☆1キャスターの俺、現代ダンジョン出現当日、F級ダンジョン60個を周回特化自爆スキルで焼き払ってたら低レア最強パーティが育っていた〜アーラ◯ュ系周回スキルで人類全員を育成し尽くします〜   作:人見小夜子腹パン部

13 / 26
ここまで読んでくださりありがとうございました。


火賀灯真

 官邸地下、危機管理会議室。

 

 大型モニターに映るのは、都内近郊のダンジョン分布図、魔物被害の集計、探索者登録数、各国の対応状況、そして内閣府ダンジョン対策暫定室が優先指定した重要案件の一覧だった。

 

 部屋にいるのは、この国で今、止まることを許されていない人間たちだ。

 総理、官房長官、防衛、警察、内閣府、経産、厚労、それから数名の実務担当者。

 

 全員が疲れていた。

 

 徹夜明けの顔というより、徹夜が常態化して三日目に入った顔だ。

 肌の色も、目の焦点も、声の乾き方も、もう「無理をしている人間」のそれではなく、「無理が平時になった人間」のそれだった。

 

 だが、疲労しているからといって判断を止めることは許されない。

 止めた瞬間に、社会の方が先に壊れる。

 議事の停滞が、そのまま停電や物流停止や避難所の混乱に直結する段階まで、もう来てしまっていた。

 

「始めてください」

 

 総理の一言で、会議が動く。

 

 その声にも疲労はあった。

 だが鈍ってはいない。

 正しい判断をしたい、ではなく、壊れない判断を積み上げたい声だった。

 今この場にいる全員が、理想より先に継続を見ている。

 

 最初に立ったのは、防衛と内閣府の共同ブリーフ担当だった。

 手元の資料を開き、抑えた声で言う。

 

「まず、近代兵器の有効性について、現時点で判明している情報を共有します」

 

 モニターに、海外映像が切り替わる。

 

 砂塵。

 爆煙。

 揺れる映像。

 その中心に、巨大な穴。

 

 誰もが一目で、通常の砲撃ではないと分かった。

 画角の端に映る焼けた地形、周辺一帯の消し飛び方、残留する光の尾。規模が違う。

 

「米国は西海岸に出現した大規模ダンジョンに対し、極めて大出力の兵器投入を実施しています。核を含む可能性が高い、と見ています」

 

 部屋の空気が一段沈んだ。

 

「結果は?」

 

 総理の問いに、担当者は首を振った。

 

「入口構造の一時崩落は確認されました。しかし、ダンジョン核に相当する部位への有効打は確認できていません。内部生物の完全沈黙も未確認です」

 

「未確認ではなく、失敗と見ていいのでは」

 

 年配の官僚が言う。

 それに対し、防衛側は慎重に言葉を選んだ。

 

「少なくとも、“近代兵器を叩き込めばダンジョンは終わる”という仮説は否定寄りです、またその理由も不明です」

 

 担当者が続ける。

 

「ダンジョンの生物に対し、通常の小火器、砲撃、爆薬が、明らかに“通りにくい”。あるいは、通ったとしても人間が期待する形でダメージが蓄積しません」

 

「防弾、耐爆ではなく?」

 

「厳密には異なります。生物学的対象としての損壊は見えても、討伐条件を満たしていないという報告が多い。生き物の姿を模した何かであって、生物ではない、と現場は表現しています」

 

「糸口は」

 

「ありません。少なくとも、科学的な説明の糸口はまだ掴めていません」

 

 沈黙。

 

 嫌な種類の沈黙だった。

 世界の軍事力が、ファンタジーの入口を前に一度足を止めた、という現実を、全員が理解している沈黙だ。

 こちら側の積み上げた合理と抑止と火力が、相手のルールに届かない。その事実が、資料の数字より重くテーブルの上に落ちていた。

 

「一瞬、近代兵器はダンジョンの利権争いで活躍するのでは、という見方もありました」

 

 経産側の担当が資料をめくる。

 

「魔石争奪戦において、ダンジョン外の国家間の威圧で優位に立つのではないか、と」

 

「実際は?」

 

「ダンジョンを介した資源獲得競争である以上、入口そのものへ干渉できない兵器体系は決定打になりません。ダンジョン内を回って魔石を取り込める者が、結局は強い」

 

「探索者ですね」

 

「はい」

 

 その一言で、会議の焦点が変わる。

 

 防衛でも、電力でも、病院でもない。

 結局のところ、“誰がダンジョンへ入って、何を取ってこれるか”がすべてを左右する。

 国家の威信も、秩序も、インフラも、その一点へ細っていく。

 

次のスライド。

 

 各国の傾向が並ぶ。

 

 米国は探索者の組織化と兵器転用を並行。

 中国、ロシアはより露骨に兵器運用側へ重点。

 欧州は魔石と医療への制度対応を急ぎ、日本は探索者登録と民間流通の管理に全力。

 

「そこで、日本の現状戦力についてです」

 

 モニターが切り替わる。

 

 大伴円。

 安里真由。

 そして最後に、火賀灯真。

 

「まず大伴円。通称【死滅願望】。現在、表の世界で最強格と見なされている低レア探索者です。C級ダンジョン単独撃破映像の拡散後、象徴的人物となっています」

 

 円の戦闘映像が流れる。

 会心。

 追撃。

 連打。

 反撃を挟ませない異常手数。

 

 机上の何人かが無意識に身を乗り出した。

 映像として分かりやすすぎる。

 通常攻撃が止まらない、という一点だけで、軍人にも官僚にも「危険」が伝わる。

 

「火力としては規格外です。ただし、これはあくまで探索者の範囲での話です」

 

 次に安里真由。

 回復、障壁、支援。

 そして莫大な魔石保有量とレベル。

 現状、日本国内で火賀灯真に次ぐ水準。

 

「安里真由。歩く宝物庫であり、日本国探索者のナンバースリー相当。実質戦闘能力で言えば大伴円に劣りますが、継戦と支援を含めた総合運用能力は高い」

 

 総理がそこで口を挟んだ。

 

「その二人とも、火賀灯真と接触済みだったな」

 

「はい」

 

「関係は」

 

「友好的。少なくとも現時点では」

 

「少なくとも、か」

 

 総理の声は低い。

 楽観していない声だった。

 

 そして最後に、映像が切り替わる。

 

 基地内試験場。

 固定カメラ。

 多角度映像。

 日時と監督官名のテロップ付き。

 

 鈴木碧が前へ出た。

 

「ここから先は、私の依頼により実施した確認映像です。政府が現在、火賀灯真の危険性と利益性をどう見ているか、その根拠の一部になります」

 

 再生。

 

 最初の映像。

 射撃試験。

 

 発射。

 アサルトライフルの連射。

 火賀灯真が踏み込み、掴む。

 

 総理の眉がわずかに寄る。

 

 二つ目。

 トラック。

 軽く持ち上がる。

 次の瞬間、放り投げられる。

 

 三つ目。

 跳躍試験。

 垂直飛び。

 二十メートル。

 

 誰も言葉を挟まない。

 数値で聞くより映像の方が嫌だった。

 人の形をした何かが、人の理解しやすい尺度を一つずつ踏み抜いていく様は、理屈より先に本能へ届く。

 

「…怪物」

 

「はい。ただし、本人はその認識を強く持っていません」

 

「どういう意味だ」

 

「火賀灯真本人は、“自分の仕事は格下へスキルを撃ち込むことだけ”だと考えています。身体能力についても、近接戦闘で使う価値を感じていない。本人にとって身体能力を活かす状況は、非効率であると」

 

 少しのざわめき。

 

「つまり、あれだけの近接能力を持ちながら、自分では価値を見ていない?」 「はい」

 

「……狂っているな」

 

 誰かが小さく言った。

 

 鈴木は否定しなかった。

 

「ええ。私もそう思います」

 

 そこで資料がさらに切り替わる。

 

 熱量推定。

 破壊範囲。

 構造崩壊計算。

 

「彼のスキル、【原初の火】については、既に複数案件で戦術級破壊規模を確認しています」

 

 鈴木の声は平坦だった。

 

「少なくとも、既存の高貫通爆弾級を超える破壊力を、探索者個人が、任意のタイミングで、ダンジョン入口から直接行使可能です」

 

「個人が戦術級兵器を持っている、と」

 

 防衛大臣が呟く。

 

「加えて、【転移の指輪】と推定される瞬間移動系アイテムを保有。条件、範囲、クールタイム、座標制約、すべて不明です」

 

 転移。

 転移痕。

 移動経路。

 出現と消失の記録。

 

 

 総理が机に指を置く。

 

「恐ろしさは分かるな」

 

 それは問いではなく確認だった。

 

 瞬間移動。

 戦術級兵器。

 魔石回収能力。

 探索者という枠組みの中で、それを一個人が持っている。その恐ろしさを理解しない愚か者は、少なくともこの場にはいなかった。

 

「火賀灯真の単純戦闘能力は、少なくとも現時点では戦術級です。しかし、国家運営や社会基盤を単独で支配できる意味での戦略級ではありません」

 

 鈴木が明確に区切った。

 

「単独で国家を滅ぼすような類ではありません。社会インフラを支配し、軍を運用し、外交を行う能力は無い」

 

「だが」

 

「はい」

 

 鈴木は頷く。

 

「近代兵器の効かないダンジョンを介した魔石争奪戦の世界、銃もなく原始的な棍棒で戦う世界で、彼だけが戦術級兵器を持っている。

 

 戦術級兵器を使ってダンジョンへ入り、魔石という最重要リソースを取り込む。

 しかも瞬間移動能力を持つ。

 それだけで、国家にとって無視不可能です」

 

 誰も反論しない。

 反論しようがない。

 

「魔石そのものも万能物質ですが、彼はさらにその先を知っている可能性が高い」

 

「根拠は」

 

「転移の指輪です」

 

 鈴木は即答した。

 

「魔石が万能物質だとしても限度がある。あれはあり得ない。何らかのより有用な魔石を使うやり方を知っている」

 

 総理が椅子へ深く座り直した。

 

「危険だな」

 

「危険です」

 

「利益も大きい」

 

「非常に大きいです」

 

 鈴木は一拍置いた。

 

「一言で言えば、怪物的に有用です」

 

 数人が顔を上げた。

 強すぎる言い方だったからだ。

 

 だが鈴木は、さらに続けた。

 

「私の実感として言い換えるなら、有用な怪物です」

 

 今度は、誰もすぐには口を挟まなかった。

 

「私は彼を誰よりも狂人だと思っています。人間をゲームキャラのように扱う。育成対象という言葉で括る。その思考自体は、まったく常識的ではありません」

 

「では、過剰警戒すべきでは」

 

「不要です」

 

 今度は即答だった。

 

「探索者の誰も彼も、突き詰めれば超人です。暗殺しようと思えば、大抵のことはできる。火賀灯真だけを突出して“個人兵器”扱いし、特別警戒対象に置く合理性は薄い」

 

「だが彼は突出して強い」

 

「強いです。ですが、現時点での彼は明確に利益と効率で動いています。その利益がこちらと噛み合う限り、敵性より有用性の方が上回る」

 

 ここで鈴木は、少しだけ言葉を変えた。

 

「加えて、私は現場で彼を見ています。約束は守る。危険だが、交渉を理解する。政府案件でも、少なくとも契約外の混乱を故意に増やしてはいない」

 

 短い。

 だが、会議室の空気はそれだけで少し変わった。

 

 理屈ではなく、実際に接触した人間の重みだった。

 

 年配の官僚が腕を組む。

 

「彼の言うことを、どこまで信用する」

 

「全部はしません」

 

 鈴木は答える。

 

「ですが、無視はもっと危険です。彼は既に【魔石】、【種火】、攻略情報、装備流通、人材育成で、日本国にそれ相応の利益をもたらしている」

 

 モニターに数字が並ぶ。

 

 攻略wiki公開後、初級探索者の死亡率は暫定集計で一割強まで低下。

 生命系アクセサリの配布数。

 種火の実地活用報告件数。

 加工職市場の流通額。

 火賀経由の指定案件踏破率。

 

 簡易推計であっても、もう誤差で片付けられる規模ではなかった。

 

「現状、我々が彼へ与えているものは、限定的な協力権限と接触窓口だけです。対して得ているものは、それ以上です」

 

 総理はしばらく黙っていた。

 

 疲れ切った会議室に、紙をめくる音と空調の低い唸りだけが流れる。

 誰も、この問題を美しい形で処理できるとは思っていない。

 だが、美しく処理できないからと言って後回しにもできない。

 

「鈴木君」

 

「はい」

 

「君の評価は分かった。では、次の段階だ」

 

「クランですか」

 

「そうだ」

 

 総理の声が少し低くなる。

 

「オークション。攻略wiki。公認市場。そしてクラン【エリュシオン】。

 彼は物と金と人を一つの器へ集め始めている。

 それをどう見る」

 

 警察側が先に口を開く。

 

「危険です。反社の流入、名義貸し、違法仲介、闇市場の温床化、その全部の可能性があります。ただし逆に言えば、器が見えているぶん追えます」

 

 経産が続く。

 

「市場としては有効です。装備、素材、加工品、人材が表ルートへ出てくる。監視もしやすい。何より生産職と低レアの受け皿になる」

 

 防衛が短く言う。

 

「放置すれば、もっと質の悪い集積点が先にできます」

 

 鈴木が最後にまとめた。

 

「全部正しいですね」

 

 彼は一拍置いて、明確に言った。

 

「ですが、現時点で最も危険なのは、火賀灯真が器を作らないことです」

 

 総理の目が向く。

 

「説明を」

 

「器が無ければ、人は勝手に群がります。裏市場、違法斡旋、反社、宗教、配信者崩れ、そういったものが先に低レアと生産職を囲い込みます。

 火賀灯真は少なくとも、利益目的でも育成対象として拾う。死にやすい初心者を、死なないラインまで引き上げる」

 

「善意ではない」

 

「ええ。善意ではありません」

 

 鈴木は少しだけ目を細めた。

 

「ですが、善意でないからこそ継続性があります」

 

 その場の何人かが、嫌そうな顔をした。

 だが、その嫌さは理解だ。

 理想論より現実論が勝っている時の顔だった。

 

 善意は枯れる。

 熱意は燃え尽きる。

 だが、利益と執着と楽しさで動く人間は、思ったより長く止まらない。

 

「総理」

 

 防衛側の一人が口を開く。

 

「少なくとも現時点で、日本国内における魔石争奪戦の主要プレイヤーは三つです。国家。民間。火賀灯真。

 ここへ海外と反社が本格参入する前に、国内側の流れを一本作る必要があります」

 

「それがエリュシオンか」

 

「候補の一つです」

 

 総理は短く息を吐いた。

 

「怪物を飼うのではない。利用する。

 ただし、利用されるな。

 国民に説明できる形だけは崩すな。

 その線で行く」

 

「了解しました」

 

 鈴木が頷いた、その時だった。

 

 会議室の扉が、こん、と控えめに鳴った。

 

 全員の視線がそちらへ向く。

 

「失礼します」

 

 秘書官が顔を出す。

 

「鈴木室長。オークション準備のお時間です」

 

 そこで、会議は一度切れた。

掲示板は

  • オークション前
  • オークション後
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。