昼休み終盤、私は先輩からもらった過去問を一之瀬さんと神崎くんに共有しに教室へ向かう。
『入手したよ』
そう二人に連絡を入れてデータを送信する。
『分かった。昨日決めた特別棟の空き教室にいるから来てくれ』
(りょーかいっと)
「おまたせ」
「あ、愛ちゃん!お疲れ様!」
「さっき送信されたのがそうか?」
「うん。どうだった?」
「早坂の予想通りすべて同じだった。これでこの過去問は役に立つと考えていいだろう」
「それじゃこれを印刷してDクラスに持って行くでいいかな?」
「うん、今日の放課後に渡すつもりだから、一之瀬さん、残るように連絡お願いしてもいい?」
「――――――」
「一之瀬さん?」
「……ううんなんでもないよ。まかして」
「?ありがと!」
「それじゃあ交渉は任せたぞ、早坂」
「うん!絶対成功させてくるよ!」
そのまま解散し教室を後にしながら私はふと考える。
(さっき一之瀬さん少し不満そうだったけどどうしたのかな?)
(ま、いっかそれより交渉する時のセリフ考えとこっと)
〜放課後〜
私は再び特別棟の空き教室に足を運んでDクラスの人たちを待っていた。
(来るのは…平田くんと櫛田さんは確定として、あと1人くらい来そうなものだけど……)
そんな風に考えているとガラっと音を立てながら後ろの扉を開けて三人の男女が入ってきた。
「遅くなってごめんね。君は…早坂さん…だったよね?」
「そーだよー。一応自己紹介しとこっか、私は1年Bクラスの早坂愛だよ!」
「わざわざありがとう。僕は平田洋介、Dクラスだよ。よろしくね」
「私は櫛田桔梗!同じくDクラスだよ!よろしくね」
二人が挨拶をすると私は残りの黒髪を長く伸ばした子に視線を向ける。
「あなたは?なんていうんだし?」
「…堀北」
「ん?」
「堀北鈴音、Dクラス。これでいいかしら」
(なるほどそういうスタンスの子ね)
「うん、ありがと!今日はよろしくね!」
「よろしくするつもりはないわ。それより早く本題に入りなさい。時間がもったいない」
「そうだね、そろそろ始めよっか。早坂さんBクラスからは今度の中間テストの攻略法が見つかったと聞いたんだけど、それってなにかな?」
「ふふーん、それは〜、じゃじゃーん!過去問で〜す!」
「過去問?」
「うんうん、まずはコレを」
「これは…こないだの小テストかい?」
「そ、でこっちが先輩からもらった小テストの過去問」
そう言って私はこの教室に設置されている電子黒板に過去問を投射する。
「こ、これは……」
「全部同じ問題だよ!?」
「まさか…そういうことなの?」
「そう!まさかなんだけど例年1年生の最初の小テストと中間テストは全く同じ問題が出てるみたいなんだ!」
「これからが本題なんだけど、私達は当然中間テストの過去問も持ってる。それをDクラスに少しの条件をつけて渡そうと思っているんだけどどうかな?」
「そんなの喜んで――「待ちなさい、平田くん」
「即決はダメよ、罠の可能性もあるわ」
「そんな、彼女達が僕らを嵌めようとしてると言いたいのかい?」
「簡単に言えばそうね。まず前提として私達はその過去問が本当に正しいものなのか証明されていないわ」
「で、でもさっき小テストの問題は同じだったよ?」
「小テストの問題を再現するくらいなら難しくはないわ」
「で、でも」
なお食い下がる櫛田さんに私は助け舟を出す。
「あーいいよいいよ。その疑念は当然だし」
「疑うのはいいことだよ?でも逆に堀北さんは何を聞いたら信用してくれるのかな?」
「そうね、じゃあ私達を助けようと思った動機と過去問を思いついた経緯を聞かせてもらえるかしら」
「オッケー、まずは動機からだけどすごく単純で須藤くんに助けてくれって言われたからだよ」
「須藤くんがかい?」
「そう、彼が一昨日の夜に電話で友達を助けてくれって連絡があったんだよね。これが動機かな」
「それだけで助けてくれるの?」
「うん、今言った理由が8割かな」
「ちなみに残りの2割はDクラスとなら良い関係を作れそうだったからだよ」
「まぁ動機についてはそれでいいわ。私が聞きたいのはどうやって過去問にたどり着いたかなのだから」
「じゃあそっちも説明するね」
〜早坂説明中〜
「なるほど!確かに言っていた気がするよ」
「理屈も通っているし信じてもいいと思うな!」
「……そうね、十分に納得できる理由だったわ」
「よかった~。それじゃあ条件の方に移るね―」
3人が頷いて続きを促す。
「まず1つ目にこの過去問を手に入れるのにかかった2万ポイントの半額である1万ポイントをDクラスはBクラスに支払うこと」
「2つ目にBクラスとDクラスで同盟を結ぶこと。今後の行事やトラブルには可能な範囲で協力すること」
「…え、それだけなの?」
「?うん、そうだけどどうしたの?そんな驚いたような顔をして」
「えっと、正直条件が良すぎて少し怖いかなってね」
「1万ポイントの支払い、これはクラスポイントが0である私達にとっては痛手ではある。けれどもこの提案を蹴った場合失うポイントはもっと高くなるかもしれない」
「それにB、Dの同盟についても現状の私達ではBクラスに劣っているとしか言えない。正直この同盟はあなた達にメリットが無いような気がするのだけれど」
「ううん、それは違うよ。」
「堀北さんは同盟におけるいちばん大事な点を見逃しているね」
「見落としている?私が?」
「そう、この同盟最大のメリットは敵が3クラスから2クラスになることだよ。だからどんなにDクラスの戦力が低くてもこれはメリットになり得るんだ」
「それでも僕にはDクラスにとってメリットが大きすぎる気がするよ。これでは対等な関係とは言えない」
「そう?別にいいんだけどね」
私は少しだけ考えるふりをする。
本当は最初から決めていた条件だ。
「……じゃあさ」
「BクラスがDクラスに一回だけお願いを聞いてもらえる権利を追加するでどうかな?」
「もちろん無茶な要求はしないよ」
「うん、僕はそれでいいと思うよ。二人はどうかな?」
「私は賛成!」
「ええ、この条件なら借りもなくていいと思うわ」
「交渉成立だね!」
「それじゃあ、明日今決めた条件をまとめた契約書を作ってここに持ってくるから、明日も1人サインする人がきてね。そしたら互いの担任に提出してポイントの送金が確認でき次第、過去問は送信するから」
「分かったよ。僕がサインするでいいかな?」
「うん!」 「構わないわ」
「よし!これで今日の交渉は終わり!3人とも時間取ってくれてありがとうだし!」
「こちらこそありがとう!またね!」
「今日は意義のある話し合いができて良かったわ。それとあなたのお陰でテスト範囲の変更にも気づけたの。感謝するわ。それじゃあ」
そう言って二人は特別棟から去っていった。
その後を追うように私が帰ろうとすると平田くんが呼び止めてきた。
「どうしたんだし?平田くん。なにかわからないことでもあった?」
「ううん、質問じゃなくて改めて感謝を伝えたいなと思ってね。今回Dクラスを救おうと思ってくれてありがとう。おかげで僕達は誰も欠けることなくテストを乗り越えられそうだよ」
「あはは、いいっていいって。ていうか感謝するなら須藤くんにもしといたら?私が動くきっかけになったのは彼が頼ってきたからだしね」
「そうだね、テストを乗り越えられたら伝えることにするよ」
「それがいいと思うよ。じゃーね平田くん。後一週間お互い頑張ろ!」
(悪いね、友達を助けるためといっても完全に平等とはいかないんだ)
そう心で思いながら私は今度こそ特別棟を後にした。
寮への帰り道私は一之瀬さんと神崎くんに交渉成立のメッセージを送信する。
するとすぐさま歓喜と労いのメッセージが返ってきた。
それぞれに軽く返信をしてから電源を切る。
(あー、疲れた.......。少しだけ1人になりたい)
今日1日で何人と話しただろう。
交渉して、説得して、駆け回って。
面倒なことばかりだった。
それでも。
(なんでだろうなぁ)
胸の奥には確かな達成感が残っていた。