Good Luck , Raccoon City 【第二部始動】 作:持麻呂
下水道で酷い目に遭った次の日、早速昨日ワニに喰われた男に成りすましてアンブレラ社に入り込んだ。
社員証は本物なので、行動インプリント*1でソックリの顔をしていれば誰も私が成りすましな事に気付かない。
素知らぬ顔で堂々と歩いていれば、誰も私を咎めないので時折される挨拶を返しながらビルの中を探索する。
このビルの中は社員証にタグ付けされたセキュリティステータスによって、入ることの出来る階層が限定されているのだが、こんな原始的なセキュリティは簡単に電波をジャックして偽装することが可能だ。
入手した社員証のセキュリティステータスは2なので、薬品納入管理部門のある5階まで入ることが出来るらしいが、それより上階にある部門に用事がある時は個別に申請しなくてはならないらしい。
だが問題ない。
エレベーターの社員証を翳すところに、社員証を翳しているように見せながらクイックハックして、この原始的な装置を欺瞞させる。
エレベーターの中にある案内板を見て、1番情報を持っていそうな幹部クラスのオフィスがある最上層階に行くことにした。
幸い、エレベーターに私以外は乗っていないので、誰にも見つからずに辿り着けたのだが気は抜けない。
エレベーター内に監視カメラが有ったのだが、監視カメラが無線ではなく有線だった場合、私の顔が映らなくなるジャミングはどのような形で作用するのか分からない。
絶賛全身モザイク人間がエレベーターに乗っているのを確認されたら、それはそれで面倒事になる。
幹部のフロアに到着すると、フロアとエレベーターロビーを隔てるように壁と扉があり、その脇にトイレがあったので腹を痛めたようなフリをしながら男子トイレに入った。
すぐに光学迷彩を起動して、閉じる前の扉からスルリとエレベーターロビーに抜け出す。
そしてエレベーターロビー内の監視カメラがこちらを見ていないことを確認してから、少しだけ扉を開いて中に滑り込んだ。
フロアに侵入すると、目の前に受付嬢が2人ほどカウンターの中に座っており、一瞬少しだけ開いた扉に気を取られたが、誰も入ってこないことを訝しみながらも視線を手元に戻した。
そのまま脇を静かに通り抜ける。
その際、PING*2を使用して各幹部の個室内に人間がいるかどうかを確認する。
中から反応が返って来なかった部屋の電子錠を解錠し、気付かれる前に中に入ってコンピュータの接続端子に掌からコードを伸ばしてジャックインした。
こちら側の接続端子は形状記憶性の柔軟素材で出来ており、どんな規格の端子でも大きささえなんとか合えば、先端を押し付けるだけで使用することが出来る。
使い終わったら、軽く電流を流すだけで元の形に戻って手の平に収まるようになっているのだ。
大変便利。
こうなっているのも全て、日系企業や欧州企業、合衆国企業が自分たちの規格を押し付けあって譲らなかった歴史が悪い。
流石は幹部の使用しているコンピュータだ。
企業上層部の経営方針や経営状況、どんな研究が進んでいるか、将来どのようなバイオロジカル・ケミカルメディシンを商品として出せるか等の情報がドバドバと出てくる。
それを片っ端から吸い上げて、体内にある記憶媒体にコピーしていく。
詳しい情報の精査は後でやれば良い。
そうは言いつつも、コンピュータ側の回線とコードの転送速度が2077年に比べると非常に貧弱なので、GBを超えるデータのやり取りにはそれなりに時間がかかる。
なので吸い出しながら彼方此方のファイルを開いて、明らかに連邦法を違反した内容がないかと中身を確認していると、『始祖Vについての研究報告書』と銘打たれたファイルを発見した。
決して、私の名前と同じ英単語だから気を引いたなんてことはない。
ただ単に、ここの支社のメインフレームではない別の超大容量*3記憶媒体に収められていたのだ。
『U.M.F.-013』と名付けられたそのスーパーコンピュータは、まぁそれなりに頑張っている性能をしていて、中にレッドクイーンなる初期の防衛用AIが待ち構えていたのだが、ミリテクカントMK6に閉じ込められている不良AIを使うまでもなく、動作不良デーモンを送り込むだけで沈黙した。
しかし、問題だったのがレッドクイーンが動作不良で急に停止したことで、関連して動作させていたサブシステムやルーチンも止まってしまったのか、一瞬で異常事態が起きていることがバレてしまったのだ。
いや、1スパコンや1AIに仕事任せすぎでしょと思いもしたのだが、21世紀にも入っていないのにあれだけのものを作っていたのだから、それは効率化のために使い倒すか。
かなりの金額が掛かっていて量産も出来ないだろうし、仕事が集中するのは仕方ない。
社内ネットワークが大混乱の様相を示しているのを尻目に、ネットを監視しているであろう部門の人間もトラブルシューティングに駆り出されていて、人機両方の防衛装置が機能していない今をこれ幸いと、始祖V関連の研究論文や報告書などを優先してぶっこぬいてやった。
段々と別の部屋の中にいる幹部たちが慌て出したような気配を感じたので、ここまでを引き際と定めて姿を消しながら部屋から出ていく。
そしてフロアから出ていく人の後ろをついて一緒に出て行き、男子トイレに入ってから顔を奪った男に変身して腹を摩りながらフロアの受付嬢に向かって行き、先ほど情報を散々ぶっこぬいた留守の幹部のアポを取る。
もちろん部屋の中には居ないので、再度来るように言われて堂々とエレベーターから下に降りて行った。
監視カメラでは少しトイレにいる時間が長いと思われるかもしれないが、この顔と身分はもう使わないのでどう思われようとも外に出るまでにバレなければ良い。
途中エレベーターに混乱した部署からコンピュータの専門の部署に駆け込むために、何人かエレベーターに乗って来ては降りて行った。
その時に見えた各フロアでは、コンピュータを揺すったり叩いたり、頭を抱えている者の姿なんかを見ることができたので、良い感じに混乱しているようで満足だ。
ちなみにレッドクイーンに対して使用した動作不良デーモンは、遊動性があって1箇所のファイルに留まっていたりしないので、この時代のコンピュータやAIの性能ではデリート出来ないだろう。
まぁ、もし万が一成功したとして、情報断片やらを拾われてアルゴリズムやらなにやらを解析されても面白くないので、一定時間を逃げ回り続けたら勝手に構成データを自己消滅させるようになっている。
たとえU.M.F.-013を物理的に破壊して停止させて、各ドライブを個別に調べたとしても、通電した瞬間に演算装置が無くても単体で自己消滅するのだ。
まるで生きているように、セットアップしたアルゴリズムが機能するのが特徴のデーモンである。
大変美しい。
これを最初に作り上げた人間は天才だと思う。
混乱しているアンブレラ支社を尻目に、堂々としたまま支社ビルを出た。
最後まで誰かに止められることはなかったので、また何かあったら同じような方法で侵入してやろう。
帰ったらデータの整理をしなくては…
数日かけて吸い出したデータの中身を精査してみたのだが、まぁ中々にエゲツないことが書いてあったりした。
やっぱりそれ見たことかと言いたくなるもので、連中は合衆国政府と裏で連んでおり、政府からも補助金を受けながらBOWと呼ばれる生物兵器やウィルス兵器の開発をそれはもうバッチリガッチリと行っていたのだ。
被験体を使っての実験映像なんて、あのジョニーでさえ観るのをやめるような悍ましいものが多く、その数多の実験映像の中には、あのアンブレラがやっていた保護シェルターに保護された、交流のあった若い母親の1人が被験体として映っていたりして、さしもの私も動揺した。
彼女はハエのような醜いバケモノを産む道具にされて5匹産み落とした後、女性としての機能を失い、付随していた記録によればそのまま処分されたらしい。
孤児院に連れて行かれた彼女の娘は、その後どうなっているのか分からない。
まだあの警察署裏手の孤児院に居るのか、誰かまともな人に引き取られたと思いたいが…
これを合衆国全土の新聞社に送りつけてやろうと思ったのだが、たぶん政府検閲が入って即座に握り潰されるだろう。
アンブレラが崩壊して訴訟祭りになれば、社会的経済的混乱も規模が大きいだろうし、裏で政府も一部加担しているとバレてしまえば、政権が吹っ飛ぶどころの騒ぎではなくなる。
後日、試しに大手新聞社にマイルド目な実験映像を添えて、ちょっとしたリークをしてみたのだ。
記者の時点で現政権に忖度されては困るので、きちんと送る相手も現政権とは違うもう一つの政党の支持者を選んで送っている。
もちろん私の保有している技術で、絶対に足がつかないようにした上で送り付けた担当と電話で話をした時、向こうはこれは許されてはならない大問題で大スクープになると憤りながらも興奮していたのだが、急に音信不通になってしまった。
まぁ、十中八九消されてしまったに違いない。
実験的な試みでリークしたが、これではただ可哀想なことをしただけだ。
いつか仇は取ってやるぞ。
『しかしまあ、なんだ。製薬系のメガコーポってのは、どうしてこう倫理がぶっ壊れてんだ?』
「さぁ?やっぱり人体実験したくなっちゃうんじゃない?その方が、より早く副作用や効果が分かるだろうし」
『ハッ、何も知らない一般人は、そんな犠牲の上に生活を送っているなんて知りもしないだろうな。もっとゆっくり開発しても良いだろうに、開発費と時間を削る為に治すはずの人間を材料にしてるんじゃ、どうしようもねぇな』
「これでも共産国の製薬コーポよりはマシなんじゃないかしら」
『資本主義万々歳ってか?どちらにせよ、本質的にクソッタレなのは変わらねえよ』
結局、この情報はあまりにも扱いがシビア過ぎるので、熱血正義警察官のクリスや不正を許せないジル達スターズには教えないことにした。
情報を公開するにもタイミングや時運というのもあるからだ。
何でもかんでも教えたりばら撒いても良いことは何一つもない。
とはいえ、アングラでネット強者しか存在すら知らないダークウェブと呼ばれるところの掲示板に、少しずつ情報を流してみたりしている。
陰謀論者のような連中も居るが、ハッカーやクラッカー、イリーガルな仕事をしている反社会的勢力の連中なんて輩もゴロゴロいるので、興味を持った奴らがネットの暗闇で事実かどうかを知るべくゆっくりと動き始めていた。
そういった連中が、いつか表世界を面白半分に爆発させる可能性があるので、案外バカに出来ない。
ひっそりとタネは撒いた。
あとはこの国の連中がどうするのか、私は高見の見物に洒落込むことにする。
せっかくのスローライフを満喫しているのだから、無理に大リスクの命のやり取りなんて勘弁願いたい。
なお、アンブレラのクズ木端社員をボコって自首させる依頼は、ストレス解消になるので続けていく所存である。
ちなみに、あの夜ボコった3人はその足でキチンと自首しており、今までの自分の罪を大声で喚き散らすようにロビーで告白したことで、流石にアイアンズ署長やアンブレラ側も庇い立てするようなことはせず、会社からは即日解雇の上留置所行きになっている。
近々裁判所と刑務所に移送されるようだ。
その翌日の夜にBar Jackに来たジルとクリスから、一体全体あの3人に何をしたんだと逆に詰め寄られることになったが、ニヤリとだけ笑って知らぬ存ぜぬを貫き通した。
調書にも大変素直に協力しており、聞いてもいないのに話すから匿ってくれと言って、マシンガンのように自分から余罪を増やしていくので、汚職警官達を含めて全員困惑しているらしい。
まあ、調書がサクサク進むのだから大目に見てほしい。
これからそういった連中が度々訪れるだろうから、早く慣れてもらわなくては…
仕事が決まってから、早々にアンブレラ経営の保護シェルターから退去した私は、GUN SHOP KENDOのオーナー、ロバート・ケンド氏のご厚意によりKENDOの裏手にあるアパートの2階に部屋を借りて住まわせてもらっている。
アラサカ防諜部時代やサイバーパンクをしているときに、自分の命を預ける銃火器の手入れを散々していたので、KENDOの就職試験として銃の整備を課題として出されても全然問題無く、むしろ現役警察特殊部隊員のジルやクリス、たまたま一緒に見に来ていたバリーよりも手早く且つ丁寧に分解清掃を終えられた。
腕も生身ではなくゴリラアームなので、多少結合が硬かったりパーツの突起部分が鋭かったりして、本来なら痛くて無理には取れない部品も問題無く引っ剥がせるから、という物理的な理由もあったり無かったり。
ロバートは興が乗ったのか、どこまで出来るのか試したかったのか、ガンショップに勤めるからには射撃の腕も必要だ!とか言い始めて、スターズ三羽烏を引き連れて何故かRPDの射撃場に移動し、ちょっとした射撃大会を行う事になった。
大抵の銃で射撃しても、呼吸によって腕がぶれる事がないし、反動も腕力で抑え込めるし、弾道予測インプラントも積んでいるのでまず負けはしない自信がある。
だが、正直バカ真面目に付き合ってバカスカ的撃ちするのも面倒臭いので、スキッピーを取り出して的を狙う。
ルールは3つ。
1.得物はハンドガンであれば自分のを使っても良いし、ロバートが持って来たハンドガンを借りても良い。
2. 射撃用標的はブルズアイ・ターゲットを使用。
3. 射撃数は10発で、多く的の真ん中に当てた人が勝ち。
簡単なルールだ。
全員が得意のハンドガンを構えたところで、開始のビープ音が鳴る。
パッと狙ってロックオンした的の中心をレティクルに入れて、十回引き金を引き絞った。
スマートピストルの軽い反動は全てゴリラアームにより抑え込まれ、素早く撃ち込まれた弾は多少狙いが甘くても全て的の中心に向かって軌道を修正する。
結果、文句無しで優勝。
晴れて合格の上、素晴らしい腕前を見せてくれたと住処の手配までしてくれたのだ。
更になんと、家賃補助としてGUN SHOP KENDOが月の家賃を半額も出してくれるとのお声も頂いた。
やっぱり、あの物理的に太っ腹は伊達ではなかった!
まあそんな感じで、出社時間2分くらいの場所に住居を得る事ができたのだ。
KENDOでの仕事は、基本的にお客持ち込みの銃器の分解清掃、店内の清掃、棚卸しがメインだ。
販売用の銃器のカスタマイズなんかは、FFLやSOTと呼ばれる資格がいるらしいので私は携わることが出来ない。
なので、ロバートがガンスミスの仕事をしている間に、彼が出来ていないことをするのが私の仕事になっているというわけだ。
ただ、会計の接客は出来ても、その人の求めているオススメ武器の紹介なんかは、まだこの時代の銃器に慣れていないため出来ないでいる。
前の世界線なら、クラフトで作った銃を幾らでも売り捌いて金儲けができたが、今はそうはいかない。
そういったガンショップ特有の仕事のほかに、ここKENDOではもう一つ重要な仕事がある。
それはロバートの一人娘、エマの遊び相手だ。
これがまた活発な女の子なので、おままごとなんかして大人しくしてくれていれば良いのに、ロバートの工房に良く入り込んで作業を覗き込んだり、旋盤や小型プレス機などの危険な機械を触ろうとしたりと腕白女児振りを極めているので、ジュニアスクールから帰って来てから定時までは、彼女につきっきりで構っていることが多い。
店内のカウンターより外側は少し広いので、そこでTag*4をしたり、絶対内緒という約束で2077年からたまたま持ってきていたゲーム機で遊ばせたりと、その時その時で頭を悩ませながら遊び相手をしている。
ジョニーは子供が嫌いなので、基本的にはエマが学校から帰ってくると忽ち姿を消すのだが、私が遂にネタ切れで進退窮まり、仕方なく手慰みでやっていたギターを教えるとなった時、急に聴いちゃいられねぇと言って私の身体をジャックして、真剣にギターを教え始めた。
でも教える曲が全部ロックばっかりで、歌詞も下品だし、まだ子供に教えるには早過ぎると私は思う。
もっとこう、カントリーミュージックとかそういうのから教えれば良いのに、腰抜けのインポ野郎みたいな曲はダメだとか大変失礼なことを吐かして、ロックばっかり教えるから呆れる。
私の顔で子供相手に汚い言葉使いを教えるのも、本当にやめてほしい。
エマがマザーファッカー!!とか言い始めたら、ロバートに殺されちゃうわよ。
高評価、お気に入り登録に誤字脱字訂正、ありがとうございます!!
採用試験にスマートピストルを持ち出すあたり、このV倫理が無い…
あっ、ナイトシティから来た人に倫理なんて最初から無かったや
高評価、お気に入り登録お待ちしてます!!
前書きのセーブロード時のストーリーテキスト風怪英文書は
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読んでるしいる
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読んでるけどいらない
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読んでないけどいらない