元ヤクザ、ホロライブに就職する 作:リハビリマン
メインの小説を投稿する度に、お気に入りの数が減っていくので、リハビリしようと思います。
ここは、関東地方の地方都市。
工場の仕事を終えた男は社員達に帰りの挨拶を交わし、いつもの様に牛丼チェーン店で夕食を終えて工場の独身寮に帰る予定だったが、今日だけは違った。
「冴島、冴島 正平はいるか?」
「はい、ここにいますが……」
「すまないが、今すぐ社長室に行ってくれ!」
工場長がそう言うと、冴島はなぜ社長室に向かわないといけないのか理由が分からず顔を顰めるが、工場長が再び口を開く。
「とにかく、社長室に向かってくれ! 分かったな!」
大声でそう伝えると工場長は会議があるため、足早に会議室に向かった。社員達の注目を浴びた冴島は、ため息を吐きつつ、二階の社長室に向かった。
二階にある社長室に着いた冴島は、一呼吸置いてからノックする。
「社長、冴島です」
「おう、入っていいぞ!」
この工場の社長は男だが、声の主は女性であり冴島は怪訝な表情になるが、このままだと埒が開かず、思い切ってドアをあけた。
社長室を開けると社長はおらず、代わりにロングソファに長身で長い髪の女性と眼鏡をかけた知的な女性が座っていた。
「お仕事、お疲れさん! まあ、遠慮せずに座れよ」
そう労いの言葉をかけた長身の女性の名は工藤 翠。警視庁捜査第四課、通称「マル暴」の女刑事だ。
工藤にそう促された冴島は、対面のソファに座り口を開く。
「あの、自分は社長に呼ばれて来たんですが……」
「ああ、社長は今頃パチンコに行ってるぞ。私がお前を呼ぶように工場長に頼んだんだ」
「そうですか……」
そう言うと、冴島はなぜ工藤がここに来たのか考え込んだ。工藤に紹介されてこの工場で働いて五年経つが、社員とトラブルを起こさず黙々と働いていたが、どうして彼女が自分を訪ねて来たのか理由が分からず考えを巡らすと、それを察した工藤が口を開く。
「お前が社員を脅さず、真面目にここで仕事をしているのは誰よりも私が知っている。まずは五年間、無事に勤め上げたな。これで、5年ルールに縛られることはないぞ」
5年ルールとは、暴力団を離脱して五年間は、銀行口座開設、携帯電話契約、賃貸契約などの契約が拒否されることだ。
工場の社員からはスマホを持たないのか不思議がられていたが、これでようやく持つことが出来ると冴島は安堵するが、じゃあ何故工藤が回りくどいやり方で自分に会いに来たのか困惑するが、その理由を話し出す。
「お前に新しい職場を紹介しようと思って、わざわざ来たんだよ」
「えっ!? いやっ、自分はここで満足していますが……」
「年寄りならこの工場でもいいんだがな、お前はまだ若い! ここで朽ち果てるのは忍びなくてな、まあ、詳しくは隣の女性に聞いてくれ!」
そう言うと、隣の女性は緊張気味に冴島に名刺を渡した。
「はっ、初めまして……。私はこういう者です……」
そう言って冴島は名刺を受け取り、目を通した。
「ホロライブプロダクションの社員さんですか……。あの『友人A』とは?」
「『友人A』は私の芸名でして……」
「はぁ……。その友人Aさんが自分に何の用なんですか……」
「あの、冴島さんをホロライブプロダクションの社員にスカウトするために来ました」
その言葉を聞き、冴島は険しい表情になりつつ口を開く。
「プロダクションってことは芸能関係ですよね?」
「はっ、はい。主にネットで活動している芸能事務所です!」
「正気ですか? あなたは私の経歴を知った上で、スカウトをしているんですか?」
「ああ、私が話したさ……」
二人の会話に工藤が割り込んで入って来た。続けて、工藤が説明し出す。
「えーちゃんとは私の同級生でな、体力があって腕っぷしのある男性を紹介してくれって頼まれてお前を紹介したんだ」
「どうして、自分なんですか?」
「お前は元ヤクザだが、刺青を入れてなくて指も欠損していないからだよ。そして、根が真面目だしな。そこらの男より信用できる」
「……」
「まぁ、今じゃなくてもいい。ホロライブに入社したいのなら私に……」
「いえ、入社してみたいと思います……」
「いいのか?」
「はい。この工場で働いても最低限は生きることが出来ますけど、ボーナスが出ませんし……。それに、自分がどこまでやれるか試してみたいんです」
「分かった。えーちゃん、こいつに資料と社員証を渡してくれ」
そう言うと、えーちゃんは慌てて資料と社員証を冴島に渡す。その資料には、仕事の内容やタレントの顔と名前が書かれていた。
「いいか、冴島。一週間後に迎えに来る。その間にタレントの顔と名前を覚えるんだ。えーちゃんは優しいから仕事は自然と覚えるだろう」
「分かりました。では、今日は帰ってもいいですか」
「ああ。もう、帰っていいぞ。すまなかったな……」
そう言うと、冴島は丁寧に頭を下げてこの部屋を出て行った。
冴島が立ち去り、この部屋が静まり返る中、言葉を発したのは工藤刑事だった。
「どうだった? 冴島
「彼って本当に元ヤクザなの、翠ちゃん……。どう見たって普通の人にしか見えないけど……」
「正真正銘のヤクザだよ、えーちゃん。奴は童顔だから、仲間内から馬鹿にされていたけど、れっきとした武闘派ヤクザだよ」
そう言うと、工藤刑事は我慢出来なかったのか加熱式タバコを取り出し吸い始めた。
「あの、どうして彼はヤクザを辞めたの?」
「冴島が言うには、時代に逆らうことはできなかったって言ってたよ……」
「どう言う意味なの?」
「昭和の時代なら縄張り争いで武闘派ヤクザが役に立ったが、今は令和。暴対法で厳しくなった上に、経済ヤクザが主流になってしまって冴島は時代に取り残されてしまったのさ……。ところで、えーちゃん。元ヤクザと分かった上で、冴島を雇うってことはホロライブは人材不足なのか?」
「うん。仮に雇ってもすぐ辞めちゃうし……。色々とね……」
そう言うと、思わずため息をついた。ホームページで随時社員を募集しているのだが、思うように集まることはなかった。また、外部に情報を流したり、後輩に仕事を押し付けたりと素行不良の社員がおり、谷郷社長も頭を悩ませていた。
そんな事情を知らない工藤刑事は、加熱タバコを吸いながら口を開いた。
「ふーん。色々と訳ありなんだな……。ところで、ホロライブには独身寮は無いのか?」
「ああ。そう言えば無いわね……どうしよう……」
えーちゃんはどうしようかと悩んでいたら、その姿を見ていた工藤刑事が提案する。
「私が保証人無しのアパートを探すよ」
「えっ!? そこまでしなくても……」
「職業柄、私の方が探しやすいし別にいいよ。ところで念を押すけど、本当に冴島を雇うことでいいんだよな?」
「ええ。社長も承認した上で決めたことだから安心して……」
そう言うと、二人は立ち上がり社長室から出て行った。
一週間後に、冴島 正平がホロライブに入社するのだが、どのような影響をもたらすのか、それは誰にも分からなかった。
人物紹介
冴島 正平
本作の主人公。身長160cmの上に童顔なので仲間内ですらバカにされていたが、武闘派ヤクザで争い事だけは得意。だが、暴対法の強化・経済ヤクザの台頭により自分の立場が無くなり、警察署に相談。そして警察の介入により組長がサインした離脱届を提出したことで堅気になった。歳は35才。