Good Luck , Raccoon City 【第二部始動】 作:持麻呂
「V!なんでアネット・バーキンを逃したの!」
抱き留めたジルから、開口一番でそう言われてしまう。
まぁ、怨み骨髄のアンブレラ絶対殺すウーマンからしてみれば、自分の住んでいる街をこんな風にした張本人*1の1人をみすみす逃したのは我慢ならないらしい。
例えそれをしたせいで、自分が傷付いたり死んだとしても気にしないくらいの剣幕だ。
こちらとしては、まあまあと宥めるくらいしか出来ないが、暗く沈んでいてクレアに抱き抱えられているシェリーを見せる事で、自省を促した。
流石のジルも、親が大罪人とは言え何の罪もないシェリーには含むところも無いので、申し訳無さそうにクールダウンする。
ジルが落ち着いたところで、レオンに無線機で連絡を入れる。
レオンはまだエイダが落下した廃棄物処理室のゴミ溜めまで到達していないようで、どうやら道中ゾンビが多数立ち塞がっており、それの処理に手間取っているらしい。
幸い、ハンドガンの弾はそれなりの数を持っているらしいので、今のところは問題ないようだ。
彼に、もしかしたらアネットとすれ違うか追い付かれるかもしれないが、撃たないでそのままいかせてやれと伝えておく。
無線機からは困惑した返事が返って来るが、間違っても撃ち合いにならないように念を押しておいた。
よそ見をしていたとはいえ、ジルを人質に取るくらいの女に新人警官1人では荷が重いだろうという判断だ。
それは、エイダと合流した後でも変わらない。
それから、我々はこれからNESTというアンブレラの地下研究所に向かう事。
まだどうやって向かうのか不明だが、分かり次第教える事。
レオンもエイダと合流したら、NESTに向かって来て欲しい事を伝えた。
なるべく道中の敵は殲滅しておくようにするので、怪我をしないようにと伝えてから通信を切る。
通信を切る一瞬前に、大きな雄叫びのような音と何かの破壊音が聞こえたので少し心配だが、きっとレオンなら何とかするだろう。
「さぁ、NESTへの行き方を探しましょ。シェリーはどうやって地上まで来たか覚えてる?」
「うん、ケーブルカーに乗ったよ」
「ケーブルカーねぇ。どうやって行ったものかしら」
ここの地図は持っていないので困ったが、とりあえずあっちこっち行けるところをしらみ潰しにするしかないという結論に至った。
この部屋には入ってきた扉以外に2つの扉があり、1つはレオンがエイダを救出しに行った扉で、もう1つは廃棄物処理室にある大型バケットの制御盤の後ろ側にあり、何かを差し込む穴が幾つか開いていて、このギミックを解かないと先に進めないようになっている。
アネットは、このギミックを解除する手段を持っていなかったのかどうかわからないが、持っていたとしても先に解除していなかった所為で逃げられなかった。
「仕掛け扉…どうしてアンブレラはこういう面倒くさい事を好むのよ。腹立つわ」
「見たところ、何かしらのプラグのような物を差し込まないといけないみたいね。ま、このくらいならなんて事ないわ」
ジル達から手元が隠れるように身体で視線を遮り、手のひらからケーブルを伸ばしてプラグを差し込むソケットに差し込んだ。
「あら、ビンゴ」
実際に接続してみると、対応するプラグが繋がっていないと物理的に電気が流れないという構造ではなく、セキュリティを統括しているコンピュータが解錠の信号を送らないだけだったので、ここからデーモンをコンピュータに流し込めば開けられることが分かった。
さっそく解錠して、赤から緑にランプの色を変えたスイッチを押すと重厚な扉が開く。
「それ、どうやってやっているの?」
「ん〜、企業秘密ね。教えても理解出来ないだろうし、そもそも私にしか出来ないわ」
「ケチね。やってみなきゃ分からないじゃない」
ジルが拗ねたように言う。
私は鼻で笑って開いた扉を潜る。
クレアがクスリと笑って、シェリーの手を繋いで私たちの後に続いた。
この扉は何と都合の良いことに、道なりに進むとケーブルカー乗り場のちょうど上の辺りに出ることができ、非常用梯子を通路から降ろすことで乗り場まで行き来できるようになってた。
少し高さがあるのでシェリーが心配だが、先に私が降りて下で待っていれば、喩え足を滑らせて落下したとしても受け止められる。
最初が私、クレア、シェリー、ジルの順番で降りて、ケーブルカーのセキュリティはウィリアム・バーキンのポケットから手に入れたリストバンド型の認証装置を使ってクリアし、電源を入れてケーブルカーを起動させた。
人生で初めて乗ったケーブルカーは、何だかガタガタして正直乗り心地の良い物ではない。
ナイトシティにはそもそもケーブルカーなんて物は無いし、その他でも急斜面は電磁誘導のリフトが大半なため、あまりこう言ったローテクな乗り物に乗るような機会がなかったのだ。
現代人は揺れる乗り物が当たり前なので平気なのだろうが、私からしてみれば乗り物酔い製造機にしか思えない。
もう2度と乗らない。
乗りたく無い…
そう心に誓ったところで、ケーブルカーが終着駅に到着した。
ここがNESTの入り口になるわけだが、完全に無人なのだろう。
空調の微かな音しか聞こえない。
ケーブルカー乗り場を出てすぐのところには三重の隔壁があり、それを開放して通り抜けると受付と警備員が待機する詰所というか宿直室のような部屋があり、室中にはベッドやタイプライター、大きい金属製の箱などが置いてあった。
ロッカーの中を漁るとハンドガンの弾や救急スプレーなんかが入っていたので、後から来るレオンとエイダのためにタイプライターの脇に纏めて置いておく。
少しでも助けになれば良いと思ってのことだ。
シェリーがだいぶ疲れているようなので、もしかしたらレオンも合流出来るかもしれないと20分ほど休憩してから行くことになった。
シェリーが、クレアの膝枕でベッドに横になっている。
子供の身体では、さぞ疲れたであろう。
それに、母親の件もある。
『V、お前と関わるガキは、みんな面倒な奴ばっかりだな。いい加減感心するぜ』
『やめてよ、ジョニー。シェリーは選んであの親のもとに産まれてきたわけじゃ無いんだから』
『世の中の全員が全員、そんな考えの奴ばっかりじゃねぇ。もしこの先、コイツの面倒を抱え込むつもりなら、せいぜい気をつけんだな』
『まだそこまでは分からないわね。もしそうなるようなら、肝に銘じておくわ』
20分経ったが、レオンもエイダも来なかったので先に進むことにする。
セキュリティレベルがⅡの扉を開けると、そこは広いシャフトのような大空間が現れた。
真ん中にエレベーターがあって、そこまでは橋を展開して進むようになっている。
これも、セキュリティレベルが一定以上無いと伸縮型の橋を展開させられないようだ。
ウィリアム・バーキンから入手したリストバンドは、セキュリティレベルが最大なのでどこでも行けることが出来る。
たぶん、G-ウィルスのワクチンは最大レベルのセキュリティが掛かったところだろうから、先にそちらに向かうことになった。
中央にある円形のエレベーターシャフトの周りには、渡ってきた橋を含めて3本橋があり、それぞれレベルⅡとレベルⅢのセキュリティが掛かっている。
この場合、あるとすればレベルⅢになるだろう。
レベルⅢの橋を展開して先に進もうとした時、突如照明が真っ暗になってから2、3秒して赤色の非常灯に切り替わった。
橋も真ん中ほどまで伸びたところで止まってしまい、渡れなくなってしまう。
どうやら、施設の主電源が何らかの原因によって落ちてしまったらしい。
「これ、ケーブルカーも途中で止まってないと良いけど…」
クレアは、レオン達がこちらに来れなかった時のことを心配しているらしい。
「仕方ない。直しに行きましょう」
「早い方がいいわ。施設の電源が切れた時って、大抵良く無いことが起きるから」
ジルが辺りを見渡して、警戒しながらそう言う。
これぞ、経験者は語ると言う奴に違いない。
一応理由を聞いておくと、BOWを保管している容器のロックが外れたりすることがあるようだ。
何か洋館で今回のような状況に陥り、そのような目に遭ったのかもしれない。
一度来た道を戻り、受付のあったエリアまで戻った。
何か情報を得られるものがないかと、再度ロッカーや机の引き出しを物色すると、管理者用の見取り図面が出てきたのでそれを確認する。
幾つか部屋と階段を経由して、メインシャフトに出る点検通路からもう少し行ったところにメインの電源盤があるらしい。
ややこしすぎる。
しかも非常電源状態だと、扉を開けることはできてもロックを解除することはできないようで、セキュリティを解除しておかなかった扉は開けられなくなってしまった。
他の部屋に寄らずにまっすぐに行こうとしてしまった弊害か、電源設備があるところまで繋がっているはずの扉が、悉く閉じられたままになってしまったのだ。
こんな風に最優先目標を真っ直ぐに目指したことが裏目に出るなんて、普通あり得ないだろうに…
さてどうしようと頭を悩ませていると、クレアが急に机の上に乗っても壊れなさそうな箱を持ってきて、その上に乗り出した。
「何をしてんの?」
「V、そこの空調のダクトから、別の部屋に行けないかしら」
「……それは盲点だったわ」
クレアが天井にはめられていた空調の網状カバーを外して、ダクトの中を覗き込む。
左右を見回して、人間が通れそうな太さがあることを確認してくれたので、安全を考慮して私が1人で探しに行くことにする。
「本当に1人で大丈夫…って聞くのは野暮よね。貴女なら、1人でもこの街から逃げ出せそうだし」
「1人なら、取れる手も多いし実際そうねぇ。ジル、2人を頼んだわよ?私たちならともかく、クレアが怪我したらゴリ…クリスが何をしてくるか分からないし」
「あの、兄さんがすみません…」
クレアが私たちのジョークに恐縮したように頭を下げるので、私たちは苦笑いで頭を上げさせる。
それから、ジルにフラググレネードを幾つか渡して、もしここのBOWが出てきたらお見舞いしてやれと伝えた。
「じゃ、ちょっと電源直して来るわね」
ぴょんと床からジャンプして、ダクトの縁に捕まってから逆上りの要領でダクトの中に入り込んだ。
「相変わらず、貴女の身体能力はどうなってるのよ…人間サイズのタイラントって言われても、私は信じるわ」
「BOWと一緒にしないでよ」
下からこちらを見上げているジルが、そんな失礼をこぼす。
ここが地下の研究所ということもあってか、空調の配管は大型で、人間が少し屈めば余裕で移動できる広さがあった。
作りもしっかりしているので、私の体重で天井裏から落っこちる心配もしなくてよさそうだ。
ただ気になる点もあり、空調の中に入ると血の匂いと呻き声のようなものが空気と共に漂って来る。
ラクーンシティで一斉にウィルスが拡散した時も、この施設内では研究が続けられていたのかもしれない。
そもそも地下にあれば、地上がいくら地獄になろうとも関係ないだろうが、いざこの密閉空間でバイオハザードが起きてしまったら、逃げ場のない監獄になる。
いや、緊急事態用の脱出手段はあったのかもしれないが、逃げる暇もなく一気に拡散したのか、それとも拡散させないようにここに封じ込められたのか…
中央のエレベーターシャフトを降りれば、だいたいわかるだろう。
もしそこに脱出手段がなかった時は、その時改めて考えればいいだろう。
或いは、ここを我々の巨大な墳墓にするというのもありかもしれないが、残念ながらみんなが死んでも私だけは死ぬつもりはない。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか。どうかしらね」
空調続きの金網を上から見下ろすと、そこは廊下で照明が全て落ちており、真っ暗で何も見えない。
キロシの機能で暗視モードにすると、白衣を着た研究員が2人ほど地面でうつ伏せに倒れているのが見えた。
もちろん2人とも血塗れで、白衣というより赤衣になっているくらいなので、とても生きてはいないだろう。
仮に生きていたとしても、それは『ゾンビになって』という枕詞が付くことになる。
廊下には用はないので、そのまま先に進みその先の部屋の上に出た。
そこも似たような感じで研究者の死体が複数転がっているのだが、ここのは死体がかなり損壊しており、身体の表面の大半が食い千切られて全身の骨が剥き出しだったり、上半身と下半身が強い力で引き裂かれていて内臓も全て抜き取られているような死体だったりと、とにかく惨状と言うに相違ないような状況だ。
耳を澄ますと、グチャグチャと肉を咀嚼するような音と、壁や床を何かが這い回るようなカサカサともチャカチャカとも似つかない足音のようなものも聞こえて来る。
金網から見える範囲では、何が居るのか分からないので、そのまま先に進む。
だが、空調の配管の中を歩いている足音を聞いているのか、真下から着いてきているような気配を感じた。
次の廊下には、リッカーが3体ほど床で死体を食い漁っているようだ。
先ほどの足音のようなものは、リッカーがゆっくり歩いていた時の音だったらしい。
この廊下は3体だけだと思っていたが、どうやらその奥にもゾンビが1体居たようで、頭部が赤く大きく変異していた。
肉体のほうも、筋肉が肥大化し始めているようにも見える。
もしかしたら、リッカーはゾンビが時間経過によって変異したBOWなのかもしれない。
さて、ここで一つ問題が出てきた。
先ほど宿直室で見てきた見取り図面だと、この廊下の突き当たりにある部屋から、メインシャフトの点検用通路に出れることになっていたが、その部屋まではこの空調の配管が伸びていなかったのだ。
となると、一旦ここで降りなくてはいけない。
至近距離でリッカー3体を相手にするのは面倒だが、やるしかないのでさっさと始末することにする。
銃声を無闇に鳴らすと、他の部屋からBOWがくるとも限らないので、まずは金網をそっと外してからエラッタを抜く。
それから真下に見えるリッカーの1体目掛けて、空調の配管から飛び降りた。
真下に鋒を向けながら飛び降りたので、リッカーの脳みそを上から串刺しにして即死させる。
もう1体は真上から落ちてきた私の踏み台にされて、踏み潰された脳みそが四方に飛び散った。
最後の1体は、音と気配で私に向かって非常に発達した鋭い爪を振り翳して私に切り掛かって来るので、エラッタで爪を弾き返して返す刀でそのまま身体を縦に両断する。
振り向き様に、廊下の奥にいる変異途中のゾンビにブルーファングを投げつけるが、一本が頭に突き刺さっても倒し切れず、再度2本追加で投げて漸く沈黙した。
変異していたからか、そこらのゾンビと比べても耐久性が上がるらしい。
死体からブルーファングを引っこ抜きながら、よくよく観察してみると、本来なら腐敗して骨から肉が剥がれ落ちそうになっているはずだが、この変異ゾンビは体表の皮や肉こそボロボロになっているものの、その下の筋繊維は発達して随分とマッシブになっているように見える。
顔面もだいぶ目が退化していて、ほとんど機能していないのではないだろうか。
ゾンビからリッカーへの変異の過程なんて、誰も見たくはないが、一応勉強になったと思って先を急ぐ。
隣の部屋に続く扉は隔壁のような大きく上下に開くタイプではなく、ロックは特にされておらず人1人分の幅で左に開閉されるタイプだったので、非常電源下でも開いてくれる。
動かなくても、このタイプならゴリラアームで無理矢理こじ開けることが可能だろう。
部屋の中に入ると、そこにはゾンビが居なかったが、代わりに黒い戦闘服に身を包んだ戦闘員が転がっていた。
しゃがんで確認すると、装備の一部にアンブレラ社のマークが入っていたので、コイツらがカルロス達から聞いたUSSと呼ばれる連中なのだろう。
見たところ外傷はほとんどないが、地面に転がっているひしゃげて破れたMP5を見るに、かなり強い力で叩き付けられたらしい。
頸動脈を触ると脈拍があったので、どうやら気絶しているか死んだふりをしているかのどちらかだろう。
さて、どうするか…
高評価、ご感想、お気に入り登録ありがとうございます!!
励みになっております!!
誤字脱字訂正も本当にありがとうございますm(_ _)m
絶賛夜泣きに苦しめられているので、ちょっと文章の構成が変なところや脱字が多いかもしれません…
それと、アンケートのご参加ありがとうございました!
結果は、黙って怪文書書けと言うことでしたので、このまま続けたいと思います。
お察しの良い方はNESTに来た時点で、もうそろそろラクーンシティ脱出だということがおわかりかと思いますが、この小説は最初はラクーンシティ脱出時点で間話を挟んで完結にしようかなと思っています。
ほかのナンバリング作品やバイオ外伝作品を含めて、もう少し続けろや!という方がいらっしゃいましたら、ご感想よりどうぞ
前書きのセーブロード時のストーリーテキスト風怪英文書は
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