学校での生活が2週間程たったある日、
「おはよ、今日の体育どうする?一之瀬さん」
「あ!愛ちゃん!おはよう!」
朝、私が教室に入りながら一之瀬さんに話しかけると、笑顔であいさつを返してくれた。
「水泳の話だよね?たしかにちょっと男子の視線がいやかもしれないけど、クラスのリーダーとして授業には参加するつもりだよ」
「やっぱり偉いね、一之瀬さんは」
「そういう愛ちゃんはどうするの?」
「私は.....」
そうして三限目に件のプールの授業がやってきた。
「やっぱ女子の水着気になるよな!」
「当たり前だろ!一之瀬に早坂、網倉、この学校美人多すぎだろ!」
クラスの男子が騒ぎながら着替えている中一人、無言で特に興味がないように着替える神埼。
「神埼はどう思うよ?」
静観を貫いているとやがて自分にも話が回ってきてしまった。
「おれはあまり興味がないな。だが、この学校に美人が多いという意見には賛成だ」
興味がないと突き放すように答えつつ、一部を肯定することで完全には離れ切らない。これは神崎が今までの学生生活で身につけた処世術であり、彼の会話における切り札の一つだ。
「なんだよ〜、相変わらず神崎はクールだなぁ」
呆れながらも気分を害した様子はなく、口元に笑みを浮かべながら他の男子とまた話し出す。
(水着か......)
彼の脳内に浮かんだのは最初に一之瀬その次に櫛田だった。
どちらもそのプロポーションはすごく、危うく鼻の下が伸びてしまいそうになるのを理性で抑える。
(考えるな、考えるな、考えるな)
そうして授業が始まる時間になりプールサイドに出てきた男子達の目に映ったのは
約二割の見学席にいる女子と、残り8割の女子の水着姿であった。
そしてその中にはさっき名前が出ていた一之瀬、早坂、網倉の姿もあり男子の多くの生徒はその予想していた以上の強い衝撃を受け、鼻の下を伸ばしてしまう結果となった。
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(うっわの男子たちの表情、やっぱ見学したほうが良かったかなぁ)
(でも久々に泳いでみたかったし、何より一之瀬さんに頼まれちゃったしね…)
そうして私は朝のやり取りの続きを思い出す。
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「私は今のとこ参加する気はないかな、正直なとこね」
「そっかー、残念だな」
「やっぱり男子の視線とか気になっちゃう?」
「うん、自意識過剰だとは思うんだけどね」
「そんなことないよ!愛ちゃん私から見てもめちゃくちゃ美人でかわいいから!」
「それ一之瀬さんが言うの?」
アハハと笑いながらも私の授業に対する気持ちに変化はなかった。
「ごめん、どうしても無理そうかも」
「そっか、ううんいいんだよ、人の考え方を否定して強制的に授業に参加させたりしたら、私の目指すクラスじゃなくなっちゃうからね」
(……)
「一之瀬さんの個人的な意見は?」
「ん?なにか言った?」
「一之瀬さん自身は私にどうして欲しい?」
「私自身?」
「そう、クラスのリーダーとか抜きで、一之瀬さんの気持ちは?」
「それは…」
少し言い淀んだ後に口を開き答える。
「私個人的には誰も休んでほしくないかな。人は多い方がいいと思うからね!」
「だから私個人としては愛ちゃんにもプールの授業参加してほしいな!」
「言えたじゃん」
「え?」
「一之瀬さん最近”クラスのリーダー”としてしか話してなかったから」
「あ、、、」
無意識だったのかその事実を指摘され、ハッと息を呑む一之瀬。
「久しぶりに”一之瀬さん”の声が聞けた気がするよ」
そう言ってにっこり笑いながら続ける私。
「それじゃ、私も参加しますか〜」
「え!しないんじゃなかったの?」
「え〜、なかなか本音を言わない人にそこまで言われてやらないのは違うでしょ」
「ほら、そろそろ朝のHR始まるよ!席につかないと!」
まだほうけた顔で立ちっぱなしだった一之瀬さんに発破をかける私。
するとようやくもとに戻ったのか慌てて席に戻って行く。
そうして星之宮先生がやってきてHRが始まる。
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(ここで引くのは、やっぱり違うよね)
恥ずかしさはまだ感じるけど開き直って授業を受けることにした私。
すると久しぶりの水泳だったこともあり、楽しみすぎたのか、気づけば授業時間は残り十分となっていた。
「愛ちゃん!」
手を振りながらプールサイドに上がった私のところにやってくる一之瀬さん。
「楽しんでるね!」
「うん、思ってる何倍も楽しかった!人の視線なんて気にしなければよかったんだね」
「アハハ!そう言い切れるほど楽しめたなら、本音で誘って良かったな!」
「ほらほら、そろそろ先生が言ってた集合時間だよ!行こ!」
私の手を取り引っ張る一之瀬さん。
「ちょ、ちょ、ちょ、一之瀬さん!」
「全員揃っているな!」
全員いるかどうかの確認をとり、話を続ける先生。
「今から男子女子それぞれ分かれて競争してもらう!男女それぞれ一位には俺から特別に3000ポイントをやるぞ!」
みんなが湧き上がりその目に闘志をみなぎらせる。
(3000ポイントか、、、多くはないけど今日のご飯を豪華にできるし、全力でやろっと)
チラッと隣を見ると目を輝かせてやる気に満ち溢れている一之瀬さん。
(負けないよ、一之瀬さん)
運動神経の良い二人、それぞれの一戦目を一位で突破し、決勝で戦うことになった。
「勝負だね!愛ちゃん!」
「絶対負けないからね!一之瀬さん!」
「位置についてよーい―――ドンッ」
「一之瀬さんはやーい」「早坂もすげー」
(陸から声が聞こえてくるけど気にしない。今、気にするのは、戦ってる彼女だけ。他はいらない。絶対勝つ。)
(ひゃ〜、早いなぁ愛ちゃん!最初で飛ばして離しちゃおうと思ったけど……。でも負けないからね!)
「後少しだ!」「頑張れー!」「いけー!」
(後少し!届け!)
(もう少し!行け!)
「ゴール!大接戦の勝者は!
早坂!」
「すげーな!早坂!」「早かったね―ふたりとも!」「一之瀬も惜しかったぜ!」
ヒートアップしたクラスのみんなを止めるように先生が割って入ってきて話しかけてきた。
「おめでとう早坂、後でポイントは振り込んでおくから、そこで休んでいなさい。」
「負けちゃったよ、愛ちゃん速かったね」
「そっちこそ、あんなに接戦になるなんて思ってなかったからびっくりだよ」
「そんな速いなんてなにか運動してたの?」
「習ったりはしてなかったけど今でも毎朝寮の近くをランニングしてるよ」
「毎朝!?凄いね!」
「ここに入学する前からしてたからもう体に染み付いちゃってるんだよね。だから全然苦でもなんでもないんだよ」
「へ〜、私もなにか運動始めてみようかな?」
こうして話していると授業終了時間になり更衣室で着替えを行い、プールの授業は終了した。
なお、男子の決勝は柴田くんが対戦相手より3秒も速いという圧勝で幕を閉じたのだった。
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こうして”本音”が起こした小さな旋風は過ぎ去っていく。
それが何を成したか、どれほどの価値があったのか、まだ誰も知らないまま。