A Cup with Love 作:white flower
春休みのある日、久々の6時間睡眠した後、バイトもないので、二年生に向けた予習をしていたら芦花と真実から連絡が来た。
「芦花、真実、急に呼び出してどうしたの?」
「良かった、彩葉きた…」
何故かほっとする芦花。
「き、急で悪いんだけどさ、彩葉、ご飯いかない?」
「ご飯?あ~…」
なんか、真実の息粗くない?
頭の中で電卓が打たれ、家計や食費、我が女神ヤチヨの推し活分それぞれを考慮した結果。
「ごめん、ちょっと厳しいかも、また今度でもいい?」
「まって彩葉!ぜっったい後悔しないから!」
「あ~その、私の姉ちゃんが予約したところがさ、なんか四人じゃないと入れないっぽくて」
「?」
「いいから、取り敢えずいこ!」
真実が待ちきれないといった感じで腕を掴んで離さない。
いや、真実の力こんな強かったっけ!?
「ちょっと、説明してよ!?」
「いやぁ、それが、姉から送られてきたお店が、真実の琴線に触れちゃったぽくてさ」
「あ~…そういう」
「まぁ、諦めて少し付き合ってよ」
真実の筋金入りの食への探求心は、チャンネル登録者数にそのまま反映されるほどだ。
「いくよ!彩葉~!!!」
「いや、だからまって、私お金ないよ!?」
「大丈夫だから、ほらいくよ彩葉」
「え、ちょっとぉ~!?」
二人に引っ張られ、なすすべなく目的のお店へと連行された。
それなりの距離を歩いた先にはザ・屋敷といった和風建築が佇んでいた。
「ついた~!ここが噂の…ゴクリ…」
「え。ここ!?地元でも中々ない位立派な建物だけど!?」
「ナビはここだっていってるね」
芦花は携帯とにらめっこしながらそう答える。
ホントに行くんですか?今から帰ってもいいですか?
「お!いたいた、芦花こっち~!」
ん?芦花を呼ぶ誰か。
声がした方を向くと、芦花と同じ髪色、ポケットが沢山ついた作業服、黒のスキニーパンツを履いた170㎝くらいの少し高い女性が立っていた。
「あ、椰花さん!久しぶり~!」
「や!おひさ~真実ちゃん綺麗になったね~!」
「え、ほんと?嬉しい~」
「もう、やーねぇ、何処にいたの?」
「さっき着いたばっか、この店、駐車場遠いんだ…」
げんなりした表情でいう女性。
やけに真実と仲いいし、やーねぇ、ねぇ、もしかして、お姉さん?
「あ、彩葉、紹介するね、姉の椰花」
「この子がいろはちゃん?はじめまして。ヤシの木の椰に花で椰花っていいます。」
「はじめまして、椰花さん。酒寄彩葉って言います。芦花さんにいつもお世話になってます。」
「こちらこそ妹がお世話になってます。丁寧にありがとう、よろしくね!」
この人が芦花のお姉さん、芦花に似て綺麗な人だ。流石、姉妹。
「芦花さん、待ちきれないよ~早くいこ!」
「そうね、時間もいい具合だし早速いきますか」
「え、あの、お屋敷ホントに入るんですか!?」
「へ?入らないよ。こっちこっち」
そう言って指したのは屋敷とは反対側の普通の民家。
門の隣にぽつんと置いてある小さな灯籠に、料亭:燕、と書かれていた。
「え、民家?」
「そうよ?ほら、いくよ~」
そう言って四人はぞろぞろと、一見、普通の民家…いや民家なんだけど、料亭へと入っていった。
思ったより安く済みそうで良かった~
「四人で予約した綾紬です」
こちらへどうぞ~
本当に料亭なんだ、定員さんがいて、カウンターでテキパキと職人さんが野菜を切り、隣の七輪でパチパチと魚が焼かれている。わぁ、美味しそう~
「いくよ彩葉、私たちもあれ食べるんだから」
「え、ほんとに!」
美味しそうな匂いに釘付けになっていた。
いかんいかん。
案内された個室に入り、それぞれ席についたと同時に、店員さんから今日の料理についての説明が始まった。
どの料理も美味しそうな響きに、私の理性は半分とびかけていた。
…真実は理性どころか昇天しかけてたけど。
よく来ているのか、椰花さんは普段通り。その反面、芦花は緊張しているようだった。
説明が済んで、店員がでて行くと同時に椰花さんはお花を摘みに席を外した。
「ねぇ、芦花、なんか緊張してるけど、どうしたの?」
「こういう、本当に高いお店って始めてで、ちょっとね」
「いやぁ、星付きのお店に来れるなんて夢みたい…」
「…え?星付き?」
星って、あの星?超一流のお店しか付かないっていうあの?
「ちょ、真実!?」
「あ、やば」
しまった、と青ざめる2人。
嘘でしょ…今月の食費、推し活が…
魂が口から抜けていく感覚がした。
「ん?どうしたの、三人とも青い顔して」
「椰花さん、わ、私帰りますね!招待してくださって非常に嬉しかったんですけど、お金がなくて…」
「あ、そゆこと~。まぁ、取り敢えず三人とも落ち着いて~」
荷物入れに入れていたコートと腕に帰ろうとすると、説明するから、一旦席について。と、いわれガチガチのまま座り直した。
「実はね、このお店、私の仕事のお得意さんでね、お客さんにドタキャンされたって、連絡くれたんだ~美味しい料理勿体無いから、会社の名前で予約取っちゃったんだけど、誰もきてくれなくてね~寂しいお姉さんは芦花に頼んで、二人を呼んだってわけ」
「は、はぁ」
「前払い制だからさ、キャンセルするのも手間かかるし、今日は三人とも来てくれてありがとうね!ここの大将も喜ぶよ~だから、お金は気にしないで、満足するまで食べてって!」
なるほど、そういう事だったのか、でも、なにか引っかかるな_
お待たせしました~こちら___です。温かい内にお召し上がりください。ごゆっくりどうぞ~
私の疑問は解消される前に、出された料理に意識が奪われていた。
この、美味しそうな料理をタダで!?
ひ、久方ぶりのしっかりとした食事が、ダメ、食欲に抗えない…
「…ほんとに、ほんとうにこれ食べていいんですか!?」
「むしろ食べてくれないと、私が困るわね。」
現実味が無さ過ぎて、何度も確認してしまった。
芦花はネットに上げるのか、写真を何枚も撮り、真実は涎を溢れさせていた。
「じゃ、食べる前に乾杯しとこっか。水持った?いくよ~乾杯~」
「「乾杯~!」」「か、乾杯~」
皆でグラスを合わせ、心地よい音が響く。
いくぞ、いくぞ~と恐る恐る出された料理を箸で掴む。
「い、いただきます。……っなにこれおいしっ!!」
料理を口にいれてからは夢中だった。
それは他には2人も同じだったようで、真実に関しては美味しさのあまり泣いていた。
それにつられて私も泣きそうになった。
いや、これホントに美味しk____
___uてーと、気が付いた時には、もう締めのデザートとしてミニパフェが出て来た。
京都の宇治抹茶が使われていて、味の上品さは和菓子のようだった。
ふと顔を上げると、椰花さんはパフェに手を付けず、愛おしそうに私たちをみていた。
その姿に、お父さんの面影を重ねた。あんな風に笑ってたっけな…
それはそれとして、このパフェおいs______
「「「「ごちそうさまでした」」」」
そう言って、私たちは料亭から出た。
美味しすぎる料理って、時間と意識をトばすんだなぁ~
支払いは、と思ったが、そういえば、前払い制なんだっけ。…いくらしたんだろ、いや、怖いから考えるのやめとこ。
あぁ、こんなに満足したのはヤチヨのライブ以来だな…今週も頑張れそうだ。
そして、皆で料理の感想を少し話し合った後、解散することになった。
「「じゃぁ、また今度ツクヨミでね~おやすみ~」」
「またね、二人とも、おやすみ」
「じゃぁね~芦花、真実ちゃん、おやすみ」
あれ、なんで椰花さん残ってるんだろ。
「椰花さんは芦花と一緒に行かないんですか?」
「うん、私は一人暮らしだからね~」
一人暮らしなんだ。
「あ、そうだ、いろはちゃん。ついでに送ってあげるよ。」
「えっ、いいんですか?」
「同じ一人暮らしのよしみ、ってやつ?いいから、のっていきな~」
「じゃぁ、お言葉に甘えて」
「うむ、くるしゅない!」
そうして、椰花さんの車にのって帰路についた。
「いろはちゃんはさ~なんで、そんなに頑張ってるの?」
「母に、認められたくて。」
「そっか、お母さんに…」
「はい」
立派だねぇ~と椰花さんが褒めてくる。
「いろはちゃんがやりたいことはないの?」
「それは…いまは、あんまり…」
「…そっか」
持ってきたはいいものの、箪笥の肥やしとなり果ててるキーボードが頭の片隅をよぎった。
「私はさーいろはちゃんと今日、初対面だけど、芦花から色んな話しを聞てたんだ」
「芦花が変なこといってませんでしたか?」
「全然、あの子がそう思う気持ちが分かったよ」
「?」
ちょっと不思議な言い方をされて、なんて返すか困った。
「とにかく、いろはちゃんは凄い子だってわかったの。でもね~」
「でも?」
「その無理の仕方は、お姉さん見過ごせないかな~」
え?メイクで隈隠したし、そんなあからさまに疲れる様子見せちゃったかな…
焦って顔をペタペタと触ってしまった。
「メイクで綺麗に隈隠してるけどね、高校生がそんなことをしちゃダメよ」
「なんで…ばれて…」
「私、目がいいんだ。それに、お姉さんも似たような経験があるから」
いろいろなものを見透かされているようで、動揺が隠せない。
「大丈夫、とって食べるわけじゃない。ただ少し、真剣な話し」
椰花さんの顔色は変わらない。
「その努力はね、とても凄いこと。でもね、悪いけどツケがどこかでくる。」
いってる事は当然のことだ。でも、私は、頑張らないと…
「いろはちゃん、「「無理をしないで」」」
芦花と真実の声が重なって聞こえた。
「いろはちゃんの家庭の事情だからさ、強くは言えないけれど。家族が頼れないなら、周りを頼って、友達を頼っていいの。」
椰花さんは自分を指差して笑う。
「大人の私ですら、毎日周りを頼って生きてる!だから、私を、大人を、利用しなさい!」
_この世で頼れるんは自分一人や___
母の声が、こだました。
「…はい」
「……。さて、ついたね」
目的地に着きました。とナビの無機質な音声が告げる。
下を向いていた内に、我が家についていたようだ。
「ありがとうございます。」
シートベルト外してコートを羽織りなおす。
「あっ、まって!」
そう言って椰花さんは後部座席に手を伸ばした。
手に取ったのは何かが詰まったレジ袋だった。
「はいこれ」
「これは…?」
「商品にならなかった野菜たち、良かったら食べて」
「いや、流石にこんな量は申し訳ないです!」
袋の中にはトマトや人参などをはじめとして色とりどりの野菜があった。限界生活の私にとっては貴重な栄養源だし、正直欲しいけど。流石にこれ以上は…
手を交差させて受け取れないというが、それを制止するかのように椰花さん続けた。
「みて、このトマト、鳥がつついたから、全体的に見た目が悪くて、出荷できなかったの。少しトリミングすれば全然美味しく食べられるのに」
暗くてハッキリとはみえないが、椰花さんが悲しそうな表情をしているのはわかった。
「あとね、実はこれ真実ちゃんちに箱で渡した後でね、それでもこれだけ余っちゃうの。だから、私としては貰ってくれるとマジで嬉しいんだけど…」
「…っ、わかりました貰います!」
「ホント!ありがと~!」
そう言って、袋を握らされるとぶんぶんと腕を振られた。
ここまで言われたら、貰うほかないよね。
って重!?どれだけ、野菜入ってるんだこの袋。
そんな風に不思議に思っていたら。
「じゃ、私明日仕事だからバイバイ!いい夢みろよ!また、野菜届けにいくからぁーーー……」
ブロロォォォォー…
「え?」
いつの間にか私は降ろされていて、椰花さんを乗せた車は街中へと消えていった。
もしかして、押し付けられた?
なんだか無性に腹が立って。入っていたトマトをその場でかじった。
「ウマッ、え、なにこのトマト…」
生活水準が上がる味がした。