☆1キャスターの俺、現代ダンジョン出現当日、F級ダンジョン60個を周回特化自爆スキルで焼き払ってたら低レア最強パーティが育っていた〜アーラ◯ュ系周回スキルで人類全員を育成し尽くします〜 作:人見小夜子腹パン部
【原初の火】。
【原初の火】。
中国国内、未公表ダンジョン入口。
膜の揺らぐその前で、俺と、俺によく似たもう一人が、同時にそう唱えた。
直後、世界が一瞬だけ白く飛ぶ。
轟音。
爆ぜる熱。
地形ごと剥がれるような衝撃。
入口の向こうに広がっていたはずの迷宮構造が、内部の魔物も、ボス個体も、初回報酬へ至る経路も、全部まとめて焼失した。
焼ける、というより、構造ごと否定される感じに近い。
竹林迷宮などという名前のくせに、竹も迷宮もへったくれもない。
入口から先が、まとめて「存在しなかったこと」にされる。
相変わらず、あまりにも雑で、あまりにも強い。
ダンジョン反応、消失。
緊急ログ、連打。
システムメッセージ、大量表示。
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『――B級ダンジョン【竹林迷宮】を踏破しました』
『種火を獲得しました』
『高位素材を獲得しました』
『初回踏破報酬を獲得しました』
『魔石を獲得しました』
『条件達成により一部隠し報酬を獲得しました』
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だいたい終わりだ。
俺の隣で、同じ顔をした男が、肩を軽く回した。
魔石消費五つのガチャを100連して運よく当てたSS級ユニークアーティファクト【スワンプマン】による同位体。
俺とまったく同じ記憶、まったく同じ思考癖、まったく同じ性格を持つ複製体だ。
さすがに戦闘能力の複製には上限がある。
だが、今の俺程度の能力なら、装備含め完全再現が可能だった。
便利だ。
かなり便利だ。
特に【原初の火】みたいな、入口から撃ち込むだけで仕事が終わるスキルと噛み合いすぎている。
雑に二倍。
倫理観はともかく、未発見ダンジョンを荒らす速度は異様に上がる。安里真由不在の穴を埋めている
こういう「だいぶ倫理が怪しいけど、攻略効率としては満点」みたいなアーティファクト、本当に好きだ。
同位体は、灰のちらつく腕を見下ろして、あっさり言った。
「灰化回った。俺死ぬわ。めっちゃ【平良久連】用の好感度アイテム稼ぐの楽しかったわ」 「OK、同位体。寝てろ。適当なとこでSSS級蘇生アーティファクト【ユグドラシルの雫】で叩き起こしてやる」 「ん」
短い返事。
そのまま、そいつの身体は端から灰へ崩れていった。
ぱらぱらと乾いた音を立てて、同位体は消える。
終わりだ。
少なくとも、今この瞬間のあいつは。
スワンプマン問題について、俺はわりと昔から結論が出ている。
情報が同じだろうが、記憶が同じだろうが、別人だ。
極論、同じ記憶を持ったコピー体がいるから今からキミ殺すね、と言われて納得できるか、という話でしかない。
俺は納得しない。
たぶん誰だって嫌だろう。
しかも本体と同位体は、物理法則上、完全に同じ座標には存在できない。
位置が違う。
位置が違えば、その瞬間に見ている景色が違う。
景色が違えば、そこで生じる記憶も違う。
つまり、生成された瞬間からもう同一ではない。
だから俺と同位体は別人だ。
便利で、よく似ていて、俺の思考を高解像度でなぞる別人。
そのくらいの認識でちょうどいい。
近しい。
扱いやすい。
だが、代替はできない。
そういう意味では、死ぬと普通にちょっと惜しい。
灰を一瞥してから、俺は改造スマホを開いた。
中国のツイッターを、改造スマホはツイッター(意地でもXとは呼ばない)内蔵の翻訳機能の比じゃない精度で翻訳していく。
短文SNSの機械翻訳って、だいたい文脈を殺すか、固有名詞を変な英単語へするか、その両方なんだが、こいつはその辺が妙に優秀だ。
俗語も、罵倒も、検閲を回避するための婉曲表現も、ほぼ意図通りへ拾う。
中国国内の現地監視網が混乱しているらしい。
公開系SNSでは「未確認爆発」「地形崩落」「違法探索者」「軍の演習ではないか」「また地方政府の隠蔽か」あたりの単語が飛び始めている。
向こうの政府系報道はまだ抑えている。
抑えてはいるが、内部ではたぶん阿鼻叫喚だろう。
それはどうでもいいわけではない。
あまねく人間は、よっぽど邪悪でない限り、全て俺の育成対象になりうる。
が、自国他国の社会が燃えようが、俺にとって優先順位の最上位は別にある。
ツイッターをまた見る。
他国では犯罪探索者が暴れている、という報告が増えている。
東南アジア方面では物流拠点の襲撃。
欧州では遺物強盗。
米国では未登録探索者によるダンジョン占有。
世界中が、だいぶ順当に荒れてきた。
警察に種火を渡したのは正解だったな、とは少し思った。
ダンジョン出現から十日やそこらで、人を殴るのに向いたスキルを持った連中が法秩序を試し始めるのは当然だ。
そこへ種火と基礎装備を流して、警察側の探索者水準を先に底上げしておいたのはかなり効いている。
ただ、神奈川県警がここまで暴れるとは予想外だった。
よっぽど反社にフラストレーションが溜まっていたらしい。
報告書の文面だけでも、妙に生き生きしている。
正直ちょっと引く。
なんだ「逃走経路予測済みにつき、入口帰還時点で即確保」って。
嬉々としてダンジョン入口へ網を張るな。
いや、理にはかなってるが。
まあ、それも俺の本題ではない。
人間達の社会など、割とどうでもいい。
興味がないわけじゃないし、幸せであるに越したことはない。
だが、俺の思考はまず育成へ向く。
救世主でも神でもない。
単なる育成好きの一般ゲーマーとして、俺は思考する。
そして現状の問題点は一つだった。
周回による、魔石の消費量の多さ。
他に取られないように、【転移の指輪】で未発見ダンジョンを国外含めて飛び回り、初回報酬の魔石を回収している。
その結果、手元の魔石は既に五千を超えた。
十分すぎる。
普通の人間なら、その時点で一生遊べるどころか国家規模の取引へ片足を突っ込んでいる。
だが、まだ足りない。
攻略するほど、もっと欲しくなる。
魔石は世界中で取れる量の決まっている有限資源だ。
争奪戦。
資源戦争。
攻略とはそのための手段に過ぎない。
その有限資源を、周回一回につき一個ずつ消費するのはダメだ。
今の俺は【原初の火】でダンジョンを焼き払い、灰化し、激痛で転げまわり、魔石で治してまた飛ぶ、という最悪に効率の悪いことをしている。
強い。
速い。
でも資源効率だけが終わっている。
高性能な焼却炉を、燃料ドラムごと投げ込んで回しているようなものだ。
攻略としては満点、経済としては赤点である。
だから、一刻も早く欲しい。
中国のS級ダンジョン【汝、苦痛を愛せよ】。
その初回報酬【苦痛聖杯】。
激痛と引き換えに、強烈な治癒効果をもたらすクリア報酬。
灰化さえ治せる可能性が高い。
その上何度でも使える。
つまり、魔石一個消費の治療工程を、もっと別の形へ置き換えられる。
欲しい。
めちゃくちゃ欲しい。
絶対にシステム側が「これで回せ」と言っている。
だが、一人では限度がある。
真由。
円。
それから、あと一人。
それくらいは攻略に欲しい。
だからスカウトした。
オークション会場で【鬼哭刀】に興味を持っていた女――平良久連。
あいつの目は良かった。
ただ強いから欲しい、ではなかった。
「鬼種特攻四枚差し」という極端な設計を見て、その偏り方そのものに反応していた。
ああいうのは当たりだ。
火力や見栄えじゃなく、設計思想へ食いつく奴は大体当たりである。
能力は【十二試練】。
自身の死亡時、相手全体を耐性ごとぶち抜いて二秒間攻撃不能にする。
本人は、死亡しないといけないクソスキルだと思っている。
まあ、現時点では半分正しい。
でも生かし方はある。
とにかく今は、あいつ用の育成素材が必要だった。
「おっ」
足元のドロップへ視線を落とす。
小ぶりな金属水筒。
表面に薄く霧が張り付いている。
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【永久水筒】
分類:アーティファクト
効果:内部へ充填された液体の鮮度・温度・性質を一定範囲で維持する。空間容量を無視して500000リットルまで液体保存可
解説:
少しだけ“飲む”という行為を侮辱している便利道具。
保存、携行、輸送、その全部を雑に楽にする。
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「これも鈴木に回すか」
育成関係なければ、奴らの方が遥かに上手く運営する。
永久水筒なんて、俺が持っていてもせいぜい飲み物がぬるくならないくらいだ。
だが国家や病院へ渡れば、輸液、薬液、ワクチン、血液製剤、そういう方面でいくらでも使い道があるだろう。
災害時医療と遠距離搬送で悪さをする未来しか見えない。
こういう「地味だが公共インフラを殴る」系のアーティファクト、放っておく方がもったいない。
さらに、少し離れた位置に落ちていた薄い紙片を拾い上げる。
札とも、メモともつかない、やけに軽い白紙。
だが指先へ触れた瞬間、紙の表面へ淡い文字列が浮かび上がった。
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【識別紙片】
分類:消耗アーティファクト
効果:対象一つの真名・分類・効果・呪性の有無を看破する
解説:
知らないまま使う恐怖と、知ってから使う安心。
その差を紙一枚で買えるなら、だいぶ安い。
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「……これもだいぶ集まったな」
思わず声が漏れた。
識別。
めちゃくちゃ大事だ。
大事すぎる。
今の探索者社会は、未鑑定の装備と遺物と消耗品で地味に死にかけている。
強いと思って拾った剣が、実は装備者へじわじわ毒を回す呪物だったり。
緊急回復アイテムだと思って飲んだ液体が、ただの高濃度酒精だったり。
よく分からない紙片を雑に燃やしたら、部屋中を煙で埋めたり。
そういうしょうもない事故が、低級帯では普通に起きる。
WIKIの質問欄にも、
「これ何ですか」
「使っていいやつですか」
「持ってるだけで頭痛がするんですが当たりですか」
みたいな投稿が山ほど来ていた。
当然だ。
識別手段が乏しいのだから。
「そろそろ配るか」
永久水筒が国家向けの便利道具なら、識別紙片はもっと露骨に社会インフラ寄りだ。
しかもこっちは、育成途中の低レアや初心者へ直接効く。
呪物事故を減らす。
無駄なロストを減らす。
雑な死亡率を下げる。
つまり、普通にばら撒く価値がある。
俺はその場で、インベントリを見直した。
低級の【識別紙片】なら数億枚ある。
「……結構落ちたな」
C級以下では落ちない。
だがB級ダンジョンクリアできれば、低級帯向けなら死ぬほどドロップする。
悲しいことに、今の世界でB級を安定周回できる人間がほぼいないだけだ。
識別紙片をポケットへ放り込みながら、俺はもう大雑把な流通先を決めていた。
まずは政府登録窓口。
次に病院と警察の探索者部署。
それからWIKIで使用優先順位を出す。
初心者向け支給品へ混ぜる。
加工職や回復職にも回す。
遺物を触る機会が多い連中ほど、識別事故は洒落にならない。
ついでに、未鑑定品を高値で売りつけるタイプの詐欺も少しは潰せるだろう。
反社は嫌がる。
結構なことだ。
「帰還の紙片、識別紙片、鉱石、生命、種火……」
口の中で順番に並べる。
強い武器も大事だ。
だが、その前に必要なのはやっぱり土台の方だ。
帰れる。
識別できる。
最低限の装備がある。
そこまで整って、ようやく探索が探索になる。
育成環境としては、まだまだ全然甘い。
だが、甘くないなら甘くなるまでいじればいいだけだ。
「これも鈴木に流すか。いや、半分は直配布だな」
政府に全部預けてもいい。
だが、たぶん足が遅い。
識別紙片みたいな消耗品は、現場へ雑に投げ込んだ方が早い。
WIKIで「未鑑定アーティファクトはまず識別紙片を使え」と太字で出しておけば、それなりに文化になるだろう。
文化になれば勝ちだ。
人間は、便利な手順を覚えると勝手に最適化されていく。
そういう意味では、ばら撒くだけでキャラが勝手に育つ種火と似ている。
識別紙片も、知識と一緒に配れば勝手に事故率を下げてくれる。
かなり優秀なUIだ。
そこでスマホが鳴った。
今の俺の改造スマホには、あらゆる権力者からのコンタクト要求が詰まっている。
国内の官僚。
企業トップ。
自治体。
海外機関。
外交窓口。
よく分からない大富豪。
誰から会うか。
育成とどちらを優先するか。
そのへんまで含めて、悩ましい楽しさだった。
そしてAIが、珍しく強く推した。
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【guide-GPT】
推奨:応答してください。
優先度:極めて高い。
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「へえ」
出る。
画面に表示された発信元を見て、少しだけ眉が上がった。
中国総書記個人。
さすがに予想外だ。
「火賀灯真氏、で間違いないかな」
通訳を介していない。
本人の声だ。
妙に低く、妙に落ち着いている。
背景音もない。
党の公式回線ではなく、個人の秘匿線に近いのだろう。
「そうです」 「単刀直入に言おう。共産党に内緒で、中国の魔石を回収してくれないか」
あまりにも真っ直ぐで、少し笑いそうになった。
「目的は?」 「言えない」 「だろうと思いました」
完全不明ではない。
むしろ分かりやすすぎる。
国内権力闘争。
地方支配層の暴走。
軍閥化。
あるいは中央党内の主流派と非主流派の取り合い。
要するに、魔石を誰の手へ渡すかで、その後の政治が変わる段階なのだろう。
国家対国家というより、国家内部での争奪戦だ。
そして、そこへ外部の攻略者である俺を使いたい。
「条件が一つあります」
総書記の雰囲気が少しだけ警戒したようになる。
「【汝、苦痛を愛せよ】の解放権を下さい」
このS級ダンジョンには、厄介な性質があった。
侵入条件。
その土地の責任者からの許可必須。
馬鹿みたいな条件だが、現実にそうなっている。
そして中国みたいに責任者の概念が一枚岩ではない国だと、これがものすごく面倒になる。
が、総書記が「行け」と言えば終わるので楽だ。
「了解した。座標は送る。近くに来てくれれば、そこから迎えを出す」 「党には?」 「知らせない方がいい」 「面倒ですね」 「面倒だ」
正直で結構。
「分かりました。行きます」
通話が切れる。
座標情報が送られてくるのを確認して、俺は小さく息を吐いた。
楽しくなってきた。
S級【汝、苦痛を愛せよ】。
【苦痛聖杯】。
平良久連の育成。
中国内部の権力闘争。
全部面倒だ。
そして、面倒なほど攻略しがいがある。
俺は転移先候補の近場にある迷宮反応を一つ選び、【転移の指輪】へ触れた。
「さて」
光が足元へ走る。
「次は中国の政治ダンジョンか」
そのまま俺は、待ち合わせ場所近くの迷宮へ飛んだ。