私が集合場所につくとすでにクラスのほとんどの人が集まっており、みんなが楽しそうにおしゃべりをしていた。
「お〜いみんな〜!」
「お!早坂も来たな!」
私が手を振りながらみんなに近づくと、いち早く気づいた柴田くんが反応した。
「やっほー柴田くん、みんな来てるけどもしかして私、集合時間間違えたかな?」
「いいや、合ってるぜ。ただ楽しみだったってだけなんだろ」
「そうだよね?いや〜焦ったよ、みんな早いね〜」
「一之瀬なんて30分ぐらい前からいたんだぜ」
「さっすが私達のリーダーだね!……ってあれ?なんで30分前って知ってるのかな?」
「あ」
しまった、と言っているような顔をして目をそらす柴田くん。
だけどその仕草が、より一層私の考えを裏付けた。
「その反応…ってことは柴田くんもそのくらいからいたでしょ!」
「うっ」
「いや〜柴田くんもなかなか楽しみにしてたみたいだね〜」
肘でつつきながらからかう。多分このときの私の顔は、かなりいたずらっ子っぽい顔をしていただろう。
「そ、そういう早坂は楽しみじゃなかったのかよ!」
「楽しみだったに決まってるじゃん!私こういう打ち上げとか大好きだし!」
そうやって柴田くんと話していると、いつのまにか時間になっていたのか一之瀬さんがみんなを引き連れて店内に入っていく。――私達を置いていって。
「え、あ!やっば!置いてかれてる!」
「え?あ!マジじゃん!やばいやばい!!」
そのことに気づいた私達は慌てて駆け足でみんなの元へ駆け寄る。
「置いて行くなんてひどいし!一之瀬さん!」
「にゃはは、ごめんごめん。なんか二人が楽しくずっと話してるから邪魔しちゃダメって麻子ちゃんに言われてさ」
「んーーー?網倉さーーーん?」
顔をギュッと回して網倉さんに笑顔の圧をかける。
「ごめんごめんごめん!!笑顔でこっちを見つめないで!圧が、圧があって怖いから!」
「んもー、次からは置いて行ったりしないでよね〜」
そうやって私達が言い合っている間に、受付を終えた神崎くんがやれやれといった様子で私達の元へ帰ってくる。
「いつまでやっているんだ、部屋に行くぞ」
「「「はーい!」」」
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それからVIPルームというこのカラオケで一番大きい部屋に移動した私達は、カラオケを思う存分楽しんだ。
私と麻子ちゃんで歌ったアイドル曲のデュエットがクラスを黄色い歓声で満たしたり、ノリノリで歌ってた柴田くんが70点を切ってしまって笑いが溢れたり、その柴田くんが「指名制だ!」って言い出して無理やり歌わせた神崎くんが想像以上の上手さでみんなをびっくりさせたりした。
「神崎ー、次は誰に歌わせるんだー?」
一曲歌い終えて高得点を叩き出した神崎くに、どこかからそんな声がかかる。
「そうだな…」
神崎くんは少し考えた様子を見せてから、顔を上げ口を開く。
「早坂、次はお前に歌って欲しい」
「え〜私?私そんな上手くないから、歌上手大臣の神崎くんの後はキツイって〜」
「いや、お前なら大丈夫だろ…待て今なんて言った!?」
「ほんとに思ってる〜?まぁいいけど、あんま期待しすぎないでよ」
軽口を叩きながら愛ちゃんがマイクを取って立ち上がる。
「ま、待て早坂。お前さっきなんと」
「はいはい座る座る。人が歌うのを邪魔したらダメでっせ歌上手大臣」
森山くんが愛ちゃんの呼び方を真似して、神崎くんをからかいながら止める。
「それだ!そのふざけた呼び方は何だ!?」
「はいはい、静かに静かにー。いちいちうるさい男はいくら歌上手大臣だからってモテないよ」
「網倉、お前まで……」
頭を抱えながらも静かになって座った神崎くんの様子を、楽しそうに眺めていた愛ちゃんはいよいよマイクを持って歌い始める。
「うっま…!!」
歌い始めた彼女から奏でられるとてもきれいな歌声に、今まで楽しく騒いでいたみんなが静かに聞き入ってしまっていた。
「この曲って―――」
私の記憶が正しければ、この曲はとある少女と少女の完璧な主従関係の裏で主人を裏切り続けていた従者の葛藤と、罪を許し合って「対等な親友」へと生まれ変わる二人の絆の物語の曲だったはず。
並ならぬ歌唱力で歌っている愛ちゃんの歌は、本来長い曲のはずなのに一瞬に思えるほどの感覚を私達に与えていき、あっという間に最後のワンフレーズを紡いでその演奏を終えた。
歌い終わった瞬間、一瞬の沈黙があったあと部屋中から万雷という言葉が合うほど大きな拍手が上がりだした。
あまりの衝撃に少し出遅れてしまった私も、慌てて手を鳴らし愛ちゃんを飲み込む波の一つとなる。
「ちょ、みんな大げさすぎ!恥ずかしいって!//」
少し顔を赤くしながらも、まんざらではない様子で声を上げる愛ちゃん。
それでもそんなのお構いなしと鳴り止まない拍手に、完全に顔を真赤にした愛ちゃんは、
「ちょ、ちょっともう疲れちゃった!ごめん帰るね!」
と言って荷物をぶんどるように取って逃げ出していってしまった。
「あ〜ちょっとやりすぎちゃったかな?」
「いや仕方ないだろ!早坂があんなに歌うまなんて知らなかったからな!」
「いやそれな!私達も初めて知ったもん!!」
当の本人がいなくなっても止まない熱狂が場の空気を満たしていて、そのまま解散までのおよそ30分の間、ずっと愛ちゃんの話が話題から消えることはなかった。
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「あれ?これ誰のだろう?」
そろそろお開きにしようということになってみんなが部屋を出た後、忘れ物がないかをチェックしているとシートの下にハンカチが落ちてるのを見つけた。
「ハンカチか…外にいるやつらに聞いてみるか」
「ねぇねぇこのハンカチって誰のか分かる?」
その他の忘れ物がないかをチェックし終えた私達は、部屋の外で待ってもらっていたみんなのもとへ行って、例のハンカチの持ち主がいないかを聞いてみる。
「あー待って見たことある!誰のだったっけなー?」
「愛ちゃんじゃない?」
「あ!そうだそうだ!一之瀬さん、それ愛ちゃんのだよ!」
するといつも愛ちゃんが一緒に過ごしているグループの1人から声が上がって、持ち主が愛ちゃんだってことを私に伝えてくれた。
「あ!愛ちゃんのなの!?じゃあ私が明日渡しておくけどそれでいいかな?」
「一之瀬さんなら任せられるし全然いいよー!」
そうやって私達は解散し、長い長い中間テストを乗り越えたのだった。