A Cup with Love 作:white flower
吐く息はまだ白いけれど、少しだけ暖かみを感じるようになった冬の終わり。
高校一年生の締めくくりの期末試験が終わってから、彩葉と真実でお疲れ様会をお昼にしてきた。
試験は終わったのに、彩葉の隈が一層濃くなってた。
また、無理したんだろうな。
秘めた彼女への想いが言葉にならないくせに五月蠅い。
彩葉はあんなに頑張っているのに。私は彼女を支えられず、もどかしい気持ちだけが積もる。
何かできることはないかな、でも踏み込んじゃったら迷惑かな、とリビングのソファーに座って頭が堂々巡りする。
そんな時、玄関のほうからどたどたと音がした。
「ただいまー!久しぶり~!野菜持ってきたよ~」
「あ、やーねぇ、久しぶり…」
7コ上の姉、椰花ことやーねぇが半月ぶりに帰ってきた。少し離れた郊外で一人暮らしをしているけど、定期的に野菜を届けてくれる。
よいしょ、と箱一杯に詰まった野菜たちを冷蔵庫の横に置く。
「や!ただいま~。…あれ?芦花なんかあった?」
「いや、別に何にもないよ…」
「…そっか」
冷蔵庫に野菜を一通り詰め終わったのか、あ、おもろい番組やってんじゃんと、私の隣に座った。
疲れたぁ~と息をつく姿は24歳にしてはやけにオジサン臭かった。
ぼ~っと番組をみていると、何度かこっちをチラチラ見てきた、私、なんか付いてる?
「…さっきから何?」
「ねぇ芦花、この後予定ある?」
「?…ないけど。」
やーねぇはにっと笑った。
「よしキタ!おねえちゃんと買い物いこっか!」
「えー…」
今日は何だかもう動く気分じゃないんだけどなぁ…
「…やだ?」
「う~ん」
「じゃ、じゃぁ服買ってあげるからさ!」
「…なんでも?」
なんでもかぁ~と唸るやーねぇ。
「…安めのやつで手打ってくれない?」
「まぁ…いいよ付き合ってあげる」
「やったー!じゃぁ車居るから、準備出来たら来てね~」
「はーい」
久しぶりに芦花とおでかけ!なんて言いながら、車に向かうやーねぇ、いつもそう。急に来ては連れ出して、ちょっとだけ困る。
ま、服買ってくれるならヨシとするか。
「芦花、鍵お願いね~」
「子供じゃないんだから、言われなくてもわかってるって」
車に乗るとやーねぇがどこに行こうかと聞いてきた。
「どこでもいい?じゃあ、GUKRでいい?」
「いいよー」
エンジンが唸り、待ちきれないぜと車がいう。
「それじゃ、お姫様いきましょうか~」
全てに対して、おそれるようなスピードで進み出した。
暫く走っていると、いつもの交差点を行き先とは反対側に曲がった。
「ん?やーねぇ!道違うよ」
「あ、あれぇ?…反対側だったか、やらかした…」
「ちょっとしっかりしてよ…」
はぁ、やーねぇはこういうトコがある、7コも上のくせにところどころ抜けてる。
呆れていると、気まずくなったのか声をかけてきた。
「芦花、最近どう?何か変わった?」
「…別に、あんまり変わんないよ」
「嘘。私、芦花のおねえちゃんだからさ、わかっちゃうんだ」
「…嘘じゃないって」
ウザ…イラついて、文句のを言おうと思い、横を見ると真剣な表情でこっちを見てた。
「…信号変わったよ」
「え!ぁ、ヤバ…芦花、ありがと」
いつもより強めに発車した。
「で、どうしたの、そんなに悩んで」
「…やーねぇには関係ない」
ぶっきらぼうにいった。
「…そっか」
この想いに私自身が解決出来てないのに、伝えたいとも思わない。
こんな時でも、彩葉のことを思うと、少し、気持ちが沈む。
少しの沈黙の後、やーねぇが口を開いた。
「芦花、私ね、恋愛できないんだよね~」
唐突なカミングアウトに動揺してしまった。
「…急に何?意味わかんない」
やーねぇってどこか不思議な部分あったけど、さすがに意味がわからない。
でも、そういうこと?
「…やーねぇは女の子が好きってこと?」
「うーん、そうなのかもね」
「そうなのかもね、ってなにそれ」
曖昧な返事に無性に更にイラついた。
やーねぇはどういったらいいか、わからないのか、少し自信なさげに答えた。
「文字通り、恋愛ができないのよ」
「だから、それって…」
「男にも、女の子にもそういう感情が起きない。とにかく“出来ない”ってこと」
意味はわかるけど、理解が、できない。
冗談ではない事だけは、わかる。
「…」
「芦花と同じぐらいの歳にね、告白されたの。」
「…付き合ってたの?」
そんなことは聞いた憶えがないし、高校時代のやーねぇは大体家にいて、いつも何か本を開いてた。
けれど、私が声をかけるとすぐに閉じて話、聞いてくれたっけ。
「いや、そもそも断った」
「それだけじゃ、恋愛出来ないっていわなくない?」
「それは、そうだけど」
珍しく言いよどんだ。
何か事情があったのかな。
「…悩んだの?」
「まぁね、それなりに」
恥ずかしそうに答えた。
「なんか意外…」
「そう?いつも悩んでばっかだけどなぁ~」
私の中のやーねぇは、兎に角秀才、というイメージがある。
よく親から褒められ、どんなこともそつなくこなし、行動が早い。
でも、彩葉と違って、天才、という感じではなかった。出来ることが多いって感じだ。
「芦花、ちょっと見ない間にさ、メイク凄い上達したじゃん。この前の奴とは、また色変えて、自然ながら一層綺麗に見えるようになった」
「…よく、色変えたって、わかったね。私の動画みてないくせに」
痛いところを突かれたのか、うっとした表情をした。
やーねぇはメイクへの知識が疎いくせに、見る目だけは確かだ。
少しの変化にすぐ気がつく。
最近、忙しそうにしてたのも相まって、なんだか遠くにいるイメージがあった。
でも、私と同じ様に悩んだりしたことを知って、近くにいると感じれた。
…いつもそう、気がついたら黙って傍にいてくれる。
「…あのね、やーねぇ、実は_____
秘めてた言葉にならない想いがぽろぽろと出始めてから、止まらなくなった。
いつの間にか車は人気のないところに止まっていて、やーねぇが暖かく受け止めてくれていた。
「ほら、ココア」
「グスッ…ありがと…」
あれから、かなり長く話をした。いろいろと恥ずかしいことも言っちゃった気がする。
「ねぇ、やっぱり、やーねぇは変だと思わないの」
答えはわかってるけど、やっぱり不安で。
「思わない」
真っ直ぐな言葉に安堵した。
「…そう。」
「そうよ、芦花。普通とは違うは、変じゃない。安心しな。」
抱きしめる力が少しだけ強くなった。
私がそれなりに落ち着いてから帰路についてた。
もう、今抱えてる不安を言い止めるナニカはなかった。
「それでね、どれだけ言っても彩葉すぐに隈作っちゃうし、何かしてあげたいのに、何もできなくてさ…」
「それは酷いな…親の顔が見てみたいわ」
如何にも嫌そうな顔をしながらやーねぇもいう。
「朝何食べたのって聞いたら、水と粉のパンケーキって言ってたし、600円のお菓子あげた時に、5食分って呟いてたの聞こえてさ…」
「はぁ~なんて大変な…いや、まて、何円で5食って?」
流石のやーねぇも困惑するよね。
「600円だって、一食120円!限界生活にも程があるよ…」
ぶちり。そんな音がした。
「一食120円確かここら辺の野菜の値段は都心価格で少し高めだったはずそれでいて性別体格を考慮しても高校生が健康に過ごすには食事はあれぐらいとらないと不足になるもやしだとかおつとめ品だとかを買って済ましても120円に収めるのはかなり厳しいはずつまり栄養はかなり不足気味そのうえで隈が酷いとなると睡眠すらまともにとれていない可能性があるな…」
突如、真剣に呪文を唱えはじめた。
「芦花、いろはちゃんの生活、詳しく教えて」
「え?」
ドスが効いた声だ。
なんか、切れてる。
小さい頃に行ったお祭りで、私にぶつかった男の会社員を捕まえて、怒鳴り散らした時と同じ声だ。
「芦花のいう通りだと、半年もしないうちに倒れる可能性がある」
胸くそ悪いと言わんばかりにいう。
「大人として、それは見過ごせない。介入する。」
急なテンションの変化にビビった、でも頼もしさの方が勝る。
「だから芦花、予定、おしえて」
「は、はい…」
般若ってこんな顔だった気がする…
やっぱ、怖いが勝るかも。
「…って感じ」
「なるほどね、大体分かった。芦花ありがとう」
いろは、本当にごめん。あんたが他の人に気付かれたくないこと、言われたくないこと全部言っちゃいました。
今度、美味しいスイーツ奢ってあげよう…
今すぐ、人をぶっ飛ばす雰囲気が出ていたの許して…
「よし、じゃぁ学校の予定教えて」
「う、うん。もう春休みだから、殆ど休みだけど…」
携帯を取り出して、細かく予定を伝えてく。
「オッケーわかった、いろはちゃんに連絡して、あと真美ちゃんも呼んで。いろはちゃんがバイトない日に皆でご飯行くよ」
「え、でもやーねぇ、仕事大丈夫?」
やーねぇの仕事は農業に関連したものらしいが、最近聞く話では様々なところに出張したりしていて、本当に農業に関連した仕事なのか怪しいほどだ。
それに、前より家に来る回数も減っていて、明らかに忙しそうにしている。
「そんなのは、どうにでもなる。」
ほんとかよと、やーねぇが運転で、前むいている隙にホルダーにおいてあるスマホを覗いた。開かれていたカレンダーの余白の少なさに、悲鳴をあげそうになった。
あれ、彩葉の予定表より余白少なくね?
「いい、芦花。大人はね、子供を幸せにする義務があるの。覚えておきなさい。」
言葉には、やーねぇの大人としての責任感を感じる重みがあった。
「それに、その子が倒れる前でよかった。聞いた限りでも、高校生がやることじゃない。働きすぎ。」
握るハンドルを指でトントンと突いている。苛立ちが収まり切ってないようだ。
「こうして周りの大人に相談する勇気を出した芦花は本当に偉い。よく頼ってくれた。芦花、あなたはいろはちゃんを十分支えてる。誇りなさい」
最後の言葉は、とても優しかった。
「…ほんと?」
「本当」
「…ありがと」
少し、気持ちが軽くなった気がした。
「でも、やーねぇも無理しないでね!」
「…無理はしてないから安心しな!」
流石に嘘だな…