☆1キャスターの俺、現代ダンジョン出現当日、F級ダンジョン60個を周回特化自爆スキルで焼き払ってたら低レア最強パーティが育っていた〜アーラ◯ュ系周回スキルで人類全員を育成し尽くします〜 作:人見小夜子腹パン部
瞬間、世界が白く染まった。
熱、という言葉では軽すぎた。
炎ですらない。
もっと原始的で、もっと乱暴で、もっと理不尽な、何か“燃える”という現象そのものを濃縮したような奔流が、俺の指先から前方へ叩きつけられる。
火柱、という表現も違う。
そんな生やさしいものじゃない。
通路を埋めた。
壁を舐めた。
床を走った。
視界に入る全てを一瞬で飲み込んで、F級ダンジョンの入口周辺を、ただの焼却炉に変えた。
耳をつんざくような悲鳴が幾つも重なった。
最初に飛びかかってきていた犬型の魔物。
天井に張り付いていた節足の化け物。
奥から群れて押し寄せていた、小鬼じみた何か。
まだ姿も見えていなかった敵影ごと、まとめて焼けた。
肉の焼ける臭いがした。
石の爆ぜる音がした。
空気が焦げた。
そして、次の瞬間。
「――っ、ぁ、が……ッ!?」
俺の全身を、激痛が貫いた。
膝から崩れ落ちる。
喉の奥から、情けない悲鳴が勝手に漏れた。
皮膚の内側から焼かれる。血管が煮える。骨髄にまで火箸を突っ込まれたみたいな痛みが、全身の神経を一斉に引っ掻き回してきた。
痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い。
笑うしかなかった。
「は、はは……っ、そう、そうだよな……!」
これだ。
この反動だ。
このバカみたいな代償こそが、【原初の火】だ。
使ったことがある。
ゲームで、何百回も、何千回も見た。
戦闘後に灰になって転がるあの馬鹿げた仕様。
その美しさに惚れ込んで、素材も限界突破資材も礼装も全部つぎ込んで、☆1のくせに環境の周回を支配させた、俺の推しだ。
現実の激痛は、さすがに想像以上だったが。
それでも、前を見る。
焼け跡の向こうに、立っている魔物はもういない。
通路一帯にいた敵影が、まとめて消えている。
見える範囲だけじゃない。もっと奥、索敵できない先にいた反応まで、まとめて吹き飛ばした感触があった。
一発で、終わった。
たった一発で、百はいた。
百体。
F級とはいえ、出現初日のダンジョン。
しかも人類がまだ何一つ仕様を把握していない状態で。
それを、入口から一撃で焼き払った。
「威力は……まあ、こんなもんか」
俺は焼けるような喉で呟いた。
勘違いしないでほしいのは、【原初の火】は確かに倍率だけなら頭がおかしい。
低レアとは思えない、最上位級の奥義倍率をしている。
ただし、それだけだ。
☆1キャスターの貧弱な基礎ステータス。
ロクな自己バフも無い。
まだ育成も進んでいない。
装備も無い。
ドーピングも編成補助も礼装も、ゲーム時代の再現には程遠い。
だから“単発火力”だけで言えば、いずれ高レアの化け物どもに抜かれる。
よっぽど盛りに盛らない限り、格上ボスを単騎で消し飛ばすような真似は無理だ。
でも。
範囲だけは、ガチだ。
それを俺は、何より望んでいた。
低レアのくせに。
貧弱な本人性能のくせに。
雑魚をまとめて消し飛ばすことだけに関しては、終盤まで腐らない。
それが【原初の火】だ。
「来た……マジで来た……!」
望んでたそれが来た。
口の端が吊り上がる。
全身は焼けるように痛いのに、脳だけが気持ち悪いくらい冴えていた。
その時、視界の端で、青白いウィンドウが狂ったみたいに弾けた。
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『――F級ダンジョン【旧駅前地下通路】の魔物群を殲滅しました』
『経験値を獲得しました』
『種火【小】×48を獲得しました』
『種火【中】×6を獲得しました』
『初回踏破報酬を獲得しました』
『魔石×3を獲得しました』
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「っ、はは……通知の嵐かよ」
目の前に次々とシステムログが積み上がっていく。
最高だ。
そうだよな。そうなるよな。
一括殲滅したんだからドロップ判定もまとめて来るに決まってる。
新しく表示されたアイテム欄に意識を向ける。
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【種火【小】】
探索者へ経験値を付与する育成アイテム。
使用することで対象のレベルを上昇させる。
低品質のため上昇量は小さい。
ダンジョン内の魔物、および一部報酬から入手可能。
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【種火【中】】
探索者へ経験値を付与する育成アイテム。
使用することで対象のレベルを上昇させる。
【小】より効率が高い中品質資源。
一定以上の強敵や初回踏破報酬からの入手が確認されている。
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笑いが止まらない。
「やっぱりある。種火もそのままか……!」
レベルアップは戦闘経験の積み重ねだけじゃない。
育成アイテムによる圧縮が可能。
しかもドロップ率は渋い。渋すぎる。
この世界の平均レベルが低迷する最大の理由の一つだ。
だからこそ、初動で回収できる種火は死ぬほど価値がある。
そして、その下に。
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【魔石】
ダンジョン由来の高位エネルギー結晶。
電力・熱量・運動・魔力など、幅広い形でのエネルギー変換が可能。
変換効率は既存資源を大きく上回る。
国家・企業・探索者のいずれにとっても最重要戦略資源。
初回踏破報酬として確定入手。
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【補足情報】
魔石1000個で、日本国の年間電力需要を概ね賄えると推定されています。
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「……うん、知ってる」
思わず頷く。
知ってるとも。
これのヤバさは、知ってる。
百個でも国家規模の交渉材料になる。
一〇〇〇個あれば、国のインフラそのものを握れる。
電力革命どころの話じゃない。文明の基盤がひっくり返る。
それはそれとして。
「本質は願望機なんだよな、これ」
小さく呟く。
システムメッセージは“エネルギー結晶”みたいな顔をしているが、それは表向きの説明にすぎない。
魔石の本質はもっと露骨だ。
願いを、通す。
厳密には、世界の法則へ介入するための触媒。
“こうあれ”と望んだ内容を、ある程度都合よく現実へ改ざんする万能リソース。
もちろん何でもかんでも叶うわけじゃない。
出力にも、難度にも、適性にも限界がある。
だが少なくとも、序盤の人類には理解不能なレベルで便利だ。
……まあ、その説明は後でいい。
今はまず、試す。
俺は震える指で、アイテム欄の【魔石】に触れた。
半透明のウィンドウが展開し、用途候補が羅列される。
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【魔石の使用先を選択してください】
・エネルギー変換
・現象補助
・身体補修
・探索者支援
・その他
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「いいね」
これだ。
ゲームより自由度が高い。
いや、本来こういうものだったのを、ゲーム側がUI都合で簡略化していたのかもしれない。
まずは、エネルギー変換。
俺はポケットからスマホを取り出した。
さっきまで社用チャットとニュース速報で熱を持っていた、ごく普通の端末。
こんなもん、これから始まる地獄じゃあっという間に壊れる。電池も保たない。通信規格もOSも、どうせ数日で不便になる。
だから先に、改造する。
魔石に意識を向ける。
願う。
命令するように、はっきりと。
「魔石消費。電力となれ、改竄せよ」
青白い光が、掌の魔石から滲んだ。
それが糸みたいに伸びて、スマホへ絡みつく。
「スマホが百年充電持つようにしろ。壊れなくしろ。勝手に最新版へ更新されるよう、本体ごとアップデートし続けろ」
一拍遅れて、ウィンドウが開く。
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【魔石を1個消費します】
対象:携帯端末
付与効果:超長期稼働/耐久補強/自律最適化
この改変は対象の基礎構造を上書きし、継続的な自己更新を可能とします。
実行しますか?
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「実行」
次の瞬間、スマホが震えた。
画面が一度暗転し、すぐに起動ロゴとも違う、見慣れない幾何学模様が流れる。
内部構造そのものが組み替えられていくような、ぞわりとした感覚。
ケースの継ぎ目が消え、ガラス面に薄く青い紋様が走って、それもまた一瞬で沈んだ。
数秒後、何事もなかったみたいにホーム画面が戻る。
だが、違う。
明らかに違う。
バッテリー残量表示の横に、見慣れないアイコンが増えている。
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【改変完了】
対象端末は高位エネルギー対応機器へ再構成されました。
・外部電源なしで長期稼働が可能
・一般的な損耗、衝撃、経年劣化に対する耐性を獲得
・通信規格、演算処理、記録媒体を自動最適化
・保有者の使用環境に応じ、継続的な自己更新を行います
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「よし」
完璧だ。
これでスマホはしばらくインフラ機器として使える。
マップ、記録、検索、連絡、撮影、交渉材料。
全部に使う。
現代ダンジョンもので情報端末を舐める奴は三流だ。
次。
今度は自分だ。
さっきから全身が焼けるように痛い。
腕の先が、視界に映る程度には灰色へ変色してきている。
これが【原初の火】の使用後デバフ――灰化だ。
ゲームなら戦闘不能扱い。
現実だと、ただの地獄である。
「……身体補修」
項目を選ぶと、また別の説明が開く。
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【身体補修】
魔石を消費し、対象の肉体損傷・状態異常・呪的汚染・機能不全を修復します。
必要消費量は損傷の深刻度、および付着した異常の格により変動します。
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「魔石消費。癒やせ」
短く命じる。
青白い光が、今度は俺自身の身体へ流れ込んだ。
肺の奥まで冷たい水が満ちるような感覚。
焼けた神経を、一本一本丁寧に撫でて鎮めていくような感触。
激痛が薄れる。
薄れるどころじゃない。引いていく。嘘みたいに。
皮膚に浮いていた灰色が、ひび割れた泥みたいに剥がれ落ちる。
指先に戻る血の気。
胸の圧迫感が消え、呼吸が正常へ戻る。
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【魔石を1個消費しました】
状態異常【灰化】を解除しました。
肉体損傷を修復しました。
魔力循環を正常化しました。
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俺はゆっくり立ち上がる。
痛みは、無い。
さっきまでの激痛が嘘みたいだった。
いや、完全に嘘ではない。記憶だけが鮮明に残っている。あれをもう一度浴びるのは普通に嫌だ。嫌だが、必要ならやる。
「……やっぱり最初期の魔石は強すぎるな」
笑うしかない。
入口周辺の焼け跡を踏み越えて、ダンジョンの奥へは進まない。
ここはもう用済みだ。
初回報酬は取った。
種火も落ちた。
雑魚の群れも焼いた。
なら次だ。
F級は都市圏に複数湧く。
初日の混乱で誰もまともに踏み込めない今だけ、俺はそれを連続で刈れる。
【原初の火】のデメリットは魔石で誤魔化せる。
だったら話は早い。
使う。
焼く。
回収する。
治す。
また次へ行く。
単純だ。
そして単純な最適解ほど、強い。
俺は改変されたスマホを開き、地図アプリを確認する。
さっきまでノイズ混じりだったGPS表示が、妙に滑らかだ。
周囲の異常空間らしき地点まで、薄くマーカーが浮かび始めている。自己更新、仕事が早いな。
「次は……南口の雑居ビル地下か」
駅から徒歩八分。
F級反応。
まだ未踏破。
最高だ。
俺は焼けたダンジョンを振り返りもせず、出口へ向かった。
世界は地獄になった。
ニュースは悲鳴で埋まり、政府は混乱し、人々は怯えている。
でも俺にとっては違う。
これは、神ゲーのサービス開始だ。
そして俺は、誰よりも先にその仕様を知っている。
「――とりあえず、次のダンジョン行くか」
笑いながら、俺は走り出した。
ここまで読んでいただけて嬉しいです。