「みんなに聞いてほしいことがあるんだ」
翌日の朝、HRの後に教卓に立った一之瀬さんがクラスに呼びかける。その真面目な雰囲気を感じ取ったのかクラス全員が静かになり無言で続きを促す。
「ありがとう、それじゃあいまからクラスの方針について説明するね」
「昨日の放課後に神崎くんと話し合って決めたんだけど」
「お願い!みんなのポイントを私に預けてくれないかな」
思いっきり頭を下げながらそう口にした一之瀬さん。みんなも状況を掴めてないのかざわざわとクラスのあちこちで声が上がりだす。その声が大きくなりすぎる前に神崎くんの鋭い声が喧騒を遮る。
「なぜ集めるのかについては俺が説明しよう」
そうして一之瀬さんの隣に立った神崎くんは続ける。
「昨日、俺達は放課後に星之宮先生のもとに行った。朝告げられた”退学の条件”を確認するためにな」
「その結果赤点は退学というのは事実だと突きつけられることになってしまったが、その回避方法について教えてもらうことができた」
「それは退学者一人あたりに2000万プライベートポイントを使用して退学を取り消すって方法だよ!」
「……一之瀬に言われてしまったが、そういうことだ。この学校ではありとあらゆるものがポイントで購入できる。つまり退学の取り消しも購入する事ができるそうだ」
おぉとクラスから感嘆の声が上がる。
「だからポイントを貯めて万が一に備えようっていうのが私達が考えた方針。お願い!協力してくれないかな!」
「俺からも頼む」
二人が頭を下げたタイミングで私は事前に決めていた質問を投げかける。
「はいはーい!それで何ポイント集めるんだし?」
「一人あたり一ヶ月につき1万5千ポイントを残してそれ以外を回収するつもりだ。これで一年でおよそ2000万ポイントになる計算だ」
「ってことは、1年で1人は救えるんだ」
頷く神崎くん。それを見て考えるふりを見せてから私は再び口を開く。
「うん!協力するし!」
「ありがとう!愛ちゃん!」
「代わりにちゃんとクラスのために使ってよ〜」
「もちろんだ。ありがとう、早坂」
「お、俺も協力するぜ!」「私も!」「一之瀬さんが管理するなら…どうぞ」
私の協力宣言を皮切りに協力する流れがどんどん広がっていき、見事全員からの協力を得られた。
「ありがとうみんな!!大事に大切に管理するね!」
こうして私達3人は多額の資金を得ることに成功した。
______________
その日の夜
私達3人は作戦の成功を祝して一之瀬さんの部屋に集まっていた。
「クラスのみんなからの協力を得られたことを祝して〜乾杯!」
「乾杯」「かんぱ〜い」
「いや〜上手く行ってよかったよ〜」
「二人ともお疲れ様」
「あ、あぁ。は、早坂も助かったぞ…」
「んん?どうしたの神崎くん?なんだか様子が変だよ?」
「そ、そんなことない」
そういう神崎くんの目は泳いでいて、あきらかに緊張しているのが目に取れる。
(ははぁ)
「もしかして神崎くん女子の部屋に来るの初めてで緊張してるの?」
「っ!!」
私の指摘に肩を大きく跳ねさせ、冷や汗を流す神崎くん。
「にゃはは、そういうことか〜」
「神崎くんも男の子だね〜」
「く、屈辱的だ…!」
「全然おもしろいものもないでしょ〜?それよりこの料理美味しいよ愛ちゃん!」
「そう?口にあったみたいで良かった!」
「あぁこれはしっかり味が染みていてうまいな」
恥ずかしさから復活した神崎くんもそう言って、机に並べられた私の料理を褒める。
「ごめんね、わざわざ作ってもらっちゃって」
「全然平気だよ。今日は放課後暇だったし、料理は私の数少ない得意なことだから!」
「運動もできて、頭も切れる。おもけに料理もできるなんて…。愛ちゃん完璧すぎるでしょ!」
「そんなことないよ〜」
褒めちぎる一之瀬さんと謙遜する私、そこに神崎くんの冷静な一声が刺さる。
「それより、そろそろ次はどう動くかを決めるぞ」
「そうだね、そろそろ真面目に行こっか」
気持ちを切り替え私達は次に向けて話しだす。
「それじゃあまず、このポイントについて何だけど」
そういった一之瀬さんが携帯を操作すると私と神崎くんの携帯が鳴った。
携帯を手に取り確認するとそこには――
『一之瀬帆波さんから送金の要請が届いています』
と書いてあった。
「は?」「え?どういうこと?」
「神崎くんと愛ちゃんに一部を任せることにするね」
「ど、どういうことだ一之瀬。説明を要求する」
「一之瀬さん、それはだめでしょ。受け取れない」
私達が慌てて真意を問う中、一之瀬さんは変わらぬ微笑を浮かべていた。
「これは私からの信用の証だよ。二人になら任せられるし、もしなにかあったときの保険としても使えるから受け取って欲しいな」
「それに、ポイントがあったほうが動きやすいでしょ?」
「たしかにそうかもしれない、だがそれではクラスで結んだ約束を破ることになるぞ一之瀬」
「うん、私も神崎くんと同意見。一之瀬さんが管理するからこそ、みんなは預けてくれた。それを私達が受け取って使うのは違うと思う」
「もしポイントがなんらかで必要になったならその都度相談すればいいし、持っていないからこそ取れる戦略もあるかもしれない。だからそのポイントは受け取れない」
私達の強い意志を感じたのか一之瀬さんは眉をへの字にしながらも納得してくれたようだった。
「うん、分かった。無理言ってごめんね」
「それじゃあ、もし必要になったら私に連絡をするってことでいい?」
一之瀬さんの提案に私達が頷いたことによって、ポイントの使い道は決まった。