人間不信の元ヒーロー少女が助けた女の子に絆される話   作:96963

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ジョンを重ねたので初投稿です。
スノードロップの回想その3です
なんか2倍以上の分量になりました。
タイトル通り初変身です


インターミッション:変身

 薊をこの研究所で引き取ってから、暫くした頃。

 

「ああもう、何でこんな忙しいの…………!」

 

「いや、スノードロップのせいじゃないですかねぇ…………」

 

 ──────私は、とんでもない作業量に忙殺されていた。

 理由は一つ。

 私の全てを詰め込んで作った最後の希望…………ファンタズムドライバーが、この世界の人ではその負担に耐えきれず、一回変身しただけで死んでしまう事がわかったからだ。

 しかもよりにもよって、ほぼ完成して性能確認のため試運転をするっていう段階で。

 そのため、私はファンタズムシステムそのものの再設計を余儀なくされ、降って湧いた大量のタスクに忙殺される日々を送っていた。

 いやまあ、奴らを滅ぼせるならこの世界が滅んでもどうでも良いとかマッドな事考えて性能だけ求めてた薊に会う前の私がいけないんだけども。

 あの時点でドライバーの基礎部分はほぼ完成していたから、例えもっと早くこの欠陥がわかっていたとしても仕様変更するのは無理だった。

 …………薊に会う前に気づいてても、知るかそんなので開発続けてただろうし。

 つまり、何が言いたいかというと。

 過去を嘆いても無駄なので、さっさと手を進めましょうという事だ。

 幸い、私がこっちに来る時に奴らの基地から手に入れたデータで奴らの襲来時期についてはある程度の予測が立っている。

 それによれば、最短でも隣で呆れた目をしてる薊が立派な大人になるくらいの猶予がある。

 それだけあれば、ドライバーを再設計してこの世界の人向けにデチューンするのはどうにかなる。

 まあその分、数を揃えて質の低下をどうにかする必要があるので量産向けの設計をする必要があるから今忙しいんだけども。

 猶予はあるとはいえ、量産してドライバーのデチューン…………ええと、ファンタズムギアと名付けよう。

 それを配備するのに時間はかなりかかるだろうし。

 一秒だって無駄に出来ない。

 

「薊、悪いんだけど今日のご飯もおにぎりで頼める?」

 

「はいはい。具は何がご希望ですか、スノードロップ博士?」

 

「おかかと昆布と梅で」

 

「相変わらずスノードロップは趣味が渋いですね…………」

 

「ほっといて。それよりも早く! お腹空いた!」

 

「りょーかいです」

 

 なので、薊に頼んで今日の分のおにぎりを作ってもらう。

 個人的には自分で作る方が性に合ってるんだけど、今は手を離せないし。

 それに、薊は結構料理が上手いから楽しみでもある。

 …………気を抜くとすぐにおにぎりで献立を埋めようとしてくるのが欠点だけど。

 何でも、記憶にある初めての食べ物がそれだとか。

 だから、薊はおにぎりにやたら拘ってる。

 水分とか温度とか握り方とか色々と。

 まあおにぎりに関してはその分私は作るより美味しいから、こういう時は凄く助かるんだけど。

 やっぱ美味しいとやる気も違うし。

 そこを考えると、前の私はまあ実に非効率だったなー。

 復讐に囚われすぎて、それ以外見えていなかったし。

 …………にしても。

 

「薊も、大分砕けたわねー」

 

 手を動かしながら、今の薊について考える。

 あの日、薊が私の手を取ってくれた後、私は薊をここに迎えるために色々と動いた。

 まず薊を孤児院から引き取り、私の養女とした。

 といっても、私と薊はそんなに年が離れてないから、あんま娘って感じはしないけど。

 薊もどちらかといえば私の事を友人だと思ってるのか、私に対する態度は結構気安い。

 その後、政府と色々お話しをして薊を雇う事を認めさせ、今に至る。

 今の薊の主な仕事は、ご覧の通り私の身の回りの世話に加えて書類仕事、後ギアの試運転もだ。

 政府に提出する書類とか今書いてる暇が無いから、薊に色々と教え込んで丸投げしてる。

 それで良いのかと思うかもしれないが、意外な事にあっちから文句は来ない。

 なので、結構出来が良いのだろう。

 それと、この世界の人に合わせてギリギリのラインを見極めるために、頻繁にギアを装着してもらってる。

 おかげで、当初の想定よりもギアの開発は進んでいる。

 …………まあ、そうやって色々と私の尻拭いをさせていたからか、いつの間にか呼び捨てで呼ばれる様になったのはご愛嬌で。

 まあ一緒に暮らしてるのにずっとさん付けの方が他人行儀で何だか居心地悪いし良いんだけどね。

 後…………これは恥ずかしいから薊には隠してるけど、薊がいるおかげで、復讐だけで動いてた時より今が楽しくなってたりする。

 多分それは、私が薊に出会って漸くこの世界をちゃんと見たからだろう。

 前までの私は、何もかもを復讐に利用する気だった。

 だから、この世界もこの世界の人も…………利用するべき、材料にしか見えなかった。

 …………だけど。

 あの日、偶然薊が迷い込んできて。

 私はこの世界もこの世界の人も…………私の世界と変わらないって、気づく事が出来た。

 そうなるともう、前までの様には動けなかった。

 復讐を捨てた訳じゃない。

 黙示録にはきっちりと落とし前を付けさせる。

 でも…………そのためなら、何もかもを材料にする、なんて事は、選べなくなっていた。

 それは、ある意味で黙示録と同じだと気づいてしまったから。

 だから、決めた。

 私に大切な事を気づかせてくれた薊のいるこの世界を、私の発明で守ってみせると。

 今度こそ誰も犠牲になる事のない、完璧なシステムを作り上げて…………黙示録を滅ぼし、世界を守ると。

 そのためなら…………この地獄の様な再設計作業も、悪くない。

 そう思って、キーボードを叩く速度を上げた時。

 

 ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ──────ー!! 

 

「…………は?」

 

 けたたましいサイレンが、私の鼓膜を揺らした。

 

 

「…………そんな、あり得ない」

 

 耳障りな音の出所は、研究室の隅っこ…………()()使う予定のない、計器や測定器が纏められたスペースだった。

 それらが…………黙示録がこの世界に接近してきた時に役目を果たす筈の機械が、口を揃えて騒ぎ立てている。

 慌ててサイレンを止めて、機械の異常を確認するけど、目に見える異常はない。

 ソフトもハードも、設計通りに作動していた。

 つまり。

 

「…………何で、もう来てるの…………!」

 

 それは、黙示録がこの世界に近づいている事を意味した。

 そのありえない状況に、脳が理解を拒む。

 いくら何でも早すぎる。

 私が奴らの基地から入手したデータで推測した予測時期は、かなり厳しく見積もったものだ。

 その上で、まだ数年ほどは猶予がある筈なのに…………今来るなんて、信じられる筈がない。

 あり得ない、いやあり得て欲しくなかった現実が目の前に現れて、思考が何故という言葉で空回りしていく。

 その時。

 

「…………っ!」

 

 私の中に、そうであって欲しくない、証明されて欲しくないアイデアが思い浮かんだ。

 それを否定するために、急いで施設の奥、薊にも見せた事のない最深部に向かう。

 

「出来ましたよー…………ってどこ行くんです?」

 

「ごめんちょっと忙しくなった! そこ置いといて!」

 

 その時丁度完成したのか、おにぎりの入った皿を持った薊が入ってくるが、今はそれどころじゃない。

 だから振り切る様に、研究室を後にした。

 

 

 施設の最深部、設計段階から秘密にして誰にも知らせていない、隠し部屋に足を踏み入れる。

 そこには…………私が黙示録の技術を盗用して制作した、世界を渡る次元航行船があった。

 一応言っておくと、今から逃げるとかいう不義理をするつもりは無い。

 そんな事するくらいなら、この世界に来る前に私も皆と一緒に自爆している。

 ただ、確認したいだけだ。

 さっきも言った通りこの船は、私の仲間達が黙示録も基地から吸い出した、つまり盗んだデータを基に、この世界に来てから作り上げたものだ。

 つまり、黙示録が世界を渡るのと同じ仕掛けで動く船だ。

 そのシステムを利用して、私の中の推測を実証する。

 外れて欲しいと祈りながら。

 しかし。

 

「…………ああ」

 

 その祈りは、あっさりと掻き消された。

 …………私が、黙示録の襲来時期を最悪でも私がこの世界に来てから十数年後と見込んだのには理由がある。

 世界間の次元移動には、座標の指定に時間がかかるからだ。

 何せ世界という奴は無数にある。

 無数にありすぎて、座標が少しでもズレた時点で目的の世界から数個くらい離れた世界に移動してしまったりする。

 だから、狙った場所に行くには特定の座標をピンポイントに入力する必要がある。

 ウンザリするくらい複雑な式で作られた異常に桁のある座標を、ピンポイントに。

 私の場合は、とにかく別の世界に行けばいい、という考えだったから座標を自分が死なない程度に大まかにしか指定する必要がなくてその辺の問題はスキップ出来たんだけど。

 狙って同じ結果をゼロから再現するには、かなりの試行時間が必要だ。

 黙示録の基地を利用したとはいえ、移動の際にその辺のシステムは全部壊れてデータの完全消去が行なわれるようウイルスを流し込んでおいたから、奴らは私の移動記録を見れない筈だし。

 だから、奴らが私達の世界で起きたことを把握して、私を探し始めたとしても…………奴らが人智を超えた存在である事を考慮して、十数年程度の余裕がある筈だった。

 しかし。

 その考えは、奴らからしてみたらとても甘いものだったらしい。

 そう、船に搭載したコンピューターが示している。

 

「…………まさか、こんなもので特定出来るなんてね」

 

 コンピューターに嵌め込まれた、私の髪留めを見て乾いた言葉が漏れる。

 それは、私の世界にしかない素材で作られた、ありふれた髪留めだった。

 私の世界が滅んだ後も、その残骸達が転がっていると考えられるくらいの。

 それをコンピューターに読み込ませ、この髪留めと同じ材質で同じように作られた髪留めが存在する世界を探せ、と命じたら見つかってしまった。

 かつて私が多くの人を置いて逃げた、私の世界が。

 …………他にもいくつか世界の候補が出てきたけど、私が持つ他の物品を読み込ませる度に候補は減っていって、最後には一つしか残らなかった。

 そしてそれは、ある残酷な事実を証明している。

 …………黙示録のシステムなら、手掛かりになるものさえあれば、世界の特定など簡単に出来るという、残酷な事実を。

 そして、この世界には…………私という、あの世界とこの世界を結ぶ、異分子が存在している。

 

「…………はは」

 

 とっくの昔に消えたと思っていた世界がまだ形だけは生き残ってたいた事に、黙示録を滅ぼすと息込んでた癖に黙示録という災厄を呼び込んだ私に、懐かしさと絶望が入り混ざった乾いた笑いが溢れる。

 ああ、なんて間抜けなんだ私は。

 この装置は私がこの世界に来てからかなり初期に作り出したものだ。

 だから、この事実はもっと早くに検証できた筈だ。

 でも、私は…………当然湧いて出るべきだったこの疑問を、あえて無視していた。

 …………あの世界に置いてきた、皆。

 もう死んでしまっただろう皆の事を考えるのが、怖くて。

 もっと早く気づいていれば、奴らへの対策を残し、この世界から私の痕跡を消せただろう。

 そうすれば、きっとこの世界は間に合った筈だ。

 奴らを滅ぼすとは言わなくても…………追い返す、くらいに成長するのは。

 でも。

 

「…………全部、私が駄目にしてしまった」

 

 そうはならなかった。

 私の無能が、私の私怨が目を曇らせ、取り返しのつかない事態を起こしてしまった。

 間もなく黙示録は現れる。

 頼みの綱のギアは間に合わない。

 数本程度じゃ、ドライバーの穴を埋めることは出来ない。

 故にこの世界は、滅ぼされる。

 私の世界の様に。

 

「…………どうしよう」

 

 虚空に問いかけるけど、答えはない。

 同時に私を責める声が脳を揺らし、胸が罪悪感で締め付けられる。

 

「…………ごめん、なさい」

 

 気づけば、熱いものが頬を伝い、絞り出す様な謝罪が溢れる。

 そんな事をしても、何の償いにもならないと知りながら。

 私を襲う苦しみから逃げるために、この世界に…………薊に、謝罪を続ける。

 意味のない、謝罪を。

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

「…………あれ…………私…………」

 

 節々の身体の痛みが、私に起きろと叫んでくる。

 その声に応えて目を開けると、そこは見慣れた寝室ではなく、研究施設最深部の次元航行船の中だった。

 

「…………そっか…………私、疲れて寝ちゃったんだ…………」

 

 その風景に、昨日の絶望を思い出して、胸が締め付けられる。

 …………だけど。

 

「…………この世界は、終わらせない」

 

 絶望し、慟哭し、自責を続けた私の心は、逃避の果てに一つの答えを見つけていた。

 それは、ケジメをつけるという答えだ。

 私のせいで、世界は最悪なシナリオを迎えようとしてる。

 だから、その責任を取らないと行けない。

 私の命を対価に捧げてでも。

 …………まあ、安すぎる対価だとは思うけど。

 世界を巻き込んだ疫病神の命だし。

 それでも、やるしかない。

 幸い。私には、この船がある。

 黙示録の船のデッドコピーである。この次元航行船が。

 これを使えば、最悪なシナリオを、多少有利に引っくり返す事は出来る。

 …………思い描いてたシナリオよりかは悪いけど、黙示録が来た時の私達の世界よりマシな状況にはなる筈だ。

 そのためにも、残された時間を有効に使おう。

 

「…………まずは、シャワーを浴びよう」

 

 泣き疲れて寝たせいか、今の私の顔は結構酷い。

 これじゃ薊が心配する。

 だから、最低限顔は整えておかないと。

 さあ…………反撃を始めよう。

 

 

 ──────そこからは、今までよりも更に忙しい日々だった。

 次元航行船を使ったプランの詳細を詰め、そのために必要な装備物資機材を大急ぎで設計製造する。

 幸い、既存の設計をかなり流用出来たので余裕をもって必要量以上のものを確保出来た。

 同時に船を改造して装備に対応させ、コンピューターにある座標を打ち込む。

 色々と無理矢理取り付けたから安全性の面にかなり問題はあるが、一回だけなら問題ないだろう。

 そうして、全ての準備を終わらせ、翌日に決行という段階になった時。

 

「なんか久しぶりな感じがしますね、こうやってスノードロップと食卓を囲むのは」

 

「…………そうね」

 

 私は、薊と食事を囲んでいた。

 薊との、最後の食事を。

 

「何か最近、かなり忙しかったみたいですけど…………大丈夫ですか?」

 

「大丈夫って?」

 

「いやほら、最近のスノードロップ、顔色結構悪かったですし、何か思い詰めてる感じがありましたよ?」

 

 鋭い。

 誤魔化してたつもりだったけど、薊にはどうやらお見通しだったらしい。

 だけど。

 

「そんな事ないわよ。顔色悪かったのは、まあ、ちょっとギアの設計に夢中になってね」

 

 その理由までは見抜けていないらしい。

 なので、全力で誤魔化させてもらおう。

 

「…………ふ〜ん?」

 

「何よ、その顔は」

 

 薊が訝しげな顔をするが、いつもの調子であしらう。

 

「いえ別に? スノードロップが無理するのは珍しくはないですし。あ、でも…………」

 

「でも?」

 

「もし私に嘘ついてたら…………罰として、私の言うこと聞いてもらってもいいですか?」

 

 すると、薊がいつもの笑顔で、ちょっと珍しい事を言ってきた。

 薊の事だから、心配とか小言とか来ると思ってたんだけど。

 まあ断る理由もない。

 嘘はついてないし。

 最近は、プランの準備に並行して基礎理論を含めたギアの設計図を残したりこの世界では悪夢の兵器でしかないドライバーを使える人がいそうな異世界に託す用意とかしてたし。

 それに、ここで変に渋って怪しまれる方が危ない。

 

「いいよ」

 

 だから、軽い調子で嘘をつく。

 …………薊に嘘をつく事に、薊を置いてく事に痛みが走るけど、薊を守るにはこうするしかない。

 だから、痛みを顔に出さない様に薊お手製おにぎりを詰め込む。

 うん、美味しい。

 最後に食べるには、最高のご馳走だ。

 …………さて、食事も終わった。

 

「それじゃあ私、まだやる事あるから先に寝てて」

 

「またですか。忙しいですねほんと」

 

「まあね」

 

 薊と軽く話して、船に向かう。

 

「…………おやすみ、薊」

 

「おやすみなさい、また明日」

 

「…………」

 

 船に向かう私の背中にかけられた薊の言葉に、息が詰まる。

 薊の言葉は、もう果たされないから。

 答える言葉を、私は持たなかった。

 でも、答えないと怪しまれる。

 だから、言葉の代わりにひらひらと手を振って、薊に別れを告げる。

 …………じゃあね。

 

 

 

 

 

 決行日。

 黙示録がこの世界に現れる、終わりの始まりを告げる日。

 私は、黙示録が次元航行を終えた先に現れるだろうと予測される地点で、船を待機させていた。

 …………さあ、いよいよだ。

 この世界が少しでも勝てる目を残せる様に。

 私と、私の世界全てを薪と焚べよう。

 そして。

 

「! 来たか!」

 

 ビービーと、やかましく船の計器が鳴る。

 私の視界は特に変わった様子はないが、黙示録が近づいてきている。

 この時を待っていた。

 作戦実行のボタンのカバーを開き、叩きつける様に腕を下ろ──────そうとしたその時。

 

「駄目ですよ」

 

「え?」

 

 横から伸びた手が、私の腕を止めた。

 予想外の事に驚いて腕の先を見ると、そこには…………

 

「やっぱり嘘ついてましたねスノードロップ」

 

「あ、薊⁉︎な、何で⁉︎」

 

 昨日別れを告げた筈の、薊がいた。

 意味がわからない状況に思考が停止して、時間が止まった様な感覚になる。

 そして。

 

 ビー! 

 

 呆ける私を咎める様に、黙示録接近を知らせる警告音が脳を揺らす。

 

「っ、薊、離して!」

 

 それに冷静になって、作戦実行のために薊の腕を振り解こうとするが、薊の力が強くて振り払えない。

 そのまま時間が無駄に浪費されていく。

 そして。

 

 ぱきり。

 

 と、船のモニター越しに見える空に、ひびが入った。

 そのひびはどんどん空に広がっていき、広がるにつれてポロポロと空が零れて、ぽっかりと穴が空く。

 そしてその中から、異様な形の船が現れ出る。

 これは異世界の存在の出現による人の目には見えない空間の異常を、人の目にわかりやすい様にモニターで表現したものだ。

 つまり…………空のひびは、黙示録がこの世界に降臨してしまった事を意味している。

 

「あ、ああ…………」

 

「あれが黙示録ですか。実物を見ると本当にイラつきますね」

 

 作戦が失敗してしまった事に絶望する私を他所に、邪魔した下手人が呑気な声を出す。

 

「っ、薊ぃ!」

 

 それにカッとなって、薊の胸ぐらを掴む。

 

「どうしてこんな事を! 邪魔されなければ、奴らがこの世界に来る事は無かったのに!」

 

 失敗した事の絶望と薊への怒りがない混じって、ひび割れた声が響く。

 だけど。

 

「ええ、知ってますよ。スノードロップがこの船ごとあいつらの船に突っ込んで、スノードロップの世界にワープ。その後に奴らの船をスノードロップの世界ごとこの船に積んだ爆弾で破壊し、痕跡を消す事でこの世界を奴らの目から外すんでしょう? そして、その稼いだ時間で私達の世界がスノードロップの遺したデータで対策を練り、黙示録に相対する、と」

 

 返ってきたのは、驚くほど冷たい、薊の声だった。

 しかも、薊の知る筈のない、私の計画を言い当ててる。

 

「な、何で…………」

 

「何ででしょうね? まあ一つ言いたい事は…………ふざけるなよこのバカ、という事です」

 

「ば、バカ⁉︎」

 

「バカでしょう。嘘つかないでくださいねって言ったのに、嘘ついて私を置いてこうとしたんですから。だから返ったら罰として言うこと聞いてもらいますからね」

 

「い、いやそんな事言ってる場合じゃ…………!」

 

「ああそうですね。黙示録が来てるんでした。それじゃ、行きましょうか」

 

「は?」

 

 行くって、どこに? 

 

「はじゃないですよはじゃ。行くんですよ。黙示録最初の刺客が現れたとこに。ほら早く探してください」

 

 何か黙示録への自爆作戦を妨害してきた女の子が黙示録の刺客を探せとか言ってきた。

 薊のその発言にすっごく飲み込みにくいものを感じるけど、薊のいう通り来てしまった以上私の自爆作戦は使えない。

 なら、少しでも被害を抑えるために戦わないと。

 …………この出来たばかりのギアを私が使えるかはわからないけど。

 それでも、やるしかない。

 そう思って、釈然としない気持ちながらも黙示録の位置を探る。

 すると、すぐに1人暴れてるのが見つかった。

 

「じゃ、行きましょう、スノードロップ?」

 

「何で薊が命令してるのかなぁ⁉︎」

 

 薊が、早く出せとせっついてくる。

 それにまた凄い飲み込みにくさを感じながら、船の舵を黙示録に向けた。

 

 

 

 

 黙示録が現れたのは、偶然なのか私達の研究施設の最寄り駅だった。

 その広場で、イナゴみたいな怪人…………黙示録の使者が、暴れている。

 まずい。

 早く行かないと。

 そう思って降りると、何故か薊もついてくる。

 

「よっと。お、あれが黙示録ですか」

 

 船から降りた薊が、また呑気そうな声を出す。

 その態度にいい加減危ないから帰れ、と言おうとしたその時。

 

「あ、スノードロップは下がってください。ここからは危ないですし」

 

「はい?」

 

 どう考えても逆だろってセリフを薊が言ってきた。

 しかし薊はそんな私を無視して、スタスタとイナゴ怪人の元に歩いていく。

 

『ン? 何ダ、オ前ハ?」

 

 それにあっち側も気づいたのか、金属質な声でイナゴ怪人が首を傾げる。

 

「お前なんかに名乗る名はない。さっさと死んでくれ」

 

『ホウ…………我ラニ滅ボサレル人間風情ガ、大口ヲ叩ク」

 

 すると薊が、普段の薊からは考えられない様な乱暴な声で、イナゴ怪人を挑発する。

 当然イナゴ怪人が怒り、薊に対して殺意を明らかにする。

 

「ちょっ…………⁉︎」

 

 その態度に本気で何やってんだこの子は、と遅いながらも止めようとしたその時。

 

「はっ、滅ぼされるのはお前だよ、黙示録。こっちは身内が泣くわ思い詰めるわ自爆しようとするわ私はお前らに何故かイラつくわでめちゃくちゃ腹立ってるんだからね。だから…………」

 

『ファンタズムドライバー!』

 

 薊が、中央に何かを収めるようなスペースのある、両端にボタンが付いた機械…………私が封印していた筈のファンタズムドライバーを取り出していた。

 

「はい⁉︎」

 

「私が滅ぼす」

 

『さあ行きましょうマスター! ドライバーAIリナリアちゃん、マスターとの初陣です! 頑張っちゃいますよー!』

 

「いやちょっと待って!」

 

「うん?」

 

「薊貴女何持ち出してるの⁉︎」

 

 何で薊が、ファンタズムドライバーを持ち出してるの⁉︎

 後リナリアとかいう私がドライバーに仕込んだ覚えのないAIがいるんだけど! 

 私はドライバーの負荷に耐えられる人を有資格者として有資格者かどうかを判断し、サポートするAIは組み込んだけどこんな喋るようプログラミングした覚えはないぞ⁉︎

 

「あー、勝手に持ち出したのはごめんなさい? でもほら、スノードロップも私に黙って色々やってましたし。ここはイーブンって事で」

 

『そうですよー! お母様、リナリアちゃんとマスターの初陣を邪魔しないでください!』

 

「アナタを作った覚えはないわよ!」

 

「えっそうなんですか」

 

「いやなんで薊が知らないのよ!」

 

「いや私が気づいた時には喋ってたんでスノードロップが作ったものかと」

 

『マスターの言う通りです!認知してください、お母様!』

 

「だから作った覚えも生んだ覚えもないわよ!」

 

『何ヲグチャグチャ喋ッテイル!』

 

 薊とリナリアとかいうAIとぎゃーぎゃーしていると、イナゴ怪人が咆哮してイナゴの大群を指し向けてくる。

 

『させませんよ!』

 

『何⁉︎』

 

「おっと。じゃあスノードロップ。そういう事でお願いします。詳しい事はこいつを倒した後で」

 

 それをリナリアがドライバーに備え付けた保護用のバリアで弾くと共に、薊が軽い調子で何かを取り出す。

 それは、白い鍵穴のついた、赤い球体だった。

 

『Fallen!』

 

 薊がその鍵穴を押し込むと、球体の…………ドライバーと並んでファンタズムシステムの中核を為すファンタズムコアの、起動音声が響く。

 同時に空いた手で、薊がドライバーの天面に触れる。

 

『有資格者を認識しました』

 

 今度は私が仕込んだ覚えのあるシステムボイスが響き、ドライバーの天面が開き、コアを装填するスペースが現れる。

 つまり…………どういうわけか、ドライバーは薊を資格ありと見做している。

 この世界の人に、使えるはずが無いのに。

 

「さあ、行きましょうか」

 

『りょーかいです!』

 

 薊がコアから手を離し、鍵穴を下に向けたコアがベルトに落ちていく。

 

『Set,Fallen!』

 

 コアの鍵穴にドライバー内部に生えてる鍵が刺さり、天面が閉じていく。

 

『Loading…………Only Ideal master(貴女だけが私の理想のマスター)…………I will only deal with you(私は貴女とだけ契約する)…………Only Ideal master…………I will only deal with you…………』

 

 ちょっと待った。

 仕込んだ覚えのない音声が入ってるんだけど。

 1人だけの理想的なマスター? 私はあなたとだけ取引する? 

 どういう事? 

 

「…………行きます」

 

 困惑する私を他所に、薊がドライバーのバックル両端のボタンを腕をクロスさせる様に押し込む。

 すると。

 

『Liberate.Awaking THE FALLEN!』

 

 そんなシステムボイスと共に、ドライバーの前面に収められたコアに火が灯り、薊の前に拍動する心臓が現れた。

 次いで心臓から無数の赤と青の血管が現れ、薊に絡みついて、薊の心臓に重なるように心臓が薊の身体に溶け込んでいく。

 全身を這うように血管が薊の身体を覆い、心臓を中心に鎧を形成していく。

 何もかもを吸い込みそうな、黒の鎧を。

 そして。

 

『Ready for …………Fight!』

 

 激励するかの様なリナリアの掛け声と共に、システムによる鎧の形成が完了する。

 そこには…………黒い身体に燃えるような赤い瞳を宿した、戦士の姿があった。

 THE FALLEN。

 落胤の幻想。

 私がファンタズムシステムを設計した際に想定していた、基本形態だ。

 世界には、様々な異種間によって生まれた落胤の伝説が数多く存在する。

 それらは、人と幻想の狭間にあるもの。

 故に、人と幻想、どちらにも親和性がある。

 だから、幻想を武器とするこのシステムにおいて、基本形態とするにはもっとも都合が良かった。

 この姿を基本形態とすれば、負担なく幻想を取り込むことが出来るからだ。

 …………最も、目の前の薊以外は落胤ですら耐えきれないというのが、実情だったが。

 

『何ダソノ姿ハ? 役ニモ立タナイ鎧ヲ被ッテ、気デモ大キクナッタカ?』

 

 変身した薊を見たイナゴ怪人が、馬鹿にしたように下品な声で笑う。

 

「…………行くぞ」

 

 それに薊が小さく答えて、飛び出す様な構えを取る。

 そして。

 

「そぉ…………らっ!」

 

『ガッ⁉︎』

 

 目にも止まらぬ速さで飛んで、飛び膝蹴りをイナゴ怪人に喰らわせた。

 不意打ちの様なその一撃に、イナゴ怪人が体勢を崩す。

 

「まだまだぁ!」

 

 その隙を突いて、薊が更に回し蹴りをしようとするが。

 

『舐メ…………ルナッ!』

 

「⁉︎」

 

 その蹴りは、イナゴ怪人の身体をすり抜けた。

 違う。

 正確には、蹴りの当たる場所をイナゴに変えたイナゴ怪人が躱したのだ。

 

『なるほど、イナゴの黙示録って事はアバドンあたりがモチーフですかねー』

 

「ああそういう…………? って鬱陶しいな」

 

 イナゴに囲まれながら、リナリアと薊が呑気に会話する。

 その合間に手で払ってるあたり本当に鬱陶しそうだ。

 しかし。

 

『余裕ブッテイラレルノモソコマデダ…………! 我ガオ前ノ鎧ゴト喰イ尽クシテクレル…………!』

 

 それがイナゴ怪人の逆鱗に触れたのか、分裂したイナゴ達が薊の装甲に食らいついて行く。

 その時。

 

「じゃあ、逆に食べてあげる。まずそうだけど」

 

『Boost THE FALLEN 』

 

 薊がバックル右のボタンを叩いて、システムボイスを鳴らす。

 同時に。

 

『ナ、何⁉︎我ガ、喰ワレル⁉︎』

 

 薊の装甲が生物の様にうねって、イナゴを吸収していく。

 THE FALLENの特性は、一言で言えば融合だ。

 あらゆる幻想を取り込める様にと設計した関係で、THE FALLEN単独でも相手の攻撃を吸収して、自分のエネルギーとする事が出来る能力がある。

 最も、限度はあるが…………このイナゴ怪人相手なら、一時的なブーストで対応できる様だ。

 逆に自分が喰われている事にたまらず、イナゴ怪人が離脱する。

 しかし、どうやら全部は回収仕切れなかった様で、さっきよりも装甲が減っている。

 

「これ身体に悪そうだし、お返しするね」

 

『Reverse THE FALLEN 』

 

 すると今度は薊が左のボタンを叩いて、システムボイスを鳴らす。

 同時にぐりん、と装甲内部に流れる血管が逆流する。

 そして。

 

「私のイナゴに、食べられちゃいな!」

 

 薊の身体から、黒く染まったイナゴ怪人のイナゴがイナゴ怪人に放出される。

 

『グワアアアア⁉︎』

 

 これが、私がドライバーに仕込んだもう一つの機能。

 能力の逆転だ。

 ファンタズムドライバーは、心臓をモチーフにして開発された。

 心臓は身体中に血液を送る器官であるために。

 幻想と人を融合させるこのシステムにおいては、参考になる部分が多かった。

 そして、参考にしたのは心臓の不具合…………心不全もだ。

 心不全の種類には、心臓から送り出す血液が逆流するものがある。

 それは、場合によっては人に死を齎すものだ。

 生を司る心臓が、死の原因となる。

 私はその点に着目し、装着者の身体を流動するエネルギーの方向を正から負に変える事で、能力を逆転させる機構を開発した。

 それが、先程のイナゴの放出だ。

 THE FALLENは相手を吸収し、融合する能力であるが故に。

 逆転させれば、融合を解除し、相手に放出する能力となる。

 …………しかし、流石黙示録と言うべきだろうか。

 イナゴ怪人は、自分に向けられたイナゴに面食らったものの、すぐに大量のイナゴに分離して逆に薊のイナゴを喰い尽くしてしまった。

 

『…………ハ、ハ! 所詮、人ノ鎧カ! 傷ツケドモ、我ヲ倒スニ能ワズ!』

 

「うーん、倒される気もしないけど、確かにこのままだと埒が明かないなー」

 

『ならアレを使いましょう、マスター!』

 

「オッケー!」

 

 そういうと、薊が灰色のコアを取り出す。

 

『Iron maiden!』

 

 そしてドライバーから今のコアを取り出し、新しいコアを装填してバックル両サイドを叩く。

 

『Fusion.Combined THE IRON MAIDEN!』

 

『ナ、何⁉︎』

 

 次の瞬間、薊の手に鎖で繋がれたアイアンメイデンが出現した。

 THE IRON MAIDEN。

 アイアンメイデンの幻想。

 実在するかどうか疑われているこの拷問器具は、拘束/解放を司る幻想の丁度良いモチーフだった。

 

『Finish Mode!』

 

 薊が両サイドを叩いて、必殺待機形態に移行し、装甲内部のエネルギーが大きく躍動する。

 同時にアイアンメイデンが巨大化し、薊がそれを振り回し始める。

 

「どれだけ殴ってもバラバラになって回避されるなら…………全部この中に閉じ込めてあげる!」

 

『Charge THE IRON MAIDEN! Burst Strike!』

 

『我ガ、封ジラレル⁉︎』

 

 振り回したアイアンメイデンをイナゴの群れに投げると同時に、再び両サイドを叩く。

 すると、アイアンメイデンの扉が勝手に開き、イナゴ達を吸い込んでいく。

 そして全部を吸い込んだ時、勝手にアイアンメイデンの扉が閉まった。

 

『さあ、決めちゃいましょう、マスター!』

 

『Set,Fallen!』

 

『Finish Mode!』

 

「さあ、お前達にも終末の時が来た。潔く、滅びろ」

 

『Boost 』『Boost 』『Boost 』『Boost 』

 

 薊が左右交互にボタンを合わせて4回叩く。

 すると、本来混ざらない筈の正と負の流れが混ざり合い、螺旋状のエネルギーを形成していく。

 そして。

 

『OVER CHARGE THE FALLEN! SPIRAL OVER…………FINISH!』

 

「はぁっ!」

 

 再び両サイドを叩いた薊が、螺旋上のエネルギーを纏いながら、飛び上がる。

 そのまま足を突き出し、身体そのものをドリルの様な螺旋エネルギーで包みながら、アイアンメイデンに向かって落ちていく。

 

『我ガ、滅ビル…………⁉︎』

 

「そう。だから早く、消えて」

 

 アイアンメイデンに蹴りが命中し、ブラックホールの様に螺旋の先端に削り吸い込まれていく。

 

『ガ、ガアアアアアアア!』

 

 そして、イナゴ怪人の断末魔と共に、アイアンメイデンが消え去った。

 中にいる、イナゴ怪人と共に。

 

「ふう」

 

『お疲れ様でしたー! いやー、流石マスターですね! リナリアちゃんの理想のマスターなだけはあります!』

 

 怪人が完全に消えたのを確認して、薊が変身を解く。

 

「…………これで、文句ない?」

 

 不満そうな顔をした薊が、私を見る。

 それに対して、私は…………

 

 

 

 

 

 

「いやー、いつ思い返してもすごいですねぇ」

 

 胸に抱えたドライバーを元の位置に戻し、思い出に浸るのを打ち切ります。

 そろそろ時間です。

 それにしても、いつ思い返してもあのあたりの薊はすごかったですね。

 隠してた筈なのに、私の自爆計画を完璧に読んでましたし。

 もう完璧に、私にとってのヒーローでしたよ。

 何せ、使えないと思っていた筈のファンタズムドライバーを見事に使いこなして、黙示録を華麗に倒したんですから。

 あの後聞いた話だと、私の作った覚えのないAIであるリナリアに聞いたって言ってましたけど。

 …………当のリナリアが戦いが終わってから沈黙を貫いているから、今は確認しようがないんですよねぇ。

 あの後なし崩し的に黙示録との戦いにもつれ込みましたから、戦いの最中だとリナリアの正体に関してとか聞いてる余裕とかあまりなかったですし。

 一応こちら、というか薊のためにしか動いてませんでしたし、そもそも薊のメンタルが結構ヤバかったので迂闊に探ると碌でもない事になりそうでしたし。

 …………それにしても。

 

「…………昔の私、相当ダメですねえ…………」

 

 今だから言える事ですけど、あの時の私は周りを見てるようで見てませんでした。

 過去の私は、自分が最悪な間違いを犯してしまった事ばかり見ていて、薊を置いてく事で薊がどれだけ傷つくか、予想出来なかった。

 あの後、薊にめちゃくちゃ泣きつかれたんですよね。

 それで、罰としてもう2度と勝手にいなくならないでって約束をする事になって。

 …………いやー、あの時は薊がぐしゃぐしゃの泣き顔になってて、流石に罪悪感がマッハでした。

 だってあの時の薊の行動全部、私のためですもん。

 流石にそれで反省して、人をもっとちゃんと見る様になったんですよね。

 …………そしたら、黙示録のせいで色々と薊がヤバい事になって今に至ってしまったのは、少し、いやかなり心に沈んできますけど。

 まあ最近は元気になり始めてるし、椿さんっていう昔の薊にちょっと似た人を見つけたから良い方に向かうと良いんですけど。

 …………さて。

 思考を一旦打ち切り、ドライバーのメンテナンスベッドを見ます。

 

「…………やはり、異常無しですか」

 

 そこには、異常無しの表示がありました。

 これはおかしい事です。

()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()

 薊はどうやら自分の精神が相応しくないからドライバーに見放されたと考えている様ですが、それはあり得ません。

 何故なら…………私は身体的にドライバーの運用に耐えうる有資格者の識別AIは作成しましが、そんな精神性を測るような機構は搭載した覚えが無いからです。

 故に、薊が使えないのなら、それは薊の身体に問題がある筈なんですが…………薊の身体は健康体そのものです。

 だから、薊はこのドライバーを使う事が出来る筈なんです。

 薊になるべく戦ってほしくないのもあって私は黙ってますが。

 これは、戦いが終わってから今まで、私の中で燻り続けている謎です。

 そして…………先程も言いましたが、リナリアという存在も謎です。

 薊はあのAIを通して私の計画の全てと、ファンタズムドライバーの使い方を知っていました。

 恐らくこれは、私がドライバーの近くで自爆計画を進めていたのを、ドライバーのセンサーを通じて把握していたんでしょう。

 事実、少し突っ込んで聞いてみるとドライバーのセンサー外でやってる作業については、リナリアも薊も全く知りませんでした。

 だから、彼女がドライバーの内部にいるのは確かなのですが…………私は彼女を作った記憶がありません。

 何故生まれたのか、何故薊を唯一の理想的な主人と認めているのか、全て謎です。

 当のリナリアは、ずっと黙っていますから。

 そして…………薊という存在も、謎です。

 薊は、この世界の人では誰も使えない筈の、ファンタズムドライバーを使用できます。

 それどころか、私の知らない仕様外のコア…………薊がドゥームズデイと呼ぶ赤い竜のコアまで生み出しました。

 これで、普通の人と考える方が無理です。

 私は…………ファンタズムドライバーに、そんな人をやめるような機能を、搭載した覚えはありませんから。

 確かに幻想の力と融合はしますが、変身解除時の分離機構に関してはかなり安全に気を使ってます。

 だから、薊の起こした事はあり得ない事象なのです。

 とはいえ、それで私が薊に対する態度を変えることはありませんが。

 だって…………薊がどんな存在であろうとも、私にとって大切な存在である事には、絶望の淵から私を救ってくれたヒーローには変わりませんから。

 ただ…………今までは戦いや薊のメンタルを理由にして、敢えて回答を先送りにしていたこれらの謎に、そろそろ向き合わないといけない気がします。

 今、薊は変わろうとしてますから。

 断ると思っていた私の提案を飲み、椿さんを受け入れた薊はこれから先、間違いなく変わるでしょう。

 それはつまり、今の薊にとっての停滞している様な日常が、大きく動く可能性を示しています。

 その時…………これらの謎を放置していたら、きっと薊にとって良くない事が起こる…………そんな予感があるのです。

 正直、どう深掘りしても、知りたくなかった真実が出る予感しかしませんが、未だ存在する黙示録の残党に抉り出されるよりかはマシでしょう。

 

「…………じゃあね、リナリア」

 

 沈黙を貫くドライバーに挨拶し、隠し部屋を後にします。

 その奥に、薊の謎を解くという科学者由来の好奇心と、薊を心配する親の様な気持ちが混ざった様な決意を秘めて。

 さあ─────探究を、始めましょう。

 

 

 

 

 

『…………音切、椿。貴女なら…………マスターを、救える?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




回想で新キャラを出しましたが一応今後の展開に出てきます。
以下補足
ファンタズムドライバーの外観:ドレッドライバーの真ん中とデモンズドライバー組み合わせた感じの外観。
デモンズドライバーの最初にスタンプ押すとこがヴィジョンドライバーの指紋認証部分兼アイテム装填スロットの蓋になってるイメージ
自動で開いて自動で閉まる。
コアの外観:概ね半透明の球体にノクスカプセムみたいな鍵穴ボタンが付いている。
変身時にドライバーの両ボタンを叩く事で内部で鍵が回って解錠されるイメージ
装填時のイメージはスペクターが眼魂装填する時のイメージ(要は落とすやつ)
基本形態のイメージ:ドレッド零式をヒロイックにしてマフラー外した感じ。
割とシンプル
あ、コアのモチーフと黙示録の敵モチーフを活動報告欄に書いてもらえると嬉しいです。
ちなみに待機音のアレに関してはIdeal とI dealがなんか切り方次第で違う意味になるのがツボになったので考えた奴なので文法に自信は無いです。
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