人間不信の元ヒーロー少女が助けた女の子に絆される話   作:96963

5 / 8
スノードロップさんの回想前編です。
書いてたら予想以上に長くなる事がわかったので分割します


インターミッション:出会い

「───さて、私なりにサポートしてみましたけど、椿さんはどうなるんでしょうねー」

 

 処理班本部基地、その奥部。

 私専用に設計した研究スペースで仕事しながら、先程送り出した少女…………音切椿さんについて考えます。

 薊に拒絶されながら踏み込もうとしてる子なんて珍しいから、つい興奮して背中を押しちゃいましたけど。

 今思い返したら、かなり勢い強く押してしまった気がします。

 いやー、薊が元気になるかもと思って先走りすぎましたね。

 椿さんがまた拒絶されない様に薊にはそれとなく圧力かけて一応椿さんと私の目的はカモフラージュしましたけど。

 …………あの子、贅沢のスケールが小さいから今まで貯まったお金的に給料カットしても全然問題ないんですよねぇ。

 あの子のねぐらは私の持ち家ですから、あの子から家賃とか取ってないというか諸々の支払いは全部私の方で払ってますし。

 …………いやほら、薊って私のために色々してくれましたし、つい甘くなってしまうといいますか。

 というか私が巻き込んでボロボロにしちゃったんだし、私くらいは甘くしてあげたいと言いますか。

 世界中から嫌われてましたし。

 …………まあ、薊に何本も何本も何本も何本もギアを砂にされたのに思うところがあるのは事実ですけど。

 処理班の皆がその分命を拾ってるし、差し引きプラスなんですよねー。

 処理班でも未だに残ってる黙示録の準幹部クラスまでなら倒せますが、それは人員の消耗を無視した場合の話です。

 ミツバチの熱殺蜂球、でしたっけ。

 アレと同じで倒せはするんですけど消耗が激しすぎて、色々と問題があるんですよね。

 倫理的にも、経済的にも。

 一応普通の人に合わせたペースでギアを強化改良し続けてますけど、やはり誰にでも扱える様に設計したギアでは性能に限界があります。

 それを薊はギアでもサクッと倒してくれるので、ギア数本砂になるくらい全然飲み込めるんですよね。

 何故か薊は準幹部級以上が出た時に限って黙示録に遭遇してますし。

 それに…………黙示録を統括する四騎士を倒した後も、薊は引退するまでの期間、この世界に来襲してきた残党の幹部・準幹部級を残らず鏖殺してましたし。

 私個人としては怒る理由がありません。

 まあそれでも薊だけ他人の備品を壊すのを良しとするのは示しがつきませんから毎回お説教はしますし今回も半分くらいは本当の事書きましたけど。

 ほんと、たまにはこっちに来て顔見せてくれませんかねあの子。

 たまーにあの子の家に行きますけど、私が来ると逃げるんですよねぇ…………

 そのせいで、ここ最近は碌に顔合わせた記憶がありません。

 基本いい子なんですけどね。

 おっと話が逸れすぎました。

 問題は、本当に給料カットしても特に痛手の無い薊が、私の命令を受け入れてくれるか、という点ですね。

 正直かなり無茶苦茶言った自覚ありますし、受け入れられなくてもおかしくないんですけど…………

 その時。

 

「おや?」

 

 私のスマホがピカっと光った。

 さて何だろうかとスマホを覗くと、さっき連絡先を交換しておいた椿さんからの連絡だ。

 えーと…………

 

『スノードロップさん、夜分遅くに失礼します。急な話ですが、薊さんと一緒に暮らす事になりました。いえ、それ自体は嬉しいのですが…………何故スノードロップさんは、私をサポートしてくれるのでしょうか? 今回の話も、スノードロップさんが薊さんに提案したものですよね?』

 

 ほう! 

 どうなるか不安でしたが、無事私の思惑通りの展開になった様ですね! 

 薊が受け入れてくれて良かった良かった。

 では、質問に返信しておきましょうか。

 

「えーと…………『その理由は簡単です。薊が今も過去に囚われているからです。…………絶望の淵にあった私を救ってくれた小さなヒーロー。それが私にとっての薊です。だから、出来ることなら私も手を伸ばしたいんですよ。薊の檻を壊して、引き摺り出したいんです。でも私では多分ダメです。私は薊と一緒にいすぎて、あの子をある種の親目線で見ているとこがありますから。だからどうしても、薊に甘くなってしまう。それじゃあ、きっと本当の意味で薊は自分の殻から飛び出せない。だから、貴女を選んだんです。貴女の過去は把握しています。かつて黙示録に攫われ、薊が救出した少女。つまり、救われたという点で貴女と私は同じです。でも貴女は、いい意味で薊を知りません。だからきっと、貴女は薊の殻を壊せる。壊して、殻から飛び出てきた薊の手を掴める。そう信じたから、私は貴女に賭けたんです。だから、貴女を手伝うんです。薊が、笑える様に』…………こんなものですかね。送信っと。…………それにしても、少し懐かしくなってきましたね」

 

 久しぶりにアレを見に行きますか。

 まだ仕事は少し残ってますけど、休憩を入れても良い頃でしょう。

 スマホを机の上に放り出して、研究室の棚から本を何冊か取り出します。

 その奥から現れた複数のスイッチを、正しい順番で押していきます。

 すると、棚が動いて大きな扉が現れました。

 こっそり作った隠しスペースに繋がる、私の生体認証でのみ開く扉です。

 その扉に触れて、隠しスペースの中に入ります。

 そこには。

 

「…………久しぶりね、私の最高傑作」

 

 私の最高傑作…………かつて薊の使っていたベルト、ファンタズムドライバーとそのコア達がありました。

 薊が隠居した時に、薊のギアと一緒に預かっていたんですよね。

 勿論、ただ預かっているだけじゃありません。

 今日渡した薊のギアの様に、いつでも動かせる様に動態保存しています。

 …………もし、また薊がこれを必要とした時、いつでも使える様に。

 まあそんな時が来ない方が良いですし、そもそも薊がこれを使えなくなってるんですけど。

 万一に備えるに越した事はありません。

 とはいえ、この部屋自体がドライバーの自動整備室になってるので、直接見るのは久しぶりですけど。

 その懐かしさに浸る様に、ドライバーを抱きしめて、整備室の床に座り込みます。

 

「…………思えば、あなたもずいぶんと数奇な運命を辿ってるわね。最初は私のせいで使える人をこの世界で見つけられなかったから、どこかの異世界に託そうと思っていたのに」

 

 そう。

 このベルトは、私が黙示録を滅ぼす性能のみを求めて開発した結果、その性能だけは最強のものとなりました。

 しかし…………黙示録を滅ぼす事に頭が一杯だった私は、この世界の人が使うことを考慮しないまま開発を進めてしまいました。

 その結果…………このベルトはこの世界の誰にも使えない、無用の長物となってしまったのです。

 この世界から見た異世界人である私も、私が使うのを想定していなかった事もあり、使う事は出来ませんでした。

 そのため、悪あがきで使える人がいそうな他の異世界に託そうと用意をしていました。

 …………だけど。

 黙示録が初めて襲来した時、こっそりベルトを持ち出した薊が黙示録と戦おうとした私の前で変身を成功させました。

 それは私にとっては予想外の事で、驚きっぱなしでしたが、同時に希望でもありました。

 …………ああ、今でも鮮明に思い出せます。

 薊との出会いを、そして薊が初めて変身したあの時を。

 

 

 

 

 

 

「…………まだ、足りない…………」

 

 私以外、誰もいない部屋の中。

 私は、何かに取り憑かれた様にあるシステムの開発を続けていた。

 そのシステムの名は、ファンタズムシステム。

 幻想の力を封じ込めたファンタズムコアの力を解放し、装着者と融合する事で比類なき戦士へと生まれ変わらせるシステムだ。

 きっとこれが完成したら、私は復讐を果たせる。

 身勝手に私の世界を滅ぼしたあいつらを、黙示録を滅ぼす事ができる。

 そう思うと、身体が休息を求めていても、休む事は出来なかった。

 最後にいつ寝たかはもう覚えていない。

 寝るなんて時間は私には必要ない。

 そんなものは、私の発明で無視できる。

 私の全ては、あいつらを滅ぼす為だけにあるのだから。

 それ以外は全て、必要がない。

 …………最早私に、帰る場所などないのだから。

 なら、後は突き進む以外道はない。

 その過程で、今いるこの世界が滅んだとしても…………知った事か。

 奴らを滅ぼせるなら、安いものだ。

 …………後から思えば、この時の私は完全にどうかしていました。

 完全に復讐に取り憑かれ、周りが見えなくなっていました。

 挙句、黙示録と同じ様な思考に陥ってしまったのです。

 …………ですが同時にこの時、私の運命は変わりました。

 

 ビー! ビー! 

 

「…………ふぇっ⁉︎」

 

 復讐の狂気に囚われながら、システムの開発を続けていると、耳障りな音が私の脳を揺らした。

 しばらく聞いていなかった私以外の音に驚いて、これまたしばらく動いていなかった口から変な声が出る。

 慌てて音の出所を探すと、一応作っておいた侵入者用の警報機器が、ビカビカとやかましく光って騒いでいた。

 

「…………何。何でこれが鳴ってるの」

 

 警報装置の音に顔を苛立ちで歪めながら、そもそも警報装置が鳴ってる事に疑問を抱く。

 何故なら…………この警報装置は本来、鳴るはずが無いものだからだ。

 この施設に予定外の人物が侵入してきた時用に作ったものだが、そもそもそんな事態があり得ないのだから。

 まずここは、私が日本政府に技術提供の見返りとして提供させた土地に私が設計して私が作った極秘研究施設であり、侵入者対策に私の世界の技術で偽装迷彩とこの施設を認識した人間に暗示じみた認識改変を施している。

 ざっくり言うと、この施設を知らない場合、この施設をどんな媒体で確認してもどうでも良いビルとしか認識できないし、機械の判定でも何の変哲のないビルにしか見えない様になっているのだ。

 そして、この施設を知ってるのは私と、日本政府の一部のみ。

 そして政府に関しては、アポ無しで来る事はあり得ない。

 だから、この警報装置が鳴ることは無い筈なのだ。

 なのに、何故。

 

「…………これが侵入者」

 

 疑問で胸が膨らむが、侵入者が来た以上対処せねばならない。

 最も、万が一を考えてここに来るまでには厳重なロックがかかっているから、入ってきても入り口でうろうろするしか出来ないと思うけど。

 それでも、侵入者は侵入者だ。

 やむなく開発を中断し、モニターで私の邪魔をしたネズミの姿を見る。

 そこには。

 

「…………子供?」

 

 この国の学生として一般的な装いをした、子供が映っていた。

 その子供…………外見から察するに私と同性の様だが、キョロキョロと不思議そうに辺りを見回してる。

 てっきりどこかのスパイ、あるいは黙示録の手先かと思ったのに、予想外の人物が映り思わず拍子抜けする。

 

「…………って、いやいやダメでしょ。子供とはいえここに侵入してきたんだから、対処しないと」

 

 気が抜けた私を叱責しながら、普段はどうせ知ってる人しか来ないから切ってる施設のセキュリティを起動させようとする。

 …………しかし。

 

「…………気になるな」

 

 起動ボタンを押そうとしたその時、好奇心が私の指を止めた。

 モニターに映る少女はどう見ても普通の子供だ。

 少なくともスパイとか工作員の類には明らかに見えない無防備さだ。

 そんな子供が、何故この施設に? 

 どうやって偽装迷彩と認識改変を破った? 

 そんな、科学者としての好奇心が胸の奥から湧いてくる。

 気づけば。

 

「…………会いに行ってみよう」

 

 私は好奇心に突き動かされるまま、子供に会いに行く選択をしてしまった。

 まあ武装してれば何かあっても大丈夫でしょ、という楽観的な思考で、さっきまでの苛立ちも忘れて安全な研究室を飛び出して、子供のいる場所に駆けていく。

 暗い廊下が煩わしいので電気をつけて明るくして、好奇心のままに廊下を駆けていく。

 そして。

 

「…………見つけた」

 

「…………あ、ここの人ですか⁉︎すみません、ちょっと迷っちゃったんですけど…………外って、どっちの方向ですかね?」

 

 久しぶりに全力で走ってぜえぜえと息を切らしたその先で、私は不思議な子供を見つけたのだった。

 

 

「…………まず、一つ、聞かせて。貴女は、誰?」

 

「あ、そうですね! まずは名前を言わないといけませんね! 私は柊薊です! 迷ってたらここに入りこじゃってました! すみません!」

 

 息を切らしながら目の前の子供を誰何すると、そんな答えが帰ってくる。

 柊薊。

 それが、この不思議な子供の名前らしい。

 

「…………そう。薊って呼んでもいいかしら」

 

「? ええ、はい! むしろ名前で呼んでもらった方が嬉しいです!」

 

「ふむ?」

 

 何となく響きが気に入ったので名前で呼ぶ事を提案したら、受け入れるどころかむしろ名前で呼んでほしい、と言ってきた柊薊の言葉に、少し不思議なものを覚える。

 この国の人間は、親しくない間柄の人間同士では、苗字を呼ばれる方を好む傾向にあると思っていたのだが。

 いや拒否されても名前で呼ぶつもりだったけど。

 一応柊薊に悪気はない様だけどこっちは被害者、あっちは侵入者。

 こっちが譲歩する筋合いは無い。

 それはそれとして、気になる。

 …………よく見るとこの子小さいな。

 いや私も小さいからよく子供と間違われるが(一応こっちの世界でもあっちの世界でも成人してるんだが)この柊薊は私より一回り小さい。

 身に纏う制服的に多分近所の高校生なんだろうが…………中学生レベルじゃないかこれ? 

 

「…………ど、どうしました?」

 

「…………ごめんなさい。つい気になって見てたわ」

 

 おっと危ない。

 疲れているのだろうか、いや間違いなく疲れているな。

 最近徹夜ばっかだし。

 私としたことが、興味に対するブレーキが壊れてしまっている。

 目の前の侵入者の事が気になって仕方がない。

 全体的に真面目そうな格好なのに、首元に校則で没収されるのではないかと思う様な花を模した飾りのペンダントをつけてるのも気になるし。

 あの花は…………えーっと、アザミ、かな? 

 私の世界にも同じ名前で図鑑に記されてた花だからよく覚えてる。

 ん、アザミ? 

 ああ、だから…………薊と呼べ、と? 

 薊って確かアザミの漢字だったよね? 

 ふむ、柊薊はアザミが好きなのだろうか。

 …………まあ良いか。

 本人がそう呼べと言っているんだし、薊と呼べば良いだろう。

 

「…………では改めて。薊さん、だったわね? いくつか聞きたい事があるのだけど、良いかしら?」

 

「? ええ、良いですよ?」

 

 思考を打ち切り、取り繕う様な言葉遣いで薊に問う。

 そんな私の態度に薊がキョトンとした顔をするが、無駄だ。

 ここに入ってきた謎を全部暴いてやる…………! 

 しかし。

 

「ではまず一つ。薊さん、貴女どうやって入ってきたのかしら。ここは…………まあ、ざっくり言えばここを知ってる人じゃ無いと入れない様な仕掛けがあるはずなんだけど」

 

「そうなんですか? 私はただ、悩み事をして歩いてたら、ここに迷い込んでしまったという感じなんですけど…………特に、変な事とかした記憶はありませんよ?」

 

「はい?」

 

 謎を暴いてやると意気込んでた私に出されたのは、何とも要領を得ない回答だった。

 

「…………って、いやいや、そんな訳ないでしょう⁉︎ここ、貴女みたいな一般人はそもそも気づけすらしないのよ⁉︎」

 

「…………と、言われましても…………本当に迷っていただけですし…………」

 

「っ…………!」

 

 埒が開かないなもう! 

 話を聞くに、どうも薊は本当に迷い込んできただけと思っているらしい。

 そんな筈はない。

 この私の防壁を突破したんだ、そこには必ず理由がある筈だ。

 それを明かさないと、私は気が済まない。

 大体、悩んでたからって何よ。

 悩みで頭が一杯で、無我の境地にでもなってたっていうの⁉︎

 冷静に考えれば薊はわからないなりにちゃんと質問に答えてくれているのに、何故か無性にイライラする。

 開発を邪魔されたからだろうか。思う様に答えが得られないからだろうか。

 それとも──────

 そんな思考が脳内を駆け巡り、ぐらぐらと頭の中が揺さぶられて気持ち悪い。

 だけど纏まらない思考が消える事はなく、むしろ更に酷くなって私を苦しめる。

 気づけば、目の前に見える薊の姿すらブレていた。

 

「…………あの、大丈夫ですか…………?」

 

「…………なに、いって…………」

 

 それが表情に出てたのか、薊が心配そうな声を出すけど、よく聞き取れない。

 音が遠い。

 頭の中を這いずり回る思考に、何もかも支配されてる様だ。

 そして。

 

「あ…………っ!」

 

 限界を迎えたのか、視界がぐらり、と傾いだ。

 薊の叫びと共に、え、という声が出る。

 でも傾いた視界は戻らず、そのまま視点が下がって、地面に身体が落ちていく。

 だけど。

 

 地面にぶつかる瞬間。

 何か、やわらかいものが私を抱き止めた。

 




戦いの前なので薊とスノードロップさんのキャラは違います
薊は結構明るい、スノードロップさんは暗い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。