A Cup with Love 作:white flower
むかしむかし…
いや、そんなに昔じゃなくて、彩葉の研究が大成するよりも、すこしだけ前のお話。
かぐやの卒業ライブから半年後、月が見えないある夜。
「こんばんは、ヤチヨさん」
「こんばんは、綾紬椰花さん」
大衆が楽しむツクヨミの雰囲気は少し離れた、ビジネス感溢れる応接室に2人はいた。
「あのぉ…ここで、本名だされるとちょ~と恥ずかしいんで、プレイヤーネームのHANAYAと呼んで頂いても?」
場の雰囲気に違和感があるのか、ぎこちない椰花。
「すみません、ただ今日はツクヨミ管理人として、少々真面目なお話しをさせていただきたくて」
「…わかりました。でしたら、先ほどの言葉は失礼いたしました。聞かなかったことにしてください。」
ヤチヨの言葉にそういう事ならばと、気持ちを切り替え、真面目な雰囲気になる。
お互い席について、数刻の沈黙のあと、椰花から切り出した。
「…早速、本題の方に入って頂いても?」
わかりました。とヤチヨは真っ直ぐ椰花の方を見つめ。
「では、担当直入にお伺いします。」
「あなたは、何者ですか」
数刻の沈黙の後、椰花が口を開いた。
「…それは一体どういう。」
「そのままの意味です。」
ライバーとして活躍するヤチヨからは想像がつかない程、ハッキリとした冷徹な言葉。
「何者、と言われてもGCFの代表取締役兼、投資家、他にはインフルエンサーROKAの姉です。」
「いいえ、それ以外にありますよね」
「あ、あぁ~創作活動で使ってる、HN:りころぶ。のことですか」
管理者なら知ってるか、と話す。
「…言いたくない、ということはわかりました、ですが、私はツクヨミ管理人として、脅威を見過ごすわけにはいかないのです」
場の雰囲気が一段重くなり、嵐が来るような静けさになった。
「失礼ながら、あなたのデータを集めさせていただきました。」
「はぁ」
ヤチヨが手をかざすと少しだけ文字が書かれたスライドが現れた。
「 “14年前の2016年”のこと、ツクヨミが完成する前に“綾紬“の名義で多大な投資をして頂きましたね。その件については頭が上がりません。」
「…いや、私はツクヨミに投資なんてしてないですよ?それに、14年前って、私はまだ小学生ですよ?」
これでもシラを切るかと、真っ白のスライドを変えて、とある表をだす。
「このグラフは、椰花さん、あなたの“昨日までの投資取引”の表です。」
椰花の表情が変わる、驚愕、というよりは戦闘をするといった顔つきだ。
そこには、 “2012年”から2030年の今に至るまで、金額の推移が記載されていた。
「どうやってこれを…」
「…ツクヨミについてはよくご存知でしょう?」
数年前から始まったツクヨミ。かぐやの卒業ライブ、他会社から取り入れたゲームなどのシステム以外において、通信エラー、その他細かなバグ、情報漏洩は今に至るまで、一切起きていない。
「このセキュリティにおける管理人が私です。」
「…逆にいえば、それを他に使えば、どんなセキュリティも紙同然というわけですね」
説明の最中に理解したのか、苦渋を嘗めた表情でそう答えた。
「理解が早くて助かります。」
さて、と一息ついてヤチヨは続けて、表を折れ線グラフへと変え、とある点を指した。
「ここは椰花さん、あなたの最初の成功と言っていい年でしょう。大量に抱えた暗号資産が急高騰した時、そう2015年です。」
ここはわかります、まぐれなり、なんなりで成功することはあると続ける。
「しかし、先の表に戻ると、この暗号資産を購入したのは2012年、それも異常な量。まぐれはあると言いましたが、見方を変えれば、跳ね上がることが分かったいたかのようです」
「…」
「この大成功の後、2つの事業に投資しました。そして、そのどちらも跳ね上がりました。それだけでなく、投資した配信事業、あの時期は様々なところが乱立したにもかかわらず、あなたが投資した企業だけが跳ね上がり、今も残っています。」
もう十分でしょう。とヤチヨはスライドを消した。
「嗅覚が鋭いでは済ませれない程の大成功の連続、明らかに可笑しい言う他ありません」
「…」
手で目を覆って黙ったまま。
「…私はツクヨミ管理人として世界最高峰の情報通信技術を持ちます。有事の際には、それらを使い徹底的に抗戦します。」
「…そうなった場合、電子機器が主のこの世の中で、まともな生活が送れるわけがない。」
どこから見ても、詰み。椰花は部屋の天井を見上げた。
「理解が早くて助かります」
「…わかり、ました。」
大きく深呼吸をして、俯きながらも椰花は続けた。
「…降参します。すべてお答えします。…何を、知りたいですか。」
「賢明な判断、ありがとうございます。」
ヤチヨからも息が漏れた。
場の緊張は続いたままだが、ヤチヨの勝利が確約された。という意味で少しだけ緩んだ。
しかし、その緩みは直ぐに消えた
「ヤチヨさん。」
「何でしょうか。」
そこに、覚悟をした者がいた。
「私は、これから誠実に物事を話すことを、約束します。」
声が、震えている。
「この命と人生を対価にでも、家族とその周囲には手を出さないで頂きたいのです。」
椅子から立ち上がったかと思うとそのまま、勢い良く、土下座。
家族のため、心身、地位、財産、プライドも何もかもを捨てる覚悟を決めたのだ。
「…わかりました。もし、仮に嘘などを申された場合はそれ限りではないことも…よいですね?」
「わかりました。」
もう、引き返せない。
お互いに席に座り直し、振り出しへと戻った。
「では、改めて。あなたは何者ですか。」
「私は…この地球とは歴史が少し異なる未来で死んだ人間の記憶を持って生まれた。 “綾紬 椰花”という転生者です。ただ、記憶を引き継いだ、といった方が正確ではありますが。」
ありとあらゆる投資が成功してたのは、未来の知識があったからか。
「…なるほど。大体のことには納得がいきました。」
手を顎にあてながら、ヤチヨは頷いた。
「では、今のあなたの目的はなんですか。申し遅れましたが、心拍数や脳波等で嘘はわかりますので、その点を踏まえてお答えください。」
何者であるか、その点もヤチヨにとって重要ではあるが、一層重要なのはその知識の利用目的であった。
「私は…今の家族が不自由なく暮らし、そして全うに働き、妹が健康であり、新しい技術と楽しいことを望み、社員が食いはぐれることなく、法を可能な限り犯さず、後悔なく幸せに過ごすことです。」
「…嘘は、ないようですね。」
普遍的な願いの答えに対して、測定データからも嘘はないという。
「他に喋っていない目的はないですか、はいかいいえで答え、あった場合はその目的を答えてください」
少し、思案した後、これもそうなのかと椰花は口を開いた。
「…はい。別名義で活躍してる創作活動の時間を増やすことと…事業の引継ぎとっとと済まして隠居できるようにすることです……」
思っていたのと違う答えが飛んできたからか、怪訝な顔をするヤチヨ。
「他には?」
「ないです…」
「え、本当に?」
「はい…」
測定データは首を振っている。これも本音であると。
「…いや、こう、野望とかないの?美男子集めて逆ハーレムする~とか、世界一の企業にするとかさ!」
そんなはずはないとまくしたてる。
「…そもそも恋愛する気が起きませんし、転生モノでよくある学力で無双とか、いい大学行きたいとかはもう前世の記憶的に私には不向きだと分かってるので…」
そういう展開は心の底から要らないと、椰花は眉を八の字にしながら答える。
測定データはそれも本音やで、ともう寝そべっている。
「な、なんか意外…」
「はぁ…」
「だって、会社急上昇ランキングにいるGCF社のトップが、あまりに野心ないとはおもわなくてさ…」
配信では見せないような珍獣を見るような目で椰花を見ていた。
「…会社に関しては、私がやりたくてそうなったというより…小っちゃい事業でやってくなかで、地方にお話し聞きに行ったり、色んな人を引き合わせてたり、世の中すこーしだけよく出来たらいいなーって活動してたら、いつの間にか事業が肥大化しちゃって…田舎で土いじりしてたいだけなのに…」
「いや、そーはならんやろ…」
嘘だと言わんばかりの表情で、ナイナイと手を横にふるヤチヨ。
わなわなと震えた後、本当に不本意だ!言わんばかり椰花は叫んだ。
「なっとる、や ろ が い!!!」
それから、それなりの時間を使い、事情聴取を受けた椰花。
「因みに、ヤチヨの事どう思ってる?」
「…トッテモカワイイ、スゴイナート、オモッテマス、ハイ。」
ここに来て初めて、測定データくんからダウト!と判定がでた。
「ふふっ、本音でいいよ~」
恐る恐る口を開く椰花、ほんとに言うのかと、思いつつ、言わなかった時の事を想像した。
「…投資しなければ良かった。こんな脅威がいたなんて…嫌な奴…どうやったらこの脅威から家族を守れるだろうか…です…」
「…まぁ、そうだよね。」
当然の反応だとヤチヨは表情を変えない。
「椰花、誠実にすべて答えてくれてありがとう」
聞きたいことはすべて済んだのか、と安堵のほっと息が漏れる椰花。
「…それは、何よりです。」
なにか測定しなくてもわかる建前の言葉。
「こんな恫喝同然のことをして、ごめんね」
「…は、はぁ。」
突如、刃を首元にあててきた相手から謝罪が飛んできて、反応の仕方がわからない椰花。
「お詫びとしては、なんだけど、これあげる」
会社からの連絡がうるさくて、通知を切ったはずのメッセージに何かが届いた。
“ヤッチョ特製!世界最硬レベルのファイアウォール『火鼠の皮衣』”
「へ?」
「ツクヨミの奴と比べたら、数段性能は落ちちゃうんだけど、それでも突破出来る奴はいないとおもうよ~その分、容量でかいから、そこは気を付けて使ってね~」
呆ける椰花。
「…あ、ありがとうございます?」
「どういたしまして、っていうのもなんかちがうな~」
未だに混乱している椰花に対して、何か思案するヤチヨ。
「ねぇ、椰花」
「は、はい。」
「少し、話聞いて貰える?投資してくれた日の事、私ね_____
2人だけの思い出話はもう少しだけ続いた。
だけど、椰花が様々な真実を知るのはしばらくあとのお話。
・蛇足 今話のきっかけ[※オリジナル設定]
ヤチヨがツクヨミの制作をしているころ、資金調達の一環として投資をお願いしていた時期があった。
今でこそ、何十という企業に支援されているものの、その当時はまだまだ少なかった。
2016年、投資をしてくれた第6人目が“綾紬”であった。
当時の中身は大人な小学生椰花としては、前世の知識で得た暗号資産が急高騰し、将来安泰だぜとか思っていた。その中で、前世にはなかった仮想空間ツクヨミの話を、当時入り浸ってた、ヤチヨのお部屋で知り。勢いそのままに、当時は馬鹿みたいに投資した。
ヤチヨとしては、3回しかあっていない椰花のことはほぼ忘れていて、芦花と同じ苗字の投資家なんていたんだな~程度に思っていた。投資額には驚愕したが、ツクヨミの制作に夢中で、めちゃくちゃ出してくれたありがと〜!程度で、細かい事なんて気にしていなかった。
すべてを彩葉に打ち明けた日の後、そういえば、椰花ってどういう人だったっけと、調べていくうちに、綾紬家の口座の出金記録にたどり着いた。そして、明らかに異様な投資の仕方と成功の仕方をしいることに気がつく。
怪しんだヤチヨは椰花と芦花の両親について徹底的調べ上げた。結果は明らかに白。つまり、おかしいのは椰花であると突き止めた。
そして、改めて調べ上げると、ヤチヨのお部屋に来ていたのは椰花で、同じPC元から投資されていたことがわかった。
今更ながら、十数年前なのにどうしてと思い、色々考える内に同郷の可能性がよぎった。
それからはもう、警戒心マックスとなり。彩葉を守る為、自身を守るため、様々な準備をした。
そうして、ツクヨミをスポンサードしているGCF社の取締役への連絡として、呼び出すに至った。
これが、今話の経緯でした。
・蛇足その2
かぐや復帰ライブの後、一部は隠されたままだが、ある程度の事情は彩葉とヤチヨの2人から説明された。
椰花はもうぐっちゃぐちゃにボロ泣きかまして、追加で彩葉の研究に投資しましたとさ。
そりゃあの時(今話)ヤチヨさんも手段選んでられなかったよね。二人とも、よく頑張ったねぇ~!(号泣)
あ“っ…その件については、えぇと、大変申し訳ございませんでした…
何の話?ヤチヨ?待って、どこいくの…?
ヤチヨ、ネルジカン、(つ∀-)オヤスミー
…まさか!オイ、コラァ寝るな!何やらかしたぁ!!!