緑谷被愛子はナンバーワンヒーローの夢を見る 作:ヒトデマンの裏側のヌメヌメ
「でっけー"敵"…」
「ぐおおおおお!!!」
"
「そのビル!!壊すなぁぁぁ!!!」
そのカメラの先には敵以外にもう1人。ヒーロー漫画に出てくるようなコスチュームを身につけ、敵に関節技をキメている。
「ギブ!ギブギブ!」
「わざわざ公安所有のビル狙うとか!壊されたらたまったもんじゃないっつーの!!!」
ピッチリとしたスーツをコスチュームとしている巨大な女性はギリギリと敵の首を締め上げていく。
「見ろよ、お嬢ちゃん。Mt.レディの十八番『ロライマホールド』だ」
ただの固め技でも名前がついている。そりゃそうだ。だって彼女は
「よくやったぞー!ありがとーー!!ヒーロー!!!!」
ヒーロー。人々が超常的な力を持ち、それらが個性として日常となったこの世界。力を持てば、いつかそれらを持て余した人間が暴走し、他人を傷つける。体の大きい幼稚園児が他の園児から玩具を奪い取ったり、足が速い中学生が太っている同級生をいじめたり、超常が存在しない頃からそうだった人類にとってそれらは至極当然のことだった。
超常の増加に伴い爆発的に増加した犯罪件数、法の抜本的改正に国がもたつく間、勇気ある人々がコミックさながらに超常の力をもって犯罪を制していった。それがヒーローの始まり。そして誰もがヒーローを夢見て、憧れ、成った。
でもそんな夢にも終わりはある。25年前、世界を変えた大事件。最凶の敵「死柄木弔」が世界を"壊す"べく闘ったあの事件を機に、ヒーローという職業は変わった。
夢の職業に突如突きつけられた「死」という恐怖から逃れようとする無意識なのか、ヒーローという職業に夢を見る人々は徐々に少なくなっていた。警察や医者、法律家、アイドル、スーパーの店員、事務員、建築家、そういったヒーロー以外の様々な職業で個性は生かされ、人々の生活は便利になっていく。
それでも敵による犯罪は減ることはない。公安やヒーロー達も懸命に対策に取り組んではいるが、その数は徐々に上昇傾向にある。
日本が復興するにつれ表面化した「平和の象徴の不在」は解決策が見つかることなく25年が経過した。たった25年、されど25年。生まれた赤ん坊が大人になり、家庭を持ち、子供がいても決しておかしくない年齢まで成長する年月。世界は変わったのだ。
「キャアアア!!ひったくりよ!!!」
ヒーローの戦いに群がる民衆の傍で年輩の女性の声が鳴り響く。
巨大な敵とヒーローの戦いで起こったゴタゴタに乗じて男が女性のバッグを強引に奪ったのだ。
「ッ!ヒーロー!!!っていないよね…」
私は倒れる女性に駆け寄りながら助けを呼ぶ。がしかしヒーローは呼んでもすぐには来ない。私は女性の怪我の有無を調べたあと仕方ないとばかりに裏路地に走った男を追い、同じように裏路地に入る。
「ギャハハハハ!あのババア結構持ってんじゃねぇか!!」
バッグを持った男は中身を確認しながら、手から伸ばした鋭い爪を壁や配管に引っ掛けアクロバットに移動する。
爪の個性…ブロック塀を砕くほどの硬度……戦いになったら面倒かも。
「待て!!バッグ返して!!!」
「ああん!?ってガキィ!?」
私の声にひったくり犯は少し驚いたように返す。
(あのガキ…なんの個性だ?浮遊?いや、しっかり地面蹴ってやがる。しかも速ぇ!クソ、クソクソクソ…)
ひったくり犯が驚いた理由は自分の追っ手が極々一般的な少女であった事もあるが、その最たる理由はその少女が個性を使う素振りも見せず個性を使う自分に追いつきそうな速度で追ってきていることだった。
「ちぃっ…こうなったら…」
「!?」
「ガキ1人!ただのひったくりだと思って油断してんだろ!!こちとら覚悟が違ぇんだよ!馬鹿なガキ1人殺す程度、心が痛みもしねぇんだよ!!!」
男は身を翻し配管に爪を引っ掛け、追ってくる少女に向かって襲いかかる。
ブロック塀を簡単に引き裂き砕く鋭い爪が少女の首元に届き、少女は──
ブンッ!
「死にやがれっ!…なっ!?」
私は爪を紙一重で躱す。壁を蹴って自らの身体の向きを強引に変えて男の背中目掛けて踵を思い切り振り下ろす。
「げふぉぉ!?」
ズドンと音を立てて地面に激突したひったくり犯はあっさりと気を失った。
当の少女はストンと軽く着地してみせると軽く埃を払い息をつく。
「ふぅ…バッグ届けなきゃ…あとこいつも警察に渡さないと」
落としたバッグを拾おうと被愛子が男にほんの少しだけ背を向けた。被愛子の油断、その瞬間を見逃さんと男は個性を使って爪を伸ばす。
男は気絶などしていなかったのだ。気絶したフリをして少女の油断を誘い、背を狙う。相手が子供だろうが女だろうが関係ない。卑怯だろうがなんだろうが、彼は"敵"なのだから。
「死ねぇぇぇっっっ!!!!!」
「あ」
ガキィン!!!
被愛子に当たるはずだった爪は空中で完全に折れていた。折れた破片がカリンカリンと音を立てて地面を滑る。
「な…なんで……お、お前は…」
颯爽と現れた人影は黄色いマントをたなびかせ、深い緑を基調としたコスチュームを身につけていた。
「僕の娘に…何してるんだ!」
「ヒーローデク!?」
「パパ!?」
「5th!黒鞭!」
「あだだだだだ!!!」
デクと呼ばれるヒーローから伸びた黒い鞭がひったくりを締め上げる。情けない悲鳴をあげるひったくり犯、そこに警察官がなだれ込んできた。
「デク!大丈夫ですか!?」
「僕は大丈夫です。敵の捕縛と連行をお願いします」
「了解しました!」
警察は素早くひったくり犯を拘束していく。
それを横目に少女はデクに駆け寄る。
「なんでパパが?学校は?」
「たまたま近くにいたからね。急遽通報が来て、1番近かった僕が駆けつけた。そして……」
きっと通報したのはバッグの持ち主か周りの人だろう。被愛子がそんなことを考えていたら…
「?あだっ!?」
考え込んで無防備なおでこにパチン!とデコピンが飛んだ。
「このバカヒメ!!何度言ったらわかるんだ!ヒーロー免許を持ってないのに勝手にヒーローしちゃダメっていつも言ってるだろ!」
「うぅ、ごめんパパ…でも周りにヒーローいなかったし、最初は追うだけのつもりだったもん…」
「結局戦いになってるんだから駄目。それに相手は敵だ。どんな個性を持っていて、単身なのか複数なのか、相手の詳細がわかってもいないのにこんなことするんじゃない!」
「じゃあわかってたらいいの?」
被愛子はキョトンとした顔で疑問を口にする。
「そういう問題じゃなくて……」
「個性は使わなかったよ?いつも個性を勝手に使ったら敵と一緒だ〜って言われてるから、ちゃんと使わなかったよ」
普段から、学校の個性教育のような個性を使っていい時以外は個性を使ってはいけないと口酸っぱく言われている。今回も当然使わなかったのだから怒られる理由にはならない。
「だからそういう問題じゃなくて……」
デクは頭を抱えて娘をどう納得させるか頭を悩ませる。
「ていうかパパ。私は試験終わったしいいんだけどさ、パパはお仕事でしょ?サボってていいの?」
「いやサボってるわけじゃ…。はぁ…家に帰ったらまた話そうか。それまでちゃんといい子にしてること。わかった?」
「はーい」
被愛子の気の抜けた返事にデクは半ば諦めた顔をしつつ、急いでその場を後にする。
「いってらっしゃーい!…っと。バッグはちゃんと届けなきゃね」
父のファンらしい警官の1人と話しながら路地を抜け、バッグの持ち主の元へ向かった。
「はい。どうぞ」
数人の市民に囲まれてるバッグの持ち主を見つけ、おばあちゃんにバッグを返す。
「ありがとうねぇ。あなた足速いのねぇ。おばあちゃんびっくりしちゃった」
「ふふっ。そりゃあだって、私は──────になる女ですから!」
「懐かしい響きだねぇ……オールマイトのファンかい?」
「ええもちろん!ファンを通り越してもはや弟子です!」
「本当に面白い子、ありがとうねぇ」
警官の人におばあちゃんを任せて帰途につく。今日の用事は済ませたし、あまりブラブラしてまた同じことをやらかせば次は何を言われるか…。私は真っ直ぐ帰ることを決めた。
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数時間後、雄英高校第三会議室───
会議室に集まった教師陣は、先日行われた入学試験の結果を見ていた。
「実技成績総合1位、やはりお前のとこか。緑谷」
「たまたまですよ。他の受験生も今年はレベルが高かったです」
「しっかし全体的にヴィランポイントもレスキューポイントも高ぇなおい。どうなってんだ?今年は…」
「それだけじゃない。戦闘テスト以外のテスト項目でも今年は異常だ」
「悪い前触れじゃなければいいんですけどね」
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そして数日後、入学式当日─────
「ふんふん…ふふんふんふーん」
「ヒメちゃん準備できた?」
「どう!?可愛い?ママ!」
「もーヒメちゃん襟捲れてる…ほらこっち向いて」
「大丈夫だってママ…私今日から高校生だよ?」
「お弁当持った?ハンカチは?折り畳み傘は?」
「もー!大丈夫だってぇ!」
「心配やなぁ…。ヒメちゃんおっちょこちょいなとこあるし」
「おっちょこちょいって…」
「だってこの前の遊園地に行った時だって「あーー!もうその話はいいってー!」
ことある事に蒸し返される話を無理やり遮ってリュックを背負う。
「よし。行ってきます!ママ!」
「いってらっしゃい。ヒメちゃん」
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事前に渡された案内の紙の通り教室には行かず入学式の会場へそのまま向かう。こういうのはまず教室に行き、その後担任の先生の案内に従って向かうものなのではないか?少なくとも中学の頃はそうだった。
番号の振られた椅子と紙に書かれた自分の番号があってることを確かめて座る。
「ね、私『
椅子に置かれていたプログラムを眺めながら開始を待っていたら、隣の女の子がソワソワとした態度で話しかけてきた。
「はい。よろしくお願いします。山葵ちゃん。私は緑谷被愛子です!」
変な子だと思われないように笑顔で自己紹介。これもコミュニケーションの一環…。にしても初対面の人に話しかけられるのすごいなぁ…。こういう子って恥ずかしいとかの感情ないんでしょうか?
「緑谷さんね!」
「いえ被愛子です」
「えっとじゃあ被愛子さん!」
「はい!被愛子です!よろしくお願いしますね」
「うん!よろしく!」
きっといい子だ。うん、話して分かった。初対面の子と話すのはちょっと緊張する。変な話し方になってなかったか気になって少しムズムズする。ダウナーな子とか思われてないかな。嫌な感じになってないかな。うう〜〜〜〜!!
「あ、もうすぐ始まるよ!説明会の時みたいにプレゼントマイクがやるのかな?」
「プレゼントマイクはあっちに座ってますね。マイクの前で他の先生と話してるのはブラドキングみたいです」
着々と準備が整っていく会場の雰囲気から感じ取ったのか、場が静まり返り、定時通り式が始まった。
中学の頃の入学式は退屈だった。面倒な大人の話が延々と続くだけの旧態依然とした式は非常に耐え難いものだった。
だが今年は違う。
「続いて新入生代表挨拶!新入生代表、ヒーロー科1年!緑谷被愛子!」
「はい!」
「あれが今年の…」
「確かデクの娘だよな」
「やっぱ才能か」
例年、入学式の新入生代表は入学試験の首席が行うのが決まりとなっている。普通科、経営科、サポート科そしてヒーロー科。4科あっても代表挨拶を行うのは毎年ヒーロー科だ。
壇上に上がり、マイクの前で一礼の後、祝辞の書かれた紙を広げ私は粛々と代表挨拶を始めた。
「こんにちは。新入生代表の緑谷被愛子です」
「本日はお忙しい中、暖かな春の日差しが降り注ぐこの素晴らしき日に、このような式をご用意して頂き、誠にありがとうございます。こうして憧れの雄英高校に入学できたことを、心から嬉しく思います。…………」
突然言葉を詰まらせた私に生徒や教師陣が次第にざわつき始める。
「読めない漢字でもあったのかな」
「バカおめぇ、んなわけねぇだろ」
「緊張で声出なくなったとかか?」
ヒソヒソと憶測が飛び交う中で、私は誰にも聞こえない程の小さな声で言葉をこぼした。
「……オールマイト、始めます」
添削済みの新入生代表挨拶が書かれた紙をくしゃりと握りつぶす。
「本当は、ここで皆さんのこれから始まる学園生活と私たちの未来への抱負を述べるべきなのでしょう。でもこの紙に書かれてる事は私の本心じゃありません。ここからは私の言葉で話します」
「皆さん、25年前の事件と言って、思い出すものがあるでしょう。そうです、死柄木弔が起こした超人社会史上最悪の事件です。あの事件以来、ヒーローを目指す人々の数は減るばかりです!」
「今のヒーロー達も頑張ってはいますが、それでも敵の犯罪件数は日に日に増え続けています!」
「平和の象徴たるオールマイトが引退し、そしてその象徴の欠片は後世のヒーロー達に受け継がれました!」
「そして今!新たな平和の象徴が必要な時がやってきました!」
ずっと言いたかった言葉。立ちたかった場所でついに言える。私は私は人差し指を立て空に向ける。
「だから私が!!!平和の象徴になります!!!」
天高く上げた手を胸に当て、声高らかに叫ぶ。
「もう大丈夫!!!私が来た!!!」
突然のスピーチと傲慢な宣言にヤジや文句が飛び交う中、スッキリとした表情で壇上から降りる。
新入生代表の暴走でめちゃくちゃになった入学式を収拾するため数名の教師陣が教師席から飛び出していく。そして教師席の何名かは頭を抱えていた。
「おい緑谷…お前の娘…」
「ヒメちゃん…」
「はぁ…後で指導だな」
「体育祭の爆豪を思い出すな」
「あれいいんすか?根津校長」
「HAHAHA!元気なのはいいことさ!」
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『物語は動き始めた。時代は進み、新たな風が吹く。少女が世を照らす太陽となるか、未だ燻る闇に飲まれるか、それはまだ誰にも分からない』
「ふぅ…」
薄暗いコンクリ打ちっぱなしの部屋の中、白髪の若い男は一息つくと共にペンを置きノートを閉じた。
コップに注がれたジュースを飲み干すと自らの白い髪を掻き上げる。
そんな仕草をもう一人の眼鏡をかけた男は心底渋い顔をしながら口を開く。
「気持ち悪りぃな。高校生の入学式を覗き見した上で厨二病満載の駄文書きやがって。ポエマーかよ。流行んねぇぞ今どき」
「そうか?結構いい出来だと思ったんだが…」
「はっ、冗談きついぜボス」
眼鏡男はそういうとソファに腰をかける。そんな眼鏡男の辛辣な態度に白髪の男は気にもとめない様子で話を続ける。
「でも、確実に時代は変わるぜ。俺が保証する。このクソくだらねぇ世界を俺が破壊する!トムラシガラキがやったように!」
「まーたその話か…」
呆れる眼鏡男を他所目に白髪の男は両手を広げて天井に向かって叫ぶ。
「見ていてくれ…!トムラシガラキ!俺があんたを継ぐ!俺が…あんたになるぜ…」
高校1年生でありながら敵連合こと超常解放戦線
リーダー死柄木弔との決戦に勝利し、世界を救ったヒーローとして名を轟かせた緑谷出久と、当時は内容が充実していたとは言えなかった小・中学生を主とした個性カウンセリングの拡張計画を立案し、多くのヒーローとのチームアップによってそれらを実現させた緑谷お茶子(旧姓:麗日お茶子)の間に生まれた一人娘。
今年から雄英高校ヒーロー科へと入学する。
母親譲りの髪色、父親譲りの目の色。つり目と鋭い犬歯、左右でまとめたお団子ヘアーがキュートな女の子。お胸は母親ほどでは無いものの悪くはないよう。身長148cm、体重は─_──