☆1キャスターの俺、現代ダンジョン出現当日、F級ダンジョン60個を周回特化自爆スキルで焼き払ってたら低レア最強パーティが育っていた〜アーラ◯ュ系周回スキルで人類全員を育成し尽くします〜   作:人見小夜子腹パン部

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ここまで読んでいただけて嬉しいです。


原初の贄

 【イベント:魔王降臨が始まりました】

 

 そのウィンドウが全人類へ表示されてから、世界は当然のように騒ぎになった。

 

 ニュースは魔王一色。

 各国政府は緊急声明。

 探索者界隈は阿鼻叫喚。

 企業は株価と物流と従業員の安全確保で胃をやり、一般家庭では非常食と帰還の紙片と識別紙片の買い足しが始まった。

 

 まあ、そうなる。

 

 普通に考えれば、世界の終わりっぽい文言だ。

 魔王降臨。

 いかにも終末イベント。

 実際、原作知識的にも間違っていない。七大魔王は、放置すれば人類を詰ませる側のギミックだ。

 

 ただし、そのうち一柱はもう焼いた。

 

 【暴食】異典・金剛龍帝。

 原作を滅ぼした最大級の終末機構。

 多元宇宙だの全能だのを将来的に齧る、最強最悪の捕食生物。

 

 出現直後はただのトカゲだったので、入口から【原初の火】を撃って終わった。

 

 世界はそれを知らない。

 

 当然だ。

 中国国内の未公表ダンジョンで、しかも中央側と俺の間だけで処理した案件である。外へ出す理由がない。

 だから世界は「七大魔王が現れた」と震えている。

 俺は「一柱は処理済み。残り六柱」と考えている。

 

 温度差がすごい。

 

 だが、だからこそ次にやることは決まっていた。

 

 戦力が足りない。

 

 真由。

 円。

 久連。

 

 この三人は間違いなく大当たりだ。

 だが、七大魔王を相手にするなら、まだ足りない。

 

 火力。

 支援。

 前衛。

 制圧。

 

 そこまでは形になり始めた。

 だが、特定ギミックへのメタ、対ボス特殊札、解析役、社会的信用、組織としての厚み。

 まだ足りないものはいくらでもある。

 

 なので、エリュシオン第一プロジェクト。

 

 新規メンバーのオーディションを行うことにした。

 

     ◇

 

 応募総数、一億超。

 

「……バグか?」

 

 最初にその数字を見た時、俺は素でそう言った。

 

 だが、バグではなかった。

 

 日本国内だけではない。

 アメリカ、欧州、中国、東南アジア、中東、南米、アフリカ。

 政府系、企業系、民間探索者、非政府組織、元軍人、学生、無職、加工職、医療職、よく分からない宗教団体、善人、悪人、そのどちらでもない人間。

 

 国籍も立場も善悪も問わず、とにかく大量に来た。

 

 魔王降臨。

 日本式育成。

 エリュシオン。

 低レア再評価。

 攻略WIKI。

 それら全部が混ざった結果、世界中から応募が殺到したらしい。

 

 馬鹿なのか。

 

 いや、馬鹿ではない。

 むしろ合理的だ。

 新世界秩序で生き延びるために、最も育成環境が整っている場所へ入りたい。

 その発想は正しい。

 

 ただ、こちらの事務処理が先に死ぬ。

 

 しかも応募は、単なる「入りたいです」で済まなかった。

 各国政府からは、自国探索者の受け入れ条件について問い合わせが来る。

 企業からは、所属探索者の研修枠や提携打診が来る。

 未成年探索者の親族からは、保護者同伴なら応募可能かという相談が来る。

 逆に、所属企業や軍から勝手に応募した探索者への抗議も来る。

 

 日本政府の外交窓口はたぶん死んでいる。

 鈴木も死んでいるだろう。

 あの男、最近ずっと生きながら死んでいる気がする。

 

 さらに、エリュシオン応募詐欺が爆増した。

 偽フォーム。

 偽一次審査。

 偽登録料。

 偽スカウト。

 「火賀灯真直属育成枠」とかいう、俺が見ても頭の悪い詐欺文句まで出回った。

 

 神奈川へ絞る前から、社会の方が勝手に燃えている。

 

「無理ですね」

 

 guide-GPTが即断した。

 

==================

【guide-GPT】

応募者総数が処理限界を大幅に超過しています。

現時点で全件精査を行った場合、七大魔王による世界滅亡より先に事務処理が破綻する可能性があります。

==================

 

「比較対象が物騒すぎる」

 

==================

【guide-GPT】

事実です。

==================

 

 仕方ないので、対象を神奈川に絞った。

 

 世界中の人間を相手にしていたら、七大魔王より先に俺たちの事務処理が滅ぶ。

 まずは近いところから。

 神奈川。

 十分広い。人口も多い。ダンジョンもある。社会的にも交通的にも動かしやすい。

 

 それでも多かった。

 

 当然、炎上もした。

 

 なぜ神奈川だけ。

 東京は。大阪は。北海道は。九州は。海外勢は。

 低レア救済を掲げておいて地域差別か。

 いや物理的に処理できないだろ。

 だったら各地に支部を作れ。

 支部を作る人員がいないだろ。

 エリュシオンを独占するな。

 そもそも民間クランへ世界中が応募する構造がおかしい。

 

 だいたい正しい。

 だが今は無理だ。

 

 なので、一次選別をguide-GPTへ任せた。

 

==================

【guide-GPT】

一次選別完了。

対象地域:神奈川県

候補者数:1000名まで圧縮しました。

除外条件:

・虚偽申告率が高い

・反社会的組織との関連が濃厚

・明確な詐欺目的

・精神的不安定度が現時点で危険域

・エリュシオンへの敵対的潜入可能性

・本人の能力認識と実態の乖離が大きすぎる

==================

 

「有能」

 

==================

【guide-GPT】

ありがとうございます。

ただし、最終的な対人判定は人間による確認を推奨します。

==================

 

 というわけで、残りを三幹部へ投げた。

 

 安里真由。

 大伴円。

 平良久連。

 

 この三人は、それぞれ違う意味で人を見る目がある。

 

 真由は、怖い相手を小動物的に見分ける。

 理屈じゃない。

 言葉遣いが丁寧でも、笑顔が柔らかくても、近づいたらまずい相手を本能で避ける。

 弱者へ距離感がおかしい人間。

 支配欲の強い人間。

 優しそうな顔で相手の逃げ道を塞ぐ人間。

 そういうのを、真由は「なんか嫌」の一言で弾ける。

 

 円は、反社が本能で分かる。

 ヤクザ親に飼い殺されていた過去は伊達ではない。

 履歴が白くても、目線、姿勢、間の取り方、言葉の端、妙な馴れ馴れしさ、警戒の仕方で分かるらしい。

 

「こいつ、表の履歴は白いっすけど、匂いがそっち側です」

 

 と言って弾いた候補者は、guide-GPTで再照合したら実際にかなり黒かった。

 有能。

 かなり有能。

 

 久連は、自分の父母のような善人が分かる。

 

 これが少し特殊だった。

 善人かどうか、というより、「本気で他人のために痛む人間」を見分ける感度が異常に高い。

 両親を基準にしているのだろう。

 自己犠牲型、救済志向、他人を見捨てられない人間。

 そういう相手に、久連はかなり強く反応する。

 

 ただし、久連は善人を拾いすぎる危険がある。

 

「この人は、善い人です」

 

「採用ですか?」

 

「いえ。今ここへ入れると壊れます」

 

 そう言って、久連は何人も保留にした。

 昔なら拾ってしまっただろう。

 今は違う。

 善い人間だからこそ、戦場へ出していいとは限らない。

 そこまで判断できるようになっている。

 

 良い傾向だ。

 

 俺一人なら、たぶんこの千人を育成素材として見た。

 だが三人は、人間として見た。

 だから、この選別は俺一人でやるよりずっとマシだった。

 

 結果、最終候補者は思ったよりずっとまともだった。

 

 精神が安定している。

 嘘が少ない。

 自分の能力を過大評価していない。

 他人を駒として見すぎていない。

 極端に自己犠牲へ傾きすぎてもいない。

 怖い相手でもなく、反社でもなく、善性が破綻しているわけでもない。

 

 なるほど。

 

 俺が選ぶより、人を見るのはこいつらの方が上手い。

 

 少しだけ感心した。

 

     ◇

 

 オーディション会場は、神奈川県内の旧展示施設を借りた。

 

 政府公認市場ほど大規模ではない。

 だが警備は厚い。

 登録確認、身分照合、魔石反応検査、識別紙片による持ち込み品チェック。

 エリュシオンの名前を利用した潜入や詐欺は既に増え始めているので、ここはかなり厳しくした。

 

 壇上には俺。

 後ろに真由、円、久連。

 脇にguide-GPTを投影した大型端末。

 候補者たちは順番に呼ばれ、スキルと本人の適性を見せる。

 

 変人博覧会になると思っていた。

 

 だが、そうではなかった。

 

 残っているのは、まともな人間ばかりだ。

 だからこそ、スキルの方が異様に際立つ。

 

 最初に目を引いたのは、☆2アーチャーだった。

 

 細身の男。

 年齢は二十代前半。

 服装は地味。

 視線は落ち着いているが、明らかに緊張している。

 

 危険人物ではない。

 少なくとも真由は嫌がっていない。

 円も反社臭はしないと言った。

 久連は「怯えていますが、悪い人ではないと思います」と判断した。

 

「スキル名は」

 

「……【原初の贄】です」

 

 空気が、少しだけ変わった。

 

 原初。

 贄。

 

 その二つが並んでいる時点で、だいたいろくでもない。

 

 表示されたスキル説明を見て、真由が露骨に顔をしかめた。

 

==================

【原初の贄】

同意を得た対象、瀕死状態の対象、または自身より著しく弱い対象を“贄弾”として射出する。

射出対象には【灰化】および激痛を付与。

着弾地点に、対象の生命力・魔力・存在強度に応じた超広域爆破を発生させる。

 

解説:

火へ捧げるのが自身でないというだけで、原初の系譜に連なる外法。

祈りではなく、犠牲。

砲弾ではなく、生贄。

それでも、捧げられたものは確かに空を裂き、世界へ穴を開ける。

==================

 

「……火賀さんが持ってたら、一番持たせちゃいけないスキルね」

 

「分かります」

 

「分かるのね」

 

 真由の声が低くなった。

 候補者本人も、ひどく居心地悪そうな顔をしている。

 

 当然だ。

 

 これは倫理的に終わっている。

 人間を弾にするスキル。

 しかも灰化と激痛を押し付ける。

 同意を取れば良い、という話ではない。瀕死相手にも撃てる時点でかなり嫌だし、自分より著しく弱い対象にも撃てる時点で組織運用を間違えれば最悪の兵器になる。

 

 候補者は、絞り出すように言った。

 

「協会では……危険物扱いでした」

 

「でしょうね」

 

「家族にも、あまり詳しく言えていません。

 自分でも、使いたくありません。

 でも、隠していたら、いつかもっとまずい形でバレる気がして」

 

 なるほど。

 

 自分のスキルを申告するのが怖かった。

 でも、野放しのままでいることも怖かった。

 誰かに管理してほしかった、ということか。

 

 かなりまともだ。

 

 そして、性能は強い。

 

 【原初の火】が、自分を燃料にする狂気なら。

 【原初の贄】は、他人を燃料にする狂気だ。

 

 だからこそ、普通の組織へ渡してはいけない。

 

「採用候補です」

 

 候補者の目が見開かれる。

 

「え」

 

「俺のクローンを撃つ運用なら――」

 

「火賀さん」

 

「大将」

 

「火賀さん」

 

 三方向から同時に声が飛んだ。

 

 真由は目が死んでいる。

 円は舌打ち寸前。

 久連は静かに怒っている。

 

「同意があっても、そういう使い方を前提にしないでください」

 

 久連が、低い声で言った。

 

 それは、自分を使い潰すことに慣れすぎていた人間の声だった。

 だからこそ、他人やコピーを弾にする発想を嫌悪している。

 

 俺は咳払いした。

 

「冗談です」

 

「本当に?」

 

「半分」

 

「最低」

 

 真由の評価が早い。

 

 俺は候補者へ向き直った。

 

「他人にあんな苦痛を味わわせて弾扱いとか、正気じゃないです。クソスキルです。これをもってなお悪用しなかったあなたを、俺は深く尊敬します」

 

 候補者の顔が、そこで初めて少しだけ緩んだ。

 たぶん、誰かにそう言ってほしかったのだ。

 

 だが、俺の考えはそこで終わらない。

 

「なので、基本運用は禁止。生身の他人への使用は禁止。独断使用も禁止。

 エリュシオン外での使用も禁止。

 使用ログは常時記録。

 使用にはエリュシオン幹部承認、guide-GPT監査、対象の同意、回収手段、治療手段の確認を必須にします。

 対象は原則として、召喚体、同位体、特殊アーティファクト、または事前に許可された非生体に限定。

 違反時は即除籍、政府通報」

 

 候補者は、真剣な顔で頷いた。

 

「……はい」

 

「それで」

 

 俺は続ける。

 

「俺自身を射出してください」

 

 場が凍った。

 

「【原初の火】を使い切っても、俺自身を弾丸にすれば周回できる場面が必ずあります」

 

 沈黙。

 

 候補者本人も引いた。

 真由は頭を抱えた。

 円は「出たよ」という顔をした。

 久連は本当に嫌そうな顔をした。

 

「火賀さん」

 

「はい」

 

「それも正気じゃないです」

 

「俺は同意してます」

 

「同意の問題じゃないのよ!」

 

 真由が叫んだ。

 

 俺としてはかなり合理的な発想なのだが、周囲の理解は得られなかった。

 まあいい。

 運用規定は後で詰める。

 

 【原初の贄】。

 正式採用候補。

 ただし最重要管理対象。

 本人はまとも。スキルは最悪。

 かなり良い。

 

     ◇

 

 次の候補は、☆3だった。

 

 落ち着いた雰囲気の女性。

 整ってはいるが、派手さはない。

 本人はひどく困ったような顔をしていた。

 

「スキル名は」

 

「……【女神視線】です」

 

 名前だけ聞くと強そうだ。

 だが本人の顔は明るくない。

 

==================

【女神視線】

男性判定を持つ対象に対し、魅了・怯み・行動阻害・被ダメージ増加補正を付与する。

対象の精神構造、性別概念、英雄性、神性の有無により効果量が変動する。

 

解説:

視線とは、祝福であり、誘惑であり、裁きである。

女神に見られた男は、剣を鈍らせ、膝を迷わせ、胸の奥に余計な熱を宿す。

ただし、その眼差しが届くのは“男である”と世界が認めた者だけだ。

==================

 

「現状、C級以下の魔物にはほぼ性別判定がありません」

 

 本人が先に言った。

 

「なので、探索者協会では……その、使い道が薄いと」

 

「クソスキル扱いですか」

 

「……はい」

 

 なるほど。

 

 確かに現環境では腐っている。

 C級以下の魔物は、性別というより種別で処理される。

 雄雌の見た目があっても、システム上の男性判定が無いなら刺さらない。

 つまり通常攻略ではほぼ役に立たない。

 

「それに……対人向けの危険スキルみたいに見られて」

 

 彼女は少し目を伏せた。

 

「男性探索者相手に試せばいい、と言われたこともあります。冗談だったのかもしれませんけど、嫌で」

 

 真由の目が、すっと冷たくなった。

 

 ああ。

 これは真由が嫌うタイプの空気だ。

 

 本人に悪用する気がない。

 だからこそ、対人で使える可能性そのものが重荷になっていた。

 ダンジョンでは役に立たず、対人では危険視される。

 かなり居心地の悪いスキルだろう。

 

 だが、俺は知っている。

 

「採用候補です」

 

「え?」

 

「S級ダンジョン【太陽神殿】のボス、【太陽騎士】に刺さります」

 

 候補者が固まった。

 

「……S級?」

 

「はい」

 

「私、C級でも役に立たなかったんですが」

 

「C級で役に立たないことと、S級の特定ボスに刺さることは矛盾しません」

 

 むしろ、そういうスキルはかなり好きだ。

 

 普段使いは終わっている。

 だが特定の相手には替えが利かない。

 そういう一点メタ札は、腐らせるより管理した方がいい。

 

 【太陽騎士】。

 S級ダンジョン【太陽神殿】のボス。

 正面戦闘型。高耐久、高火力、騎士道めいた行動パターン。

 そして明確な男性判定持ち。

 英雄性と男としての自負を持つタイプなので、【女神視線】の補正がかなり入る。

 

「汎用性は低い。ですが、必要な場面では貴方がいないと攻略難度が跳ねます」

 

「……私が?」

 

「はい。貴方です」

 

 候補者はまだ信じられない顔をしていた。

 まあ、そうなる。

 クソスキル扱いされていた能力が、急にS級ボス対策と言われても困るだろう。

 

 対人で危険だからこそ、野放しより管理下に置く。

 ダンジョンで腐っているからこそ、刺さる相手を知っている側が管理する。

 そういう札だ。

 

 彼女が去ったあと、円がぽつりと言った。

 

「でも灯真さんには効かなさそうっすね」

 

「? 俺には普通に性欲も三大欲求もありますが? 一般的な成人男性なので。むしろ常人より強いです」

 

 真由が露骨に嫌な顔をした。

 

「自分でそういうこと言える時点で、だいぶ終わってるのよ」

 

 その時、guide-GPTが静かに補足ウィンドウを出した。

 

==================

【guide-GPT】

補足:

使用者は過去、睡眠時間が三時間になるまで複数のソーシャルゲームを掛け持ちしていました。

また、食費が「もやしのタバスコがけ」に固定される水準まで課金を優先していました。

加えて、風俗サービス利用中にゲーム内イベント未消化へ気づき、相手を放置したまま周回行動へ移行した記録があります。

==================

 

 沈黙。

 

「……大将、それは性欲が薄いとかじゃなくて、優先順位がバグってるだけっす」

 

「三大欲求はあるけど、育成欲が全部の上に乗ってるのよ」

 

「相手の方に謝った方がいいと思います」

 

 三幹部から順番に刺された。

 

「延長料金は払いました」

 

「そういう問題じゃないのよ」

 

 解せない。

 

     ◇

 

 そして、最後の大物が来た。

 

 ☆6。

 ファイター。

 スキル【真雪銀斬】。

 

 白髪の若い男だった。

 若い、と言っても二十代後半から三十前後。

 社長らしい。

 正確には、神奈川で複数の医療・防災系企業を抱える若い経営者。

 顔立ちは整っていて、姿勢も良く、服も高い。

 だが嫌味ではない。

 威厳があり、品があり、それでいて無駄に圧をかける感じではない。

 

 一目で分かる。

 

 普通に大当たりだ。

 

==================

【真雪銀斬】

一定時間、自身を【真雪銀刃】状態へ移行する。

効果時間:30秒。

効果中、通常攻撃および斬撃系スキルの射程・範囲・切断力が大幅に拡張される。

放たれる斬撃は白銀の軌跡を描き、広範囲の対象をまとめて切断する。

 

解説:

雪は静かに降り、銀は冷たく光る。

その刃は怒号ではなく、静寂で敵を斬る。

振るえば白線が走り、次の瞬間には、線の向こうにあったものだけが遅れて崩れる。

==================

 

 弱点が少ない。

 範囲もある。

 火力もある。

 腐りにくい。

 装備とレベルを盛るだけで普通に世界上位へ行く。

 

 つまらないほど強い。

 だが、そのつまらなさは暴力だ。

 ☆6とはそういうものだ。

 

 高レアは強い。

 

 それは事実だ。

 低レアがどれだけ尖っていようが、☆6の基礎値と素直な強スキルは、それだけで暴力になる。

 

 しかも、この男は人間性もまともだった。

 

「平良を、ありがとうございます」

 

 男は、まずそう言った。

 

 久連の叔父だった。

 

 正確には、久連を引き取った親族側の人間。

 両親を失ってからの久連を、どうにか支えようとしていた側の一人だ。

 

「何がですか」

 

「顔が変わりました」

 

 静かな声だった。

 

「姉夫婦が亡くなってから、あの子はずっと、自分を使い潰すことでしか息をしていませんでした。私は助けようとしたつもりです。言葉も、金も、病院も、環境も、できるだけ用意した。ですが、駄目でした」

 

 久連は黙っている。

 

 俺も黙って聞く。

 

「あなたといる時のあの子は、まだ危うい。けれど、少なくとも目が死んでいない」

 

 男は俺へ向き直った。

 

「火賀さん。あなたはきっと、かなり不器用な善人なのですね」

 

 真由が横で吹きかけた。

 円が下を向いた。

 久連が微妙な顔をした。

 

 なぜだ。

 

「感謝しています」

 

 男はそう言った。

 

 俺も性格が良いとは思っていない。

 だが、常識的な男であることくらいは誇っている。

 

 男が去ったあと、久連がぼそっと言った。

 

「……叔父さん……性格はともかく、だいぶ頭おかしい人ですよ。この人……」

 

「平良さん?」

 

 俺は思わず聞き返した。

 

「俺は仕事は真面目でそつなくこなすが、今ひとつ情熱のない男……悪いやつじゃあないんだが、これといって特徴のない……影の薄い男さ、それが俺の同僚からの定評なんですけど……」

 

「その認識がまずおかしいんですよ」

 

 久連が静かに言った。

 

「正気です。ガチャアイテムで上位存在に火賀灯真のSAN値アンケートを聞いたら、最大票はSAN値100だったし」

 

 真由が頭を抱えた。

 

「上位存在のアンケートで正気判定取ってくる時点で、もう正気じゃないのよ」

 

「大将、それ神に聞いたら神寄りって言われただけじゃないっすか」

 

「比較対象がおかしいと思います」

 

 三幹部の評価が厳しい。

 

 だが、叔父本人は大当たりだった。

 

 ☆6。

 強スキル。

 社会性。

 資金力。

 久連との関係。

 対外信用。

 

 全部ある。

 

 ただし。

 

「大当たりですが、適当に育てても強いのはあまり面白くないですね」

 

「また言い出したわよ」

 

 真由が呟く。

 

「貴方達三人の育成の楽しさが100点満点中500億だとしたら、彼は三億くらいです」

 

「三億で不満そうにするの、価値観が壊れてるのよ」

 

「いや、三億は高いですよ」

 

「じゃあ何でそんな残念そうなのよ」

 

「普通に強くなるので」

 

「贅沢すぎる」

 

 真由の呆れ声を聞きながら、俺は候補者リストへ印をつけた。

 

 この男は正式加入というより、外部協力者兼スポンサー兼即戦力枠。

 久連の保護者としても意味がある。

 エリュシオンの社会的信用を補強する役にも立つ。

 高レアが普通に強いという事実を、組織内外へ示す意味もある。

 

 つまり、採用。

 

 面白みは三幹部ほどではない。

 だが、強いものは強い。

 それを否定するほど俺は低レア信仰ではない。

 

     ◇

 

 その日の終わり。

 

 正式採用、数名。

 研修採用、十数名。

 保留、多数。

 除外、それ以上。

 

 エリュシオン第一回オーディションは、思ったよりずっとまともに終わった。

 

 変人博覧会ではなかった。

 むしろ、三幹部がしっかり見たおかげで、残ったのは精神が安定したまともな人間ばかりだった。

 

 その中に、倫理最悪の戦略兵器スキルが混じっている。

 現環境では腐っている対男性特攻が混じっている。

 普通に強い☆6の若社長が混じっている。

 

 かなり良い。

 

 火力ではなく、札が増えた。

 汎用戦力。

 特定メタ。

 戦略兵器。

 社会的信用。

 支援経路。

 これでようやく、七大魔王を“順番に処理する”ための盤面が見え始めた。

 

 組織として厚みが出る。

 魔王戦の札が増える。

 社会的信用も増える。

 そして何より、育成対象が増える。

 

「……顔、気持ち悪いわよ」

 

 真由が言った。

 

「最高だなと思って」

 

「でしょうね」

 

 円が肩をすくめる。

 

「まあ、悪くないっすね。変なのは弾けたし」

 

 久連も小さく頷いた。

 

「少なくとも、今日残った人たちは、壊すために来た人たちではありませんでした」

 

「ええ」

 

 俺はリストを閉じる。

 

 魔王降臨で世界は震えている。

 各国は混乱している。

 日本政府も、アメリカも、中国も、欧州も、それぞれのやり方で次の時代へ手を伸ばそうとしている。

 

 だが、やることは変わらない。

 

 拾う。

 育てる。

 役割を与える。

 死なせない。

 必要なら、世界の終末機構だろうが育つ前に焼く。

 

 エリュシオンは、まだ小さい。

 

 だが今日、確かに器としての輪郭を持ち始めた。

 灯真の趣味ではなく、組織として。

 一人の攻略知識ではなく、複数の目と役割を持つ場所として。

 

 悪くない。

 

 いや、かなり良い。

 

 俺は次の育成計画を開きながら、静かに笑った。

 

「さて」

 

 魔王はまだ六柱残っている。

 

 そして、こちらの手札は増えた。

 

「楽しくなってきたな」

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