Good Luck , Raccoon City 【第二部始動】 作:持麻呂
ハリーの情けなさにため息を付いていると、BOWの舌に貫かれた警官がムクリと起き上がる。
すわ、ゾンビにもう変異したのかと銃口を向けてると、慌てたように両手を上に挙げる。
「待て待て待て!撃つなよVちゃんよ!」
「…ケビン?生きてたのアンタ?」
無様にも串刺しにされたのは、遅刻とツケ飲み常習犯のケビン・ライマンだった。
「よく生きてるわね。ぶっといのでグッサリやられてたでしょアンタ」
「コイツのおかげだな」
そう言って腹を叩くのだが、ちょうど先ほどまで行っていたゾンビ鎮圧用に分厚い防弾仕様のボディーアーマーを着込んでいたようで、ケプラー繊維が突き込まれた舌に巻き込まれて、刺創がケツの穴みたいになっている。
これでよく後ろ側まで貫通しなかったものだ。
「ほんと、運の良いやつね。ウチの店が営業出来なくなって、ツケがチャラになったなんて思ってないでしょうね?」
「ま、まさか。冗談キツいぜ」
「J’s Barのシンディも中々ツケを払わないって言ってたし、アンタツケ飲みし過ぎでしょう」
「勘弁してくれ。イテテ」
「警官なら、あのくらい避けなさいよ」
手を取って助け起こす。
このケビンという男、酒癖が悪いが射撃の腕前はクリスと並んで一流らしい。
スターズのメンバー選抜試験に最後まで残るが、いつも酒癖と遅刻癖のせいで選考から外されるらしい。
まぁ、スターズに受かっていたら今頃洋館事件で死んでいるかもしれないので、やっぱり運がいいのかも知れない。
ちなみに、Bar Jackのツケは300ドルを超えている。
ほんとロバートと言い、マスターも人が良過ぎだろう。
騒ぎを聞きつけ、ジル達スターズが玄関まで飛び出してくる。
屋上からもカルロスたちが走って降りてきた。
「まさかあんな高さから飛び降りるなんて、何考えてんだよ」
「下にクッションがあれば、あのくらいじゃ死なない」
「この嬢ちゃんぶっ飛んでんな!」
タイレルが若干引きながらも笑っている。
「これは…」
ジルが四つん這いBOWの脇にしゃがみ込みながら、その死体を観察している。
どうやら、彼女も初めて見るタイプのBOWのようだ。
長い舌を鞭のように振り回して舐め回すように攻撃するから、差し詰め
日頃BOWの対処をしたりしているUBCSの面々も見たことのない種類だったらしく、つま先でひっくり返して細部を確認したりしている。
「コイツの名前、とりあえずはリッカーで良いんじゃない。それよりも、コイツさっきアパートの壁を這い回ってたから、警察署も2階の窓塞がないとマズイかも」
リッカーととりあえず命名したとき、あの少し嫌な目つきのロシア系がピクリと動いたような気がする。
「相変わらず平然と落ち着いてるわね…でも、もし本当に壁を登れるなら、そうした方がいいかも」
「それにコイツ、脳みそ剥き出しのくせに完全に吹っ飛ばすか蜂の巣にしないと死ななかった。かなりタフね」
「ショットガンを全員持つべきかしら」
「銃の在庫があるならね。弾ならたくさん持ってきてるわよ」
もうわざわざ武器庫なんかに仕舞い込む必要もないため、武器弾薬はメインホールに集積されている。
誰でも好きな時に弾を補充できるので、面倒ごとが少なくいまは好評らしい。
もう盗んだりとかを気にしているような状況ではないし、そもそもこんな時勢にそんなことしたって意味ないからっていうのもあるだろう。
非常時に硬直せず臨機応変に対応できる組織は強い。
NCPDの連中に、RPDの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだ。
それから、30人とはいえ警官達よりも重装備であるUBCSの合流もあって、戦力が増大したRPDは警察署周辺を掃討しながらメインストリートの一部にゾンビを誘き寄せて、地面に設置したC4爆薬でかなりの数を一度に吹っ飛ばしたりと、取れる戦術の幅が大きくなった。
市街地の一掃と市民の保護はUBCSに下された命令と完全に合致するので、元軍人やらで構成された戦闘のプロである彼らの知識や経験は有用で、全面的にバックアップを得たRPDはアパートの部屋に立て籠っている市民を少なからず助けつつも、ゾンビを集めてアパートを崩落させてそれに巻き込むなどし始める。
だが、どうしても犠牲者は出るもので、1人また1人と櫛の歯が抜けるようにRPDやUBCSから戦死者が出る。
ただ、助けられた市民の中から義勇隊のように、銃を手に一緒に戦う市民が現れて、戦闘力は劣るものの人手という面では少し増えた。
9月27日ーーー
この頃になると、緑色をした二足歩行のカエルのような姿をしたBOW、ハンターβが出没するようになる。
ハンターβはリッカーに負けず劣らず素早く、中でも1番厄介なのは首狩りと呼ばれる鋭く発達した爪を活かしたダッシュ攻撃で、完全に避けれないと文字通り首か身体の一部をズタズタに抉り取られてしまう。
それで、最初遭遇した警官が2名ほど首を抉り取るように掻き切られて殉職した。
まだそこまで頻繁には目撃しないが、もし出会った場合はバックショットで動きを止めてからスラッグ弾をお見舞いする戦法が確立されて、余程の閉所で遭遇しない限りは敵では無くなり、火炎瓶も有効なのが判明してからは脅威レベルが下がった。
しかし、この頃になると次第に弾薬の減少が問題になってくる。
KENDOにあった実弾はかなりの数だったが、基本的に拳銃弾とショットシェルがメインで、7.62mm×51ライフル弾や5.56mmNATO弾は元々そこまで売れる弾では無いため、在庫も前述の2つよりは少なかったのだ。
また、かなりの頻度で現れるようになったリッカーやハンターβ、空を群れて飛ぶゾンビカラスやゾンビ犬を比較的安全に処理できるショットガン関連の弾も消費が激しく、このままだと29日頃には底をつきそうだった。
もうそろそろ、この街に無傷で残っている市民も殆ど残っていないだろうと判断され、この警察署を放棄して物理的に寸断されていない高速道路を経由して街を脱出する案が出る。
別地点に降りたUBCSのA小隊並びにB小隊は、何かしらの目的を達成した連絡が無線機を通じてUBCSのD小隊隊長のミハイルの元に届いたのち、26日の夕刻をもって突如連絡が不通となった。
ミハイルもA小隊B小隊の合流はもはや絶望的であり、すでに全滅したと判断して脱出案に賛成し、これで作戦は成功したと見てまだ安全が確保されている警察署前にならUBCSの輸送ヘリを呼べるかもしれないと、UBCS本部に連絡を入れるとヘリコプターを4機送ってくれることになったらしい。
ただし、なにやら政治的な問題が起きているのか、ヘリの派遣は28日の夜になるとのことだった。
もしUBCSのヘリコプターが約束通り来たとして、彼らの使用している輸送ヘリは20人ほどのれるらしい。
現在残っているRPDは28人、UBCSは20人、ラクーン総合病院関係者+消防士+市民は57人の合計105人。
25人は溢れる計算だが、元々は軽戦車を先頭として装甲を施した護送バスで脱出する予定だったのだ。
市民とRPDの女性警官を優先して、残りの25人は引き続き陸路での脱出を目指すこととなる。
9月28日ーーー
夜までゾンビを近付けさせないようにする為に、私とカルロス、マーフィーの3人は屋上にしゃがんだり寝そべったりしながらライフルを構えていた。
バリケードから漏れて、このセーフエリアに入ってきたゾンビやゾンビ犬、そもそもバリケードなんて有って無いようなリッカーやハンターの頭を3人でぶち抜いているのだ。
いまもアパートの壁を登って越えてきたリッカーを狙撃して、上半身を粉微塵にする。
やっぱりグラード OVERWATCH*2は良い。
大口径なので、ゾンビなら掠っただけでも致命傷を与えられる。
「スッゲェ威力だなぁ。そんな狙撃銃、よく街のガンショップに置いてあったもんだぜ」
マーフィーが、スコープの先で下半身だけになったリッカーを見ながら、感心したようにそう言ってくる。
「まさか、これは私のよ。貸さないしあげないけど」
そもそも、クロームといったサイバネティクスの装備を前提としているので、伏せ撃ちでも肩とかを壊すのではなかろうか。
「ちぇっ、ちょっとくらい使わせてくれても良いじゃねぇか。減るもんじゃ無いし」
「バカね、弾は減るじゃない」
この街のいったいどれだけの人口が、ゾンビに変わってしまったのだろうか。
よっぽど運が良く無いと、家に立て籠っていても臭いだか音だかで嗅ぎ付けられて、ドアをぶち破ってそのまま餌になるだろう。
私やカルロス達がサイレンサー付きの狙撃銃を使っているのも、なるべく音でゾンビを集めないようにするためだ。
まぁ、私の撃った弾はその後ろの壁やら柱もぶち抜いて壊してしまうので、着弾点は中々の音が鳴っているが…ご愛嬌ってものだろう。
「しかしまぁ、よく俺たちA分隊3人も生き残れたもんだぜ。あのニコライ軍曹もMIAになっちまったって言うのに」
「へぇ、あのロシア人がねぇ」
あの嫌な視線のロシア人の顔が思い浮かぶ。
今のラクーンシティで、単独行動になってしまったら生きている可能性はだいぶ低いだろう。
「あの人ならどこかで凌いでそうだけど、まあ難しいだろうな。夜までに合流出来りゃいいが」
カルロスとしては、なんとなく生きてそうな気がするらしい。
どうやら、話を聞くとニコライと言うらしいあのロシア人は、どうやらスペツナズとかいう世界的に有名な特殊部隊出身のようだ。
確かに特殊部隊の出なら、あの人を値踏みするような観察者の目付きは納得できるかもしれない。
またジャンプでハンターがバリケードを越えて来たので、バリケードから少し離れたところで狙い撃つ。
軽快に上半身がミンチになった瞬間、とんでもない爆発音と衝撃波が警察署を襲った。
しゃがみ撃ちをしていた私は、その衝撃波で後ろにひっくり返り転がりそうになる。
「な、なんだ!? Vがなんかやらかしたのか!?」
「冗談やめてよ!私じゃない!」
爆発の黒いキノコ雲が立ち上っている方を見ると、どうやら1ブロックから2ブロック離れたところが爆心地のようだ。
確かあっちの方にはガソリンスタンドがあったはず…
何がどうして爆発することになったのか不明だが、そんなことよりも不味いことがある。
先程の爆発で、バリケードが一部ズレてしまい隙間が空いていて、そこからゾンビが入り込んでしまっている。
あそこを塞がないと、ヘリコプターが来てくれなくなるかもしれない。
「カルロス!タイレルも手伝って!」
「 V、何をするつもりだよ!」
「何って、あのバリケードを元に戻さないとみんな脱出出来なくなるでしょうが!」
なるべく陸路での脱出は人数が少ない方がいい。
車列が長くなると、後ろの方はゾンビやらに道を塞がれてしまうかもしれないのだ。
最初から護送車1台や2台くらいがちょうどいい。
爆発音を聞いて飛び出して来たRPDの警察官から、ハリーとケビン他数名を選抜してバリケードに走る。
もうすでに30体ほど入り込んでいるので、彼らと連携して掃討しながらバリケードに近付く。
なんとかバリケードに取り付くと、向こう側からの圧力が大きく押しても中々動かない。
更にその向こう側からかなりの数の唸り声が聞こえてくるので、上手投げでF-GX プラググレネードとCHAR 焼夷グレネードを幾つか放り込む。
爆発の後に一気に押すと少しズレたので、カルロス達もバリケードに取り付いて一緒に押し込んだ。
後もう一息というところで、一体のゾンビが隙間に挟まってしまう。
「退いて!」
ゴリラアームのパンチでゾンビの頭を砕き、胸ぐらを掴んで上半身を引きちぎる。
それから思いっきりバリケードを蹴り込み、最後まで押し込んだ。
それから急いで全員でバリケードを地面に固定した。
これで一先ずは大丈夫だと思う。
顔についたゾンビの脳漿を袖で拭い取り、ふと視線を感じて後ろを振り返ると、カルロス達が口を半開きにしていた。
「なに、みんなアホ面晒して」
「…人間って、素手で上半身引き千切れるんだね」
「…あのクリスにアームレスリングで勝てんだから、強い強いとは思ってたが……予想以上だぜ」
ハリーとケビンにそう言われて、自分の失敗を悟った。
ついついクロームの性能を発揮してしまったのだ。
「なぁアンタ、新種のBOWじゃないよな?」
「タイレル、ぶっ殺すわよ」
ジョニーには爆笑されるし、RPDのリタやジルにも少し引かれるし踏んだり蹴ったりだ。
あのガソリンスタンドが爆発する原因を作った奴マジで許さない。
…いや、もうこの世にいないかもしれないが、出来るなら地獄まで追っていって息の根を止めてやりたい。
それからというもの、ゾンビ達はともかくBOWがそこそこの群れを成してバリケードを越えてくるようになったので、更に備蓄の弾薬が少なくなっていく。
時たま、タイレルがビデオカメラで私達やRPDが BOWと戦っているところを撮っているが、一々そんなことを気にしてはいられない。
一応理由を聞いてみたら、生きてここから出たらこの映像でアンブレラを強請ってやると言っていたので、まぁそんなものかと思いあまり気にも留めなかったのもある。
ようやく日が沈み始め、夜が徐々に近付いてくる。
約束のヘリが来るまでもう少しだ。
近隣のアパートやビルの中を探して周り、更にかき集めた弾薬をメインホールの机の上に並べると、ゾンビの大群が来たとしても後一回なら撃滅できるくらいは集まった。
後もう少しの辛抱である。
ラクーンシティ脱出に向けて、準備は着々と進んでいる。
ラクーン総合病院の医師でジルの友達であるリンダ・パールは、他の病院関係者と一緒に今有る物でどうやってかワクチンの増産を警察署内で続けており、市民とRPDを優先して接種をしていた。
UBCSは、ここに派遣される前にワクチンらしき物を投与してから来たらしいので、彼らは後回しでいいらしい。
私はコッソリと、リンダからワクチンを一本拝借した。
何かに使えるかもしれない。
遂に約束の時間になった。
UBCSの隊員が、屋上に上がって信号弾を打ち上げる。
緑色に光るそれを目印として、4機の輸送ヘリコプターが飛来してくるらしい。
暫くすると、遠くの方からローターが空気を連続して叩く音が聞こえて来た。
RPDが市民を20人ずつに並ばせて、飛来したらすぐに飛び立てるようにする。
州軍が元々大型輸送ヘリを降ろしやすいように警察署前を整備してくれていたので、それよりは小型の輸送ヘリなら4機余裕で着陸できた。
ヘリコプターの騒音で周辺のゾンビ達が集まって来てしまうので、急いで市民とラクーン総合病院の関係者、RPDの女性警官を乗機させる。
私はジルと陸路で逃げるつもりなので、ヘリコプターには乗らない。
「 V、本当にいいの?」
「ええ、私がいた方が心強いでしょう?」
「それはそうだけど…」
そういうことで、ヘリコプターには私を除いた市民56名と負傷したRPD・UBCS11名に女性警察官6名、あとはRPDとUBCSで行われた籤引きで7名が選ばれてヘリコプターに乗機する。
運のいいケビンとハリー、マービンとはここでしばしのお別れだ。
スターズメンバーは全員陸路組である。
「マービン、メリルにあったらよろしく伝えて。向こうで会いましょう」
「あぁ、娘共々世話になったな。必ず生きて会おう」
警察署の前で握手を交わし、彼らはヘリコプターに乗り込んでいった。
80名がヘリコプターに乗り込んで、いざ出発となる。
ローターの回転数が上昇し、強いダウンウォッシュが埃を巻き上げる。
遂に揚力が重力に打ち勝ち、4機がふわりと空中に浮かび上がった。
激しいローター音を轟かせながら1機ずつ上昇を始め、いまだに炎上しているガソリンスタンドのせいで星の見えない夜空に飛び立っていく。
市民16名と負傷者4名を乗せた3番機が、ちょうど警察署の屋根を超えたところで突如爆発して墜落した。
地面に叩きつけられたヘリコプターは激しく炎上しており、どう見ても生存者がいるとは思えなかった。
エンジンの出力を上げた残りの3機は一気に上空へと上昇するのだが、どこからか撃たれた対空ミサイルを躱すために機体を捻りながら盛大にフレアーを放出させて、なんとか更に2発の対空ミサイルを回避してみせ、そのまま全速力で消えていった。
だが残された我々は大騒ぎである。
一体何がこんな酷いことをしたのか…
「見ろ!あそこだ!!」
1ブロック先のアパートの上に、スティンガー対空ミサイルの発射機を持った大男のシルエットがあった。
奴がこんなことをした下手人のようだ。
「S.T.A.R.S.!!!!!」
「……ジル、知り合い?」
「そんなわけないでしょ!!!」
CAPCOM製のヘリが墜落するジンクスがこの小説にも…!
なんて強い呪いなんだ!!
OBのキャラクターとドラマCD「運命のラクーンシティ」のキャラもぼちぼち出せたかなと思います。
ドラマCDvol1の登場人物は名前だけで既に故人ですが、vol2.3の登場人物は全員ヘリで脱出に成功しました。
九話も掛かって漸くネメシスが登場しました。
T-103君はどこにいるんですかね?
そして、このままだと周囲に弾薬が一発も残っておらず無人の警察署にレオンとクレアが来てしまいそう…
前書きのセーブロード時のストーリーテキスト風怪英文書は
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