☆1キャスターの俺、現代ダンジョン出現当日、F級ダンジョン60個を周回特化自爆スキルで焼き払ってたら低レア最強パーティが育っていた〜アーラ◯ュ系周回スキルで人類全員を育成し尽くします〜   作:人見小夜子腹パン部

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両歯噛咬

政府に頼んでいたデータが届いたのは、その日の夕方だった。

 

 探索者登録情報。

 前科照会。

 生活歴。

 就労履歴。

 保護観察の有無。

 親族欄。

 

 そこまでは、まあ想定内だ。

 

 問題は、その先だった。

 

 俺は庁舎から戻った安アパートの机に突っ伏すような姿勢で、改造スマホの画面をスクロールしていた。

 guide-GPTが政府経由で渡されたPDFを勝手にOCRして、人物データとして再構成している。

 

 名前。

 大伴円。二十一歳。

 ☆0。

 クラス【アサシン】。

 スキル【死滅願望】。

 

 そして家族欄。

 

 父――暴力団関係者。

 母――所在不明。

 

 多数の通報歴。

 多数の補導歴。

 多数の近隣トラブル。

 一時保護。

 帰宅。

 再通報。

 また帰宅。

 

「……えげつな」

 

 思わず口から漏れた。

 

 資料の文面そのものは事務的だった。

 行政文書らしく、感情を殺して、事実だけを並べている。

 

 だが、だからこそきつい。

 

 児童相談所の面談記録。

 学校からの相談。

 近隣住民の匿名通報。

 医療機関の受診履歴。

 途中で途切れるアルバイト歴。

 身元確認の取れない短期就労。

 窃盗での補導、書類送検。

 以上。

 

 殴られた。

 脅された。

 食わせてもらえなかった。

 使い走りにされた。

 失敗すると締められた。

 

 そういう言葉は、当然書いていない。

 書いていないが、行間から十分すぎるほど滲んでいた。

 

 guide-GPTが、静かに補助ウィンドウを開く。

 

==================

【guide-GPT】

補足:公的記録のみでは欠落が多いため、公開SNS、地方紙記事、民間求人履歴、削除済み掲示板ログを統合して補完しました。

推定:長期かつ反復的な虐待環境。

特記事項:犯罪歴は窃盗関連のみ。暴行・恐喝・傷害・詐欺・薬物・性犯罪歴は確認されず。

==================

 

「ハックしたな、お前」==================

【guide-GPT】

表現の問題です。

より正確には“公開情報の高度再収集と欠損補完”です。

==================

 

「言い方の問題じゃないだろ」

 

 だが、助かったのも事実だった。

 

 窃盗しか無い。

 

 ここが大きい。

 

 盗んだ。

 それは事実。

 前科もある。

 職も続いていない。

 まともな履歴書を出せる人間じゃない。

 

 それでも。

 

 人を殴ってない。

 騙してない。

 殺してない。

 

 やれなかったんじゃない。たぶん、やらなかった。

 そこに意味がある。

 

「……会うか」

 

 俺は大伴円に、ココイチの位置情報と短いメッセージを送った。

 

《話があります。あなたの探索者としてのこれからに》

 

 SNSのDMはこれまで既読すらつかなかった。

 だが、今回は政府経由で拾った連絡先も使って、SMSとメッセージアプリの両方に投げる。

 

 十五分後。

 

《一回だけっすよ》

 

 来た。

 素直で助かる。

 

     ◇

 

 待ち合わせに指定したのは、前に真由と入ったのと同じココイチだった。

 

 早い。

 温かい。

 そこそこ落ち着く。

 それに、初対面の相手に高級店は変に身構えさせる。

 

 大伴円は、俺より少し遅れて来た。

 

 痩せ気味。

 年の割に疲れて見える。

 髪は雑に切ってある。

 服は安物だが、一応洗ってある。

 目つきは悪いが、入店の瞬間に一度だけ周囲を見て、店員に軽く会釈した。

 

 育ちの悪さは隠しきれていない。

 だが、無駄に攻撃的な態度を取るタイプでもない。

 というか、取らないようにしているのが分かった。

 

「……大伴円です」 「火賀灯真です」

 

 座る。

 

 円はメニューを開いた後、最初に値段を見た。

 それから、カレー大盛りの一番安いものに指を止める。

 

「これで」

 

「奢りますよ」

 

「……は?」

 

 顔が上がる。

 警戒半分、困惑半分。

 それから、ほんの一瞬だけ恥ずかしそうな顔。

 

「奢りなんすか」 「はい」 「……じゃあ、普通盛りで」

 

 サイズを下げた。

 

 面白い。

 

 奢りと聞いて盛るんじゃなく、逆に下げた。

 変なところで律儀だな、と思う。

 

 安里真由なら、あの場で確実にトッピングを5つは増やしていた。

 

 注文が終わると、円は水に手を伸ばした。

 その動きが妙に静かだった。

 荒っぽく見えて、テーブルマナーを壊さないようにしている。

 

 こういうの、嫌いじゃない。

 

「単刀直入に言います」

 

 俺がそう切り出すと、円は肩を少し強張らせた。

 

「貴方の【死滅願望】、当たりです」 「……は」

 

 即座に胡散臭そうな顔をした。

 分かる。普通はそうなる。

 

 円はステータスを開いた。人差し指と中指を合わせ空を切った。俺の広めたステータス画面の開き方だ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【死滅願望】

通常攻撃での会心時通常攻撃が出る

仕留めた感触は、安心ではなく追撃を呼ぶ。

壊れるまで、沈むまで、動かなくなるまで終われない。

その一撃は確認であり、執着であり、たぶん祈りですらない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「これ、クソスキルっすよ。通常攻撃で会心出た時だけ、もう一回通常攻撃が出るだけなんで」 「連鎖します」 「……は?」 「会心で出た追加通常攻撃にも、さらに会心判定が乗る。そこでまた会心が出れば、もう一回出る」

 

 円の顔が止まった。

 

「……いや」 「知らなかったでしょう」 「知らねえっすよ、そんなの」

 

 そりゃそうだ。

 

 現状の円は、せいぜい本人なりに会心ビルドを意識している程度だ。

 だが☆0のクソステータスに、会心率五%前後。

 そもそも連鎖が起きる確率に試行回数が届かない。気づけるはずがない。

 

「貴方、今の自分のスキル、どう評価してます?」 「☆0のクソステに、クソスキル」 「正直で結構」 「馬鹿にしてんすか」 「してません。現段階ではだいたい合ってるので」

 

 円の眉が寄る。

 怒るというより、判断待ちの顔だった。

 

「ただし、完成したら話は別です」

 

 俺はスマホを開き、事前に組んでいた簡易図を見せる。

 

「【死滅願望】の本体は、会心そのものじゃない。連鎖による手数です。

 通常攻撃で会心。追加通常攻撃。

 それも会心。さらに追加。

 また会心。また追加。

 これが噛み合い始めると、気持ち悪いくらい削れます」

 

 円は無言で画面を見ていた。

 食い入るように、というほど露骨じゃない。

 でも、見ている。

 

「でも、それ会心率いるじゃないっすか」 「クソほどいりますね」 「じゃあやっぱり」 「だから、確定会心まで持っていきます」

 

 円の目が、今度こそはっきり揺れた。

 

「……そんなこと、できるんすか」 「できます。少なくとも最低限は」

 

 料理が来る前に、俺はさらに続けた。

 

「しかも最終形は、そこだけじゃない。

 会心率と回避率を盛る。

 会心時に回避率が上がる効果を重ねる。

 回避時通常攻撃カウンターを乗せる。

 クリティカル威力増強を積む。

 そうすると、敵の攻撃は宙を切る。避ける。殴る。会心。追撃。追撃も会心。雑魚は反撃だけで散る。ボスも会心・回避無効化能力が無いと話にならない」

 

 円は、ぽかんとした顔で聞いていた。

 

「……そんなの、ありなんすか」 「原理上は」 「原理上」 「完成育成とハクスラは必須ですけどね」

 

 そこでようやく、円は小さく笑った。

 乾いた、信じていいのか分からない時の笑いだ。

 

「気ぃ遠くなる話っすね」 「遠くなります。大器晩成の極致なので」 「じゃあやっぱ、今はゴミじゃないっすか」 「今はかなり弱いです」 「そこは即答なんだ」 「即答です。でも、将来値は高い」

 

 カレーが来た。

 

 円は一度話を切り、スプーンを取る。

 普通盛りの安いカレー。

 食べ方が、少しだけ速い。

 たぶん腹が減っていたんだろう。

 

 でも汚くはない。

 丁寧に食おうとしているのが分かる。

 

「……なんで俺なんすか」

 

 カレーを半分くらい食ったところで、円がぽつりと聞いた。

 

「政府に聞けば、もっとマシなやついくらでもいるでしょう」 「いますよ」 「じゃあなんで」 「貴方のスキルが好きだからです」 「最悪の口説き文句っすね」

 

 そこは否定しない。

 

 俺は少し間を置いてから言った。

 

「あと、犯罪歴が窃盗だけだったので」 「……」

 

 円の動きが止まる。

 

「調べたんすね」

 

「はい政府に頼んで、足りないぶんは補完しました。…偉いですね」

 

「……」

 

 ただ、視線だけが落ちた。

 

「人を殴ってない、騙してない、殺してないから偉いとかねえよ」

 

 低い声だった。

 

「他人に迷惑をかけない事なんて、そんな事、死体でもできる。窃盗で迷惑かけてるから俺、死体以下だぜ」

 

 その言葉は、変に芝居がかっていなかった。

 ほんとにそう思ってるやつの声だった。

 

 俺は少しだけ考えてから、聞いた。

 

「善人になりたいんですか」

 

「なりてえよ」

 

 今度は、意外なくらい早かった。

 

「なりてえに決まってんだろ。なれるもんなら」

 

 迷いが無かった。

 たぶんこの質問、ずっと心の奥では答えが決まってたんだろう。

 

「でも無理っすよ」

 

 円は続ける。

 

「色々やった。日雇いも、倉庫も、引っ越しも、厨房も、夜勤も。続かなかった。続けられなかった。

 結局、自分には犯罪しかねえんだなって分かっただけっす」

 

「窃盗以外は?」 「やってない」 「やれた場面は?」 「……あったでしょうね」

 

 スプーンを置く。

 

「でも、そこ行ったらもう終わりだと思ったんすよ。

 何が終わりか知らねえけど。

 たぶん、戻れる可能性とか、そういうの」

 

 十分だ、と思った。

 

 こいつはまだ折れ切ってない。

 完全な悪党に向いてない。

 だから苦しいんだろうが、俺にとってはそこが重要だ。

 

「これ、用意してます」

 

 俺は足元のバッグから、包んでいた武器を取り出した。

 机の上に置く。

 

 円の目が細くなる。

 

==================

【両歯噛咬】

分類:短剣

効果:攻撃力50%減少/防御力50%減少/通常攻撃が確定会心化

解説:互いを喰い千切る二枚の牙を模した、歪な双短剣。

肉を削り、防を捨て、それでもなお“当てる”ことだけを選んだ者に。

==================

 

「……は?」

 

 円の声が掠れた。

 

「確定会心!」 「そうですね」「いや、攻略サイトだと今のところ会心特化させても15%が限度だって」「表だとそうですね」

 

 円は無言で武器を見つめていた。

 

こういう事のために、魔石を集めていた。万能の願望機としての特性を考えれば5つ消費して確定会心武器を創造することなど容易い。もっとも、魔石5個消費して行う【ガチャ】ならもっと効率よく狂った装備を得られていただろうが、確定会心は多分手にはいらなかった。

 

 そこで円は、ようやく顔を上げた。

 

「防御半減は普通に響くっすよ」 「HPは上げてますか」 「……攻略サイト見て、鉱石と生命は取りました」

 

 少しだけ、言いにくそうだった。

 自分があのサイトを読んでいたのを知られるのが嫌だったのかもしれない。

 

 だが、俺は普通に頷いた。

 

「なら、最低限は耐えます」 「ほんとに最低限そう」 「そうです」

 

 円は【両歯噛咬】へそっと触れた。

 扱い方に慣れている手だ。

 武器を持つのが初めてじゃない。たぶん仕事でも喧嘩でもなく、もっと生活の延長で触ってきた手だ。

 

「……これ持ったら、ほんとに回り始めるんすか」 「始まります。

 確定会心で【死滅願望】が必ず走る。

 そこから連鎖する。

 今はまだステが足りないし、防御もきつい。

 でも、自分のスキルが“ゴミじゃない”って確認するには十分です」

 

 円はしばらく黙っていた。

 

 警戒。

 疑念。

 期待。

 その全部が顔に出ていた。

 

「……なんでここまでしてくれるんすか」

 

「貴方が当たりだからです」

 

「それだけ?」

 

「あと、なりたいものになる最後のチャンスだって顔してたので」

 

 円が、一瞬だけ変な顔をした。

 笑いそうで、でも笑えない顔。

 

「見えてるんすね」 「多少は」 「最悪だな、あんた」

 

 だが、その声は少しだけ柔らかかった。

 

「灯真さん」

 

「何ですか」

 

「……ありがとう」

 

 小さい声だった。 でも、ちゃんとまっすぐだった。

 

 俺は短く頷く。

 

「どういたしまして」

 

 大伴円。

 二十一歳。

 ☆0。

 窃盗の前科持ち。

 被虐待児。

 ヤクザの息子。

 職業不安定。

 

 そして、【死滅願望】持ちの【アサシン】。

 

 完成させれば、狂う。

 

 このスキルのヤバさを、世間はまだ誰も知らない。

 

少なくとも今日までは。




ここまで読んでいただけて嬉しいです
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