元気だったかい?」
ああ、そうだ。あの方法があった。
「たった今、すごく元気になったよ、羂索。」
「相変わらずの強さだね。もしかしたら、君は宿儺に届きうるかもしれない。」
「世辞はいらないよ。かの史上最強と比べられるなんて溜まったものじゃない。」
「本当に自己評価低いよね、君。」
この唯一俺が関わることのできる原作キャラである羂索とは、十年ほど前に出会った。恐らくは俺の噂を聞きつけて、見物に来たのだろう。まあ、何にせよこいつとの関わりがあるのは好都合だ。
「ねえ羂索、呪物ってどうやって作るの?」
「…どうしたの突然。君がそういうのに興味を持つとは思えないんだけど。」
羂索がすごく疑いの目を向けてくる。いきなりすぎたかな…?
「…まあいいや。呪物なんて、物を呪力で浸したり、魂を物に移し替えたらすぐに作れるよ。」
あ、普通に答えてくれた。まあこいつは俺が年中暇してることを知ってるので、特に気にしなかったみたいだ。…にしても、魂を移し替える、か。
……俺なら、ちょっとインチキ出来そうだな。
「成程。ありがとう、参考にするよ。」
「一体何の参考にするんだい?」
「ものづくり。」
最初の方でも言ったが、俺の目は特殊だ。この真っ赤な色の目は『四眼』と呼ばれるもので、魂を視認し、干渉できるようにする機能と、呪力操作を補助する機能がついている。流石に六眼には劣るが、十分に優秀な目だ。
この目を使えば、俺の魂自体を呪物化出来るのではないだろうか?
魂の存在は、真人や両面宿儺によって確定しているし、転生も『
そうして試してみたところ…魂の呪物化は、見事に成功した。しかし、問題はここからだ。
『この状態で死ねば、状態を保ったまま転生できるのか。』
これだけは、試してみなければわからない。失敗すれば俺はただ意味もなく自害した間抜けになってしまう。
まあ、しかし。
「このまま生きてても意味ないしなあ。」
覚悟を決めていこう!!
最初の目標は、無事に転生して五条悟を一目見る事!
瞼から透ける光で、朦朧としていた意識が覚醒する。記憶もあるし、呪力量も体感では変わっていないようだ。どうやら転生には成功したらしい。
今の体は大体四歳くらいか…?地面の水たまりで自分の姿を確認する。…おお、四眼もそのままだ。室町時代に置いてきてしまったとばかり思っていた。
小さくなった体で周りを見渡す。左側には木。右側にも木。前も後ろも木だらけだ。
…いや森じゃねえかここ。
何で四歳児が森の中にいんだよおかしいだろ。ひとまず落ち着いて受肉体の記憶を読み取る。どうやら、この目の色や呪霊が見えることを隠さなかったせいで親に捨てられたそうだ。
またかよ!!もうそれは室町時代でやってんだよ!再放送か!?
にしても、この状況はまずい。どうにかして森から脱出しなければ。仮にも『最強』と呼ばれた奴の死因が餓死とかダサすぎる。
とりあえず森を練り歩いてみる。何処まで歩いても、風景はほぼ変わらない。獣道すらないな…。どうしよう、このままだと術式で森を更地にするしかなくなるんだが。
数時間ほど歩き、そろそろ森を更地にする覚悟を決めた頃、山の奥に人影を見つけた。ナイス!!!チャンスを逃さないように、小走りで人影の方に向かう。
近づくと、山菜を採っている老夫婦がいた。
「…あら?何でこんなところに子供が…?」
「しかも傷だらけじゃないか!君、大丈夫かい!?」
思った以上に心配されている。自分は大丈夫であることを伝えようと口を動かそうすると、足元がふらつく。どうやら疲労を溜めすぎたらしい。
推定四歳児の体で数時間歩くのは流石に無理があったか…。
血相を変えた老夫婦が俺を担いで山を下っていく。こうして、俺はこの人達に保護されたのだった。
主人公の名前が出せなかった…。
多分次回で出します。