A Cup with Love 作:white flower
かぐやの卒業ライブから5年後。
お昼の暖かな日差しが差し込む研究室の中、ヤチヨが映されたタブレット端末の前で蠢く彩葉がいた。
「あああぁぁぁ…金が、金が足りないぃ…」
『彩葉、予算はまだまだあるでしょ?そんなになの?』
「予算はあるんだけど…」
はぁ、と大きくため息をつけて続ける。
「構想や理論はほとんど完成してて、後は実機を作成して何度も調整を繰り返していくだけ、もっと予算があればその分実機をつくれるから、応じて研究も進むの」
指を顎にあててヤチヨはいう。
『でも、ゆっくりでも進むなら、いいんじゃない?』
それはそうなんだけど…
「例えば、少し離れた所にパンケーキ屋さんがあって、お腹ペコペコな時、徒歩で行けるけど、タクシー使えば直ぐに食べられる!ってなったらヤチヨはどうしたい?」
『それは…タクシー使いたくなるねぇ…』
「でしょ?」
あーお金が欲しい~と2人で天井を仰いだ。
突如、研究室の扉がコンコンと叩かれる。
「所長、お客様様です。」
「あっ、もうそんな時間!?」
今日は研究に出資して貰っている。GCF社ことGrand Color Flower社とのミーティングがあるのだ。
「ごめん、ヤチヨいってきます」
『いってらっしゃい、彩葉』
画面の中で手を振っていた。
年上の部下と廊下を歩きながら、情報を交換する。
「確認なんですが、今日、いらっしゃるのはGCF社の方でしたよね。」
「はい、それが…」
「何かありましたか?」
何か面倒ごとが起きたか、と身構えた。
「いつもの方が体調崩された様で、その代わりに急遽CEOがいらっしゃるとのことで…」
どうしたらいいのかわからないといった様子で、紙を渡された。
「えっ、嘘。本当に代りにくるのがCEO!?」
「つい先ほど、到着と同時に伝えられまして…」
思わず眉間を抑えた。
「…わかりました。連絡ありがとうございます。」
予想していなかった出来事に、身を引き締めた。
この研究を続ける為にも。
GCF社のCEOが待つ扉を開け、いつも通り挨拶をする。
「失礼します。大変お待たせいたしました。当研究所の所長、酒寄彩葉で、す…?」
そこには、馴染みある作業服の女性が一人で座っていた。
「や!彩葉ちゃん久しぶり」
「え、椰花さん!?」
キッパリ整ったスーツを身につけ、部下を引き連れていると思っていたCEOの代りにいたのは、馴染みある親友のお姉さんだった。
「研究服の彩葉ちゃん、芦花の写真ではみたけど、実物見ると一層カッコいいわね~!」
「ありがとうございます。そうだ、いつも美味しいお野菜ありがとうございます」
「いいのよ~」
はっ、いけない、いけない。偶に会う時そのままで接してしまった。今は勤務中なのに。
「それはそうとして、椰花さんはどうしてここに?」
「あっ、そうそう、いつもいってもらってた社員がね、子供の風邪移されちゃったみたいで、調整面倒だったから私がきたの!急な連絡になってごめんね。」
「そうだったんですね、わざわざ来て下さって、ありがとうございます。…ん?」
担当者の代わりにきたって事は
「あっ、そうだ、名刺まだ渡してなかったね」
ゴソゴソと椰花は持参した鞄から、立派な皮の名刺入れを取り出した。
「はいこれ」
「あ、ご丁寧にどうも…」
「さて、改めて、申し遅れました、担当者に代わりミーティングに参加させていただきます。GCF社CEOの綾紬椰花です。本日はよろしくお願いします。」
「え…えええええ!?!?!?!」
貰った名刺には間違いなく、GCF社CEO綾紬椰花と刻まれていた。
「あれ、言ってなかったっけ?」
椰花は首をかしげていた。
「いや、ほんっと、いつもお世話になっております!!!」
「いーのいーの、そんな畏まらないで」
土下座する勢いでお辞儀をする彩葉。
「なんだ、彩葉ちゃん、ほんとにいつも通りでいいから、逆にお姉さんが対応しづらいから」
気恥ずかしそうに、椰花は頭を掻きながらいう。
そこまでいうならと。態度を和らげる。
「ありがとうございます。椰花さん。」
「うむ、彩葉ちゃんはそれでいいのよ」
胸をなでおろす椰花。
「これに関しては、伝えてなかった私が悪いわ」
「いやいや、スポンサーなのに、調べてなかった私が悪いですよ」
「…いや、調べても出てこなかったと思うわよ」
ほら、と椰花は自身の携帯でGCF社のHPを開いてみせてきた、シンプルというより、悪い意味で簡素なものだった。
そういえば、結構前にCEOが芦花と苗字一緒だけど、下の名前だしてなくて、諦めたんだっけ。書面はすべて担当者に向けてだしてくれって言われて、結局調べるの辞めたんだっけ、忘れてたな。
そんなこんなで二人で、もう少し世間話をして空気が和らいだところで、そろそろミーティングしますか、と柔らかくも真面目な場となった。
「さて、担当者から話は引き継いでいます。が、急遽というところもあり、まずは確認からさせてもらっていい?」
「はい。」
先日、送信した資料を机に広げながら話を進めていく両者。
「そこで、気になったんだけど、この予定って、研究数増えたら早く進む?」
「はい、そうです。このページにある通りなんですけど、理論などは殆ど完成していて、実験を繰り返す段階に来ていると我々は判断しています。」
机の上のスライドを指して説明を続ける。
「次のページにある通り、我々に足りていないのは、実験数です。得られたデータの数だけ、研究は加速的に進むのではないかと予想しています。」
「なるほど。」
示された部分を改めて読みなおす椰花。
「じゃぁ、彩葉ちゃん、研究増やさない理由は?」
「それに関しては、このページで、一つの義体の制作対してかかる費用を考慮すると、現状の予算ではこの回数しか出来ないと判断しました。」
「それは本当に予算の都合だけ?」
「はい。」
「あぁ、書いてあるわね。製作する分には本当に問題ないのね。」
「そうですね、この部分だけは予算で解決出来ないんですけど___
こうして細かな部分を詰めていくうちに日は沈んでいった。
「____だから、この予定になっていると。なるほどね、よくわかったわ。ありがとう彩葉ちゃん。」
「いえ、いつも支援して頂いてるおかげです。」
お互い話疲れ、お茶を飲んで、小休止をいれる。
私は不要となった資料を整理し、まとめて話を終える準備をしていた。
椰花さんはこの間にタブレット端末を出して、何か色々と確認していた。そうか、限度額に達してるのか。など、呟いていたが、どういう事なんだろうか。
「よし、決めた。彩葉ちゃん。これ、投資するわ。」
「…え?それ、はどういう。」
もう企業として、相当な金額投資してるのにこれ以上ってどうやって。
「いつどおり、企業としての投資も継続する。けど、会社として、これ以上は出せないから。ここからは、私個人が出す。」
「個人…?」
「はいこれ」
手渡された、さっきとは異なる名刺。投資家、と書かれていた。
「こっち名義なら、もっと出せる。彩葉ちゃんがもつ“ロマン”、もっと教えて。」
先ほどまではなかった、何かを見定める目。
少しだけ、空気が冷えた気する。
直感が告げる。これはチャンスだと。
椰花の目がいう、本当の力、本当の想いを見せてみろと。
「っ!わかりました!椰花さん。この研究の未来は____
それからは無我夢中で語った、唇を噛んでも気にせず話を続けた。
気がついた時には日を跨いでいた。
「___というわけです。だから、投資してください!!!」
最後は勢いだった。
心の中でヤチヨに祈った。
最後の言葉がでてから数刻の沈黙があった。それは永遠のようだった。
椰花の開いた口からでた言葉は、
「最っ高の浪漫だ」
だった。
椰花の顔を見た、それは慈愛のようで、満足そうな顔で、祭りの始まりを待っている。そんな表情だった。
「彩葉ちゃん、その想い証明して見せろ」
そう言って椰花が渡してきた紙には
「ん?…えっと、一、十、百、千…!?!?…ヒェッ」
ひゅるひゅるぱたり。
そこには、意識も疲れも記憶も、研究にかかる年月すら吹っ飛ぶ金額が書かれてたそうな。
_______2年後
「やっぱこっちの方が安定するかな。9型目はどう?かぐや」
「ん〜もぐもぐ、やっぱクソ不味ぃ…めっちゃいいね!味も綺麗に感じる、これだよ、コレ!」
「それは良かった。…大変お待たせしました、お姫様」
「…卒業ライブから、ぴったり7年と7日…かぐやたち、織姫と彦星だったのかな?」
「7しかあってないじゃない…でも、その2人とは違って、私達はずっと、一緒にいられる。二人で美味しいパンケーキ食べて、好きなところに行ける」
「確かに!…ねぇ、ありがとう、いろは…やっと、本当に…」
「もう……おかえり、かぐや…」
「っ…ただいま、いろは…!!!」
溢れる流星群は、願いを叶え終えた。