☆1キャスターの俺、現代ダンジョン出現当日、F級ダンジョン60個を周回特化自爆スキルで焼き払ってたら低レア最強パーティが育っていた〜アーラ◯ュ系周回スキルで人類全員を育成し尽くします〜   作:人見小夜子腹パン部

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悪龍胎動

 【転移の指輪】の効果は、シンプルだ。

 

 迷宮に飛ぶ。

 

 そして、その「迷宮に飛ぶ」は、完全にそのままの意味で処理される。

 地球上のどこであれ、そこが迷宮でさえあれば移動できる。

 中国でも、アメリカでも、南米でも、砂漠の地下でも、軍の封鎖区域の向こうでも、迷宮反応さえ掴めば届く。

 

 それだけでも十分に狂っている。

 だが、本当の本質はそこじゃない。

 

 この指輪、別次元、別世界の迷宮にも飛べる。

 

 今の俺では、まだそこへ手を出せないだけだ。

 

 近隣世界の反応だけは、断片的に拾えている。

 星よりも巨大な艦隊が恒星間を埋める、SLGじみた戦争世界。

 無限に成長する魔物同士を戦わせて育てる、育成ゲームそのものみたいな世界。

 剣と魔術だけで文明が成立しているくせに、一部の個体戦力だけが惑星破壊級に届いている、頭のおかしいファンタジー世界。

 そういうのが、割と近くにあるのは分かっている。

 

 分かっているが、行かない。

 

 今の俺の肉体は、まだ貧弱だ。

 バンカーバスター直撃如きで瀕死になるし、核が直撃すれば普通に死ぬ。

 その程度の耐久では、世界と世界の境を越える圧に耐えられない。

 迷宮へ飛ぶ、というより、現実の法則が薄い場所へ身体ごと突っ込むわけだから、基礎スペックが足りないと話にならない。

 

 だから順番だ。

 

 まずはこの世界で、次元突破に耐えられるだけの力を得る。

 世界をまたぐのは、その後でいい。

 

 今は、目の前の中国だ。

 

     ◇

 

 座標へ飛ぶ。

 

 白い光が一閃し、次の瞬間には中国の迷宮地帯、その外れに立っていた。

 首都近郊。

 大都市圏の喧騒からはわずかに外れ、だが国家中枢の手が伸びるには十分近い場所。

 密会に便利そうな、という感想が先に来るあたり、俺もだいぶ順応してきている。

 

 迎えはすぐに来た。

 黒塗りの車。

 護衛車両。

 表向きにはただの要人移動列にしか見えないよう徹底している。

 だが車列の空気は、妙に静かで、妙に張っていた。

 

 俺が乗り込むと、案内役の男は必要以上に口を利かなかった。

 賢い。

 余計なことを聞かない人間は長生きする。

 

 車の中で、俺は少しだけ考えていた。

 

 無許可で中国のダンジョンを荒らしまくっていた件、どう言い訳しようか。

 

 いや、別に悪いことをしている自覚はそこまでない。

 未発見ダンジョンを放っておいたところで、いずれ誰かが取る。

 どうせ取るなら、効率よく、魔石を最も有効活用できる側が取った方がいい。

 俺のロジックはわりとそんな感じだ。

 

 だが国家の側から見れば、話は別だ。

 自国内の戦略資源を、よく分からない他国の探索者が勝手に抜いている。

 普通に腹立たしいだろう。

 

 どうするか。

 知らなかったで押し切るか。

 許可が必要と聞いてませんでしたで行くか。

 あるいは、そちらも隠していたでしょうで相殺するか。

 

 そんなことを考えているうちに、車は止まった。

 

     ◇

 

 会った瞬間、思った。

 

 メディアで見るより、ずっと疲れた男だ。

 

 傲慢な国家のトップ。

 巨大な人口と巨大な組織を背負った、冷たい独裁者。

 テレビで見る時は、だいたいそういう輪郭で切り取られていた。

 

 だが、実物は違う。

 

 フランク、と言っていいのかは分からない。

 だが少なくとも、威圧で会話をねじ伏せる類ではなかった。

 姿勢は崩していない。

 目も鋭い。

 それでも、そこにあるのは傲慢さより先に、ずっと長く休めていない人間の疲労だった。

 

「来てくれて助かる」

 

 第一声がそれだった。

 通訳を介していない。本人が日本語で言う。

 

「どうも」 「堅い話は後だ。まず一つだけ確認したい」

 

 総書記は俺を見た。

 

「【汝、苦痛を愛せよ】の解放に、私の許可が要るらしいな」 「要ります」 「よく分からんが、必要なら許可を出そう」

 

 その瞬間、視界の端にシステムメッセージが走った。

 

==================

【権限認証を確認しました】

対象迷宮:【S級ダンジョン 汝、苦痛を愛せよ】

管理責任者相当の許可により、侵入条件の一部を解除します

==================

 

 楽だ。

 

 やっぱり、責任者の判定を真正面から踏める相手は話が早い。

 

 だが、それで終わりではなかった。

 

 総書記は続けた。

 

「さらに、私の権限で中国国内の未解放ダンジョン利用許可も出す」 「……へえ」 「少なくとも、中央政府が把握しているものについてはな。君は、以後それらへ入っていい。代わりに魔石の回収を頼む」

 

 今度は、別のシステムログが走る。

 

==================

【地域権限付与を確認しました】

対象地域:中国国内

対象:中央政府管理下の迷宮群

効果:一部迷宮の侵入制限を緩和

==================

 

 なるほど。

 こうやって一括で権限を通すのか。

 

 これなら、いちいち地方政府や軍閥もどきや党の別部署へ頭を下げずに済む。

 それはつまり、俺が中国共産党の末端や地方権力者に余計に目をつけられないよう、中央側で一気に処理しているということだ。

 

 賢い。

 かなり賢い。

 

「何故ですか?」

 

 俺がそう聞くと、総書記はすぐには答えなかった。

 机の上へ置かれた茶を一口だけ飲み、それから低い声で言った。

 

「……君は中国についてどう思う?」

 

 唐突だ。

 だが、政治家がこういう聞き方をする時、たいてい答えは既に相手の中にある。

 

「今の新世界秩序になる前には、世界NO2の国家だと」

 

 それが素直な認識だった。

 経済規模。

 人口。

 工業力。

 製造能力。

 軍拡余力。

 国家としての総合出力。

 あらゆる意味で、アメリカの次に来る超大国。

 

「それも正しい」

 

 総書記は頷いた。

 

「だが、答えはもう一つある。詰んだ国だ」

 

 俺は黙って聞く。

 

「旧世界秩序における人間の最高の武器は何だ?」

 

 自問の形だ。

 だが、答えは決めている声だった。

 

「数だ」

 

 それは、あまりにも身も蓋もないが、国家運営の本質でもある。

 

「人間集団の最大構成単位が国である以上、最後にぶっちぎり最強の国家になるのは、わが国だ」

 

 総書記は机上に指を置いた。

 

「極端な話をしよう。仮に日本人が、我々の十倍の生産性を持っていたとしても、国家として生産力で勝つのは我々だ。

 一国だけ、百人でW杯へ乗り込んでいるようなものだ。

 個が強くても、母数でひっくり返せる。

 それが旧世界秩序だった」

 

 そこまでは、分かる。

 

 そして、その先も。

 

「それ故に詰んでいる」

 

 静かな声だった。

 

「放っておけば、手のつけられない龍になる国家を、放っておくほど世界は愚かではない。

 遅かれ早かれ、封じ込め、切断、包囲、分解、何でもやってくる。

 そして他国に滅ぼされる前に、いっそ他国を滅ぼすべきだ、という過激な思想すら党内で上がっていた」

 

 笑えない。

 

 だが、国家の上に座る人間なら、そう考えるだろうとも思う。

 

 強くなりすぎる未来が見えているからこそ、その未来へ至る前に刈り込むべきだという発想。

 自滅的だが、理屈は通っている。

 

「ただ、それは旧世界秩序だ」

 

 総書記の指先が、今度は机を軽く叩いた。

 

「今の新世界秩序であれば、その詰んだ構造も変わるかもしれない。

 滅ぼすか、滅ぼされるか。

 その二択の運命を、変えられるかもしれない」

 

 そう言って、総書記は俺を見る。

 

「それまでに、共産党が暴走しないよう、国力を抑えて時間を稼ぎたい」

 

 なるほど。

 

 中央政府としては、今この段階で中国が一気に魔石をかき集め、攻略速度で世界を蹂躙する構図が一番まずいのだ。

 外から見れば「やっぱり中国が一番危険だ」と映る。

 内から見れば、党内強硬派と地方権力が一気に加速する。

 結果として、対外包囲も対内暴走も同時進行になる。

 

 だから、あえて抜く。

 あえて速度を抑える。

 あえて今だけ、自国の迷宮を外部の攻略者へ触らせる。

 

 随分と思い切っている。

 だが、詰んだ構造を自覚しているなら、そこまでやるのも分かる。

 

「そのための魔石の回収だ」

 

「自分で集めた方が早いのでは?」 「中央が集めた瞬間、中央が魔石を独占し始めたと全世界へ宣言するようなものだ。

 地方も軍も党内強硬派も黙っていない。

 君の方が、まだ政治色が薄い」

 

 育成好きの一般ゲーマーを、政治色が薄い外部戦力として扱うな。

 いや、実際薄いのか。

 少なくとも俺は、中国の国家運営に興味があるわけではない。

 

「新世界秩序になってからの日本はどう見える?」

 

 今度は逆に、総書記が聞いてきた。

 

「圧倒的ですね」

 

 即答した。

 

「他国の魔石所持数が、アメリカですら五百前後のところ、日本は六千を超している。

 医療、電力、素材代替、輸送、全部に使える。

 レアメタル換算で六年分の先行貯金を持ってるようなものです」

 

「その通りだ」

 

 総書記は苦笑とも疲労ともつかない表情をした。

 

「米国は君たちと技術提携し、その恩恵に預かっている」

 

 そう。

 日本は【魔石】と【帰還の紙片】、それから探索者育成環境で先行した。

 アメリカは、それをただ羨ましがるのではなく、技術提携と情報共有で一部を引っ張った。

 

 【帰還の紙片】が支給されたことで、探索者の労災構造も変わった。

 ダンジョンへ入って死ぬ、ではなく、危なくなったら帰る、が制度へ組み込まれ始めた。

 自治体は避難所と探索者窓口の横へ紙片配給所を置きたがり、企業は福利厚生で登録探索者社員へ持たせ、クランは標準装備にしたがる。

 もちろん流通管理と偽物対策で政府は胃を壊しているが、それでも社会全体の生還率は明確に上がった。

 

 交通インフラも、地味にやばい。

 

 現時点ではロックが強いので完全に社会を破壊するほどではない。

 

 だが「登録済み生活拠点へ帰れる」というだけで、地方在住探索者が首都圏へ稼ぎに出て、その日のうちに実家へ戻る、みたいなことが起き始めている。

 

 通勤の意味が少しずつ変わる。

 住む場所の意味も変わる。

 家賃相場はまだ反応しきれていないが、不動産屋が未来予測だけは始めている。

 

 物流面でも、紙片そのものは人しか飛ばせないが、「人が即座に帰れる」だけで現場判断の速度が違う。

 

 災害対応、応急修理、探索者救助、医療搬送判断、その全部が一段速くなる。

 

 アメリカは、そこへ技術提携で触った。

 

 魔石のエネルギー変換技術。

 紙片の認証ロック設計。

 低レア含む探索者育成の初期手順。

 その一部を吸い上げて、自国向けに再設計している。

 完全ではない。

 

 だが、アメリカはもともと国家と民間と軍需の接続が速い。

 一度本気で走り出せば、日本とは別方向に危険な加速をする。

 

 つまり、日本は今、他国と比べて明確に先を走っている。

 そしてアメリカだけが、少し遅れて同じ路線へ食らいつき始めている。

 

「ただ、わが国も最後には、その恩恵にあずかれるようにしたい」

 

 総書記は静かに言った。

 

 俺は普通に頷く。

 

「? 言われなくてもしますが」

 

 総書記が、一瞬だけ表情を止めた。

 

「……何?」

 

「この世の全人類は元から、俺の育成対象、もしくは育成対象にまだなっていないだけの人間ですよ」

 

 狂人を見る目。

 

 何故だ。俺はしがない善良な一般人だろ

 

「いや、日本贔屓もありますし、どうしようもないクズは育成したくねえと思いますが」

 

 そこは普通に補足する。

 

「そんな人間、人類の〇・〇〇一%にも満たないでしょう」

 

 ドン引きが一段深くなる。

 

 何故だ。

 俺の会社員時代の評価は、

 「仕事は真面目でそつなくこなすが、今ひとつ情熱のない男」

 「悪いやつじゃあないんだが、これといって特徴のない」

 「影の薄い男」

 だったはずだ。

 

 一般的な常識人だろう。

 たぶん。

 

 総書記はしばらく黙っていたが、やがて疲れたように息を吐いた。

 

「……日本は、君みたいな人間をどう育てたんだ」

 

「育ててないと思いますよ」

 

「だろうな」

 

 そこはすぐ納得された。

 

     ◇

 

 ともあれ、会談は終わった。

 

 条件は通った。

 【汝、苦痛を愛せよ】への解放権は取った。

 中国国内ダンジョンへの中央権限経由のアクセスも確保した。

 総書記の意図も、だいたい理解した。

 

 なら次だ。

 

 平良久連の育成。

 【死滅願望】みたいな規格外を除けば、最強のタイマン戦力候補。

 バーサーカーであり、不死身じみた圧で前線を押し潰す【十二試練】。

 

 あれを、ちゃんと仕上げたい。

 

 【転移の指輪】へ触れる。

 飛ぶ先は、日本の迷宮。

 

 ああ、楽しいな。

 

 光が足元へ走り、俺の身体が現実から薄くほどけていく。

 次の育成。

 次の攻略。

 次の最適化。

 

 それだけで、かなり気分がいい。

 

     ■■■■

 

 残されたのは、中国総書記のみだった。

 

 護衛も秘書官も、少し離れた位置で待機している。

 部屋に残るのは、静けさと、湯気の消えた茶だけだ。

 

 総書記は、火賀灯真が消えた空間をしばらく見ていた。

 

 狂人。

 危険人物。

 怪物。

 有用な外部戦力。

 どのラベルも、たぶん正しい。

 

 だが同時に、あの青年は奇妙なほど一貫していた。

 

 権力に酔っていない。

 国家に仕えたいわけでもない。

 革命したいわけでもない。

 復讐したいわけでもない。

 ただ、自分の見込んだ個体と環境を育てるのが好きなだけだ。

 

 世界規模の危機の只中にいて、その動機がそれなのは、はっきり言っておかしい。

 だが、おかしいからこそ、まだ使える。

 

 善意はいつか摩耗する。

 憎悪はどこかで燃え尽きる。

 だが、趣味と執着は長持ちする。

 

「……羨ましいな」

 

 ぽつりと、誰にも聞こえない声で総書記は言った。

 

 国を背負う人間は、好きなものを好きだと言うだけでは済まない。

 人口。

 党。

 軍。

 地方。

 世界。

 全部の釣り合いを見なければならない。

 

 そのうえで、今、自分がやっていることは何だ。

 

 自国の魔石回収を、国外の怪物へ頼む。

 中央の権限で侵入条件を開け、地方と党内強硬派の目から隠しながら、時間を買う。

 

 情けない。

 だが必要だ。

 必要である以上、やるしかない。

 

 総書記は、机上の端末へ手を伸ばした。

 暗号化された内部線。

 打つべき指示はいくつもある。

 

 【汝、苦痛を愛せよ】周辺の秘匿。

 地方系統への情報遮断。

 中央直属部隊の限定移動。

 監視網の再編。

 そして、火賀灯真が抜いた魔石の帳尻をどう見せるか。

 

 面倒だ。

 だが面倒なほど、生き延びる価値がある。

 

 新世界秩序。

 まだ名前しかないその時代が、本当に来るのだとしたら。

 最後に、中国もそこへ食いつかなければならない。

 

 少なくとも、旧世界の「討たれる悪龍」のまま死ぬのは御免だった。

 

 総書記は、短く息を吐く。

 

「まずは時間を稼ぐか」

 

 その声は、独裁者のものというより、巨大な国を抱えた管理者の疲れた独り言に近かった。

 

 外では、まだ世界が変わり続けている。

 日本は魔石で走り、アメリカはその背中を追い、欧州は制度で踏みとどまり、東南アジアでは犯罪探索者が物流を襲い、世界中の国家が迷宮という新しい国境へ戸惑っている。

 

 その中心で、火賀灯真は次の育成先を探している。

 

 なんとも、ひどい時代だ。

 

 だが。

 だからこそまだ、勝ち筋はあるのかもしれない。

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