人間不信の元ヒーロー少女が助けた女の子に絆される話   作:96963

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プロットゼロからプロット組み直してたので遅くなりました。
合わせて前話を大筋を変えずにちょこちょこ修正してました。
今回は主人公、薊の長い回想です。


ツナマヨって中毒性ありますよね

「…………あー、どうも…………?」

 

 えー、こちら薊です。

 ちょっとやらかしちゃいました。

 何をやらかしたかって? 

 夕飯買い直してさあ帰ろうって時に何か知らん女の子に見つめられたから反射的につい返事をしてしまったのさ。

 と、誰に言ってるのかわからない脳内独り言をしながら頭を回転させる。

 

「…………え、あ…………」

 

 あ、まずい。

 ついうっかり返事しちゃったものだから女の子も何か戸惑ってる。

 どうしよう。

 逃げようにも、女の子が入り口側にいるから出にくいし。

 さりとてどいてとも何か言いづらいし。

 身長が私より大きくて、自然と見下ろされる形になってて無意識に気圧されてるからだろうか。

 しかも背筋がちゃんと真っ直ぐだから、私がチビで猫背気味な分余計に大きく見える。

 だからだろうか。

 

「…………この子、かわいいな…………」

 

「…………はい?」

 

 私は現実逃避気味に、私を見下ろす女の子の顔について考えていた。

 戸惑いがちに私を見下ろす女の子は美少女と呼んで差し支えないくらいに整っていて、現実から逃げる分には都合のいい理由だったからだ。

 私かわいい子好きだし。

 後ボブに揃えられた亜麻色? 金色? の髪が綺麗だし、のんびりとしてる様で真芯の通ってそうな顔つきが凄い私の好みだ。

 だからついつい見惚れてしまって、ジロジロと、無遠慮に彼女を眺めてしまう。

 すると。

 

「…………あ、あの!」

 

「は、はいっ⁉︎」

 

 女の子が耐えきれなくなったのか、いきなり大きな声を上げた。

 その声に驚いて、私も変な声が出てしまう。

 同時に思考が現実に戻り、またどうしようこの状況と頭を悩ませる。

 その時。

 

「…………えっと、ここじゃ邪魔になっちゃいますし、ちょっと外でお話ししませんか…………?」

 

 控えめがちに、女の子が良い提案をしてくれた。

 それは膠着したこの状況を変えてくれるもので、外に出たい私としても断る理由はないので一も二も無く頷く。

 本音を言えばさっさと帰りたいけど、私好みの美少女と話せるならプラマイプラスだし。

 後シンプルに邪魔っていうのは正論だし。

 

「じゃ、じゃあ…………そこの公園で、良いですか?」

 

 私が提案を受け入れると思ってなかったのか、女の子が若干驚いた顔をしながらもコンビニ近くの公園を指差す。

 特に場所についても断る理由はないのでさっきと同じ様に頷いて、一緒にコンビニを出る。

 …………ところで、この女の子の声、どっかで聞いた事あるような…………

 公園に向かう道すがら、脳裏に浮かんだ疑問に頭を捻る。

 しかし、その答えが出ることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 公園、そのベンチ。

 コンビニで奇跡的にあの人(あの人に関しては処理班のボスの手で情報統制されていて、私達も名前を知らないんです)と再会した私は、ちょっとトラブルはあったものの、無事2人きりのお話しに誘うことに成功しました。

 いえ別に最初から狙ってたとかそういう訳ではないですけど。

 再会したのも偶然ですし。

 でも危ない場面を助けてもらった恩人ですし、お礼くらいは言っておきたいですからね。

 それに、あっちが覚えてるかはわかりませんけど、昔助けてもらった時のお礼も出来ていませんし。

 …………にしても、さっきはそれどころじゃなかったから気にしてませんでしたけど、こうして見るとこの人結構小さいですね。

 昔助けられた時は、結構大きく思えたんでしたけど、私が小さかっただけでしょうか。

 その時は助けられたついでにおんぶしてもらいましたけど、今だと逆になってしまいそうです。

 …………でも、昔見た印象と変わらないとこもありますね。

 特に美少女ってとこが。

 今はパーカーのフードを被ってて見づらいですけど、白髪に隠れたその奥に、人形の様に整った顔が覗いてます。

 うん、昔綺麗なお姉さんと思ったあの時の印象と全く変わりませんね。

 ええ、本当に…………

 

「…………可愛い」

 

「ん?」

 

「いえ何でも」

 

 危ない。

 口に出てましたか。

 さて、やましい考えは一旦置いといて、と。

 

「それで、話って?」

 

 幸い、隣に座るあの人は私のうっかり漏れた声を気にする事もなく、呼び出した理由の方を怪訝そうな顔で聞いてきます。

 おっと。

 呼び出したのはこちら側なのに、相手を待たせてはいけませんね。

 というわけで。

 

「先程は、ありがとうございました!」

 

「うぇっ⁉︎」

 

 改めて目的を果たすため、なるべく元気よく、目の前の少女に頭を下げました。

 

「…………ど、どういう事? 私と貴女、初対面だと思うんだけど…………」

 

 いきなりの感謝に驚いたのか、目を白黒させながら少女が訊いてきます。

 …………どうやら、私の事は覚えてないようですね。

 まあ、あちらは変わっていませんが、こちらは大分変わってますしね。

 それに、目の前にいる少女は、かつてのヒーロー。

 私の様に救い出された人は、数多くいるでしょう。

 仮に覚えていたとしても、気づけないのは仕方のない事です。

 こちらにとっては特別でも、あちらにとってはいつものことなのでしょうから。

 …………まあ薄々思ってたとはいえ、こうして改めて事実を突きつけられると、ちょっと堪えますけどね! 

 でもそんな裏事情はこの人には関係ありません。

 なるべくショックを顔に出さない様に注意しながら、表向きの理由を説明します(こっちの理由も本当ですけど)。

 

「ほら、さっき助けてくれたじゃないですか。そのお礼です」

 

「さっきって…………ああ、あの時の。強そうな人は男の人だったから、後ろで支援してた子か」

 

「はい。後、その強そうな人は多分隊長ですね」

 

「ふ〜ん…………まあ、お礼を言われる程の事はしてないけどね。私にとって面倒そうだったから倒しただけだし」

 

「いえ、それでも危ないとこを助けられたのは事実なので」

 

 多分あのままだと、死んでたでしょうし。

 そう思って、何気なく彼女の言葉を訂正した、その時。

 

「…………いや、違うよ。私はアレが私にとって邪魔だったから、倒しただけ。決して、あなた達を助けた訳じゃない。だから、お礼なんていらない」

 

「…………え?」

 

 先程までの表情を消した冷たい顔で、しかしはっきりと、拒絶の意思が示されました。

 

「…………私は誰も助けない。例え、私が動いた結果誰かが助かったとしても、それは私が助けた訳じゃない。だから感謝はいらない。勝手に助かっていればいい」

 

 いきなりの豹変に面食らった私を更に突き放す様に、彼女が言葉を重ねます。

 

「…………」

 

 その言葉に私は答える言葉を持たず、ただ立ち尽くすだけになってしまいます。

 

「…………いきなりこんな事言って、ごめんね。でも、これは私にとっては譲れない事なんだ。私はもう、誰も助けない。私は私のために戦う。その過程で、誰が死のうが、誰が助かろうが…………気にするもんか。…………変な事言ったね。お話はここでおしまい。私、帰るね」

 

 動けなくなった私に気まずそうな顔で、しかしそれでも示した拒絶の意思を引っ込める事なく彼女が背中を向けます。

 そしてそのまま、夜の帷が落ち始めた公園の闇に消えていきます。

 少しずつ遠ざかっていくその背中を、私は見ている事しか出来ませんでした。

 

 

 

 

 

 

 やらかした。

 

「…………何で我慢出来ないかね、私は」

 

 公園を抜けて家に帰る中、冷えた頭でさっきの自分の態度に腹を立てる。

 まあ腹を立てたところで、もう遅いんだけど。

 それでも、イラつく。

 最近、多少はマシになってたと思ったのに全く変わっていなかったから、余計に。

 これでもそれなりに人を見てきたからわかる。

 あの子には裏なんてなかった。

 ただ純粋に私にお礼を言いたかっただけだ。

 だけど私にとっては、お礼を言われる事が嫌で仕方なかった。

 あの子には理不尽だと思うけど、私は誰かの為に動く、なんて事が大嫌いだ。

 だからお礼を言われて、誰かの為に動いたなんて私が考えてしまうのが耐えられなかった。

 それで、ついカッとなってあの子を否定してしまった。

 あの子より年取ってる割に、外見通りの子供っぽさの自分に本当に腹が立つ。

 子供を怯えさせてどうする。

 誰かを助ける気は全くないけど、傷つけたい訳でもないのに。

 

「…………いい加減、変わった方が良いんだけど」

 

 嘆息しながら、夜の帷が落ちきった空を眺める。

 本当、どうして私はこうなってしまったんだろう。

 問いかけるけど、空は答えてくれない。

 だから必然、心の中に答えを求める。

 まあ、覗いたところで変わらない答えしかないんだけど。

 それでも、求めずにはいられない。

 

 

 

 

 ────異世界よりやってきた黙示録って組織は、四人の騎士によって統括されていた。

 その騎士達はこの世界にも伝わる黙示録の四騎士によく似た性質をしていて、その内の一人…………戦を司る赤い化け物に乗った騎士が、厄介な能力を持っていた。

 それは、民衆の扇動だ。

 奴はウイルスの様に小さい分身を媒介として、人類に対して不和を運び、黙示録という外敵により限界を迎えた人間の恐怖心を破裂させる事で人間同士の戦争を起こさせ、滅びに導く、らしい。

 らしい、と伝聞形なのは私の上司であり異世界から来たスノードロップの世界ではそうだった、というだけでこの世界では違ったからだ。

 この世界では、私という黙示録への対抗手段が襲撃とほぼ同時に生まれていたせいか黙示録は外敵足りえず、赤の騎士が運ぶ不和は、各国の緊張を多少強めるだけに終わった。

 要は、恐怖心という風船が膨らみ切れてなかったワケ。

 だから、赤の騎士は手段を変えた。

 奴が運ぶ不和の形を、私対全人類という形にする事で、滅びを招こうとした。

 人間が人間の手で対抗策を殺し、自滅するという滅びを。

 まあ、実際に全人類かどうかはわからないけど。

 私の周りにいる人間が、異世界人故に対抗策を持っていたスノードロップ以外全員私を殺す程の悪意を向けてきただけだから、私も見える範囲外の人がそうだったかはわからない。

 いや、テレビでも結構悪様に言われてた記憶はあるから日本中くらいには広がっていたのかな。

 まあ、実のところそれは問題じゃなかった。

 当時の私はそんな事より、黙示録を倒す事に集中していたからだ。

 黙示録さえ消したら、皆戻ると信じていたから。

 あの時の私は多分、今『ヒーロー』として語られる私の性格像に結構近いと思う。

 私の戦いの始まりは、偶然出会って一緒に働く事になったスノードロップの、なんかもうどうしようもないくらいの泣き顔をどうにかしたくて、スノードロップのベルトを巻いた事が始まりだから。

 黙示録と戦って、襲われる誰かを助けられる事が嬉しかった。

 誰かの為に戦う、今の私と真反対な私だった。

 まあ黙示録の連中が上から目線でめちゃくちゃイラついてたのもあるけど。

 だから憎悪を向けられていても、受け流せた。

 スノードロップって味方もいたし。

 だけど。

 赤の騎士を倒した時、私は自分の想像がいかに甘かったかを思い知った。

 …………赤の騎士の能力は、不和を運ぶ事。

 しかしそれは、洗脳の様な力ではない。

 ゆらゆらと揺れ動く人間の心の天秤を少しだけ、負の方向に傾ける力だった。

 もし誰か一人だけにその力を使っても、何も起きない可能性の方が高いくらい弱い力だと、赤の騎士の残滓を解析したスノードロップが言っていた。

 でも、赤の騎士にはそれで十分だった。

 人は、繋がる生き物だ。

 多くの人が繋がって、生きている。

 その繋がりを作る人全てが、同じ力を等しく加えられたらどうなるだろうか。

 答えは、大きなうねりを呼ぶ、だ。

 例え一つ一つは小さくても、全てが同じ方向に傾けば、信じられないくらいの力となる。

 それが、赤の騎士の力の本質。

 そして、本来は人同士をぶつけ合わせて消耗させるその力を、赤の騎士は私一人のためだけに使用した。

 その結果…………全てに等しく芽生えた私への小さな悪意が繋がって、最早誰にも止められない巨大な悪意をを作り出した。

 だから…………赤の騎士を倒しても、膨らんだ悪意は直ぐには消えなかった。

 人々の憎悪は最早、赤の騎士の力がなくても天秤を壊すくらいに、大きくなっていたから。

 …………もう、手遅れだ、どうしようもない。

 昔助けた人に襲われた時、思った事だ。

 それでも、まだ戦う事は出来た。

 世界の全てが敵だとしても、その元凶を倒せば終わると信じる事が出来たから。

 こんな事をしでかした奴らへの怒りを燃料に、走る事が出来た。

 …………私にとって致命的だったのは、戦いの最中で、人々が自身の善性を思い出してしまった事だ。

 戦いの最中、赤の騎士によって植え付けられた悪意で壊れた筈の天秤はゆっくりと、その均衡を取り戻していった。

 私に向けられる悪意は徐々に薄れ、代わりに善意が増えていった。

 今までの、反動だと言わんばかりに。

 それはきっと、人々にとっては当然の心の動きだったのだろう。

 だけど…………私にとってそれは、最悪の結果だった。

 これが全ての戦いが終わった後だったなら、全て敵のせいだった、私が力不足なだけだったと私を嗤う事が出来た。

 だけど、人々の心が変わったのは戦いの最中だ。

 つまり…………人々の心の天秤が善に傾いたのは、敵のせいではないという事だ。

 そしてそれは…………赤の騎士を倒しても尚、私に向けられた悪意も、敵のせいではないと言う事を意味している。

 その事実に気づいた時、私の中で、人々への気持ちが色褪せた。

 …………勿論、こうなってしまったのには赤の騎士の影響が大きいということはわかっている。

 だけど…………頭で理解しても、受け入れられるかは別だった。

 だって、こんな移り変わりやすい心で動く生き物が、どうして信用出来る? 

 自分の心すら、移り変わりを見ただけであっさりと歪んでしまう程不安定で、信用出来ないものなのに。

 他人の心なんて、信用出来る筈がない。

 ああ、こんな事なら…………ずっと、私を憎んでいてくれた方が良かった! 

 その方が、まだ信じる事ができた! 

 …………人の心の移り変わりに気づいてから、何かに支配された様に、私は誰かの為に動く理由を失って、昔の様に動けなくなっていった。

 そして…………最後に残ったのは、こんな状況に私を、世界を追い込んだ、黙示録への憎悪だった。

 その憎悪だけが、頼りだった。

 その憎悪だけが、私の戦いの始まりから寄り添っていた、唯一の変わらないものだったから。

 何もかも信用出来ないと投げ捨てた私にとって、それだけが唯一の真理だった。

 だから…………憎悪を支えに、私のために私は戦い続けた。

 その果てに、奴らと同じ黙示録に語られる赤い竜の力を手に入れたのは、皮肉な事だけど。

 だけど…………四騎士を全て倒した時、その憎悪は役目を終えた。

 後に残されたのは、世界の何もかもを信用出来なくなって人の為にも自分の為にも動けなくなった、ただの抜け殻だった。

 それを資格なしと見做したのか、ベルトは私に応えなくなり、私はいよいよガラクタと化した。

 だから、本当は戦いが終わった後に死のうと思ってたんだけど…………死んでる様に生きていた時、残党が現れた。

 奴らを見た瞬間、役目を終えた筈の憎悪が湧き上がってきた。

 それは全盛期に比べたら弱いものだったけど、私が動く理由にはなった。

 そして憎悪に押されるまま、当時出来たばかりのギアを手に取って奴らと戦っている内に…………何故だか、少しずつ生きる気力が湧いてきた。

 同じくらいに処理班なんて組織が出来て、私が無理に戦うことも少なくなってきた。

 その結果、私は隠居する様に戦いから身を退いて、何か出てた給料を使い潰しながら、ダラダラと目的なく生きる様になった。

 未だ私はガラクタのままだけど、死ぬ事もないかなと考えられるくらいにはなったから。

 そして反比例する様に憎悪も鳴りを顰めて、全員死ね、くらいの憎悪がさっきみたいに私の邪魔をするなら死ね、くらいに落ち着いたし、前より人について興味を持つ事が増えた。

 だから、「人の為に動く」事への忌避感も多少は収まったと思ってたんだけど…………

 

「…………はぁ」

 

 長い思考を終えて、自分に溜息を吐く。

 どうやら、私は自分で思っていた以上に強情な様だ。

 

「どうすれば、良いのかな…………」

 

 夜の闇に問いかけるけど、自分の中にない答えが浮かんでくる筈もなく。

 ただ家に帰るしか、私に出来ることはなかった。

 

 

 

 

 

 




薊が割と無理のある結論に至ってますけど一応精神的に参ってた以外の理由はあります。
次回も早めに書きたいですね。
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