☆1キャスターの俺、現代ダンジョン出現当日、F級ダンジョン60個を周回特化自爆スキルで焼き払ってたら低レア最強パーティが育っていた〜アーラ◯ュ系周回スキルで人類全員を育成し尽くします〜 作:人見小夜子腹パン部
世界が地獄になった日、火賀灯真は“神ゲーのサービス開始”だと思った。
その日、日本中は悲鳴に包まれていた。
ビルの谷間に、昨日まで無かったはずの黒い裂け目が口を開けた。
駅前広場の舗装を食い破って、石造りの門みたいなものがせり上がった。
空気が変わった。匂いが変わった。世界そのものの手触りが変わった。
人が消えた。
化け物が出た。
警察も消防も行政も、何が起きているのか分からないまま右往左往していた。
ニュースアプリは速報で埋まり、SNSはデマと断末魔と承認欲求で地獄絵図になっていた。
そんな中、火賀灯真は会社の休憩室で、震える指先を押さえながらスマホを見下ろしていた
「……来た」
社用チャットは阿鼻叫喚だった。
『出社できません!』 『新宿駅前に変なの出てます!』 『なんか人が食われてる動画本物!?』 『本日の営業について至急――』
知らねえよ、と思った。
営業どころの話じゃない。
人類史のほうが急に大型アップデート入ってるだろ。
灯真は立ち上がり、窓の外を見た。
遠くで煙が上がっている。サイレンが鳴っている。悲鳴も聞こえる。
普通の人間なら、ここで青ざめる。
まともな神経をしていれば、足がすくむ。
だが俺は違った。
心臓は早鐘を打っていたが、それは恐怖だけじゃない。
むしろ、その中に混じる熱の正体を、彼はあまりにもよく知っていた。
期待。
興奮。
開始直後のゲームにだけ許された、あの圧倒的な先行者利益の匂い。
頭の奥で、何年も前に擦り切れるほど見たクソみたいな画面構成が蘇る。
レアリティ。
クラス。
スキル。
素材。
種火。
限界突破。
装備枠。
レベルキャップ。
初回踏破報酬。
――【天上のアーデルハイド】。
誰も知らない。
知っていても鼻で笑う。
同時接続五人しかいないんじゃないかと本気で言われていた、伝説級のドマイナーソシャゲ。
UIはゴミ。導線は死んでる。チュートリアルは説明不足。運営は平然と詐欺まがいのガチャを出す。イベント周回数は狂ってるし、素材の要求量も頭がおかしい。
正直、世間的にはクソゲーで間違っていない。
けれど俺は、そのゲームが好きだった。
高レアが強いのは事実だ。
それは認める。認めざるを得ない。
☆6が☆1より弱いなんてことは、よほど特殊な条件でもなければ有り得ない。ステータスは高い。スキルも強い。専用装備も優遇されている。重課金様は正しい。札束はだいたい正義だ。
でも、それでも。
だからこそ。
低レアを極限まで鍛え上げて、環境の隙間にねじ込み、あり得ない仕事をさせるのがたまらなく好きだった。
産廃扱いされた☆1。
誰も育てない☆2。
最初の数日だけ使って倉庫番にされるような連中。
そういう“捨てられる側”のユニットを拾って、使い道を見つけて、育てて、噛み合わせて、高レア顔面に現実を叩きつける。
その瞬間だけは、理不尽な世界に対して一矢報いた気がした。
……まあ、別に大した思想があったわけじゃない。
ただ単に、低レアに自分を重ねていただけだ。
地味。
替えが利く。
高評価されない。
頑張っても目立たない。
でも、使い方次第で仕事はできる。
それは、火賀灯真という社畜そのものだった。
会社にいくらでもいる、顔も名前も覚えられない量産型社員。
壊れない程度に酷使され、壊れたら交換されるだけの、レアリティ☆1の労働力。
だから好きだった。
低レアの逆襲が。
性能表だけでは測れない“有用性”が。
編成と周回と育成に執着した果てに、誰も見向きもしなかったユニットが最適解へ変わる瞬間が。
そして今、現実はその【天上のアーデルハイド】に異様なまでによく似ていた。
ダンジョン出現の日付。
能力発現のタイミング。
世界の混乱。
社会の初動。
すべてが、序章そのものだった。
なら、この後どうなるかも知っている。
知っているからこそ、俺は笑った。
「マジかよ……マジで来たのか」
もし本当にあのゲームと同じなら、これは単なる災害じゃない。
人類規模の地獄であると同時に、取り返しのつかない先行者ボーナス期間でもある。
初回踏破報酬の魔石。
序盤でしか拾えない希少素材。
低階層の一部エネミーしか落とさない育成アイテム。
そして、後になれば絶対に手の届かなくなる“埋もれた当たり低レア”。
加えて、この世界の人類はまだ何も知らない。
レアリティに目を奪われる。
☆四以上を囲い込み、高レア中心で編成する。
強い奴を前に出し、弱い奴を切り捨てる。
普通に考えれば正しい。効率的で、合理的で、極めて人間的だ。
だからこそ、いずれ詰む。
灯真は知っている。
この世界は【天上のアーデルハイド】の序章に似ているだけじゃない。
このまま人類が普通に攻略を進めると、いずれ“サ終シナリオ”に入る。
回避不能のクソバランス。
救済の皮をかぶった集金導線。
取り返しのつかないフラグ管理。
後半で要求されるくせに、序盤で拾って育てておかないと詰む低レア群。
あのゲームをまともに最後まで追った人間なら、絶対に笑えない地獄だ。
だが、俺はまともではなかった。
だからこそ、その地獄が分かる。
だからこそ、ここで走り出せる。
直後、視界の端に、青白いウィンドウが開いた。
電子的でも、魔術的でもある、妙に安っぽい光。
見覚えがありすぎる通知演出だった。
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【能力覚醒】
あなたのレアリティとクラスが決定しました。
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息を呑む。
来い。
来い。
高望みはしない。いや、する。するが、最低限まともなものを寄越せ。
【死滅願望】。
【楽園解放】。
【深淵軍勢】。
あの辺りのtier0。
後半環境を単騎で壊せるような、露骨に頭のおかしいスキル群。
どれか一つでも引ければ、スタートダッシュどころか世界の覇権まで見える。
ウィンドウが切り替わる。
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レアリティ:☆1
クラス:キャスター
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「……は?」
一瞬、思考が止まった。
☆1。
外れ。
最低保証。
初期配布。
社会の残飯。
“頑張れば使えなくもない”で終わることが大半の、愛が無ければ触りもしない帯域。
「詰んだ」
反射的に口から出た。
いや、落ち着け。
レアリティだけで絶望するのは早い。
【天上のアーデルハイド】は高レアが強いゲームだったが、同時に、ごく一部だけ正気を失った性能の低レアが存在したゲームでもある。
☆1だから終わりじゃない。
スキル次第だ。
まともなスキル来てくれ。
頼む。せめて周回性能。せめて便利枠。せめて腐らない何か。
ウィンドウの中央に、文字が浮かび上がった。
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【原初の火】
自身を燃料として、周囲一帯を焼却する根源火を発現させる。
消費した生命力・魔力に比例し、攻撃範囲と破壊規模が増大する。
発動後、使用者は24時間【灰化】状態となり、激痛と深刻な機能低下を受ける。
この灰化は高位の治療、あるいは特殊資源によってのみ解除可能。
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火は本来、手に余る。
それでも人は、何度でも火を掴んだ。
暖を得るために。
獲物を焼くために。
敵を滅ぼすために。
そして最後には、自らを薪にしてでも勝つために。
一撃で全てを終わらせる者にとって、この火は呪いではない。
最短距離で勝利へ届く、祝福ですらある。
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数秒、完全に沈黙した。
それから。
「は、」
喉が鳴った。
口角が上がった。
心臓が、今度こそ歓喜で跳ねた。
「はは……っ」
飛び上がらんばかりに、喜んだ。
当たりだ。
いや、当たりなんてもんじゃない。
大当たり。
神引き。
低レア界の革命児。
☆1キャスターのくせに最強クラスの周回性能を誇った、あのイカれたユニットの代名詞。
【原初の火(メギド)】。
自身を燃料として根源火を顕現させ、広範囲を焼き尽くす自爆系殲滅奥義。
まともに使えば戦闘不能確定。だが、一撃で全て終わらせる周回において、そのデメリットは成立しない。
戦闘終了と同時に本人が灰になろうが関係ない。
むしろ戦闘不能になってパーティから抜けることで編成枠を空けるため、連続周回の最適化にさえ繋がる。
美しかった。
あれは芸術だった。
俺は忘れていない。彼の三つしかない装備枠を、
【戦闘時必殺発動可能】
【奥義威力別枠80%アップ】
【取得素材増加】
で埋めたことを。
紙みたいなステータスを、薬と礼装と編成バフで無理やりドーピングしたことを。
超貴重素材をぶち込んでレベルキャップを解放し、レベル100まで押し上げたことを。
初手で雑魚を焼き払い、欲しい素材だけを根こそぎ奪い取る、あの異様な周回効率を。
高レアが強いのは事実だ。
それでも、こいつにはこいつにしかない価値があった。
誰よりも早く戦闘を終わらせる。
誰よりも多く素材を集める。
周回という、このゲームの本質そのものを司る暴力。
「当たりだ……!」
思わず声が漏れた。
休憩室にいた同僚が、青ざめた顔でこちらを見る。
窓の外では怪物が暴れ、人が逃げ惑い、社会が崩れ始めている。
その最中に、俺は、学生みたいな顔で拳を握っていた。
当たりを引いた。
しかも最高に自分向きの当たりだ。
なら、やることは一つしかない。
ダンジョンへ行く。
灯真はロッカーから鞄を掴み、そのまま会社を出た。
止める声は聞こえなかった。いや、聞いていなかった。
頭の中ではすでにルートが組み上がっている。
最寄りのF級ダンジョン。
初回踏破報酬。
魔石。
種火。
序盤素材。
小型構造。
低耐久雑魚。
全部、【原初の火】の射程内だ。
この世界が本当に【天上のアーデルハイド】なら、初動が全てを決める。
遅れた者から取り残される。
知っている者だけが、世界の変化を資産に変えられる。
だったら、走る。
誰よりも早く。
誰よりも容赦なく。
駅前近くに口を開けていたF級ダンジョンは、遠目にも分かった。
黒い石の門。
揺らめく膜。
近づくだけで肌が粟立つ異界の気配。
野次馬が遠巻きに騒ぎ、警官が規制線を張ろうとしている。
だが、まだ統制は何も追いついていない。
今だけだ。
今だけ、この世界は無法のサービス開始直後だ。
灯真は躊躇なく規制線をくぐった。
「お、おい! 君、危ないぞ!」
背後から怒鳴り声が飛ぶ。
無視した。
膜を抜ける。
空気が変わる。
薄暗い石の通路。
腐った鉄みたいな臭い。
そして、奥から這い寄ってくる、小型の異形の気配。
見覚えのある雑魚配置。
予想通り。
笑いがこみ上げる。
いける。
灯真はダンジョンへ一歩踏み込み、右手を上げた。
人差し指と中指を揃え、まっすぐ前へ突き出す。
そして、唱えた。
「【原初の火】」
ここまで読んでいただけて嬉しいです